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◆ξ゚⊿゚)ξと全力発電所のようです その4

前の話/インデックスページ

1 :◆s7L3t1zRvU:2009/09/09(水) 20:43:45.89 ID:JKFRzm2q0
今日で完結。
おまたせしました。

で、一週間って何日だったっけ……

まとめさん
 くるくる川 ゚ -゚) さん http://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-203.html

感謝!

始めます。



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:44:52.23 ID:JKFRzm2q0
 俺は夜の街を跳ぶ。
 纏った強化外骨格が変異した脚力と相乗して脅威的な跳躍を実現している。

 チタン合金のケースもろもろを背負って、なおこの俊敏性。

 首元のダイヤルを回し、バイザーを開放した。
 収縮した頭部装甲から漏れ出した髪が激しくなびく。


ξ゚⊿゚)ξ「胡散臭い香りは変わらずか」


 胸いっぱいに吸い込んだ空気に、清浄効果のあるという合成香料を感じた。
 作られた、新緑に萌える山々の大気。


ξ-⊿゚)ξ「ひでえ無駄だ」



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:46:00.91 ID:JKFRzm2q0
 見下ろす深夜の街並みに街灯はかなり少ない。
 首都の住民のほとんどが、いまだ眠りの中にいてその事実にすら気付いていないのかもしれない。

 頭上を飛び越える「反逆者」の気配にすら、同様に。

 コール。

 長岡が通信可能域まで車を逃がしたらしい。


ξ゚⊿゚)ξ「データは」

『送信した。サムが早速サイバーウェブに流すための工作をしている』


 落ち着いて会話をするために、一際高いビルを駆け上がった。
 電磁ブーツが壁面すらも登らせてくれる。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:47:14.17 ID:JKFRzm2q0
 高層ビル(2083年竣工予定だったものだ。すでに完成していたのか)の屋上に降り立った。
 寸分違わぬ外見の強化外骨格が遥か下方のビルに見える。


ξ゚⊿゚)ξ「遅いぞ」

『所長が早いんすよ』

『観光してるわけじゃないんだ。余所見するな』

『ちょ、ちょっと、壁なんか登れんのこれ!? すげえな!』

ξ#゚⊿゚)ξ「だからテメェ出零、遅ェっつってんだろうが」


 短波通信とでも言うのだろうか。
 ヘッドセットに組み込まれた近距離限定の会話ツールを活用して、俺は言った。



5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:48:37.90 ID:JKFRzm2q0
『ふう……。ん、あれっすか』


 俺と同様に都村がバイザーを開放する。


(゚、゚トソン「相も変わらず、珍妙にあそこだけ浮いてますね」

从 ゚∀从「体裁だけは昔のまんま小奇麗に取り繕いたいのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「なんつーんすかね。日本家屋? あそこだけタイムスリップしてるみたいですよね」

ξ゚⊿゚)ξ「国の先端を行く官舎が時代に取り残されてるのはどうかと思うがな」


 税金をつぎ込んで風流な庭園付きの豪邸を都心に建てる意味があったか、俺は知らないね。


从 ゚∀从「ところで」



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:50:09.65 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「ああ」


 肉眼で、五つ目の強化外骨格から、光学迷彩の解除を確認する。
 最後に遅れて屋上に到着した一人だけが、バイザーを取らなかった。


『……素晴らしい身体能力だ』

ξ-⊿゚)ξ「はッ。パンピーと一緒にすんなよ」


 男が――関ヶ原が――パンピーとは何だ、と聞き返すのを、俺は無視した。

***

 話は前後する。



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:51:20.13 ID:JKFRzm2q0
 機動隊の強化外骨格は通電していなければ柔軟で、すぐに剥ぎ取れた。
 もちろん、その都度、中の人間を長岡のスタンガンで眠らせる必要があったが。

 最後の一人から兵装を取る時、初めて静かな声がかけられた。


「ヘルメットは外すな」


 懇願する、というほどの悲壮感は無かった。
 ひたすらに、静かだった。


「頼むやめてくれ」


 出零が息を飲んだ。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:53:04.56 ID:JKFRzm2q0
( "ゞ)「……」

ζ(゚-゚;ζ「お前」


 白濁した眼球はどう見ても、本来の機能を果たしそうでは無かった。

 俺の手元では、ケーブル(視神経につながっていたのだろう)がヘルメットからぶら下がっていた。


( "ゞ)「ヘルメットを戻せ」

ξ゚⊿゚)ξ「……いいだろう」

「恩に着る」


 システムダウンしているはずのヘルメットだけを被り、男は深く息を吐いた。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:55:07.25 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「質問だ」

「……」

从 ゚∀从「所長。下手に話すのは」

「なら、俺からもひとつ聞かせろ」

从 -∀从「……追っ手が来るまでの時間稼ぎになるかもしれないんですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「何が訊きたい」
  _
( ゚∀゚)「おい」

「お前達は何だ?」


 俺と男だけが喋っていた。

 黒いバイザー越しに、眼は見えなかった。
 お互いに瞳を交わすことは客観的には不可能に思われた。

 しかし、んなもんは問題じゃない。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:58:17.43 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「メタトロン発電所、職員。地図から消された街の住民。元・人間」


 俺の言葉が反芻されるのが分かった。


ξ゚⊿゚)ξ「遠方でのメタトロン開発を察知、故にその初動を阻止すべく電力供給を停止」

从 ゚∀从「気が済んだか」


 一秒に満たない間で、関ヶ原の熟慮しているのが手に取るように分かった。
 下を向いたヘルメットが緑の発光剤を受けて煌いた。

 奇妙な瞬間だった。


「真実か?」


 俺は、ひとつの確信を得た。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 20:59:51.80 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「……というと、やはりか」
  _
( ゚∀゚)「ああ、俺も思っていた」

ξ゚⊿゚)ξ「お前らは俺達の素性を知らなかったんだろう?」


 答えはなかった。


(゚、゚トソン「なんでそんなこと」

ξ゚⊿゚)ξ「たかだか二、三時間前に励起状態にあったメタトロンを爆薬ぶつける馬鹿がいるか?」

(゚、゚トソン「それは……」

ξ-⊿-)ξ「いっくらなんでもそりゃあねェよなァ」


 トサカに来た。


ξ#゚⊿゚)ξ「この後に及んで、メタトロンの失敗をもみ消そうとしてきやがったなんてよォ」



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:01:43.89 ID:JKFRzm2q0
ζ(゚ー゚;ζ「それって」

从;゚∀从「トンネル内で完全にコトを終わらせるつもりだったってわけですか」

ξ#゚⊿゚)ξ「作戦内容を教えろ」


 黒のバイザーが俺達を仰いだ。

 沈黙に、トンネルの冷えた空気が重さを加えていた。


「――ッ」

ξ#゚⊿゚)ξ「早く」

「記憶素子が飛んでいる……?」
  _
( ゚∀゚)「電磁爆弾か。だが、それくらい覚えているだろう」


 長岡がシビレを切らして先を促した。



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:04:14.49 ID:JKFRzm2q0
「第一に、対象の抹殺が命じられていた」

ζ(゚ー゚;ζ「は?」

「第二に、対象は北の国の生き残りである」

(゚、゚トソン「北の……朝鮮半島の消えた国か」

「第三、対象は不活性状態の旧式プラスティック爆薬を搭載した車両にて、首都に進行中」

从;゚∀从「ちょっとやそっとじゃ爆発しないから、榴弾の使用許可が下りた、のか?」

「第四、いかなる手段を講じても車輌を破壊せよ」


 何かがブチキレる音を聴いた。


ξ#゚⊿゚)ξ「終わりか?」

「以上だ」



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:07:18.77 ID:JKFRzm2q0
ξ#゚⊿゚)ξ「ほとほと愛想が尽きたぜ」

