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◆( ^ω^)は木のようです 少年期Ⅰ

前の話/インデックスページ/次の話

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:26:44.20 ID:MoxZM2ic0

少年期Ⅰ


大切にしてきた出会いの数と、別れはいつの日にか肩をならべゆく。
今、目の前の愛おしささえ、ああ、この両手をすべり落ちてゆく。

                  ―――GARNET CROW 作「pray」より



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:30:45.11 ID:MoxZM2ic0
 

川 ゚ -゚)「やあ。ここはいいところだね」

彼女が言いました。

思いも寄らぬ語りかけを受け、それだけが理由ではないのですが、
とっさの返しを幼木は成し得ませんでした。

季節はもう冬に入っていました。
草や小動物たちは土の下に隠れ、幼木も例年のごとく葉を散らして容貌を季節に合わせる中、
空はモノクロ、あたりにはその年最初の雪が舞っていました。

その雪のひとつが、あまたある幼木の枝の付け根のひとつに降りたちます。
それが彼女でした。

( ^ω^)「気に入ってくれてなによりだお」

間を置いて返したのは、そんな当たり障りのない一言で。

川 ゚ -゚)「なんだい、つまんないな」

受けた彼女は、眉をひそめてそっぽ向くのでした。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:34:45.24 ID:MoxZM2ic0

一夜明けても、まだ彼女はそこにいました。
幼木のひと枝の付け根に座って、幹にもたれて眠っています。

普段の彼では考えられないほど寝ぼけも無しに目が覚めて、幼木は彼女の寝顔に魅入ります。
見つめている自分に気づいてあわてて目をそらし、けれど気がつけば彼女に釘付け。
そういう風に忙しく。

彼女はきれいでした。

その身体は、これまで見たどの雪よりも大きくて透き通っており、
直線で編み込まれたレース模様の身体の芯は、これ以上ないほど壮麗な幾何学模様を描いていて。
その一方で、芸術的なまでに左右対称。

なにより、突き出た直線の先端は女性特有の優雅な丸みを帯びていて。

彼女はとてもきれいでした。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:36:49.00 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ -゚)「なんだい? なにかわたしについているかな?」

彼女が声をかけたのは、ちょうど幼木が見つめているときでした。
いつごろからか目覚めていた彼女は、寝たふりの薄目をそのままに問いかけます。

川 ゚ -゚)「それとも私が珍しいのか? 
     おかしいな。雪が珍しいってわけではなかろうに」

薄目のままに微笑する彼女の横顔は、寒気がするほど神秘的でした。

しかし、幼木にそれを見続けることはできません。

きれいな、うつくしいものを、恥ずかしがらずに直視するには、
彼はそれほど幼いわけではなく、けれどまだまだ歳が足りなかったのです。

彼はただ、頬を染めてうつむくだけでした。



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:40:59.98 ID:dX2REPRc0
クーかわいい!
支援



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:41:08.56 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ー゚)「なんだい、君はおもしろいじゃないか。どれ」

細目ほどにまぶたを開いて、彼の様子を横目でちらり、にやりと笑って彼女が言います。
それから、枝に触れた身体の先端を朝日に溶かすと、空気に冷えてまた凍らせました。

川 ゚ー゚)「この冬は、できうる限りをここで過ごしてみよう。
     わたしは雪のクーという。きみの名前はなんという?」

(;^ω^)「ブ、ブーンといいます、お」

川 ゚ー゚)「ブーン? ブーンか、そりゃあいい」

幹に背もたれ頭をそらし、雪は木に向け笑いかけます。

川 ゚ー゚)「これからひとつよろしく頼むよ」

逆さまにこちらをのぞき込む彼女の顔もまたきれいで。

たまらないうれしさとはずかしさの中、染まった頬をそのままに、
幼木はまたうつむいてしまうのでした。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:45:10.99 ID:MoxZM2ic0

雪は降れども風は吹かず。

そんなとても穏やかな冬の中で、
はじめは雪の問いかけに幼木が答えるだけだった会話は、
しだいに双方向の自然なやりとりへと変わっていました。

いまでは出会ったころのことだって、笑って話せる間柄です。

(;^ω^)「雪さんから話しかけられるのははじめてだったんだお」

幼木が照れて笑いました。

(;^ω^)「それにほかの雪さんはみんな、話しかけても素っ気なかったんだお。
     きっと雪さんはおしゃべりが嫌いなんだろうって思ってたから、
     それでびっくりしちゃったんだお」

