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◆(´-ω-`) 「また、アキアカネが飛ぶ季節のようですね。義姉さん」 前編

インデックスページ/次の話

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:39:54.24 ID:iTytgAC80
   ∩___∩三 ー_        ∩___∩
   |ノ      三-二     ー二三 ノ      ヽ  
  /  (゚)   (゚)三二-  ̄   - 三   (゚)   (゚) |   
  |    ( _●_)  ミ三二 - ー二三    ( _●_)  ミ   
 彡、   |∪|  、` ̄ ̄三- 三  彡、   |∪|  ミ  
/ __  ヽノ   Y ̄) 三 三   (/'    ヽノ_  | 
(___)       Y_ノ    ヽ/     (___ノ 

一部、閲覧注意な描写を含みます。

                    閲覧の際はご注意を。



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:41:35.55 ID:iTytgAC80

     ――きみのバラだけが、ほかの十万本のバラよりも大切だと思えるのは、
        きみがあのバラに、それだけたくさんの時間をかけたからなのさ。

     ――ぼくのバラに、たくさんの時間をかけたから……。

     と、王子さまは、忘れないようにくりかえしました。

     キツネはつづけます。

     ――そう。みんな、そのかんじんなことを忘れてしまってる。
        でも、きみはけっして忘れちゃあいけないよ。

        いいかい。

        もしも、きみがだれかに、そう仕向けたなら。
        きみには、果たさなきゃいけない責任があるんだよ。
        これから先、ずぅっと……だよ。

        そう。きみは、あのバラに責任があるのさ。

     ――ぼくは、ぼくのバラに責任がある……。

     と、王子さまは、また、忘れないようにくりかえしました。

                            (サン=テグジュペリ『星の王子様』より)





4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:43:53.50 ID:iTytgAC80

【 序 】

夏も盛りを過ぎると、急に秋めいてくる。

八月も半ば過ぎ。
秋まで、そう時間がない。

吹く風は十分暖かいけれど、夏至をとうに過ぎた日はじりじりと短くなる一方だ。

軒先から見上げる山々の尾根を豊かに飾った鮮緑は、少しずつくすみ始める。
頂上から三分の一ほどが橙に染め上げられるときが、秋の訪れだ。

それはもう、遠くない日のことだろう。

もっとも、今は夜。深夜だ。
透き通った夜空に、ちりぢりの星と、丸く、大きな月が飾られる。

山の緑は、ただ黒々とした闇に沈んで、明朝までは浮かび上がってこない。

(´・ω・`) 「……ふぅ」

母屋の縁側に腰掛け、ゴム草履を履いた脚を揺らす。
縁の下から足下まで伸びた草が、さやさや、とそよぐ。

ぬるい空気をかき回し、剥き出しの膝下に微かな涼風が起こる。
風呂上がりのほてった肌には、それが心地良い。

僕は黙って煙草の煙を深く吸い込み、灰を傍らの、蚊取り線香の缶に落とした。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:46:16.96 ID:iTytgAC80



     「――こら、少年。
      煙草は止めたほうが身のためだよ?」



不意に、背後から、声が聞こえた。
僕は振り返らずに、返事を返す。

(´・ω・`) 「煙草が身体に及ぼす害は、医学的に立証されてる訳じゃないですよね?」

きし……きし、と、畳を踏みしめる音が近づいてくる。
途中に混ざる、さらさら、という布の摩擦音は、蒲団を踏む音だろう。

     「身体に悪いから止めろ、とは言っていないよ。
      私が嫌いだから止めろ。と、そういうこと」

きしり、と。
縁板を踏む音は、すぐ僕の脇で聞こえた。

(´・ω・`) 「……こんばんは。シュー義姉さん」

僕はわざと、他人行儀な呼びかけをする。
それには答えず、その人は黙って僕の隣に腰を下ろした。



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:48:41.91 ID:iTytgAC80
真っ直ぐな長い、つややかな洗い髪が、視界の端を揺れてよぎる。
吹く風に混じって、微かにシャンプーの香りが漂ってくる。

lw´‐ _‐ノv「つい二時間前、一緒に食卓を囲んだばかりじゃないか。
       それに私は、まだ君の義姉じゃないよ。赤の他人だ。少年」

その人は――シュー義姉さん、いや、シューさんは。
胸の前で人差し指を振り、静かにそう言った。

lw´‐ _‐ノv「ほら、没収だ」

(´・ω・`) 「あ……」

シューさんは、目にも留まらぬ速さで僕の手から煙草を取り上げる。
右手の細い指で摘んだそれをくわえて、少し顔を上げると、深く吸い込んだ。

(´・ω・`) 「……」

煙草の火種は、じじ……と音を立てて、1ミリほど根本に向かって進む。

ついさっき、風呂から上がったところなのだろう。
赤々と灯る火種に照らされたその横顔は、少しだけ上気して見えた。

おとがいから鎖骨に向かう緩いカーヴが、月の光に白く照らし出されていた。
その曲線に沿って、視線を少し、下にずらす。

夜着代わりの白い薄手のブラウスのボタンは、上から三つまで外れていた。
その合わせ目の奥に、やはり白い肌が……豊かな胸の盛り上がりが、ちらと見え隠れした。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:50:57.98 ID:iTytgAC80
(*´・ω・) 「……!」

慌てて、視線を逸らす。

w´‐ _‐ノv「ふう――――、っ 。
       ……やはり、美味しいモノじゃない」

吸いさしを口から離し、唇をすぼめて煙を吐くと、つまらなそうに呟く。
僕の視線には気付かなかったようで、そのまま缶に煙草を押しつけて消した。

lw´‐ _‐ノv「甘くもないし、辛くもない。ただの煙だね。
       そこらの葉っぱでも燃やしたほうが、まだ身体にいい」

僕は苦笑する。

そのまま会話はなく、ふたりで、縁側に座って月を見る。



りいいん、りいいいん――



庭中の葉の陰で歌う、鈴虫の声。
それはまるで、薄い硝子のベルのように高く、透き通って僕の耳に届く。

(´・ω・`) 「……」

蚊取り線香から、独特の匂いを伴った細い煙が上がっている。
それは部屋の灯りに照らさて白く緩い渦を描き、揺れ、風に散らされて霞み、消える。



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:53:26.09 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「もうそろそろ、秋だね。
       夏来たりなば、秋遠からじ……季節は、駆け足だ。馬の早駆け」

シューさんはまた星空を仰ぎ、呟く。
縁側に両手を突き、少し伸ばした両脚は僕と同じように、ぶらぶらと揺らしている。

シューさんは、僕よりも頭一つ分は身長が高い。
落ち着いた声音と、体格。それらとその仕草のギャップがおかしくて、僕は微笑む。

微笑みながらも、また他人行儀な口調になるよう努めて、言う。

(´・ω・`) 「……いいんですか? シャキン兄さんの所に行かなくて」

lw´‐ _‐ノv「構わないよ。疲れてるだろうし、どうせもう寝てる。
       操を立ててくれてるのかな。嬉しい限りだよ」

彼女の口から「操」という言葉がいきなり飛び出したので、僕は狼狽する。
煙草をくわえているわけでもないのに咳き込んだ。

(*´・ω・) 「い、いきなりヘンなこと、言わないでくださいよっ」

lw´‐ _‐ノv「ちっともヘンじゃないよ。日本古来の言葉だろうに。
       ま、婚前交渉反対派は、近年珍しいからね。感心なことだよ。
       ……私は、自信なくしそうだけどね。ある意味」

今度は、婚前交渉、と来た。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:55:29.87 ID:iTytgAC80
その言葉に、僕は思わず想像してしまった。