『システム復旧が完了しました。走行準備完了』


 無機質な女性の音声アナウンスが装甲車から響いた。
 待ちに待っていたはずだった。

 しかし、話は簡単にいかない。

  _
(;゚∀゚)「なら、出口は全部見張られていると考えた方が普通か」

「車輌の通行可能なものは全て、な」

从;゚∀从「内情をぺらぺら喋っていいのか?」


 高岡に送ったらしい視線を、すぐに関ヶ原は切った。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:10:07.32 ID:JKFRzm2q0
「女、お前、名前はなんという」

ξ#゚⊿゚)ξ「あァ? それすらも知らされてねェのか?」

「我々に伝えられた設定上ではあんたらに国籍はない」


 冷静に放たれる問いに、俺は平生の呼び名で返した。
 確かに、かの北の国は取り潰されていたのだから、仕方が無い。


「所長……そうか。そうではないかと思っていた」

ξ#゚⊿゚)ξ「なんだよ」

「所長であるという君にだけ、伝えたいことがある」

***



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:11:38.66 ID:JKFRzm2q0
 所員達の並び立つ中にようやく追いついた関ヶ原が言う。


『もはや規範が形骸化している。優先されるべき対象が国民ではなくなっている』

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあなんだっていうんだよ」

『抽象的な説明はできない。記憶装置が壊れた今、思い出せないというのも事実だ』

(゚、゚トソン「国の小間使いは使えねえな」

『残念ながら認めざるを得ない』

从 ゚∀从「!」


 高岡がバイザーを引き出し、目元に当てた。



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:13:51.67 ID:JKFRzm2q0
从 ゚∀从「光学迷彩か」

『……同僚だ』


 俺もヘルメットを装着して迷彩解析モードを起動する。
 暗視に加えての索敵。

 短波通信が割り込む。


『登録番号不明。テロリストによる装備の奪取と目す』

ξ#゚⊿゚)ξ「しゃらくせェなァおい」

『市民番号57-B1054、関ヶ原。反乱分子とみなし、排除対象とす』


 黒のパワードスーツが迷彩を解いて屋上に現れる。
 5、6、7……15体。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:17:25.74 ID:JKFRzm2q0
 俺達と同じ外見に混乱を招きそうだと考えていると、突如、視界に変化が起きた。
 出零が驚きの声が上げる。


『なんだこれ?』


 所員と思しき強化外骨格の頭部付近に、「TEAM:01 Unknown」と表示されている。


『部隊識別信号を繋いだ。同士討ちは避けられる』


 関ヶ原だ。
 都村が腰を落としながら両の拳を軽く握って、言う。


『さて、所長。適当に先、行ってくださいよ』

ξ-⊿゚)ξ「おう。手間ァかける」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:18:58.31 ID:JKFRzm2q0
 敵対する機動隊員がその言葉を聞いていたのか、わずかに顔を見合わせた。

 おっと、そうか回線はフルオープンだったか。


『……目的を言え』

ξ゚⊿゚)ξ「そうさな、てめぇらは分からねェよな。教えてやるよ」


 にやりとわずかに口元が歪むのを自覚した。


ξ゚ー゚)ξ「殴りこみ、っつったら分かりやすいか?」

『!』

『ッシャァ! かかってこいやァ!』



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:21:02.04 ID:JKFRzm2q0
 出零が飛び掛って行くのを目の端に捉えて、俺は跳躍した。

 屋上よりさらに10m上空を舞いながら、残された黒の人影群を眺める。


『逃走を許すな!』


 俺に向かって駆け出す隊員が三名。
 だが、それがどうした?


ガンッ ガキュッ バグン


 床に着く寸前の足先が的確に弾丸で弾かれた。
 たたらを踏む隊員達。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:22:27.62 ID:JKFRzm2q0
『所長。先に行け。私もすぐ追いつくだろう』

『関ヶ原!? 友軍誤射にはセーフティが――ッ』


 打撃が言葉を遮る。
 出零の右ストレート。

 チンピラの繰り出すような弧の軌道ではない。
 体重の乗ったそれは、まるで鋭い槍だ。


ジギン


 機械手甲は、ヘルメットの左端を掠める。

 ……やすやすと当たってはくれない。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:25:36.32 ID:JKFRzm2q0
『へいへいへい! 良い反応! 俺と拳で語ろうじゃあないの!』


 出零が発した威勢のいい声をきっかけに、俺は落下を始める。

 昂ぶった神経が世界を緩やかに魅せる。

 ぼや、と線を引いて残るわずかな光。

 鏡面仕上げの壁面すれすれを舐めるように、撫でるように行く。

 こうして見れば、こんな国も悪くは無い、だなんて思えてくる。

 俺が今からこの街を壊すのかもしれない。

 人工的な景観に荒廃の色を加えるのかもしれない。

 だが、


ξ゚⊿゚)ξ「灰色の国がこれ以上どう悪くなるってんだ」



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:28:56.45 ID:JKFRzm2q0
 後戻りなんかしたら「あの街」に縛られるだけだ。

 俺はもう、振り向かない。

 最後のしがらみをぶち壊して、後のことはそれから考える。

 もっと加速しろ、俺の身体。

 全てを振り切るほど。

 全力で。

 風切音が――強く――


***


 トンネルにひどく冷たい風が流れた。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:32:28.24 ID:JKFRzm2q0
ξ;゚⊿゚)ξ「俺は、そいつを知っている」

「そうか」


 所員達から離れて打ち明けられたのは、衝撃的すぎる内容だった。


ξ;゚⊿゚)ξ「……」

「私は『あの街』周辺の大避難に携わった」


 さらに、俺は興味を引かれた。


「住民の国民登録番号を承認して、新たな住居を手配するべくゲートを設けたんだ」


 この国には、生まれた直後に体内に埋め込まれるプラグがある。
 戸籍をデータとして扱いやすくするものだ。



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:34:31.25 ID:JKFRzm2q0
「表向きは、私はただの退避補助、整列・誘導の役割を担ってそこに立っていた。登録番号のサーチは隠されていた」

ξ゚⊿゚)ξ「と、いうと」

「もちろん、『内側』からの逃亡者をその検問にかけるためだった。当然作戦は秘密裏に行われた」

ξ ⊿ )ξ「そいつらはどうなったんだ」

「壁をどうにか乗り越えてきたことを隠した市民は、別枠として扱われた。あのバス、いや、輸送車は今でも思い出す」


 輸送。


「あのドアをくぐった時、なんとかして街を逃れた被害者は被験者に名を変えた。それを、私は見ていた」



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:36:27.40 ID:JKFRzm2q0
 メタトロンを体内蓄積した人間が、実験施設に。


「一際汚れた衣服に身を包んだ住民が現れた」


 研究対象として送られた。


「ひどい雨の日だった。君の知る――が現れた日だ」


***


 官邸付近の防犯センサーは二種類の手段で無効化した。



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:38:12.08 ID:JKFRzm2q0
 ひとつ、熱光学迷彩。
 ひとつ、パルスボム。

 前者は言わずもがな強化外骨格の恩恵だ。
 後者は、日本国の贈呈品。

 街を覆っていたジャミング装置と装甲車の電磁波爆弾を組み合わせたものだった。
 高岡に回収させた妨害電波発生源は、俺達にありがたくも与えられていたのだから、国のおかげだ。


ξ゚⊿゚)ξ「しかし、電気、電気、電気」


 頼っているのは俺も一緒だ。


ξ゚⊿゚)ξ「おい、サム。指示をくれ」



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:40:24.77 ID:JKFRzm2q0
『だいいち、二、ID、ヲ、にゅうしゅスル』