川 ゚ -゚)「みんな冷たかったんだな。雪だけに」

あたりがシンと冷えました。

川 ゚ -゚)「……どうした? ここは笑うところだぞ?」

( ^ω^)「真顔で言われちゃ笑うに笑えんお」

川 ゚ -゚)「……ほっとけ。こういう顔なんだ」

赤らんだ彼女の顔は、きれいではなく可愛らしくて。
一瞬の見惚れをごまかすように、幼木は声に出して大きく笑うのでした。



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:48:16.80 ID:MoxZM2ic0

穏やかな冬は深まります。
つぎつぎと降り積もる雪。あたりは一面真っ白です。

だから当然、幼木の枝には、彼女以外の雪がありました。

けれどそれらは彼女とは違い、たまに吹く穏やかな風に自ら望んで身を任せると
一言も発せずに幼木の元を去っていくのです。

それはなにもこの冬に限ったことではない、雪の常でした。
むしろ、一所に座し、のんびりと景色を眺めては木との会話を楽しむ彼女こそが例外だったのです。

ある晩、幼木が尋ねます。

( ^ω^)「クーはほかの雪さんとは違うおね」

川 ゚ -゚)「そんなことはない。
    きみにはみんな同じように見えるかもしれないが、
    どの雪もほかと一緒ということはないのさ」

答えをはぐらかされ、幼木は不満げな顔で黙りこみます。
雪のひとつも舞っていない、とても静かな夜のことです。



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:52:49.05 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ー゚)「ははは。すまない。
     きみが聞きたいのはそういうことじゃないんだな」

諭すような笑みで彼女が言います。

川 ゚ー゚)「そうだな、たしかにわたしはよくしゃべる。
    ほかの雪たちとは違うだろうな」

( ^ω^)「そこがよくわからないんだお」

幼木が首を傾げます。

( ^ω^)「しゃべった方が楽しいのに、
      どうしてほかの雪さんたちはしゃべらないんだお?」

川 ゚ -゚)「……楽しいから、だろうな」

( ^ω^)「楽しいから?」

幼木はますます首を傾げます。

( ^ω^)「しゃべるのが楽しいからしゃべらないのかお? 
     そんなのおかしいお。楽しいことはいいことだお。
     楽しいことはしなきゃだお」

川 ゚ー゚)「そうだ。まったくそのとおりだ。
     だけどそれは、雪にとっては辛いんだよ」



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:55:10.87 ID:ybAgLpUIO
支援
この話大好き



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 22:56:51.81 ID:MoxZM2ic0

夜の中、浮かぶ月そっくりに目を細めた彼女は、
いま、この瞬間の、その眼に映るすべてのものがいとおしい、
そう言わんばかりのまなざしで幼木を射ます。

射すくめられた彼は、しかし、とらわれることはありませんでした。

川 ゚ー゚)「ああ、とても静かな夜だ。
     さて、もし私がこんな夜にひとつ退屈な話をしたいと言ったら、
     はたしてきみは聞いてくれるだろうか?」

なぜなら、冬の空気よりも透き通った彼女の笑顔のむこう側に、
夜の闇と同じ色をした、悲哀にゆがんだ陰を見たからです。

彼は即座にうなずきます。
彼女は微笑んだまま景色を見やり、遠い目をして言いました。

川 ゚ー゚)「じゃあ、ちょっと身の上話をしようか」

目覚めているのは彼と彼女と月だけの音のない世界に、雪の夜話は響くのでした。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:00:27.69 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ -゚)「きみは、自分が生まれる前のことを覚えているかな?」

(;^ω^)「うーん……ダメだお。覚えてないお」

川 ゚ -゚)「そうだろう。だけどね、雪は違うんだ。
    いいや、雪だけじゃない。
    雨粒のひとつひとつも、生まれる前のことを覚えているんだ」

( ^ω^)「雨さんも? 雪さんと雨さんはおなじなのかお?」

川 ゚ -゚)「そう。ほら、春になったら雪はいつのまにかいなくなるだろう? 
     それはね、わたしたちが溶けて水になり地面に染み込んでいくからなんだ。

     雪と雨は、もとをたどれば同じの水という存在に行き着く。
     だからこう言った方が正しいかな。

     水に行き着く存在は、みんな生まれる前のことを覚えている」

( ^ω^)「うーん……よくわかんないお」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:04:12.68 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ー゚)「ははは。そうだろうね。
     実を言うと、わたしたちもよくわかっていないんだ」

( ^ω^)「お? どういうことだお?」

川 ゚ -゚)「うん。さっきわたしは、生まれる前のことを覚えていると言ったね。
    だけど、その記憶は自分でもよくわからないものなんだ。
    かといって、曖昧なものでもない。そこが悲しいところでな」

(;^ω^)「ごめん、さっぱりわかんないお」

川 ゚ー゚)「だろうね。さて、どう説明したものか。
    ははは。なにせわたし自身がよくわかってないからな。
    わからないことを誰かに説明するなんて、なんだかトンチキな話だね」

( ^ω^)「おっおっお。ホントにトンカチだお」

川 ゚ー゚)「ふふ。すまないね。
     だけど、わからなくても聞いてほしい。
     聞いてくれるだけでうれしいんだ」

( ^ω^)「クーがうれしいんなら、そりゃ聞くお」

川 ゚ー゚)「うん。ありがとう」



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:05:51.83 ID:CYVx2OvIO
最近の一番お気に入りきてた!
支援!