隣に座っている、シューさん。
彼女が、一つ屋根の下で、僕の兄と、シャキン兄さんと――

何度も、何度も繰り返した想像が、それに被さる。

何度も頭を振り、形を取りかけたその想像を振り払う。
黙って、彼女の視線を追った。

その先は、今はただ黒々と死に絶えた山の稜線、その境目の星々。
真白く、蒼白く、あるいは黄色がかった、橙がかった、星々。そして月。

満天の星。風がそよぎ、草の葉を揺らす、その僅かな木の葉ずれ。
暗がりに、無数の虫たちが命を限りに叫ぶ、求愛の歌声。

そして、僕の隣には、僕の兄の婚約者。

僕は。

lw´‐ _‐ノv「どうした? 少年。
       そんなに煙草を取り上げられたのが悔しかったかい?」

(´・ω・`) 「……違いますよ。僕は」

僕は……。



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:57:58.39 ID:iTytgAC80



――分かってる。

   それはひどく不道徳で、淫らで、決して許されないこと。

   人として許されない、あってはいけない感情――



(´・ω・`) 「……僕は、もう寝ます。
      シューさんも、部屋に戻ったらどうですか?」

言い捨てて、彼女の顔も見ないで立ち上がる。

腰の辺りに、僅かに滞った熱を感じる。
それを、悟られたくない。

lw´‐ _‐ノv「何だい。まだ十時半だよ?
       背伸びして煙草を吸うような少年が、寝る時間でもないだろうに」

(´・ω・`) 「……背伸びなんて、してません。
      とにかく、寝るんだから。シューさんも、ほら、戻ってください」

lw´‐ _‐ノv「えー。つまんなーいー」

子供のように口を尖らせて。
シューさんは、ぱたぱたと脚を振る。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 21:59:34.78 ID:iTytgAC80
(´・ω・`) 「……棒読みでダダこねても、ダメです」

lw´‐ _‐ノv「分かったよ。ちぇっ」

軽く舌打ちをして、脚の動きを止める。
隣に立つ僕の顔を見上げて……黙って、そっと片手を差しだしてきた。

手ぐらい、貸してくれてもいいだろう? のジェスチャーだ。

兄は、いつもシューさんのこの手に触れられているのだろうか。
今みたいに、拗ねられたり、甘えられたり、しているのだろうか。

そう考えるだけで。
僕の身体の奥で、何かが静かに、大きく脈打った。



――それはひどく不道徳で、淫らで、決して許されないこと。

   それだけに、甘美で、忘れがたくて。

   僕はその、暖かく透明なぬかるみのような感触に、溺れていく。

   ずぶり、ずぶり、と、つま先から、腰まで。

   気がついたときには、もう戻れない――







14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:01:19.31 ID:iTytgAC80



――僕は、兄の婚約者に、恋している。









15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:03:42.76 ID:iTytgAC80

【 一 】

僕が実家に戻ったのは、長い夏休みのさなか。
8月の頭だ。

兄は、この村で開業医を営んでいる。
小さな村だけれど、医者を必要とする人には事欠かない。

だから。
帰郷した僕を出迎えたのは、点けっぱなしのラジオと蝉の声だけだった。

(´・ω・`)「……ただいま」

汗を拭いながら母屋の戸をくぐり、重い荷物を提げて板張りの廊下を踏む。

長い年月に磨かれた床板は飴色に変色していて、そのひやりとした感触が
長旅の疲れを、早くも少しだけ癒してくれる。



きし――きしり。



床板を軋ませ、靴下で歩く。



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:05:38.49 ID:iTytgAC80
中庭に面した縁側の戸は開け放たれていて、広い庭が一望できる。

(´・ω・`)「いつ来ても、変わらないな」

屋内に立つ僕の瞳孔は、屋内の明るさに適応して開いている。
その両目には、夏の真昼の太陽は眩しすぎた。

粒々と盛り上がった山々は、鮮やかな緑。
広がる雲ひとつない空は、目に浸みるほどの青さ。
その下で、離れに続く中庭の砂は一面に真っ白に輝いて。

それらが、僕の目に焼き付きを起こしてしまいそうで。
そして……それら全てが白く輝き、中空に融け込んでしまいそうで。

(´-ω-`)「……」

僕は、そっと目を閉じた。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:08:19.72 ID:iTytgAC80
突っかけを履いて、僕は離れに向かう。

兄は、僕よりも十歳以上年上だ。晩婚だった両親は、去年でもう還暦を迎えている。

母は、足を悪くした父につきっきりで過ごしている。
二人で離れで生活しており、母屋に顔を出すことはない。

父も、元々はこの村で医者をしていた。兄が医学部を卒業して跡を継いでからは、
もう思い残すことはない、と、しきりに呟いていたのを覚えている。

もう涅槃に入ってしまったかのような表情でそう呟く両親の目に、僕は映っていない。

(´・ω・`)「……はあ、っ」

ため息をつく。
母屋から離れの数十メートル、日向を歩くだけで、もう僕の背中は汗ばみ始めている。

真昼の日差しの下、足下に落ちる真っ黒い影と、からん、ころん、という突っかけの音。
僕のため息は、遠くから聞こえる蝉たちの合唱の中に置き去りにされた。

離れの戸を叩く。数十秒ほど後、内側からくぐもった声で、「誰だ」と誰何の声が聞こえた。

(´・ω・`)「僕だよ。ショボンだよ。
       ……入るね」

返事は、返ってこない。
僕はまた、ため息をついて、引き戸を静かに開いた。

からから、という軽い音は、埃のように乾いていた。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:10:22.95 ID:iTytgAC80
離れの一室に、僕たち三人は座っている。
電気を消した薄暗い部屋は涼しく、空気は少し湿っている。

そして、重い。

/ ,' 3 「……」

暑い座布団にあぐらをかいて、父は、細い目で僕を見ている。

J(ヽ'-`)し「……」

その父に寄り添うようして、母も小さな目で僕を見る。

(´・ω・`)「……」

いつになっても、この空気には慣れない。

けれども、黙っていても何も始まらない。
僕がこのまま黙っていれば、父はきっと無言で席を立って自室に戻ってしまうだろうから。

(´・ω・`)「……あの。
       お久しぶり。元気に、してた? 母さんも」

/ ,' 3 「変わらんよ」

僕の問いかけに、母は曖昧に頷き、父はつまらなそうに答える。
答えた父は、膝のあたりを両手でさすった。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:12:20.74 ID:iTytgAC80
普段なら、会話はこれで終わりだ。
あとは、夏休みの間、父とは一度も会うことなく過ごす。

母は、父の食事を用意するために離れと母屋の台所を往復する。
偶然、台所の周辺で顔を合わせるだけだ。

でも、今日は言わなければいけないことがある。

僕は高校3年。もう、これから先の進路を決めなければいけない時期だ。

僕には、決めた道がある。
それを一言、相談しに来たかった。

緊張のせいでうまく動かない舌を、唾を飲み込んで持ち上げる。

(´・ω・`)「……あのさ。僕……そろそろ、進路を決めないといけないんだ。
       それで、僕。兄さんに負担、掛けたくないし……それで」

父も、母も、無表情に僕を見ている。

/ ,' 3 「……」

空気が、重い。
外ではあれだけ響いていた蝉の鳴き声も、どこか遠くからのように感じる。

(´・ω・`)「それで、僕……大学に行くのはやめて、就職しようと思うんだ。
       向こうで働いて、自分の力で生活して――」

/ ,' 3 「好きにしろ。いちいち言いに来んでいい」



21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:14:15.74 ID:iTytgAC80
僕の言葉は、決心は、父の一言に遮られた。

(;´・ω・)「……っ」

父は、続ける。

/ ,' 3 「お前自身の人生だ。お前が自分で考えて決めればいい。
    親が、口を出すことはない」

……聞きようによっては。
立派な、頼もしい言葉に聞こえるだろう。

でも、それは違う。
分かっている。僕には、その言葉の裏にあるものが、はっきりと。



――それは、無関心。



父の跡は、兄が継いだ。

この家も、財産も、仕事も、血筋も、全て兄が継ぐ。
僕はもう、どうなっても構いはしない。

彼らは、そう言っている。目が、全身が、そう雄弁に語っている。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:15:50.22 ID:iTytgAC80
(´・ω・`)「……」