 IDね。
 もっと分かりやすく言えよ。


ξ゚⊿゚)ξ「人質を取れってことだな?」

『おんびん、二ナ』


 生体埋め込み式のプラグを生きたまま取り出すのには、手持ちの道具では足りない。


ξ゚⊿゚)ξ「その後は」

『ちか、ヘノ、どあヲ、さがセ』



46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:43:10.55 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「了解」


 長岡の頼みが無ければ、サムが俺に協力してはくれなかっただろうな。


ξ゚⊿゚)ξ「恩に着る」

『しょちょう。ワタシハ、きみ、二、きょうみ、ガ、デタ』

ξ-⊿゚)ξ「へ、そうかい。ありがとうよ」


 迫る防衛アンドロイドの無様な攻撃を交わし、俺は笑った。
 身をかがめ、熱線をくぐり、動力部に拳を叩き込む。

 砕けたアイカメラの破片が、雨のようだった。

***


「一目で『中』から来た人間であることが分かった。降りしきる雨に打たれるままにしていた」



47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:44:58.22 ID:JKFRzm2q0
「私は保護の名目で輸送車へ誘導した。その時に気付くべきだった。それがもはや人間ではなかったことに」

ξ ⊿ )ξ「……」

「足元はふらつき、うわ言のように何かを呟いていた」

ξ ⊿ )ξ「信じられないことだ」

「真っ先に、生命反応があること自体が異常であると判断された。防護服の内側で、医師が驚愕の表情を浮かべていた」

ξ ⊿ )ξ「おかしい、おかしいんだよ。そんなことはありえねェ」


 ありえない。
 あるはずがない。

 確かにアレは、



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:48:02.61 ID:JKFRzm2q0
「そう、ありえないと思われた。脳波の途絶えている人間が歩き、喋り、あまつさえあの『壁』を越えるだなんて」


 死んだはず。


「後に、私は知ってしまった。偶然に、しかし、確実に」

ξ ⊿ )ξ「まさか、ここに俺達を捕まえに来た連中は全員」

「あの時の作戦に参加した隊員だ」

ξ ⊿ )ξ「口封じでもしようってことだったのか」

「それについては分からない」


 メタトロンが爆発し、俺達所員が死ぬ。
 そして都合よく知りすぎた警察官までもが消える。

 可能性としては低かった。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:50:07.52 ID:JKFRzm2q0
「ただの気まぐれかもしれない。確かめる術は無い」


 少し離れたところにいる所員達がちらちらとこちらの様子を伺っていた。
 緑の発光剤が不安げな顔を照らしていた。


「明らかなのは――」

ξ ⊿ )ξ「なんだ」

「メタトロンのせいで、あることだ」

***

(;-@∀@)「わたしのせいじゃなかっただろう? 上からの指示だったんだよ!」



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 21:56:13.39 ID:JKFRzm2q0
(;-@∀@)「殺さないで! 殺さないで!」

ξ゚⊿゚)ξ「突然起こされててんやわんやのトコ、悪ィんだが朝比奈さん」

(;-@∀@)「あんなに親しく仕事をしてきたじゃないですか!」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと静かにしてくれないか」


 偶然とは恐ろしい。
 発電所を担当していた朝比奈と、まさかこんなところで出会うとは。

 首根っこを掴んで宙ぶらりんにすると、脂っこい髪を振り乱しながら叫び始めた。

 丸々と肥えやがって。


ξ゚⊿゚)ξ「黙ってろ。あんたに恨みは……」



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:00:16.68 ID:JKFRzm2q0
 食料の質のダウングレード。
 娯楽品提供までの遅延。

 嫌味。
 愚痴。

 ……山ほどあるじゃねえか。


ξ゚⊿゚)ξ「殺すつもりはねェよ。黙っててくれ」

(;-@∀@)「ウソだ! 安心させて目的が達成されたら背中からズドンなんだ!」

ξ゚⊿゚)ξ「ウソじゃねェって」

(;-@∀@)「ひぃぃぃぃぃいいい! 死にたくないぃぃぃ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「っるせェっつってんだろうがボケが!」



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:03:13.58 ID:JKFRzm2q0
 みぞおちに膝を入れると、朝比奈は涙と鼻水を吹き出しながらぐったりとなった。


『所長、アップロード準備までが完了したらしい。今すぐにでも世界中に流せるが、どうする』

ξ゚⊿゚)ξ「長岡か。そうだな」


 サムに指示された隠しドアへの道を行きながら、思案する。


ξ゚⊿゚)ξ「とりあえずは、それで流してくれ」

『分かった。……とりあえず?』

ξ゚⊿゚)ξ「ああ。もしかしたら追加情報があるかもしれない」

『……? 了解した。ところでアンタは今何をしているんだ?』


 出発時は無理やり納得させたが、奴にしてみれば当然の疑問だ。
 突然、「お前は逃げろ、俺達は行く」で別れたのだから。



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:05:41.41 ID:JKFRzm2q0
 さて、なんと答えたものか。

 考えながら、到着した壁に朝比奈の右手を押し付けた。
 隠しドアへの暗証番号入力フォームが、ごく淡く(恐らく視認性を低くして誤作動を防ぐため)映される。

 別口にサムと繋いだ回線で26桁の番号を呼び出す。


ξ-⊿゚)ξ「そうだな」


 結局、俺はこんな言い方しかできない。


ξ゚⊿゚)ξ「テメェは何も聞かずにテメェの仕事してろ」

『は?』

ξ゚⊿゚)ξ「俺達の目的は殴り込み。お前の目的はメタトロンの危険性を伝える」



62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:08:29.99 ID:JKFRzm2q0
ξ-⊿゚)ξ「満足したろうが」

『ちょ、ちょっと待てよ。おい、ここまで来てふざけたことを!』

ξ-⊿-)ξ「あのよ」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、なんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「うるせェから回線切るぞ」

『テメェ待て! 一蓮托生って奴だろうが! 俺だって戦』

ξ゚⊿゚)ξ「気が向いたら後で話す。ご苦労さん」

ぶつん



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:10:46.07 ID:JKFRzm2q0
『イイノカ』

ξ゚⊿゚)ξ「テメェもテメェの仕事をしろ」

『……』


 朝比奈の生体認証部位を押し付けると、ジオフロントへのエレベーターが開いた。


***

「研究所は『その生物』専門の施設となった。メタトロンが人類の新たな道を拓いた」



64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:13:30.08 ID:JKFRzm2q0
ξ ⊿ )ξ「今どこにいる」

「首都、国政機関地下、新たな人類の生まれる泉。ジオフロント、とも称される」

ξ ⊿ )ξ「おいおい、国家の最高機密レベルなんじゃあねえのか」


 規模が横にも縦にも大きい。
 ははは、笑えて来たぜ。

 加えて、影響は四年前の思い出から、遠い未来にまで及ぶ。
 たった5kgのキューブが大層なことだ……。


「そうだ。だから知りすぎた私は眼を潰され、記憶素子による制御を受けた」


 ヘルメット越しの白濁した眼。



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:17:23.16 ID:JKFRzm2q0
「視るもの全てが国家の基準にリアルタイム補正され、聴くもの全てが一度は機械をバイパスする」

「知覚の多くが狂わされたが、その事実すら知覚できないほど支配された」

「先ほどの電磁波が私を解放してくれるまで、な」


 関ヶ原は、感謝する、と呟いた。


「国が妙な動きをし始めたのは、それが地下に収められてからだ」

ξ ⊿ )ξ「……」

「何が起きているのか、私は見据えなくてはならない。その上で是正する」

「それが私の、正義を背負う者としての使命だ」



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:19:18.54 ID:JKFRzm2q0
 関ヶ原もまた、「壁を打ち破った」。