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:09:03.10 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ -゚)「そもそも、いまのわたし、クーとしてのわたしの記憶は、
     空を落ちながら漂っているところにはじまる」

( ^ω^)「クーとしての記憶?」

川 ゚ -゚)「そう。時系列にそって体系付けられた記憶、とでもいうべきか。
     うーん、わかりにくいね。

     そうだな、簡単に言えば、きみの持つ記憶と同じような記憶だ。
     きみはある出来事がいつどこで誰といるときに起こったものかを、
     ちゃんと覚えているだろう?」

( ^ω^)「うん。だいたいは覚えているお」

川 ゚ -゚)「そんな記憶さ。
     だけどね、わたしたちにはもうふたつ、記憶と呼べるものがある。
     そのひとつが、これからのわたしたちの行く末。
     これからわたしたちがどうなるかって記憶なんだ」

( ^ω^)「これからのことがわかるのかお?」



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:12:18.44 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ -゚)「そのとおり。だけどね、行く末といっても、
     これからわたしがどう姿を変えるだとか、どんな風になるかってことが、
     ただ漠然とわかっているだけなんだ。

     行く方角みたいなものはわかっていても、
     そこでなにが起こるかはさっぱりわからない。

     きみとわたしが出会うってことが、きみがおもしろいやつだってことが、
     空を漂っていた頃のわたしにはわからなかったようにね」

( ^ω^)「じゃあ、これからクーはどうなるんだお?」

川 ゚ -゚)「うん。春になったらわたしは溶けて、水になって地面に染み込むだろう。
    それからどこかの川でほかの仲間たちと合流し、
    彼らの行く先へと流されていくのだろうね」

( ^ω^)「それからどうなるんだお?」

川 ゚ー゚)「はは。はずかしい話だが、そこから先はよくわからないんだ。
    まあ、また雪か雨として空から落ちて、そしてまたおなじことを繰り返すんだろうね。
    これが、ひとつめの記憶」



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:18:16.42 ID:MoxZM2ic0

( ^ω^)「ふーん。なんだかむずかしいお。
     でも、ちょっとおかしくないかお?」

川 ゚ -゚)「ほう、どこがおかしいと思うのかな?」

( ^ω^)「よくわからないお。
     だけど、これからがわかるってことは、前のことじゃないんだから、
     記憶っていうにはおかしい気がするんだお」

川 ゚ -゚)「うーん、すごい! 
    よくわかってるじゃないか。見かけによらずきみは賢い。
    まったくもってそのとおりの大正解のぽんぽこぴーだ」

ヽ( ^ω^)ノ「わーい、やったおー、賞品はなんだおー?」

川 ゚ー゚)「ふふ、あげたいところだが、
     残念、やっぱりそれはわたしたちにとっては記憶なんだよ」

( ^ω^)「ん? どうしてだお?」

川 ゚ー゚)「うん。わたしたちは繰り返している。
    繰り返すものにとって、記憶とは過ぎ去った経験であり、来るであろう未来の出来事だ。
    時間の方向はあまり意味を持たないんだね。
    だから、きみの答えは間違えじゃないけど、賞品はなし」

( ´ω`)「えー、クーはけちんぼだお」



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:22:36.14 ID:MoxZM2ic0

川 ゚ー゚)「あっはっは! わかったよ、なにか賞品を考えておこう。
     きみがお気に召すようなものをな。だから今日はもう寝よう」

(;^ω^)「お? 寝ちゃうのかお? 
     まだまだ話は途中じゃないかお。

     雪さんたちがしゃべらないわけ、全然ぼくにはわかってないお。
     早く続きが聞きたいお!」

川 ゚ー゚)「ありがとう。わたしだってきみに話したいよ。
     だけどきみ、考えすぎてすごい顔してるぞ?」

(;^ω^)「そんなことないお!」

川 ゚ー゚)「そんなことあるさ。ほら、わたしの体に映っているだろう。
     見てごらん? ……おや、どうした? 顔が真っ赤になってるぞ」

(; ω )「……そんなこと、ないお」

川 ゚ー゚)「ふふ。それならそういうことにしておこう。
     とりあえず、今日のところはここでおしまい。
     こんなに楽しい時間を、これっきりにするのは惜しいからね」

( ^ω^)「じゃあ、明日話してくれるのかお?」

川 ゚ー゚)「どうだろう? 明日もこんな風に静かな夜なら、ね。
     そうでなければまた今度、わたしときみ、月と星だけが起きている夜に」



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:23:40.72 ID:dX2REPRc0
このブーンかわいい支援



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:24:52.10 ID:MoxZM2ic0

( ´ω`)「待ちきれないお……」

川 ゚ー゚)「わたしもさ。
     でも、楽しいことを待つ時間もまた楽しい。
     なんでもない時間も豊かになる。
     ゆっくりと、次の夜を待ちわびようじゃあないか」

( ´ω`)「よくわかんないお」

川 ゚ー゚)「きみは賢い。いずれわかるさ。だから今日はもう寝よう」

( ´ω`)「わかったお。だけどちゃんと話してくれお?」

川 ゚ー゚)「当たり前さ。わたしのほうが話したいんだからね。
    ありがとう、ブーン。一生懸命聞いてくれて。

    ああ、なんと良い夜だろう。
    とても気持ちよく眠れそうだ。きっとすばらしい夢に出会える。

    だから、さあ寝よう。おやすみ、ブーン。また、明日」



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:30:42.82 ID:MoxZM2ic0

とても穏やかな冬でした。
それはいつまでも続くかに見えました

けれど、凪ばかりの海がないように、風に雪の舞わない冬はありません。
翌朝おそくに目覚めたふたりは、ひさかたぶりの強め風に吹雪の予感を知ります。

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、吹雪よ吹雪。
     吹き飛ばされたくなきゃ準備なさい。
     どうせ無駄だろうけどね」