僕は、沈黙した。

分かってはいた。
予想はできる反応だったし、事実、思い浮かべていたのとほぼ同じ会話だ。

それでも……息苦しかった。

目の前の二人は、僕をもう息子として見ていない。
どこか余所の子供が勝手に家に上がり込んで、どうでもいい将来の話をしている。

そんな冷め切った視線で、僕を見ている。

/ ,' 3 「話は、それだけか」

父が問う。
その言葉には、僕を非難するような色さえ見えた気がした。

僕は、無言で頷く。

父はつまらなそうに肩を揺らし、よろけながら立ち上がった。
母が素早く立ち上がり、父の肩を支える。

(´・ω・`)「……失礼、します」

僕も、父の部屋を辞した。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:19:57.85 ID:iTytgAC80
離れを出、中庭の母屋に戻る道を歩く。

ぎらぎらと照りつける太陽も、抜けるような青空も。
蝉の合唱も、植え込みや、山の青さも。

今の僕には、限りなく遠い。

(´・ω・`)「……」

両親に愛された記憶は、ある。
兄がまだ高校生のころまでは、そうだったはずだった。

けれども、兄が医学部に合格したのを境に、僕は、彼らの視界から消えた。
愛情の対象は兄一人になり、僕の存在はこの広い屋敷の隅に追いやられた。



――僕は……跡継ぎのスペア、だった。

   そのことに気づくのに、そう時間はかからなかった。



それでも、毎年僕はここに帰ってくる。それはここが、他のどこでもなく、僕の「家」だから。
でも。

(´・ω・`)「……暑い、な」

つぶやきは、夏の陽の中に。
消えた。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:22:54.78 ID:iTytgAC80

――僕が小学生だった頃か、それとももっと前か。
   それは思い出せない。

   夏が始まったばかりのその日はやはり暑くて、風はなかった。
   縁側で涼んでいた僕は、縁板の上に一匹の昆虫を見つけた。

   カナブンの仲間だろう。
   鮮やかな緑色の甲殻を持った昆虫は、縁板に張り付いて伏せているようにも見えた。

   ささくれのようなとげが植わった細い足を必死に動かすのだけど、前には進めない。
   ただ、かりかり、かりかりと微かな音を立てて、縁板を必死にこするだけだ。

   時折、思い出すように羽根を開き、飛び立とうとする。
   けれどもその動作にも力はなく、薄く透き通った羽根は二、三度震えただけで、
   また甲殻の奥にしまいこまれる。

   もう、寿命が近いのだろう。

   僕は思いつき、その昆虫を親指と人差し指でつまんで、庭に放り投げる。
   日光の反射をきらめかせ、昆虫は数メートル先に落ちた。

   これで生きていけないのなら、仕方のないことだ。

   僕はそう思っていたのだと思う。
   はかない命に、せめても施しをしてやったのだと、小さな満足を感じてすらいた。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:24:35.10 ID:iTytgAC80

――そして、その日の夕方。

   僕は庭の木陰で虫捕りをしようと、サンダルを履いて庭に走り出した。

   そのとたん、足下で、くしゃり、と音がした。

   不思議に思い足を上げると、そこには、緑色の甲殻の昆虫がいた。
   僕は慌てて足をどけ、薄暗がりの中ではいつくばってその昆虫を検分する。

   それは、死んでいた。

   六本の足のうち二本は根元から折れ、土の上でひくひくとうごめいていた。
   残った四本の足も同じように動いていたが、それもすぐ止まり、腹側に畳み込まれた。

   甲殻はひしゃげてつぶれ、胴体と胸の隙間から、黄土色の紐状の器官がはみ出ていた。
   そこから流れ出た体液が、土に小さな、丸い染みを作っていた。
   
   わずか一センチにも満たない、その昆虫。
   それが僕の体重を掛けられて、生きていられるはずはなかった。

   僕は震えていた。

   折れて歪んだ、緑に輝く体表の外骨格。
   それは陽の光を恨めしげに反射させて、もう二度と動き出すことはなかった。



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:26:05.81 ID:iTytgAC80

――あの昆虫は、昼間僕自身が放してやったのと同じ昆虫だろうか……?

   僕は、今でもたまに、それを考える。

   決して答えは出ないその疑問を、何度も反芻する。

   そして……あの後、僕はどうしたのだろうか……?

   それはなぜか、いつになっても思い出せない。





29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:30:46.64 ID:iTytgAC80

【 二 】

兄が戻ってきたのは、日が傾きかけたころだった。
ヘッドホンの隙間から引き戸の音を聞いた僕は、玄関に走った。

玄関では、半袖のポロシャツを着た兄が靴を脱いでいるところだった。
開け放した戸の向こうは、明るい橙色に染まっている。

遠くで、家路につくカラスの鳴き声が聞こえた。

(´・ω・`)「お帰り、兄さん。お邪魔してるよ」

僕に背を向けたままの兄に、声を掛ける。

(     )「ああ、久しぶりだな。
       何も出来ないが、ゆっくりしていけ」

背を向けたまま、落ち着いた声が返事をする。



――兄は、利口だった。



勉強も出来たけれど、それだけではなかった。
この家でうまく立ち回る術を心得ていた。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:32:54.17 ID:iTytgAC80
十年以上年の離れた兄は、空気のような僕によく構ってくれた。
ただし、両親の目がないところで。

兄は、ずいぶん前から、僕がどんな扱いを受けているかを知っていた。
だからきっと、同情してくれていたのだろう。

同情……。それは、普通の兄弟なら、兄が弟に感じるたぐいの感情ではない。
けれども、兄の目にはいつだって、その色彩がありありと浮かんでいたから。

でも、十分だった。
同情でも哀れみでも、何でも良かった。

僕の味方は、兄以外には、この狭い世界のどこにもいなかったのだから。



――そして、一方の僕は。

   複雑な感情を隠すのは、すっかり得意になった。



(´・ω・`)「夕ご飯の支度、しようか?」

僕が声を掛けると、兄はしかし背中向きのまま、首を振る。
身体を起こして、首だけ僕の方を振り向いた。

(`・ω・´) 「いや、いい。
       それより……お前に、話すことがある」



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:35:28.57 ID:iTytgAC80
そう言って、玄関の外に声を掛けた。

(`・ω・´) 「――どうした? 入ってくれ。
       ここは、君の家になるんだから」

僕は訝りながらも、玄関の引き戸を見る。

曇りガラスに、人の姿が映っているのに気付く。
すらりとした体格で、髪は長く……そしておそらく、僕よりも、兄よりも背が高い。

……誰だろう? 兄の患者だろうか?

兄の言葉を聞いてもなお、僕は訝っていた。
その語に続く出来事を、想像すらしていなかった。

     「……」

幾分ためらいがちに、その人の形をした模様が動く。
女性用のヒールが高い靴に特有の音が、かつん、と鳴る。

引き戸を開き、そこに立っていたのは、グレイのパンツスーツ姿の女性だった。



lw´‐ _‐ノv「お邪魔します。
       君が、弟さんかな。初めまして」



そう言って、彼女は頭を下げる。スーツの上下に、背負った夕日の影が揺れた。



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:37:42.05 ID:iTytgAC80
(;´・ω・)「……?」

この人は、いったい何者だろう。
兄には悪いが、僕は咄嗟にそう思うことしかできなかった。

lw´‐ _‐ノv「……うん、見事に固まっている。
       私のこと、ちゃんと話していないのかい?」

男言葉とも女言葉ともつかない口調で。
彼女は言い、小さな荷物を提げた腕を組んだ。

(`・ω・´) 「いや。……何も、話してない」

lw´‐ _‐ノv「なるほどね。事態は、予想以上に深刻だったか」

頷き、腕を組んだまま、肩をすくめた。

(;´・ω・)「……兄さん。この人は……?」

僕は、その女性と兄を交互に、何度も見比べる。
兄は、少し照れたような表情で僕を見返す。

その右手の薬指に、シンプルなシルバーのリングが光っているのが見えた。



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:39:45.23 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「改めて、ご挨拶しようか。
       私は、素直シュール。君のお兄さんと、交際させてもらっている」