***

『所長、こちらも潜入完了。君の同僚があらかた邪魔な壁を取り払ってくれた』


 関ヶ原だ。
 位置情報が視界に映し出される。

 すぐに追いついてくるだろう。


『おっす、こちら出零っす。こっちだけ銃使えるんで、奴さん達チョーよたよたでしたよ』

『馬鹿、余裕シャクシャクで話してんじゃねえよ! ヘリが来てんだろうが!』

『うおっ、やっべ』



69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:21:34.49 ID:JKFRzm2q0
 関ヶ原の視界を俺のヘッドセットにリンク。
 振り向いた関ヶ原の視線から、周辺状況を知る。

 先ほどのビル、どころか今俺のいる日本家屋風施設が反重力ヘリに囲まれている。


『サム氏に感謝せねばなるまい。まさか銃器にまでハッキングしてくれるとは』


 余裕のある声で関ヶ原が銃撃を交わすと、合成音声が割り込んできた。


『FOX、しんにゅう、ズみ』


 バイザーに表示された小ウィンドウの中で、いくつかのヘリが同士討ちを始める。


『……ヘリにまで、だな。訂正しよう』

『れい、ハ、イラナイ。はやク、はしレ』

ξ-⊿゚)ξ「だそうだ」



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:23:54.92 ID:JKFRzm2q0
 少しして関ヶ原が現れた。

 乗り込んだエレベーターにボタンはなかった。
 自動で次の目的地まで動き出すのだろう。


『所長。高岡です』

ξ゚⊿゚)ξ「……おう、どうした」


 真剣な声色がヘッドセットを鳴らした。

 そろそろ通信可能深度を超過するのだろう。
 ノイズ混じりだ。


『一個だけ、ほんと、一個だけ確認させてください』



73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:26:24.12 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「あ?」

『生きて、帰ってきますよね』

ξ゚⊿゚)ξ「……」


――てめぇら、何も訊かずにやってくれるか?

――え?

――所長、頭でも打ったんですか。

――いつも通りの感じで言ってくださいよ。

――……ったくよォ。


ξ゚⊿゚)ξ「高岡」

『はい』



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:31:00.81 ID:JKFRzm2q0
――約束しろ。指示をこなしたら、発電所に戻って知らぬ存ぜぬで通せ。お前らは俺に解雇されたタダの駒だ。

――所長、長いっす。……ってぇッ!

――出零、お前殴るぞ。

――締めてやってください。覚悟はできてます。

ξ゚⊿゚)ξ「芹澤に飯、作っといてくれって頼んでおいてくれ」

『……はい!』


――俺のためにてめぇら、全力尽くせ。

――おう!



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:36:33.53 ID:JKFRzm2q0
 音声が途絶えて数分、エレベーターの窓から地下世界の全貌が明らかになる。
 よくぞ作った、という規模の大空洞。

 途中、サムから受けた暗号解読ソフトでセキュリティを破ること三度。

 分厚い鉄扉をくぐり、今度はエスカレータだ。

 柱のように、六棟の建造物が地表から地底まで繋がっている。
 ビルの林の根元には本物の林と、湖に囲まれた比較的小さな建物が見えた。


ξ゚⊿゚)ξ「あれか」

『ああ』


 新人類研究所、そのものがそこにあった。



78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:39:56.46 ID:JKFRzm2q0
 静かすぎるジオフロント内部には穏やかな風があった。
 非常用電力を用いている上で、整えられすぎた環境は無駄が過ぎる。

 関ヶ原はこの空間を人類のために作られた小日本だと言う。


『……?』

ξ゚⊿゚)ξ「どうした」


 ふと、足が止まったことに気付く。


『生体反応が、無い』

ξ゚⊿゚)ξ「あァ?」


 静寂に満ち満ちてはいるが、それはないだろう。
 話によればここは要人の避難所でもあるはずなのだから。

 自分で起こしておいてなんだが、メタトロン持ち出しは中々の「コト」だ。



79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:42:15.43 ID:JKFRzm2q0
『動体センサーとは別に人間をサーチしているが……』

ξ゚⊿゚)ξ「……おい!」


 遠方の動く影をヘッドセットのカメラが捉えた。


ξ゚⊿゚)ξ「研究所の入り口に向かってる」

『人か?』

ξ゚⊿゚)ξ「人、だといいんだがな」


 俺達はセンサーの感知領域を広げ、拳銃を構えながら足早にそちらを目指す。



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 22:46:39.55 ID:JKFRzm2q0
ξ゚⊿゚)ξ「妙だな」

『ああ』


 研究施設のはずが、開け放たれたドアの向こうに灯りはない。
 非常用の電源すら通っていないように思われた。

 人間のための施設、例えば病院。
 そこですら万一の時のための電力を蓄えておくのに、まして「新人類」を科学する施設で?


ξ゚⊿゚)ξ「奴か」

『そうとしか思えない』


 首元のスイッチで暗視モードを起動する。

 と、同時に、嗅覚が危機察知の本能に警鐘を鳴らす。


ξ゚⊿゚)ξ「……人が死んでいる」



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:07:30.01 ID:JKFRzm2q0
 四年前に嫌というほど嗅いだニオイ。
 いくら手を、身体を洗っても、消えなかった生臭さ。

 明るくなった視界に、赤。


ξ゚⊿゚)ξ「これは!」

『喉と、下腹部からの出血。滲出してきたような……』

ξ;゚⊿゚)ξ「ウソだろ、これは」

 あまりにも、

 急激にメタトロンに汚染された

 そんな人間が起こす反応と

 酷似していた。



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:10:35.62 ID:JKFRzm2q0
ξ;゚⊿゚)ξ「日本にあった全てのメタトロンは、ここにあるはずだ!」


 俺の背のケースに収まっている4.9281kg。
 それ以上のメタトロンが、何故ここに!?


『先に続いている』

ξ; ⊿ )ξ「……」


 施設の中心に向かう歩が、どんどん早くなる。


ξ; ⊿ )ξ「なぜだ、なぜだ!」

『おい、所長。一人で行くな』


 目に付くは、死骸。



87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:14:49.00 ID:JKFRzm2q0
 死骸。

 血痕。

 腕、脚。

 肉のついた皮膚。

 人だったものが台に乗っている。

 ハイ・プラスティック素材のカート。

 白衣の死骸ごと押しのける。

 ドア。

 開かない。

 叩き壊す。

 風除室。

 真っ直ぐ走り抜けて向かいのドアを蹴破る。



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:19:33.84 ID:JKFRzm2q0
 コンソールにもたれかかって死んでいる研究員。

 非常灯。

 女の死骸。

 ラボ。

 暗い。

 いや、そんなわけがあるか。

 走る、走る。

 ドアを殴る。

 開かない。

 この先に何かがある。

 分かる。

 何かが「いる」。

 どうする、どうやれば開く。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:24:20.22 ID:JKFRzm2q0
 どうすれば俺は、あいつに……。


ξ ⊿ )ξ「ハッ……ハッ……ハッ……!!」


 眩暈だ。
 酸素が足りない。

 蒸発し始めた血液のせいで空気が重い。
 息が苦しい。


『落ち着け』

ξ ⊿ )ξ「ハァッハァッハァッ」

『まずは落ち着け』



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:26:00.33 ID:JKFRzm2q0
 メタトロンが鼓動している。
 背のキューブが、心臓のように。

 いや、違う。

 俺の身体全体がこの扉の向こうに引き付けられている。
 熱く、激しく耳元でどくどくと音がする。

 全身だ。

 血が沸騰しそうだ。


ξ ⊿ )ξ「開けてくっ、れ。ぐぅっ。たの……む」

『座っていろ』


 聴こえる。
 あいつの声だ。

 それだけじゃない。
 あの優しい声もだ。


『開くぞ』



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/09(水) 23:57:31.55 ID:JKFRzm2q0
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