通り過ぎた風の残言が、極度の凍てつきをはらんでいました。

思わず身をふるわせた幼木が見たのは、
変わらない凛とした姿勢で景色を眺める雪のうしろ姿で。

その肩越しに彼は、分厚い黒灰色の雲を認めます。



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:32:27.28 ID:MoxZM2ic0

青空を浸食し向かってくる雲。
先立つ寒波に押しやられた空気が、かぶら矢のごとき音を上げてこちらへと届きます。

葉を持たないというのに枝はあおられ、幹まで幼木は揺られました。
目をつむった自分に舌打ちして目を開ければ、大丈夫、彼女はまだそこにいました。

安堵のため息を継ぎ、声をかけようとした彼。
しかし、言葉は継げません。

川 ゚ー゚)「風向きに助けられたな。
     真正面から受けていれば、わたしはここにはいなかった」

冷たい笑みを浮かべた彼女は、涙ぐむように目を細め。

川 ゚ー゚)「ごめんな、ブーン。続き……話せそうにないよ」

そう言ったきり口をつぐみ、背を向けて以後ふり返りませんでした。



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:38:35.99 ID:MoxZM2ic0

本陣はまもなくやってきました。
どす黒い雲は真昼の空を侵し、吹き荒れる風と雪を従えていました。

迫りくる雪は穏やかなクーとは対照的に粗暴な連中で、
彼らを乗せるのは、吹雪の予感を知らせてくれた彼女とは似ても似つかぬ強奪の風でした。

雪は風にまたがり、側面からふたりに襲いかかります。

幼木を凍り付かせようとしては隙間なく彼の身体に張り付き、
彼女の席を奪おうとしては横殴りに迫ります。



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:40:18.39 ID:MoxZM2ic0

彼女はよく耐えました。
どんなに殴られようもと屈せず、ひたすらそこに座し続けたのです。

透き通る体は傷つき光を通すことをやめ、
見事な幾何学模様はところどころ割れてまたはひび入り、
先端の女性的な曲線は欠け落ち、左右対称の芸術性は失われました。

それでもなお座し続け、悲鳴のひとつもあげませんでした。

いっぽうで幼木の方はと言うと、なにをするでもなく黙していました。

張り付く雪の冷たさに身を縮め、
現実から逃げるように目をつむり、
恥も外聞も情けなささえも凍らせて、
ただ吹雪が過ぎ去るのをひたすら待っているだけのようです。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:42:44.20 ID:MoxZM2ic0