腰の前に両手を添えて、幾分改まった口調で。
その女性は背筋を伸ばして、話す。

その右手に、兄のものと同じリングが嵌っているのに、気付く。

(´・ω・`)「あ……」

(`・ω・´) 「言うのが遅れたな。
      俺たちは……婚約してる。結婚する、つもりだ」

その女性……素直シュールさんは、もう一度、軽く頭を下げた。

lw´‐ _‐ノv「君の、義姉ということになるかな。
       よろしく頼むよ。ショボン君」



――いきなりの出来事。

   僕は祝福の言葉さえ忘れて、その場に立ち尽くした。



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:41:45.78 ID:iTytgAC80
いつもより少しだけ遅い、夕食のあと。
シュールさん……僕の義姉になる女性は流しに立ち、洗い物を片付けている。

(´・ω・`) 「兄さんと同じ……お医者さん、なんだ」

僕と兄は食卓に、湯飲みを前に差し向かいに座っている。
珍しく少しだけビールを飲んだ兄の目元は、うっすらピンクに染まっていた。

(`・ω・´)「ああ、そうだ。
      彼女とは、東京の学会で出会った」

彼女は、何をしている人なの?
その僕の問い掛けに、頷いてそう答える。

きゅっ、と蛇口を絞り、袖まくりをした手を拭いながら、シュールさんが振り返る。
流しの脇の冷蔵庫に掛けられた手ぬぐいで手を拭きながら、兄の言葉を継ぐ。

lw´‐ _‐ノv「そうだ。私も、医者のはしくれだよ。縁はあやなり、だね」

言って、僕の目を覗き込む。
僕も、その目を見返す。

不思議な色の瞳……。そう形容すればいいのだろうか。
もちろん、瞳の色がおかしいわけではない。

意志が強そうでいて、それでいてどこかつかみ所のない。
何にも縛られない、自由な……そんな印象の瞳。

無理矢理言葉にすれば、そんな感じだろうか。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:43:48.83 ID:iTytgAC80
洗い物が終わったばかりで、木綿のエプロンを着けたままだ。

服装は、ぴったりとしたデニムのパンツ。飾り気のない、淡い色のカッターシャツ。
胸元は緩められていて、白いけれど決して不健康ではない肌が、見える。

大人の女性をこんな距離で見るのは、初めての経験かも知れない。

いや、違う。



――「綺麗な」大人の女性を……。



(;´・ω・) 「……」

僕は、慌てて視線を逸らす。
兄の婚約者を、なんて目で見ているんだと反省する。

頭上で、蛍光灯が、ちかちか、と明滅する。

窓の外は、もう夜だ。家の敷地はもちろん、外にも街灯なんてろくにない。
星は綺麗に見えるけれど、外を出歩くのには懐中電灯が必要だ。

小さく息を吐く。
兄ともシュールさんとも目を合わせないように周囲を見回すと、席を立った。

そろそろ頃合いだろう。



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:46:17.35 ID:iTytgAC80
いきなり現れた兄の婚約者。
僕は、正直困惑している。彼女も同じに違いない。

妙に張り詰めた緊張感が、決して広くはない食卓の上から溢れてしまいそうで。
僕は特にすることもないのに、少し急いで席を立つ。

(´・ω・`) 「シュールさん、ごちそうさまでした。
      僕、部屋に戻ります」

今日の夕食を作ってくれたのは、シュールさんだった。

僕自身の料理とも、兄とも、母とも違う味付けの料理は新鮮だった。
そこに、僕のうかがい知ることのできない彼女の生活があるように思えた。

少し、大袈裟かも知れないけれど。

部屋を出ようとする僕に、兄が口を開いた。



(`・ω・´)「明日から当面、彼女には家にいて貰うからな。
       父さんと母さんの食事も頼むことにする。迷惑がないようにしろよ」



――僕の脚が、勝手に止まった。






41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:48:21.47 ID:iTytgAC80
(´・ω・`) 「え?」

両親は、離れに篭もっている。
兄は、日没過ぎまで仕事だ。

つまり。
これから、僕は兄の婚約者と、ふたりで過ごすというのか?

僕が帰るまで……ずっと?

(;´・ω・) 「え……えっ? でも、彼女……シュールさんも、医者なんだよね。
      兄さんと一緒に、病院、行かないんですか?」

正直言って、迷惑だった。

誰にも指図されず、誰からも顧みられることなしに過ごす、一人だけの時間。
僕はそれが好きだった。毎年帰省する理由の、決して小さくない部分を占めるものだ。

だというのに。

(`・ω・´)「いや。結婚したら……彼女には家庭に入ってもらうつもりだ。
       そのために、この家に慣れておいてもらわないといけないからな」

(;´・ω・) 「……」

それに、と兄は続ける。

(`・ω・´)「この家は、俺一人が支える。彼女が働く必要は、ない。
      なにより……父さんと母さんも、それ.を望んでいる」



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:50:23.76 ID:iTytgAC80



――「父さんと母さんも、それを望んでいる」。

   その言葉に、僕は瞬時に憤る。



これだ。

夫が仕事に出て、妻はただ家庭を守る。
凝り固まった、思考。旧態依然とした、硬直した家父長制。

それだって、二人の合意があるならば構わない。

けれど、違うだろう。
兄は両親にそう言われ、ただ頷いただけに決まっている。

ずっと父と母に愛されてきた兄。
兄は、その両親の思想を微塵も疑わずに受け容れてしまっている。

たまらない。

これさえなければ。
これさえなければ、兄は。

(#´・ω・) 「……!」



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:52:45.19 ID:iTytgAC80
瞬間的に、頭に血が上る。
先ほどの不愉快さのせいもあり、何かを言い返そうと、口を開く。

その時、兄の隣のシュールさんが動いた。

lw´‐ _‐ノv「……」

彼女は僕を見て、それから小さく首を振った。

僕の中にあった敵愾心は、シュールさんを見ている内に急激に萎んでいった。
代わりに、彼女に……少しだけ、共感した。

(´・ω・`) 「……分かったよ。
      シュールさん、明日からよろしくお願いします」

表情をゆるめて、頭を下げる。
顔を上げると、彼女の表情は柔らかかった。

lw´‐ _‐ノv「うん。こちらこそ、よろしく頼むよ。ショボン君。
       ……あ。私のことは、シュー、と呼んで欲しいな。
       畏まった呼び方をされるの、好きじゃない」

(´・ω・`) 「分かりました。シュー義姉さん」

ねえさん。

生まれて初めての呼びかけは、こそばゆいような、照れくさいような。
そんな奇妙な響きを持って、自分自身の耳に響いた。



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:53:36.02 ID:qHlegwtd0
支援
田舎は出口のない地獄
都会は道のない地獄



46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 22:56:43.86 ID:iTytgAC80

【 三 】

翌日の始まりは、気怠い目覚めではなかった。

万年床になった蒲団の上で。
ヘッドホンをして音楽を聴きながら眠ってしまっていた僕。

その僕を起こしたのは、真南に差し掛かる太陽ではない。
柔らかい、人間の手だった。

     「ほら、いい加減に起きなさい。
      若い内からそんな生活をしてると、根っこが生えるよ?」

落ち着いた、女性の声。
聞き覚えのない声に開いた僕の目に飛び込んだのは……シューさんの顔だった。

(;´・ω・) 「わ、わっ!」

慌てて上半身を起こし、首に掛かったヘッドホンをはぎ取る。
そんな僕の様子を見ていた彼女は、くすくすと笑った。

lw´‐ _‐ノv「よろしい。やはり、若者は早起きしないといけないね。
       晴耕雨読。一日不作、一日不食。そうは思わないか? 少年」

全然状況にそぐわない故事成語を連ねる。
僕は、気の抜けた返事を返すことしかできなかった。

(;´・ω・) 「は……はあ」



47 :>>44なんか……深いな:2009/09/29(火) 22:58:46.57 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「……む。少年……少年か。なるほど、これはいい。
       ショボン君。君は今から、ショボン少年だ。うん」