 聴こえる。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


 どうしてお前の声までするんだ。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

『開いたぞ』

ξ ⊿ )ξ「……」



100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:03:34.36 ID:ve1PnBHJ0
「お久しぶりです」

ξ ⊿ )ξ「てめえは」


 頭蓋骨を弄ぶ人影が、広い実験室の中央に座っていた。
 スポットライトのように、照明がそこだけを浮き上がらせる。


「いつぶりでしょうね」

ξ ⊿゚)ξ「てめえは、一体」

『おい、所長!』

「……おや、あなたはあの時の」


 「それ」は切れ長の眼を細めて、関ヶ原を見やる。
 黒塗りのバイザーを見通して、「それ」が懐かしそうな顔をした。

 俺はその顔がもっと近くで確認したくて、ゆっくりと、歩を進めている。
 俺の意思、なのだろうか……。



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:10:33.29 ID:ve1PnBHJ0
「あなたのおかげでもう少しで祈願成就です。幸せです。最高です」

『……』

ξ ⊿゚)ξ「お前は」


 ヘルメットを収縮させ、素顔で相対する。


『おい!』

「お互い、変わりましたね」


 長い髪をかきあげながら、「それ」は微笑んだ。


川 ゚ー゚)「所長?」


 淳クールがそこにいた。



103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:15:27.08 ID:ve1PnBHJ0
 あれほど愛した女が、赤黒いボロに身を包んで。

 あの頃とは違う銀色の毛髪を翻して。


ξ ⊿ )ξ「あ、あ、あ」

川 ゚ー゚)「所長、喜んでください。もう心配しなくていいんです」

『動くな!』


 歪む視界の中で淳クールが近づいてくる。
 頭が揺れる。

 淳クールの身体に穴が開いた。
 関ヶ原がやったんだ。


『!』

川 ゚ー゚)「ひどいな、突然そんなことをするなんて」



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:20:20.47 ID:ve1PnBHJ0
 だが、流血はない。
 穴から銀が流れ、すぐに傷口を塞いだ。


「あ、ああああー、うあぁわああああ」

川 ゚ -゚)、「おっと、しようのない子だ」


 暗がりからよたよたと男が現れた。
 俺の知らない男。

 淳クールの足元にすがるようにうずくまった。

 背後で関ヶ原が息を飲む。


『……総理!』

川 ゚ -゚)「よしよし、この人達を連れてきてくれたんだね? 大丈夫。怪我はしてないよ」

ξ ⊿ )ξ「あ、ああ?」

川 ゚ -゚)「見てください所長。彼ももう仲間です。世界が仲間になります」


 淳クールが指先に歯を立てる。



106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:25:02.47 ID:ve1PnBHJ0
 流れる銀を、総理と呼ばれた男に差し出す。


「あああ! あははあははは!」


 それを美味そうに、愛おしそうに、男は舐める。

 暗がりから、さらに何人もの男女が這い出てきた。

 その様は亡者だ。


『内閣のほとんどが、ここに……!?』

川 ゚ -゚)「こら、これはご褒美なんだ。ここを開けてくれる人を連れてきてくれた彼へのご褒美だよ」

ξ ⊿ )ξ「開けてくれ、る」

川 ゚ -゚)「ええ」

『どういうことだ』



108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:28:49.97 ID:ve1PnBHJ0
川 ゚ -゚)「あっ、ほら、ケンカしたらいけないぞ」

『こいつら、誰一人として生きていない……!』

川 ゚ -゚)「何を言っているんだ? 生きているじゃないか」

『たった19℃の体温で人が生きていけるわけがない!』

川 ゚ -゚)「はあ……。これだから人間は」


 淳クールが、布切れに近い衣服を脱ぐ。

 その裸の胸に、異物が二つあった。

 まるで乳房のように、銀と赤。


川 ゚ -゚)「人類は複雑になりすぎたんだ。もっとシンプルになるべきだ」

ξ; ⊿ )ξ「うっ」


 左の胸にはメタトロンの塊。
 そして、



109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:29:35.10 ID:ve1PnBHJ0
 右の胸には、茂羅の顔面が張り付いて


『!』


 眼を瞑った安らかな死に顔の茂羅に、無数の新たな血管が這っていて

 そこにあった。


川 ゚ -゚)「これさえあればわたし達は生きていけるのに」


 ため息混じりに淳クールが呟く。


ξ ⊿ )ξ「お前は誰だ」

川 ゚ -゚)「え?」

ξ ⊿゚)ξ「お前は、誰なんだ」


 わざとらしく、掌を上に向けて淳クールは笑った。


川 ゚ー゚)「自分でも分かりませんよ」



110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:34:50.79 ID:ve1PnBHJ0
***

(;・∀・)「俺は! 指示通りやっただけなんだ!」

「馬鹿野郎! 言い訳してねえで早く止めるんだ! 注水して冷却しろ!」

(;・∀・)「はっ、はい!」

「チィ! 弁がぶっ壊れやがった!」

(;・∀・)「ど、どうすれば……、所長どこに!?」

「プールに行って直接フタするしかねェだろ!」

(;・∀・)「え、でも」

「うだうだやってたら発電所どころかこの街が吹っ飛んじまうだろうが!」

(;・∀・)「……」

「お前は早く外に知らせて逃げろ!」

(; ∀ )「俺が――」

「あ?」

ガン



113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:37:55.66 ID:ve1PnBHJ0
――茂羅。

――頭が。

「……はっ! 茂羅! てめぇ!」

『しょ、所長! 俺だって、自分のケツくらい自分で!』

「ばっかやろう! 死ぬ気か!」

『ああああああああ!! くそがああああああ!!』

「茂羅ァ!」


 茂羅の身体で残ったのは胴体と頭、左太腿くらいだった。
 他はメタトロンに侵食されて崩れてしまった。

 街の暴動をかいくぐり、俺は茂羅の妻を捜した。
 淳クールだ。

 彼女は、俺が見つけた時には既に住民に。

 昔、幼い頃に恋した女。

 密かに、想いを寄せ続けた女が物言わぬ躯に。

***



114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:41:23.41 ID:ve1PnBHJ0
 記憶がフラッシュする中で淳クールの姿をした何かが言う。


川 ゚ -゚)、「生まれ変わってから、始めは大変でした。ほとんど自我らしいものがなかった」

『所長』


 関ヶ原が俺にだけ聴こえるよう声を投げかけてきた。


ξ ⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「メタトロンの本質は、エネルギーにも物質としての安定性にもなかったんです」

ξ ⊿゚)ξ「一体なんだ」

川 ゚ -゚)「単純さ、です」

『私の装備では殺しきれない。身を退くのが定石だ』


 関ヶ原の訴えが遠くに聞こえる。



115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:44:31.86 ID:ve1PnBHJ0
川 ゚ -゚)「ひとつに、原初に、回帰しようという傾向があるんですよ。これには」


 左胸を指差す、淳クール。


川 ゚ -゚)「大量のメタトロンを身体に蓄えたわたしの死体が、近くにあった死体を糧に修復を行ったんです」

川 ゚ー゚)、「分子間力、だなんて地球規格で表現じゃ足りませんよね」

川 ゚ -゚)「はあ……。実際はもっと人間の手に負えないものですよ」


 その点で、俺と淳クールの意見は一致した。


ξ ⊿゚)ξ「そうだな」

川 ゚ -゚)「そこで、わたしはメタトロンの意図を汲んで、『人間』をやめた」


 そして、すぐに異なる見解に俺は頭をシェイクされる。



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:49:11.84 ID:ve1PnBHJ0
――
―――
―――――

 メタトロン汚染を受けた住民の身体を、わたしは与えられるだけ食べ続けました。
 研究所の面々は嬉々としてその様子をモニタリングしていました。

 修復をする度に、失っていた「世界」はわたしに戻ってきます。
 事故の記憶も、忌まわしいことですが甦りました。

 研究対象としてわたしはひどく興味を引く検体だったようです。
 喜んでいましたよ。

 「不死身の生物兵器のさきがけだ」だなんて。
 おかしいでしょう?