繰り返します。
彼女はよく耐えました。

しかし、孤独な戦いにえてして勝利はありません。
限界はまもなく訪れます。

一陣の吹雪に正面からあおられて、
ついに彼女の身体の一部は枝から離れてしまうのです。

次の一陣がどんなに弱かろうと、
真正面から迫ってくれば、もはや留まれはしないでしょう。

あきらめに笑って彼女は振り返ります。

全身に雪を張り付かせた幼木は、うつむき黙り目をつむり、
それに気づきはしませんでした。

なにも言わずに向き直り、別れの風を彼女は待ちます。

応じるように正面から一直線に向かってくる風。
身を任せようと目を閉じた彼女。


――両手になにかが触れました。





47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:47:09.25 ID:MoxZM2ic0

(ヽ^ω^)「つかまるんだお」

声に応じてとっさにつかみ、彼女は風をやり過ごします。

目を開いた彼女が見たのは、手すりのように両脇から延びた二本の小枝。
開いたまなこが驚きでさらに見開かれます。

(ヽ^ω^)「おっおっお。生やすのに手間取っちゃったお。
     でも、これで大丈夫だお」

振り返れば、疲れ果てた表情でけれど目だけは優しく、
幼木が彼女にほほえんでいたのです。

それから間もなく目をつむり、彼は眠りの底へと落ちていきました。



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:50:19.98 ID:MoxZM2ic0

その寝顔に、彼女はなにも言えません。

笑みも返せず呆然と、ただ何度も何度も、
舌でなめるような繊細さで両の枝に手を触れて。

それからしっかりつかみました。
手すりに手をかけ、深々と腰を下ろし、幹に背中を預けます。

腰掛ける枝の付け根。
両脇から延びた二本の小枝は、寸分たがわず彼女の手の高さにあります。

身体を預ける冷えた幹。
まるで型を取って彫り上げたかのように、絶妙な加減と温もりで包む込みます。

それはほかの誰でもない、まごうことなき彼女だけの椅子。

その上にあれば、別れの悲哀もあきらめも、
繰り返すが故の生の不確かささえも、微塵も感じはしませんでした。

いま、この時にある自分の手ごたえを、
握り締めた手すりの感触の中に確かに見出して。

彼女はそっと目をつむり、吹雪の終わりを夢に見ました。



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 23:54:29.17 ID:MoxZM2ic0

どのくらい眠っていたのでしょう。
静寂に目覚めた幼木を待っていたのは、銀一色の世界でした。

澄んだ夜空。
空気を透過する月の光は、雪に照らされあたりに満ちます。

地上を覆い尽くした雪たちも、吹雪に耐えたほかのものたちも、
疲れ果て、みな残らず眠りに落ちています。

起きているのは、月と星。

川 ゚ー゚)「やあ、おはよう。調子はどうだい?」

そして、彼と彼女だけでした。



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:00:21.86 ID:f7dFPYmW0

幸福そうに目を細め、幹に体をゆったり預け、
彼女は彼女だけの椅子に座し、幼木に向けてほほえんでいました。

彼女はきれいでした。

ひび割れ、傷つき、欠け落ちて、
昔の彼女とは違っていても、そのうつくしさに変わりはなく。

透明さを失ったその身体は、
傷つきひび割れているからこそ、光を受けてきらびやかに輝いて、
対照性を失したからこそ変幻する明滅を得ていて、
丸みを喪失したがゆえに、うちなる鋭さと芯の強さの表出を現実のものとしていました。

質こそ変われど本質に変わりはなく、
目に見えるうつくしさはむしろより高貴なものとなっていて。

彼女はとてもきれいでした。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:07:41.10 ID:f7dFPYmW0

川 ゚ -゚)「どうした? どこか悪いのか?」

なにも言わない彼に向かって、怪訝な顔で彼女が問います。
あわてて彼が取り繕います。

(;^ω^)「そ、そんなことないお! ピンピンしてるお!
     ちょっと静かすぎてびっくりしてたんだお!」

川 ゚ー゚)「ふふふ。それはなによりだ」

彼女の顔に笑みが戻ります。

川 ゚ -゚)「たしかにちょっと静かすぎるな。
     吹雪のあとだからなおのこと。いきすぎた静けさは騒音にも似ている。

     でも、それもまた一興。
     こんなすばらしい景色を前に、音なんて無粋だよ」

しんと静まり返った世界に、彼女の声が響きます。

やがてそれは染み入るように銀の中に消え、
あたりは静寂が取ってかわりました。

その静けさの中で、生まれてはじめて彼は、
自分を取り囲む世界と真正面から向き合ったのです。



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:08:31.52 ID:f7dFPYmW0

彼は小高い丘のてっぺんにいました。

ほかに木のないなだらかな丘陵は長らく続き、
やがて広大な平原へといきつきます。

平原にはいく筋の河が流れており、
月光にゆらめきつつも銀色の中で唯一、夜空の黒を映し出しています。

やがて平原は雪帽子をかぶった森にぶつかります。

永い森。しかし、どこまでも続くかに思えるその森も永遠ではなく、
刃の様な頂をした山々に遮られていて、
そしてそこまでが彼の見ることのできる景色でした。

その先を見ることは適わず。そこまでが彼の世界のすべて。



62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:12:10.82 ID:f7dFPYmW0

けれど、それで十分だと思えました。

こんなにもうつくしい世界に囲まれて、
草や芋虫と出会い、向こう側からは鳥が来て、雪が来て、
そしてこれからも、また別のなにかが訪れてくれるのでしょう。

これ以上、なにを望むことがあるのでしょうか。

深々と枝に腰掛け見入る彼女の肩越しに、
いま彼は、この地に芽生えた幸福を感じたのです。

川 ゚ -゚)「本当に静かな夜だ。
     誰もかれも眠ってる。昨夜以上の静かな夜だ」

息を呑み立ち尽くすだけの幼木に、彼女が誘いを投げかけます。

川 ゚ー゚)「約束の条件は満たしている。
     さて、どうだろう? きみは聞いてくれるかな?」

断る理由などどこにもなく、続きは静夜に語られました。



65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:16:07.36 ID:f7dFPYmW0

川 ゚ -゚)「わたしたちは繰り返している。
    繰り返しているからこそ、過去の経験は未来の出来事であり、
    行く末を教えてくれる標となる。

    続きはここからだね。わたしたちにはもうひとつ記憶がある。
    これからはわたしを例に言わせてもらおう。
    それはね、いまのわたしになる前のわたしの記憶だ」

(;^ω^)「いまのクーになる前の? クーはクーじゃないのかお?」

川 ゚ -゚)「そう。わたしはクーだ。
     でも言っただろう? わたしたちは――わたしは繰り返している。

     空を落ちてからここに至るまでを
     時系列にそって思い出せるクーとしてのわたし、
     それがいまのわたしだ。
     その記憶は体系的であり、きみの持っている記憶となんら違いはない。

     だけどね、なんども繰り返して悪いが、わたしは繰り返す存在だ。
     時間にそって思い出せる記憶の始まり、空を落ちているクー以前のわたし、
     ありていに言えば生まれる前の自分の記憶が、わたしの中にはあるんだよ」