何に納得したのかは分からない。
けれど、深く何度も頷く。

(´・ω・`) 「僕は、少年じゃありません」

lw´‐ _‐ノv「いや、間違いなく少年だよ」

そう言って、また微笑んで指を立てた。

lw´‐ _‐ノv「少なくとも、監視の目がないのをいいことに。
       自堕落な生活をしている内は、ずっと……ね。ふふ」

僕はもう何も言い返せなくて、じっと彼女の顔を見る。

長い、綺麗な髪をしている。
昨日の印象の通り、つかみ所のない、それでいて芯の通った瞳。

細くまなじりの下がった両目が、楽しそうに僕を見ている。

蒲団の脇に正座して上体を曲げ、屈み込むような姿勢で僕を見下ろしている。
重力の影響を受けて垂れ下がるブラウスの胸元に視線が行きそうになり、目を閉じた。



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:01:17.52 ID:iTytgAC80
(;´-ω-) 「……分かりました。
       少年でも何でもいいから、ちょっと待ってください。今、起きるから」

一つ頷き、立ち上がる。

lw´‐ _‐ノv「いいだろう。
       朝食の準備は済んでるから。急ぐんだよ」

それだけを言って、部屋を後にする。
僕はどぎまぎしながら、シューさんを見送った。

彼女が後ろ手にふすまを閉じるのを確認して、大きく息を吐く。

(´・ω・`) 「……はあっ」

自分の領土を侵犯されるのは、好きじゃない。
明日から、毎朝こうなのだろうか。

僕は早くも憂鬱になりながら、身繕いの準備を始めた。



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:03:36.70 ID:iTytgAC80
この家できちんとした時間に朝食を食べるのは、久しぶりだ。
食卓の中央には、そうめんをこんもりと盛られた半透明のガラスの器が置かれていた。

窓から差す、強い朝の日光を、白いそうめんの上に乗せられたいくつもの氷のキューブが、
思い思いの方向に乱反射させていた。

その隣で、麦茶の入った四角いプラスチックのポットが汗をかいていた。
それぞれの手元に、つゆの取り皿と割り箸が、二人分。

窓を見る。

外は、白い。蝉の声は、まだ当分止みそうになかった。

(´・ω・`)「いただきます」

僕の正面で、既に席に着いていたシューさんが頷く。

しばらくの間、箸が器に当たる音と、よく冷えた素麺を控えめに啜る音だけが響いた。
特に放すべき内容も思い当たらず、僕は黙って端を動かす。

ふと、ちらと顔を上げてシューさんの顔を見ると、思案顔で器の中のサクランボを見詰めていた。

(´・ω・`)「……どうぞ」

lw´‐ _‐ノv「あ、悪いね。いただこう」

シロップ漬けの真っ赤なサクランボを手でひょいと取り上げ、口に運ぶ。
そのうすい唇が開いて、唇よりも赤い果肉を咥えるのを、僕は見ていた。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:06:16.10 ID:iTytgAC80
食事のあと。
露の付いた麦茶のコップを両手で挟むように持ちながら、シューさんがふいに呟いた。

lw´‐ _‐ノv「そうだ。思えば、少年のことを全然知らないな」

(´・ω・`)「はい。聞かれてませんから」

控えめな嫌味のつもりだった。

当然だ。兄の婚約者と僕が親しくする理由など、特にない。
シューさんは、兄と親しくしていれば良いのだろうから。

シューさんは麦茶を一口飲み、口を開いた。

lw´‐ _‐ノv「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。
       先ず隗より始めよ。そういうこと」

(´・ω・`)「……?」

また故事成語だ。
訳が分からない。

首をかしげる僕を見て、彼女は少しだけ、笑った。

lw´‐ _‐ノv「君の歓心を買っておくのは、悪いことじゃない。
       今後の私の生活のためにも、立場のためにも。だろう?」

(´・ω・`)「……」



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:08:35.65 ID:iTytgAC80



――あまりにも正直な。無礼と言ってもいい物言いだった。

   けれど、不思議と不快には感じない。

   彼女の目が持つ、不思議な雰囲気のせいだろうか。



彼女は続ける。

lw´‐ _‐ノv「お互い他人同士のまま、気まずく過ごすよりはいいだろう?
       興味もあるしね。君のことも、ご家族のことも。
       彼、あまり余計なことは話したがらないタチだから」

僕は思わず苦笑いする。

兄は生真面目だ。
その兄がシューさんと話している様が、想像できたから。

彼女の掌の熱で溶けたグラスの氷が動き、からん、と鳴る。

(´・ω・`)「……分かりました。
       ええと……何から話したらいいのかな」

僕も、シューさんが言ったように、兄と同じだけれど。
自分のことを話すのは、得意じゃない。



53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:10:50.78 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「何でも。君が話しても構わないと思うことなら、何でも」

僕は控えめに頷き、自分の前のグラスに手を伸ばす。

グラスの表面にびっしりと付いた水滴が、僕の掌を濡らす。
日光にさらされた手の甲は熱く、グラスに触れた掌は、冷たい。

麦茶のグラスを揺らす。
ビニールのテーブルクロスに、ライトブラウンのもやのような影が動く。

それを見て、それからシューさんの顔を、目をちらと見て。
僕は、頭の中で考えを纏めながら、口を開いた。

少しずつ。時々、たどたどしく。



――ここで生まれて育ったこと。

   この周辺の地理や、幼い頃に見聞きしたもの。

   家族の話。両親の話。兄の、話。

   肉親の悪口を言う気にはならなくて、ほんの少しだけ、簡潔にかいつまんで。

   そして中学を卒業するのを期に家を出て、都会で一人暮らしを始めたこと。

   高校を卒業したら仕送りは断り、向こうで職を探して働こうと思っていること。





55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:13:36.57 ID:iTytgAC80
シューさんは僕を見て、時折小さく頷きながら、僕の話を聞いていた。
ところどころで、簡単な質問をした。

lw´‐ _‐ノv「なるほどなるほど。君も、苦労人だね」

僕の話が終わると、シューさんはそう言って、真面目な顔で頷いた。

(´・ω・`)「あ……はい」

僕と両親、そして兄との軋轢は、口に出してはいない。
けれども、彼女には僕の境遇に対して、何か思うところがあるようだった。

僕は、それに気付いている。
そして彼女は、僕が気付いていることに、気付いている。

だから、それ以上、何も言わない。

(´・ω・`)「じゃあ。僕の、兄の話。聞かせてもらえませんか?」

興味があった。

僕は、医者になってからの兄を知らない。
済むところも違うし、ほとんど没交渉だ。

何しろ、兄が婚約していることを昨日まで知らなかったぐらいなのだから。



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:16:16.51 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「そうだな。一言で言うと……君たちは、よく似てる。
       見た目もそうだけど、中身も、多分ね」

シューさんは、まずそう言った。

僕たちの手の中にあるグラスの氷は半分以上溶けていて、いくつかの小さな塊が
名残惜しげに水面で、グラスの縁に引っかかっているだけだ。

シューさんは、簡単に教えてくれた。

年齢は、兄と同い年。

兄と同じ内科医で、東京の学会で兄と知り合ったこと。
たびたび連絡を取り合うようになり、何度かはこの村の診療所を訪れていたこと。

そして……兄を、大好きだと。愛している、と。恥ずかし気もなく、真剣な顔で。

(´・ω・`)「……」

シューさんが思いを寄せる、兄の姿。
そこにいるのは、おそらくは僕の知らない兄だ。

けれど。

lw´‐ _‐ノv「まあ、でも。生真面目で、頑固で、融通が利かなくて。
       言ってみれば頭でっかちの勉強バカだな……あ」

言ったあとで、ほんの少しだけ、しまった、という表情をする。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:19:47.73 ID:iTytgAC80
(´・ω・`)「ふ……あははっ」