 そこで気付いたんですよ。

 メタトロンがひとつに戻りたがっている、と。

 わたしは生を取り戻せたことに恩義を感じていました。

 メタトロンを地球上でひとつの存在として認めさせるために、どうしたら良いかを思案し始めたのですよ。

――――
―――
――



119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:53:59.12 ID:ve1PnBHJ0
『おい、所長!』

ξ ⊿゚)ξ「……」


 関ヶ原からの通信をカットした。


ξ ⊿゚)ξ「お前は、メタトロンの意思とやらが、分かるのか?」

川 ゚ -゚)「もしかしたら気のせいかもしれませんね」

川 ゚ー゚)「わたしに芽生えた帰属本能は、『わたしが周囲に合わせる』のではなく『周囲をわたしのようにする』ことを優先しました」

川 ゚ー゚)「メタトロンの本質、むしろ本能として『ひとつ』になることと、同義でしょう?」

川 ゚ー゚)「一度のチャンスで良かったんです。わたしが外に出られたら、このように魅了する自信があった」



121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 00:59:48.76 ID:ve1PnBHJ0
「ああ、ううううぁああ」


 ほら、と這い蹲る亡者達を顎で指す。


川 ゚ー゚)「容易く人間は堕ちた」

ξ ⊿゚)ξ「お前が、こいつらを操って俺達をあそこに縛ったのか」

川 ゚ -゚)「……違いますよ」


 不機嫌そうに、困った顔で淳クールが俺の顔を覗き込む。


川 ゚ -゚)「守ったんです。発電所として陰ながら機能させ、支援をし、差別から隔離する」

川 ゚ -゚)「わたし達が世界基準となるまで、守るためにああしてたんですよ」

ξ ⊿゚)ξ「は、はは」

川 ゚ -゚)「EUにも手を伸ばして、これから海底で散布でもしようかーって段だったんですけどね」

川 ゚ -゚)「それか、メタトロン素材の潜水艦、とか」



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:03:41.90 ID:ve1PnBHJ0
川 ゚ -゚)「上手くその辺を誤魔化し誤魔化しやってたんですけど、所長達が」

ξ ⊿゚)ξ「邪魔をした」

川 ゚ -゚)「まったく、逃げてた研究員の生き残りはここを閉鎖するし、昨日の晩から踏んだり蹴ったりですよ」

川 ゚ -゚)「あ、その点に関しては所長達がここに来てくれたのは僥倖でした」


 簡素なベッドに淳クールが腰をかけた。

 俺の肩に手がかけられる。
 見上げると、関ヶ原の腕が伸びていた。

 いつの間にか俺は床にへたり込んでいたのか。

 関ヶ原の顔を覗き込む。
 黒のバイザーの向こうで眼があった気がする。

 ……。

 ぐ、と肩に力が込められる。

 ……ああ。
 いけねえ。

 何ぼんやりしてんだ俺は。



125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:07:17.25 ID:ve1PnBHJ0
ξ゚⊿゚)ξ「なァ、さぞ俺達は滑稽だったろうな」

川 ゚ -゚)「ええ、まあそこまでじゃないですけど。ただ、理解できなくて」


 立ち上がると、俺は眼をかっ開いて言った。


ξ゚⊿゚)ξ「俺もお前が全く理解できん」

川 ゚ -゚)「……まだ邪魔しますか?」


 悲しそうに淳クールの顔が歪む。


川 ゚ -゚)「これ以上は困ります」

ξ゚⊿゚)ξ「俺は俺の意地通すためにここに来た」

川 ゚ -゚)「変わりませんね」

ξ゚⊿゚)ξ「俺は少なくともあの発電所を背負ってんだよ」

川 ゚ー゚)「そうですか……」



127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:10:17.65 ID:ve1PnBHJ0


 ああ、てめぇは妙な奴だなァ。

 なーんでそんな顔してんだよ。





128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:13:07.90 ID:ve1PnBHJ0
 口調だけが寂しげで、口元が笑っている。


川 ;ー;)「あれ? なんだろう、悲しいのに顔が笑う……」

ξ゚⊿゚)ξ「器用な奴だ」

川 ;ー;)「変ですねえ。今から所長を食べなくちゃいけないのに、笑っちゃうんですよ」


 流れる薄い銀色の涙が床を打つ。

 這っていた廃人達がそれに群がり舐めまわす。



130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:15:36.14 ID:ve1PnBHJ0


 笑って、泣いて、何してんだよ。

 なァ。

 茂羅、淳……。





131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:18:34.78 ID:ve1PnBHJ0
ξ-⊿゚)ξ「簡単にゃァ殺されてやらねェよ」

川 ;ー;)「違いますよ。わたしの中で一緒になるんですから、結局は生き続けるんですって」

ξ-⊿-)ξ「関ヶ原。すまねェ。待たせた」

『逃げるか』

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと遊んでやってからな」

川 ;ー;)「あははは、もうわたしは止まれないんだ。ごめんなさい所長」

『……』

ξ゚⊿゚)ξ「……俺がくたばったらここを埋めてくれ」


 ワンテンポ置いて、返答。


『了解』


 ふ、と光学迷彩によって関ヶ原の姿が消えた。



132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:21:43.63 ID:ve1PnBHJ0
 淳クールは笑いながら、虚空に向けて喋っている。
 その右胸で、茂羅の頭が血の涙を流している。

 赤の涙。
 銀の体液。


川 ;ー;)「ははははは、単純にわたしは生物をひとつにしたいだけなんだ」


 幻想を見る瞳が美しくすらある。

 それを現実に引き戻さなければいけないのが、正直言うと辛い。


ξ゚⊿゚)ξ「俺も大概だがな、てめぇのケツはてめぇで拭く覚悟でやってんだよ」

川 ;ー;)「あは、仲間が、仲間と一緒にぇ……えふっ」

ξ゚⊿゚)ξ「未熟な奴はそれができねえ」


 だからよ。



133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:23:37.61 ID:ve1PnBHJ0

ξ;ー;)ξ「俺が代わりに後始末してやるぜ」


川 ;ー;)「あははははは……ひとつに、ああああははははは」


 自慢の拳骨を固めて、俺は馬鹿な部下を殴りに走り出した――





136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:27:22.05 ID:ve1PnBHJ0

 四年越しに俺達は語り合った。

 砕ける骨の音に自らの想いが伝わると、信じた。

 弾けた皮膚が深ければ深いほど、秘めた言葉がそこに染みて欲しいと、ひとえに願った。

 これほど強く惹かれあうのは、お互いの血に流れるメタトロンのせいかもしれない。

 あるいは俺が淳クールの部分に抱き続ける思慕の起こす幻覚かも分からない。




139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:30:44.11 ID:ve1PnBHJ0

 メッセージは単純だ。

 メタトロンは単純化に根ざすというのは本当だったらしい。

 そういえば、人間の基本は女性の身体だと聞いた覚えがある。

 頑丈で俊敏で、強靭で柔軟な身体。

 遺伝子改変すらもそれを実現するのか。

 あながち、意思を持っているとしても間違いないのかもな。




143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:44:48.03 ID:ve1PnBHJ0

 お前はあの時、どれだけの勇気を振り絞ってくれたんだ?

 ……恥ずかしい話なんだが、君は俺の想いに気付いていたのだろうか?

 お前は土の中で孤独だったのかい?