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:21:50.45 ID:f7dFPYmW0

( ^ω^)「クーより前のクー? 
     なんだお、それ? クーはクーじゃないのかお?」

川 ゚ー゚)「さあ、なんなんだろうね?
     そもそもいまのクーという名は、ここにたどり着く前、
     空を落ちているときに、なんとなしにつけただけのものなんだ。

     自分以外と話すとき、名前はとても便利だからね。
     でも、名前なんてそれだけのものさ。すべてのわたしを指すわけじゃない」

( ^ω^)「だけど名前はいいもんだお。ぼくは名前を呼びたいお」

川 ゚ -゚)「……ふむ。たしかにそうだね。
    だれかの名前を呼ぶことも、だれかに名前を呼ばれることも、
    たしかにどちらも素晴らしいこと。

    互いの名前を知っていて、
    互いに一度呼びかけ会えば、離れていても会える気がする。

    だからわたしはいまもこうして、繰り返すたび名前を持つのだろうか?」

( ^ω^)「そうだお。よくわかんないけどきっとそうだお」



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:26:37.31 ID:f7dFPYmW0

川 ゚ー゚)「ふふ。なんだい、そりゃあ。
     でもおかげで気づけたよ。ありがとう。

     でもやっぱり、ひとつの名前がすべてのわたしを指すわけじゃない。
     クーとして生まれる前のわたしがどんな名前だったかなんて、
     残念だけど、いまはもう覚えちゃいないんだ」

( ^ω^)「記憶はあるのに覚えてないのかお?」

川 ゚ー゚)「いいところをついてくれた。そうなんだ。
     記憶があるとは言っても、じつはほとんど覚えちゃいないんだ。
     特に、名前みたいな瑣末なことはね。

     私たちは繰り返すから、そのままじゃ記憶は膨大になってしまう。
     だから基本的に忘れるようにできているんだろうね。

     覚えているのは、わたしの存在自身に焼きついた、とみに印象強い一場面だけ。
     その記憶も、何度めの繰り返しの中のどの時点の記憶かってことがわからない。

     時系列が崩壊しているんだね。
     それが、落ち葉のように、バラバラに奥底で積み重なっている」

( ^ω^)「……じゃあ、クーはどんなことを覚えてるんだお?」



72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:31:01.58 ID:f7dFPYmW0

川 ゚ー゚)「たとえば……そうだね。
     うん、覚えてる。ほかの雪たちに押しつぶされて、なにも見えずに泣いてるところ。
     そう、覚えてる。わたしと身を分けたものたちが、それぞれの道に流れていくところ。
     ああ、覚えてる。大切なだれかを失って、ひとりっきりでうつむいてるところ」

( ´ω`)「……悲しいところばっかりじゃないかお」

川 ゚ー゚)「はは。しょうがないさ。だってそうだろう? 
     印象強いことなんて悲しいことばかりじゃないか。
     そして悲しいことっていうのは、楽しいことのあとにあるんだ。必ずね。

     楽しいことが奪われる、それが悲しさの正体だ。
     だからこそ、悲しさは楽しさを飲み込むほどに強く、
     そんな記憶ばかりが積み重なっていく。

     するとこう考えるようになる。
     はじめから楽しさがなければ、悲しさなんて生まれない」



75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:35:15.64 ID:f7dFPYmW0

(  ω )「……だから、雪さんたちはしゃべらないのかお?」

川 ゚ー゚)「その通り。百点満点の大正解。
     ついでに言うとだから冷たい。さて、賞品はなにがいい?」

(  ω )「いらないお」

川 ゚ー゚)「つれないな。冗談じゃないか。
     怒らないでくれ。でも、わたしの言うこともわかるだろう? 
     こんな考えになるのもしかたがないんだ」

(  ω )「でも……そんなの悲しすぎるお」



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:35:54.16 ID:0zs7OBoK0
ブーン…



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:37:58.70 ID:f7dFPYmW0

川 ゚ー゚)「そう。きみは本当に頭がいい。
     だから怒るな。冗談じゃない。本気でそう思っているんだ。

     わたしたちはどつぼにはまっている。
     悲しみから逃げようとして、より深い悲しみの底に沈みこんでいる。

     わたしはそこから抜け出したい。だからわたしはしゃべるんだ。
     こうしてきみと笑うんだ。楽しいことを楽しむんだ」

(  ω )「でも、それじゃ……」

川 ゚ー゚)「ふふ。そんな顔をしてくれるな。
     きみにはまったく似合わないよ。

     心配しなくていい。言い忘れていたが、わたしにだって、
     きっとほかの雪たちにだって、楽しい記憶はあるにはあるんだよ。
 
     ああ、いったいわたしは、どれくらいの時を繰り返してきたのだろう? 
     悲しい記憶は数知れず、楽しい記憶は数えるほどしかない。

     だけどね、忘れやしない。雪のわたしをすくいあげた幸せそうな幼い笑顔。
     忘れられるもんか。水のわたしと寄り添いたゆたってくれた、あの水の安らぎ。

     楽しさを飲み込む悲しさを、飲み返すほどの幸せな記憶。
     本当に少ない。だからこそ、どんな記憶よりも鮮明なその記憶。

     それさえあれば怖くない。永遠の繰り返しだって進んでいける。
     その中で、こんな夜にもいつか出会える」



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:44:38.22 ID:f7dFPYmW0

(  ω )「……じゃあ、いま、クーは楽しいのかお?」

川 ゚ー゚)「楽しいさ。こんなに楽しくて、うれしくて、幸せなことはないよ。
     きみが身体を作り変えてまで、わたしのために設えてくれたこの椅子。
     これ以上の場所、わたしの記憶にはないよ」