僕は、思わず笑ってしまった。

lw´‐ _‐ノv「ふむ。君が笑うのを見たのは、初めてだね。少年。
       やはり、子供はにこやかにしていないといけないな」

感心感心、といった様子で、深く頷く。
黙っていれば、頭を撫でられでもしそうな気配だった。

真っ向から子供扱いされ、僕は赤面する。

(*´・ω・)「僕は、子供じゃないですってば」

lw´‐ _‐ノv「子供は、いつもそう答えるんだよ……ふふ」

そう言って、姉ではなく、母親のような顔で笑う。

(*´・ω・)「じゃ、じゃあ。どう答えれば大人なんですか?
       君は子供だな、って、そう言われたら」

lw´‐ _‐ノv「なに、簡単だよ。こう言えばいい――」

シューさんは黙って食卓に手を突く。
少し乗り出して、小さな声で……言った。



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:22:46.33 ID:iTytgAC80

lw´‐ _‐ノv「『今夜ベッドに来いよ。俺が大人だって証拠、見せてやる』
       ……って、ね」



一瞬、何を言われたのか分からなかった。
僕はぽかんとした顔をしていたに違いない。

真面目にその意味を考える僕の顔を見て、先にシューさんが吹き出した。
釣られて、僕も笑った。



――笑いは、緊張と不信に効く特効薬だ。

   多少下品ではあるけれど、効果てきめんだった。



その後は、互いに口をつぐんでいることもない。
とりとめもない会話が、続く。

グラスの氷が、全て溶けてしまう頃。

そこには、今朝までのような重い緊張感はなかった。

微笑みながら、機知に富んだ、時に素っ頓狂な言葉を継ぐシューさん。
僕は、生真面目な兄がこの人を愛した理由が、少しだけ分かった気がした。



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:25:03.53 ID:iTytgAC80
夜になり返ってきた兄は、僕たちの様子を見て首をかしげた。
何より、僕がシューさんを認めているのが意外な風だった。

(`・ω・´) 「……まあ。仲良くしてくれているようで、何よりだ」

夕食の席には、夕べはなかった会話があった。

僕を人間として認めてくれる、シューさんの暖かい視線。
僕と兄だけの生活に欠けていた、温かさや人間味。

「家族」で生活をしているという実感が、たったの一日で、そこに生まれていた。

本物の家族よりも血の通った、暖かい、家庭の空気が。



――橙色の蛍光灯の光の下で、僕たちは話し、笑う。

   僕が欲しかったもの。

   それは、ここに、確かに存在した。

   僕は、それを噛みしめた。







61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:30:18.84 ID:iTytgAC80
【 四 】

僕と、僕の兄の婚約者との、奇妙な共同生活。
……正確に言えば、両親も同じ敷地内に住んではいるけれど。

それは、悪いものではなかった。

僕は、当初の考えを改めざるを得なかった。

こんな言い方をするのは、失礼かもしれない。
けれど、彼女は、僕の義姉になる女性は……僕が想像するより、遙かに賢かった。
そして、優しかった。

寝坊をしたり、食事の好き嫌いがあったりすると怒られるけれど。

夕食の支度の手伝いも、最初の内はよくした。
僕は、口しか出さないけれど。

私の分担だから、君はやらなくていい。
シューさんが、そう僕に言ったからだ。

lw´‐ _‐ノv「少年。オーバルはないかな?」

(´・ω・`) 「ああ、えーと。右の、上の棚の奥です。
      上に小皿を重ねてあるから、気を付けて下さい」

かちゃかちゃと音を立てて木製の食器棚を探るシューさんに、僕は助け船を出す。



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:32:43.75 ID:iTytgAC80
lw´‐ _‐ノv「んむ……くのっ……おお、あったあった。感謝感謝。
       それじゃあ、スープ用の深皿は?」

(´・ω・`) 「うーん……残念ながら、みそ汁のお椀を使うしかないですね」

lw´‐ _‐ノv「少年。君は、ポタージュを汁椀で飲めと言うのか?」

(´・ω・`) 「ええ、まあ。でも、花瓶で飲むよりはましでしょう?」

lw´‐ _‐ノv「……私は、ツルじゃない」

最初の内こそ、勝手が掴めないようで、僕によく掃除用具や食器の場所、両親の食事の
好みなどを聞かれたりしたけれど、慣れるのも早かった。

三日もすれば、僕が彼女に助言することは何もなくなっていた。

奇妙に生活感の感じられない、垢抜けている、とも、謎めいた、とも感じられる外見に反して、
家事は得意なようだった。

いい義姉だった。
いろいろ話を聞かせてくれたし、構ってくれた。



――そう。

   シューさんは、兄の妻として、ではなく、実の姉のように、僕に接してくれている。

   僕に姉がいたことはないが、兄弟というのは、こんな感じなのだろう。



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:38:47.55 ID:iTytgAC80
新鮮な生活。

その何日間かは、瞬く間に過ぎた。



――そして、ある日の昼。



ぱん、と音を立てて、いきなりふすまが開いた。

lw´‐ _‐ノv「少年。ひとつ聞きたいことがある」

その向こうで、なぜか仁王立ちになって、シューさんは僕を呼んだ。
突然の来訪者に、僕は床から飛び上がりそうになる。

(;´・ω・)「な、なんですかいきなり。
      ノックぐらいしてくださいよ!」

携帯電話を閉じて言い返す。

lw´‐ _‐ノv「ふすまをノックするの?
       第一、君の部屋は一日中開きっぱなしじゃないか。
       それじゃあ、いかがわしいことなんてできまい。どうだ」

僕の抗議に、シューさんは開け放たれた縁側の戸を指して、誇らしげに反論した。
「いかがわしいこと」というのが気になるが、あえて聞かなかったことにする。



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:41:17.80 ID:iTytgAC80
(´・ω・`)「……どうだ、じゃないですよ。僕にも、プライバシーがあるんです。
      で、何ですか」

lw´‐ _‐ノv「ああ、たいしたことではないのだけど。
       この家に、ゲーム機はないのかな? いくら探しても見つからないんだ」

……探したのか。

残念ながら、そんなものはない。
そもそも、この家には娯楽自体がない。

兄は無趣味だ。
この家で娯楽に使えそうなものはといえば、古いラジオとブラウン管テレビだけ。

(´・ω・`)「残念ですけど、何もありません」

lw´ _ ノv「……そうか」

シューさんは、がっくりと肩を落とす。よほど暇だったのだろう。

ふと、顔を上げて周囲を見回す。
部屋の隅、畳の上に積まれたマンガ雑誌に視線をやると、目を輝かせた。

lw´‐ _‐ノv「それ、もう読まない?」

問われて、積まれた雑誌の背表紙に目を走らせる。

僕がここに来る途中に買ったものと、兄が時折買ってくるもの。
古いものは数ヶ月前のものまである。その上、号数が飛び飛びだ。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:43:46.23 ID:iTytgAC80
(´・ω・`)「どうぞ。古いし、途中が抜けてますけど」

lw´‐ _‐ノv「いいよ。どうせ途中からだしね。
       じゃあ、お邪魔する」

持って行くのかと思ったが、シューさんはそのまま僕の部屋に踏み込んだ。
雑誌の山の隣を手で払うと、そこにどっかと座り込む。

(;´・ω・)「あ……」

壁に背を預けた体育座りの姿勢で、一番上の雑誌を手に取って開いた。
彼女の顔は開いた雑誌の表紙と裏表紙に遮られ、隠れる。

(;´・ω・)「あの。ここで、読むんですか?」

      「何か問題でも?」

雑誌の壁の向こうから声が飛んでくる。

(;´・ω・)「……いえ。もう、いいです」

彼女は、早くも読書に没頭しているようだった。

僕ももう、それ以上声を掛けることはしない。
携帯電話を開いて、こぢんまりとしたネットサーフィンの続きを始めた。



69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:43:59.31 ID:HsVgP531O
一番好きなタイプの女の人だなあ
支援