 夫婦で一緒の場所に埋めたんだが、迷惑じゃなかったかな。

 こんな形で二人が俺の目の前に現れるなんてな。

 こんな風にしか再会できなかっただなんて。




145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:48:52.94 ID:ve1PnBHJ0

 お前ともっと笑っていたかった。

 君が俺のものにならなくても、話したかった。

 発電所は今も上手くやってるんだ。

 皆元気なんだぜ。

 野球の大会だって、開くぐらいにさ。

 出零が実は良い球を投げるんだ。

 疲れて、皆で芹澤の飯を食って。




146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:54:01.04 ID:ve1PnBHJ0

 左手の強化外骨格を突き破って前腕の骨が露出する。
 それを掴まれ、さらに、捻り。

ぼ、ぎ

ξ ⊿ )ξ「うっ、ぐあぁああああ!!」

 半ばで折られた骨が眼前に突き出される。
 人工筋肉をフル稼働して上体を反らしながら顎へと脚を振り出す。

がッポ

川   )「あっがぅあわああ!!」

 奴の顎の骨が外れて極端に打ち付けられた上下の歯が飛ぶ。
 銀の、メタトロンの溶けた血の噴出。

 俺も勢い余って身体が後ろに倒れ、傷め過ぎている背中から着地。
 そのまま後転を試みるが、途中で肺に満ちた血液を吐き出す。

 距離を開けたはずが、すぐ目の前に奴の姿が飛び込んできた。
 肩の角を使ったタックルが俺の右肺から空気を全て押し出す。




147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 01:58:49.09 ID:ve1PnBHJ0

 全身がコンクリートに打ち付けられたように粉々だ。
 バイザーの割れたヘルメットに辛うじて、スーツからの情報が送られてくる。

『致命傷』

 知ってるよ。

ξ ⊿ )ξ「ゴッ、ゴボッ、かはっ、こここ、来いよ」

川 ; -;)「ハァ――! ハァ――!」

ξ ⊿ )ξ「おれがだ、おれがらいぐぞぉ!」

 ステップインしての回し蹴り。

 が、空振り。

 背中に衝撃。

 メタトロンを入れたケースが打撃を防いだ。




148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:01:51.79 ID:ve1PnBHJ0

 こいつがあるからいけなかった。

 ……いや、見付けてしまった人間の業だ。

 使おうなどと考えてしまった人間の。

 これは代理のケンカだ。

 形無いものから生まれた事態を、人間を捨てた俺達が収拾しようとしている。

 なァ。

ξ;⊿;)ξ「俺達は本当に何をしているんだろうなァ」




149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:06:06.00 ID:ve1PnBHJ0

 淳クールの姿をした非人間が、修復を試みて廃人達を喰らい始めた。

 流した体液がじりじりと奴の身体に集まっていく。

 対して俺は満身創痍の状態を脱する術を持たない。

 なんとか今のうちに息を整え体力をわずかにでも回復させることしかできない。

 チタンのケースが床に落ちた。

 左腕が折れて背負っていることができなくなったのか。




150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:09:16.60 ID:ve1PnBHJ0

 ひとつ、手段を思いついた。

 むしろ、俺にはこれしか残されていないようだ。

ξ;⊿;)ξ「よォ、茂羅ァ。こっちにもあるぞ、メタトロンがよォ」

 ぶるぶる震える指先で三重構造のケースを開け、キューブを取り出す。

川 ; -;)「あうおあおおああ……」

 修復中の醜い顔面が、こちらを向いた。

 それをまっすぐ見つめることができない。

 もう、猶予は残されていないようだ。




151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:13:17.98 ID:ve1PnBHJ0

 たった1kgのメタトロンが凄まじく重い。

ξ;⊿;)ξ「ほら、こいつが欲しかったんだろ?」

 酩酊したような足取りで奴がこちらに近付く。

 超の付く安定した物質、メタトロンを投げ出した脚の間に放った。

 そして、待つ。

ξ;⊿;)ξ「来いよ」

 奴が、無様なヘッドスライディングのように飛び込んできた。

ξ ⊿ )ξ「それでいい」

 そして、




152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:14:45.83 ID:ve1PnBHJ0

 ケースから、半励起状態のキューブをひとつ。
 掴んで、振り上げ、

川 ; -;)「あうわあぁあ」

 地面に

 強く、叩き

    つけ   た。




158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:20:33.83 ID:ve1PnBHJ0
***

 日本国首都のビル群を大地震が襲った。

 専門家は震源がプレートの節目でないことに疑問を抱いたようだが、あまり問題にはならなかった。

 耐震構造を知り尽くした日本の建造物に損傷はほとんどなかったのだ。

 それより。

 サイバーウェブを騒がしたインタビュー動画の話題の方が息が長かった。

 世界規模の電力低下の原因と、メタトロンの危険性。

 各方面で噂と憶測がなされた。



159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:23:58.20 ID:ve1PnBHJ0
 大地震と、それら二つのニュースが関連を持つと知る者は少ない。

 秘密裏に設計されていたジオフロントで起きた爆発。

 そこで生命反応を停止させた、一人の発電所職員。

 ともに、肉体を破壊され活動を終了した新人類。

 何が起きたのかを知る者は、少ない。




161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:28:43.83 ID:ve1PnBHJ0
 世界中でメタトロンの開発がストップした。

 研究は採取される火星でのみ、という条約が提案されるが、何者かのハッキングによって会合が立ち消えする。

 狐のマークが暴れるウィルスの駆除に、各国が四苦八苦したのは余談だ。

 *

 今日も食料が投下された。
 最近は発電所横の畑でもかなりまともな野菜が採れるようになった。

 だからコンテナの中身はそれ以外の米やら肉やらだ。
 芹澤が最近、発酵食品をマスターしたらしい。

 そろそろ美味い味噌汁が飲みたいと思っていたから、楽しみだ。



162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:31:53.50 ID:ve1PnBHJ0
「おーい、所長。野球しましょうよ」


 散歩中に、出零が元気な声で呼びかけてきた。
 仕事はどうした、と訊くと、こないだ試合で勝った、と笑った。


「また後でな」


 手をひらひらをさせ、俺は病院へと脚を向けた。
 諸本のお呼び出しだ。

 主治医の言うことは守るに限る。



163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:33:48.11 ID:ve1PnBHJ0
「体調に変わりは?」


 首を横に振ると、満足そうに諸本は頷いた。


「無理、してないよね」


 こちらにも良い返事をしながら、問診表にチェックを入れる。


「……まあ、いいけど」


 うっとおしい目付きだ。



168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:49:51.87 ID:ve1PnBHJ0
「所長」


 帰り道で長岡に会う。
 自慢の装甲車が、いまや2076年式ジープだ。


「もしかして行く先は一緒か?」

「なら一緒に行こうぜ」


 やたら高い車高のジープに乗り込むと、化石燃料エンジンがうなった。
 これ、うるさいんだよな……。



170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:53:12.01 ID:ve1PnBHJ0
 食堂は発電所所員で溢れかえっていた。
 今日は食料投下の大盤振る舞いの日だ。


「みなさ~ん、先にいっときますけど、今日のメインはおかわりなしですからね!」

「ちょっと待て芹澤」

「なんです(゚、゚トソンさん」

「今日は、その、そういう日だろ?」

「や、ですから最後まで聞いてくださいよ」

「え?」

「今日はですね~、ぬふふふ……」



171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:55:55.49 ID:ve1PnBHJ0
「うめええええええ、ステーキうめええええええ」

「何お前サーロインなの!? ヒレとちょっと交換しね!?」

「芹澤、これじゃケンカになるの見えてたろ」

「ぬー。ごめんなさい、牛三頭丸々入ってたんで、みんな部位の統一はできなかったんです」

「」

「」

「」

「って絶句!?」

「だ、だって、美味くて」

「しょうゆとワサビで食う肉美味すぎ……」



174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 02:58:19.59 ID:ve1PnBHJ0
 食後、俺は食堂の前に立った。