( ^ω^)「……違うお。これはクーのためにじゃないんだお。
      きみに残ってほしいぼくのために、ぼくはこの椅子を作ったんだお」

川 ゚ー゚)「それじゃあ、わたしも同じだよ。
     わたしはここにいたいからここにいる。わたしのためにここにいる」

( ^ω^)「おっおっお! そうなのかお! それならおあいこだお!」

川 ゚ー゚)「ふふふ。そうだ。おあいこだ。

     それでいい。自分の幸せが第一で、
     それで誰かが幸せなら、なにも言うことないじゃあないか。

     ああ、なんてすばらしい夜なんだろう。
     静かな夜。銀色の夜。きみとわたし、月と星だけの夜。

     この心地よい椅子に抱かれて、これからわたしは眠るだろう。
     だけど、忘れない。この夜のこと、絶対に忘れない。
     繰り返したって忘れるものか。

     忘れない。忘れない。――この夜の夢だって、忘れやしない」



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:49:08.14 ID:f7dFPYmW0

穏やかな冬でした。
本当に、穏やかな冬でした。

もはや吹雪らしい吹雪もなく、
降雪らしい降雪すらない平穏な時間をふたりは過ごします。

晴れ渡る空の下、真っ白な大地を太陽がまばゆく照らします。

主立った色は白と青。
彼女は椅子に腰掛け、幼木は彼女の肩越しに、その色を眺めます。

ときおり彼女は振り返り、木に向かって一言二言。木が応じて一言二言。
言葉は少なく、寄り添って同じ景色を眺める二人には、けれどそれで十分でした。

蜜月は平穏に流れていきます。

その平穏さこそ、別れの予兆でした。



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:50:49.95 ID:f7dFPYmW0

続く晴天。
徐々に、しかし確実に、あたりの空気は温もりを帯びてゆきます。

はじめは雪たちが、自身の持つ冷たさでそれを食い止めていました。
けれど、あるときを期に抵抗は止み、それが季節の境目となりました。

川 ゚ -゚)「みんな時期を悟ったのさ。まもなくわたしたちは流れていく」

彼女の一言が蜜月の終わりでした。

そう言った彼女自身、自分の言葉を体現するように、
ほんのわずかながら溶け出していたのです。

なにも言えずに木は顔をゆがめ、すがるような目で彼女を見ます。

川 ゚ -゚)「そんな顔をするな。
     はじまりが終わりに行き着いただけ。あたりまえのことなんだよ。
     だから、こんなことをしても無駄だ」



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:52:39.43 ID:f7dFPYmW0

そう言って触れた両の手すりの枝には、
二枚の葉っぱが芽吹いていました。

いとおしげにそれを撫で、諭すように彼女は微笑み。

川 ゚ー゚)「ありがとう。その気持ちだけで十分だ」

けれど、それ以後の数日を、
幼木は二枚の葉を伸ばすことだけに費やしました。

困ったように笑う彼女に「わからんやつだ」とあきれられても、
「やってみなくちゃわからないお」と必死に葉っぱを伸ばし続けて。

そうしてその日はやってきました。



92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 00:58:47.43 ID:f7dFPYmW0

天高く昇った太陽。

垂直に下りてくるこれまでとは質の違う日差しを受け、
雪たちがいっせいに溶けだします。

降り積もった地面の白は嵩を減らします。
木に積もった雪たちは、抗うことなく水滴となって落ちてゆきます。

例外なのは彼女だけでした。

川 ゚ -゚)「まさか数日でここまで伸ばすとは。
     いやはやきみには恐れ入った」

( ^ω^)「おっおっお。これでもう大丈夫だお!
      お日さまさえ浴びなきゃ、クーは溶けないお!」

彼女が苦笑し、彼が胸を張ります。
彼女は一枚の葉の影の中にありました。

大きく広がったそのひと葉が屋根となって彼女を隠し、
日差しから彼女の身を守っていたのです。



93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:00:02.53 ID:f7dFPYmW0

けれど、彼女は冷たく言いました。

川 ゚ -゚)「ありがとう。でもきみはわかっていない」

( ^ω^)「なにをだお?」

川 ゚ -゚)「雪を溶かすものの正体さ」

そして一気に溶けだしました。

川 ゚ー゚)「それは日差しじゃない。温められた空気なのさ」



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:04:41.73 ID:f7dFPYmW0

彼女が溶けます。目に見えて溶けていきます。
身体の文様は崩れ、味気ない液体へと変わっていきます。

彼女が姿を変えます。
彼女が彼女でなくなっていきます。
取り乱して幼木が叫びます。

(; ゚ω゚)「ダメだお! 溶けないでくれお!」

川 ゚ー゚)「そいつは無茶な注文だ。だから下の葉をどけたまえ」

そう言って見下ろした椅子の下方には、
彼女をすくいあげようと構えるもう一枚の葉が広がっていました。

自らの姿をもって涙ぐみ、彼女が絞るように言います。

川 ー )「ありがとう。きみはなんてひどいやつだ。
     わたしのためにこんなにまでしてくれるなんて、
     感謝の言葉も思いつかないじゃないか。

     ああ、そうだ。お詫びといっちゃあなんだが、
     この前約束した賞品、まだ渡してなかったね。

     わたしが去ったあと、きみに届くようにしよう。