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:45:37.04 ID:iTytgAC80
この部屋には、冷房も、扇風機もない。
けれど、大きく開いた縁側から吹き込む風は、今日は心地よい。

空気が乾燥しているせいで、肌が汗ばむこともなく快適だ。

シューさんは雑誌を端から端までめくり、読み終わると積まれているのとは反対側に積む。
積まれた次の一冊を取り上げ、それを読み終わるとまた反対側へ。



――それを何度も繰り返し、ついに残っているのは最後の一冊になった。



lw´‐ _‐ノv「ありゃ。早いな」

心底残念そうに言い、宝物を扱うようにその最後の一冊を手に取る。
これまでよりもゆっくりのスピードで、雑誌をめくる。

(´・ω・`)「……」

僕は、それとなくシューさんの様子を見ている。
僕の視線は、彼女には見えない。逆も、同じだ。

シューさんは、相変わらず雑誌に熱中している。
よく見てみると、足の指が一定のリズムで上下している。




71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:47:39.87 ID:iTytgAC80
僕は、その足を見る。

つま先から、七分丈のパンツの裾から覗く臑を。

深く曲げられた膝を。その頂点からふくらんだ軌道を描いて、腰に向かって伸びる、
柔らかそうな太腿を。畳に押しつけられた、その両脚のふもとの――



      「少年。君は、どう思う?」



(;´・ω・)「っ!」

気付かれた、と一瞬思った。
だが、違った。

シューさんの声は何でもないような調子だった。
僕は内心胸をなで下ろしながら、続きを促す。

だが、その内容は、何でもなくはなかった。

lw´‐ _‐ノv「女は、結婚したら家庭に入って当たり前。
       ……少年は、そう思うかい?」




72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:50:25.54 ID:iTytgAC80
彼女が初めてこの家を訪れた、その夜の会話。
それを思い出す。



(`・ω・´) 『いや。結婚したら……彼女には家庭に入ってもらうつもりだ。
       そのために、この家に慣れておいてもらわないといけないからな』



兄の言葉だ。

僕は、沈黙する。

蝉の、声。
ずっと遠くで、トラクターか何かのエンジン音がする。

(´・ω・`)「……」

なんと答えれば、いいのだろう。

僕が迷っているのを察したのか、それとも最初から答えを求めていないのか。
彼女は、回答を待たずに続けた。

lw´ _ ノv「私にはね、やりたいことが……やらなきゃいけないことがある。
       そのために必死で勉強して、医者を志した」

シューさんの手は、もう雑誌のページを繰っていない。



75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:52:32.82 ID:iTytgAC80
lw´ _ ノv「その『やりたいこと』は、まだ達成できていない。
       ……私は、どうすればいいんだろうね」

とつとつと、語る。

その声は、全く普段通りのもので。
それだけに、彼女の悩みが伝わってくる気がする。

lw´ _ ノv「子供ができたなら、また違うだろうけど。
       大きなお腹を抱えてできる仕事ではないしね」

他人事のように。
シューさんは、思いを素直に口に出す。

lw´ _ ノv「でも……なんだろうな。きっと、私は、まだ迷っているんだと思うよ。
       そんなこと、愛するひとと一緒になれるなら気にするな。
       そう思う一方で、割り切れないものも感じてる」

(´・ω・`)「……シューさん……」

lw´ _ ノv「ここまで来て、目標を果たさずにドロップアウトしていいのか。
       私は、そんな私自身を許せるのか。ああ、懊悩呻吟の極み」

彼女は、知っていた。
兄の言葉にある理不尽さなど、とうに知っていた。

でも、迷っている。
家庭に入る、という選択肢を捨てないのは……兄を、愛しているから。



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:54:39.34 ID:iTytgAC80



――やはり、納得が行っていないんだ。

   これまで続けてきた仕事を、結婚、という理由で奪われるのが。



w´ _ ノv「はは。こんなこと、少年に話しても詮無きことかな。
       暇すぎると、ロクでもないことばかり考えてしまって困る。
       小人閑居して不善を為す、かな。いや、やっぱり違うか」

開いていた雑誌を、音を立てて閉じる。
積み上がった、読み終わりの雑誌の山の上に、ぽん、と置き、立ち上がった。

lw´‐ _‐ノv「すまないね。今の話は、あまり気にしないで。
       それじゃ」

ひょうひょうとした様子でそう言って。
片手を、ひょい、と上げると、シューさんは部屋を出て行った。

背中を向けていたので、その表情は見えなかった。

(´・ω・`)「……」

後には、きれいに上下がひっくり返った雑誌の束。
そして、僕だけが残される。



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:56:43.59 ID:iTytgAC80



――今も離れにいるであろう、僕の両親。

   そして、その思想を受け継いだ兄。

   その、犠牲者。

   僕は存在そのものを、彼女は目標を。足腰も立たない老人に、奪われる。



この家の、異物。
一言で言えば、それだ。僕も、彼女も。

彼女の立場は、僕に似ているように思えた。

だから、彼女も僕に話す気になったのだろうか……?

(´・ω・`)「……シューさん」

分からないまま、僕は彼女の名前を呟く。

普段と全く変わらない調子で、気にしないで、と言った彼女。
それでも、彼女は間違いなく、憂えていた。



78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/29(火) 23:58:44.42 ID:iTytgAC80
兄は、彼女の悩みを知っているのだろうか。
診療所にいる兄を、僕は恨む。

そしてその恨みの分だけ、シューさんに共感する。

……目に見えないヒビが、少しずつ大きくなるように感じている。

それは、ずっと目を背けてきた、僕を生み育ててきた人たちとの、不和。

そして、シューさんに対する、形容しがたい感情。
同情であり、共感であり、憐れみめいたものでもあり、そしてそれらのどれとも違う。



――僕は、その両方を持て余し始めていて……。







80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:00:50.42 ID:TvQAGKmw0

【 五 】

その後は、シューさんには特に変わりはなかった。
朝起きて兄を見送り、両親に食事を用意し、運ぶ。

掃除と洗濯が済むと、何かと僕に構いに来てくれて。
そして他愛もない話をして、夕方になると食事の支度に向かう。

その合間に、何かと理由を付けて、僕の所に遊びに来た。

僕は、それを、心から歓迎した。

lw´‐ _‐ノv「なんだ。こんな暇つぶしを持ってるなら、早く教えてくれればいいのに。
       少年も意地が悪いな、まったく」

ヘッドフォンを片耳に当てて、シューさん。
僕の部屋の縁側。もうすっかり、二人でいるのが常になった昼の時間だ。

(´・ω・`)「いえ、隠してるつもりはなかったですけど。
      だいいち……僕、それ、いつも着けてますよね?」

lw´‐ _‐ノv「まあまあ、細かいことは気にしない。
       下問を恥じず、だよ。少年」

(´・ω・`)「……それも、違う気がします」

僕の言葉を、もうシューさんは聞いていない。
その手には、僕のポータブルプレイヤーをしっかりと握っている。



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:04:25.81 ID:TvQAGKmw0
lw´‐ _‐ノv「……む。この曲もいいな。
       少年、これは何の曲?」