「注目」

「あれ、レジェンドもいるけどなんかあるんですか」

「レジェンドって呼ぶなって……」

「あー、そこ、私語うるせェ」

「すんません」

「まず言っとくぞ」


 職員の顔を見渡してから口を開く。



175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:01:14.06 ID:ve1PnBHJ0
从 ゚∀从「まだまだ俺達の役割は終わってねえ」

(゚、゚トソン「何を今更」

ζ(゚ー゚*ζ「ですよ」
  _
( ゚∀゚)「話の腰折るよなーあんたら」

从 -∀从「で、だな」

从#゚∀从「お前ら俺を所長って呼ぶの止めろ」

ミセ*゚ー゚)リ「高岡さんそここだわりますねー」

从#゚∀从「あたりまえだっつの!」

ζ(゚ー゚*ζ「だって所長代理って長いじゃないですか」



177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:04:39.30 ID:ve1PnBHJ0
从#゚∀从「所長は所長しかいねえだろうが馬鹿どもが」

(゚、゚トソン「帰ってこないあの人が悪ィんだって」

从#゚∀从「今多分必死こいて帰ってこようとしてんだよ! 絶対!」
  _
( ゚∀゚)「……」

从 ゚∀从「俺はあの人が忘れっぽいのは認めるが、約束は守る男だって信じてる!」

从 -∀从「それをお前ひと月帰ってこないくらいで」

ζ(゚ー゚*ζ「……プッ」


 食堂を爆笑が包んだ。



178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:07:16.73 ID:ve1PnBHJ0
ζ(゚ー゚*ζ「じょーだんに決まってんじゃないっすかw」

(゚、-トソン「馬鹿真面目な奴はこれだから、からかいがいがある」

ミセ*゚ー゚)リ「もー、皆可哀想じゃないですか」

从#゚∀从「あー、なんだお前ら、スゲー俺むかつくんだけど」
  _
( ^∀^)「はははははは!」

从 ゚∀从「はい、カチーンときた」

ζ(゚ー゚*ζ「高岡さん。俺、言わなくても分かってたと思ってました」

(゚、゚トソン「ん。そうだな」



179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:10:04.67 ID:ve1PnBHJ0
ζ(゚ー゚*ζ「俺達だけに頑張れって言って、自分だけ楽するような人じゃないっしょ?」

(゚、゚トソン「どうせどこぞでケンカでもして帰りが遅れてるだけだって」

从 ゚∀从「……」

从 -∀从「だな」


 余計なことを言い過ぎたか。


从 ゚∀从「すまん。忘れてくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、今の所長っぽい」

从;゚∀从「マジか」
  _
( ゚∀゚)「で、このよくわかんない空気の締めはまだか?」



180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:13:39.22 ID:ve1PnBHJ0
从 ゚∀从「あああ、そうだな。じゃあ所長代理としてこういっとくか」


 全力尽くしてバリバリ生き抜いてやろうぜ。


 *

 視界が緑色の発光体に染まる。
 眼の上に手をかざして、気付く。

 左腕が動く。


「ねえ、この人、捜してた人?」

『アア』


 聞き覚えのある……合成音声だ。



181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:16:55.60 ID:ve1PnBHJ0
『オはつ、オめニ、カカル』

「う……あ……」

「すごく身体が冷たい。このままじゃ死んじゃうよ」


 声が出ない。
 知覚器が全てピンボケだ。


『きみ、ヲ、たすケニ、キタ』

「おま、え」

『スキナ、ばしょ、マデ、ハコぼう』


 ……お言葉に、甘えさせてもらおう。



185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:20:17.57 ID:ve1PnBHJ0
 懐かしい廃墟の街だ。
 奴は俺をジープの荷台に横たえると、何も言わずに去ろうとした。

 だが、すぐに思い出したように振り返って、呟く。


『ジョン、ガ、はなシタガッテ、イテナ』


 すると、こいつは長岡の車か。
 いちいち妙なとこに気を回す奴だ。


「またね、お姉さん」


 少女の声が、明るく振ってくる。
 暖かな毛布も置いていってくれた。



186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:23:11.84 ID:ve1PnBHJ0
「おい」


 掠れた声で、少女を呼び止めた。


「なあに?」

「あの、……げほ、あの、な」

『……』



ξ//ー )ξ「俺ァ、『所長』、だ」




    ξ゚⊿゚)ξと全力発電所のようです

             完





187 :◆s7L3t1zRvU:2009/09/10(木) 03:26:26.19 ID:ve1PnBHJ0
これでξ゚⊿゚)ξと全力発電所のようです、を完結とします。
クソ遅くまでお付き合いありがとうございました。

支援とか、あと支援とか。
そうだ、さるった時の支援とかもありがとうございました。

次レスであとがき。

質問、文句、ありましたらどしどしどうぞ。
寝たい人は「全力で寝る」旨を書いていただけたら幸いです。



188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:27:17.39 ID:tMTw1LdR0
乙!
良いもの読ませてもらったぜ!



189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:29:51.76 ID:A6KkgHnHO
質問ー
所長=メタトロンで女性化した茂羅でレジェンドの親父だと思ってたけど違うの?



193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:39:48.72 ID:Nx/g74G/O
>>189
そんな気してたけど
まとめ見たら確かに違ったみたい

今度こそ寝る



194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:45:10.07 ID:A6KkgHnHO
>>193
ありがとう
明日起きたらまとめで読み直すわ





190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:31:03.37 ID:Nx/g74G/O

正直油断してた
寝る直前にチェックしたら…
ちょうど追いついた
遅くなったが読めて良かった
全力で寝る



191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 03:33:40.62 ID:cT3TlMDJ0
お疲れさん
今日はここを発見できて良かった
全力で寝ます



192 :◆s7L3t1zRvU:2009/09/10(木) 03:33:51.37 ID:ve1PnBHJ0
あとがき

 昔書こうとした短編の世界観を共有している世界の話です。
 静岡が完結、コンクリもめどが立ったらそちらも書きたいなあ。

 思いつきでボロが出まくりそうであくせくした部分はありました。
 また、地の分と台詞の間に二行開けたせいでひどく間延びした部分があります。

 その二点と、今ちょっと読み返して足りてなかったことに気付いた。

 全力で生きるっていうか、真っ直ぐ生きるっていうんですか。
 振り返らないで走り続けることはしんどいけど、かっこいいんだぜ。

 っていうのを詰め損ねました。
 反省。

 三回の投下になりましたが、待っていてくれた人、読んでくれた人、本当にありがとうございました。
 またいずれどこかのスレで。



197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 06:24:29.34 ID:6zeaW+sV0
超乙
思ったより長くなったな、でもよかったんだぜ



199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 07:46:44.25 ID:VMRDcE5uO
見つけられてよかった、超乙!夢中で読んでしまった



200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 07:48:25.09 ID:1zc9tjtp0
おはよう
面白かった!乙!



201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 08:14:54.29 ID:baw5XcZ40
今読み終わった
久々に良かった、乙



202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 08:58:33.22 ID:IfGTuXr/0
>質問、文句、ありましたらどしどしどうぞ。

・・・では僭越ながら。
わかりにくい。

主語が少ない。具体的描写が少ない。だれが喋ってるのかわかりにくい。
モノローグと抽象的描写の区別があいまいすぎる。

敵味方だけじゃなく陰謀もあるんなら、わかりにくいのは問題だと思う。



203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 10:22:43.37 ID:+4+RJ6UiO
乙ー。結局サムは誰だったんだよ



204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/10(木) 11:10:40.12 ID:BRtV2TzVO
フォックスだと予想



総レス数 204
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