     どうか受け取ってほしい」



98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:07:17.76 ID:f7dFPYmW0

(; ゚ω゚)「そんなのいらないお! 
     それよりここにいてくれお! ぼくと一緒にいてくれお!」

川 ー )「なあ、ブーン? 別れのない出会いになんの意味がある? 
     冗長な時間には汚れしかない。限りあるから磨かれるんだ」

彼女はもう雪ではありませんでした。
透明な液体となって枝の付け根を流れて。

川 ;ー;)「忘れないよ、あの夜の景色。
      忘れないよ、この椅子の座り心地」

そして、涙となって枝を離れました。



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:11:37.11 ID:f7dFPYmW0

待ち構えていた一葉。しかし、無駄でした。
彼女を受け止めたそれは大きくたわみ、反動で強く跳ね上がります。

葉の曲線はすべり台。
彼女は伝い、宙へと放たれ、幼木の目の前に行き着いて。

川 ー )「忘れないよ、きみのこと」

水となった自らの身体を誇るようにひとつ、日にきらめいて。
音もなく地面に落ちていきました。

わずかに溶け残った雪たちの隙間をすり抜けて、彼女は地面にたどり着きます。
さらにその奥へと染み込んでいき、そして、優しく幼木の根に触れて。

それが、別れの合図でした。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:16:54.50 ID:f7dFPYmW0

通り過ぎる春の風。

主のいなくなった椅子の上下では、
役目を失った二枚の葉がむなしく揺られています。

長い間うつむいていた幼木。
足元のほかの雪も、もう姿を消していました。

やがて芽生えた草のひとつが、あたりを見渡し感嘆の声を上げます。
声につられて顔を上げれば、そこに賞品はありました。

木緑色の平原。透きとおる河。
緑色の森。黄土色の山々。
純白の雲。群青色の空。

色に溢れた世界が、彼の前には広がっていたのです。

それが彼女からの贈り物。

( ^ω^)「忘れないお、きみのこと」
 
確かに届いたそれらを前に、二度とうつむことをせず。

若木は記憶に焼きつけて、
穏やかな冬に自らの言葉で終わりを告げたのでした。



108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:22:32.30 ID:f7dFPYmW0

そうして春はやってきました。

隠れていた草たち、虫たち、小鳥や小動物たちの喧騒。
冬とはうって変わったにぎわいに若木は包まれます。

やがて、南の空から鳥がやってきます。

例年に比べると遅い帰郷。
今度の旅で、彼はどんな体験をしたのでしょう。

遠目に認めたその顎下には、
前には無かったひげが蓄えられていました。

それはきっと、大人の証し。
先を越されて悔しさ半分、しかし嬉しさが勝りました。

春風にわざと大きく揺られ、若木は枝を振りしだきます。



110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:23:59.18 ID:f7dFPYmW0

笑って出迎える若木。

いまなお揺れる枝先に降り立った鳥が、
誇るようにして羽根で顎ひげをなでています。

('∀`)「よう、ブーン」

( ^ω^)「おお、おかえりだお、ドクオ」

それから鳥は、眼を細めて言いました。

('∀`)「おまえ、またでっかくなりやがったな」





114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:26:34.89 ID:f7dFPYmW0

以上、長丁場でしたが、読んでくれてありがとうございました。
支援、本当にうれしいです。書く気がどんどん湧いてきます。
精いっぱい頑張りますので、つぎの投下も、どうぞよろしくお願いします。



115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:27:36.22 ID:0zs7OBoK0
乙!これでやっと寝れる
次回も楽しみにしてるぜ



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:29:23.05 ID:Dfvxs02DO
初めて見たけどよかった
まとめも読んでみる乙



118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:44:59.64 ID:X36TQVnv0
乙!

>>105
>確かに届いたそれらを前に、二度とうつむことをせず。
うつむくこと、かな?



119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:50:55.17 ID:/nNhtpDMO
いいね、これ



120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:03:27.59 ID:Dfvxs02DO
まとめ読了
次も楽しみに待ちます



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■この記事へのコメント

  1. ■ [くるくる名無しさん]

    ドックンドックン~!ふぅん!にゃーんにゃーん
    ドックン帰ってキタ━━━(゜∀゜)━(∀゜ )━(゜  )━(  )━(  ゜)━( ゜∀)━(゜∀゜)━━━!!!!
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