くるくると指を動かして操作し、液晶に表示された曲名を僕に見せる。
昨年の紅白歌合戦にも出場した女性歌手が歌う、ゲームのテーマ曲だ。

ホルストの組曲に歌詞を付けた歌も好きだけれど、僕はなぜか、この遊んだ
こともないゲームの曲が一番好きで、他の曲と交互に優に数百回は聞いている。

それを言うと、シューさんは感心したような表情で頷いた。

lw´‐ _‐ノv「ふむ。これは、いいものだ。
       私の頃は、テトリス世代だったからなあ。あれはあれで好きだけど……」

暖かい光に身体をさらして、シューさんは縁板にあぐらをかいたまま目をつむる。
僅かに身体を揺らして、片耳に当てたヘッドフォンから流れるその歌声に、身を
委ねた。

吹き込む風に、閉じた両眼の睫毛が揺れる。
前髪がそよぎ、つやのあるその髪の流れに沿って、輝く線が煌めく。

ヘッドフォンの金属のパーツの、強い照り返し。
それが、髪飾りのように彼女の頭で映える。



――光にぼやけた輪郭を浮かび上がらせて、シューさんは美しかった。



83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:05:17.67 ID:/3Meg9K00
素晴らしい
情景が目に浮かぶようだ



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:06:34.90 ID:TvQAGKmw0
(´・ω・`)「……」

僕は、その隣で。
音楽に聴き惚れるシューさんの横顔をそっと眺め……息を吐いた。

やがて、曲が終わったのか、シューさんはゆっくりと目を開く。
僕を見て、微笑んだ。

lw´‐ _‐ノv「ただひとつ、願いがかなうのなら……か。
       いくつも願いがあるのは、幸せな悩みなんだなあ。ねえ、少年?」

(´・ω・`)「……ええ」

幼い頃の僕には、たったひとつしか願いはなかった。

それは、もう……。



――僕の思いとシューさんの思いは、違う。

   けれど、願い、という言葉の差すものに思いを馳せて、ただ二人で中庭を見た。






85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:09:23.62 ID:TvQAGKmw0
シューさんは、相変わらずだ。
悩んでいる素振りを見せることは、あの日から一度もない。

一方の僕はといえば。
あの日から、なにかもやもやとした、言葉に表しがたい感覚が、続いている。

シューさんは、相変わらずひょうひょうとしていて、掴み所がなくて、そして。
そして……綺麗だった。

この数日で、ますます綺麗になったように感じた。



――それは、僕の気のせいだろうか?

   気のせいだとすれば、僕の何が変わったのだろうか?

   このときの僕にはまだ、自分の心が分からなかった。







86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:12:11.85 ID:TvQAGKmw0
昼下がり。
太陽は、真南からわずかに西に。

(´・ω・`)「……」

僕は客間の縁側に座って、中庭に立つシューさんを見ていた。

lw´‐ _‐ノv「ふん、ふん、ふーん♪」

彼女は、ところどころ調子はずれな鼻歌を歌いながら、ホースを手に水まきをしている。
その様子を、僕はいつものようにヘッドホンを首に掛けたまま見ていた。

僕は……何の気なしに、彼女の身体を見つめている自分に気付いていた。

(´・ω・`)「……」

空には、今日は雲がある。
大きく、巨人のように高く盛り上がった入道雲が、真っ青な空に映える。

その空の下に立つ、僕の兄の婚約者。
長いホースを持って、乾いた中庭の土や植木に水をやっている。

くるり、くるり、と動く、その身体。

腰から足にぴったりとフィットした、綿の七分丈の、濃紺のパンツ。
その裾から伸びる素足のふくらはぎ。

シューさんが、僕に背を向ける。
その間に、僕は彼女の、後ろ向きの下半身をじっと見つめる。



87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:14:29.09 ID:TvQAGKmw0
豊かな曲線を成す、腰から尻、そして太ももから膝、足首への曲線。

安産型、というには少しスリムだけれど、それでも肉付きのいい下半身。
ぴったりとしたパンツにその形がくっきりと浮き上がって、動く度に小さな皺が寄る。

はっきりと浮かび上がる太ももの形。
柔らかく膨らんだ尻と、足を動かす度に影が動くその谷間までも、くっきりと。

僕は、つい、考えていた。



――あの服の下には、どんな下着を着ているのだろう。

   その下着の下は……彼女は……どんな裸を……しているのだろう。



――シューさんの……裸――



(*´・ω・)「……っ!」



89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:17:27.09 ID:TvQAGKmw0
閃光のように頭をよぎったイメージを、必死で黒く塗りつぶそうとする。

けれども、それはそう簡単に消えることはない。

僕は……たったの一瞬だったけれど、確かに。
彼女の、シューさんの裸を……想像した。



      「少年、どうした?
       顔が赤い。風邪でも引いたかい?」



(*´・ω・)「あ……っ?」

気がつくと、シューさんは太陽を背負って、僕の目の前に立っていた。
手に下げたホースからは水が流れ続けて、地面に小さな水たまりを作っていた。

lw´‐ _‐ノv「大丈夫かい? 気になるようなら、看るけど……」

彼女が、僕の額に手を伸ばす。
僕は慌てて身体を引き、その手から逃れた。

触れられたら、また想像してしまう。

それが怖い。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:20:22.91 ID:TvQAGKmw0
(*´・ω・)「あ、いや、え、大丈夫ですっ。
       ちょ――ちょっと、日陰で涼んできますからっ!」

ばたばたと立ち上がり、駆け出す。

lw´‐ _‐ノv「あ。おい、少年」



――怪訝そうな顔をしたシューさんの顔を見ることもなく、僕は廊下に逃げた。






91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:22:28.72 ID:TvQAGKmw0
(´・ω・`)「……」

廊下の壁にもたれ、僕は大きく深呼吸する。

ひどい自己嫌悪を覚えている。

兄を愛し、兄と結婚する予定のシューさん。
その彼女を、僕の想像で汚してしまったことが惨めで。

そして、それでも、ふとした弾みに、自分の欲望に負けた自分が悔しくて。

僕は、涙目になっていた。

(´;ω;`)「……っ」

なぜ、僕は。
なぜ、こんなことを考えてしまうのだろう。

男というのは、なぜこんなに醜いのだろう。
後悔する。

けれど。

後悔するのと同時に、また思い出す。

彼女の……裸を。

彼女の衣服の下の、白い肌。
その夢想には、逆らいがたい魅力があった。




92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:25:16.00 ID:TvQAGKmw0



――僕は、ようやく気付き始める。

   シューさんが綺麗に見えるようになった理由に。

   彼女を見ていると感じるようになった、もやもやとした感覚の正体に。



――僕は……そうだ。

   僕は、シューさんに、はっきりと、好意を抱いてしまっている。

   単なる好意ではない、それ以上の感情も……。

   家族に。兄の婚約者であり、僕の姉であり、僕の母親のような女性に。

   もう……自分にも、隠すことは、できない。







93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:27:22.29 ID:TvQAGKmw0
……あと五分で、夜の十一時になる。

日が沈みきってから返ってきた兄は、言葉少なに夕食を済ませ、寝てしまった。
シューさんも、風呂から上がってからまっすぐ寝床に向かったはずだ。

僕の様子には、今日は気付かれなかった。

(´・ω・`)「……」

両親は、日が沈む頃には、もう寝ている。
いまこの家の中で、起きて活動しているのは、僕一人だ。

(´・ω・`)「よっ、と」

意味もなく、声を上げて身体を起こす。
部屋の隅に投げ出したままのバッグを漁り、煙草のパックとオイルライターを取り出す。

開いた縁側に座り、ライターの火打ち石を擦った。
火打ち石の擦過音。火花が芯に飛び、その表面から揮発するオイルに引火する。
一連の動作の起こす音が繋がり、しゅぼ、と鳴る。

その火をくわえた煙草に移し、胸一杯に吸い込んだ。

燻された煙草の葉の煙が舌と喉の粘膜を乾かし、ひり付かせながら肺に送られる。
ニコチンとタールが、急速に、肺の組織を通じて全身の血流に乗る。

視野が少しだけ狭まるような、心地よい酩酊感が、そのあとに続いた。



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:27:47.69 ID:EBNkjz7IO
こっちまできゅんってなる



95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:28:38.75 ID:e9YztYt1O
何よりテンポがいいのが素晴らしい
支援



97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:29:16.15 ID:GmStrCV9O
何とも言えない切ない感じがたまらない



98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:33:59.20 ID:TvQAGKmw0
僕は、未成年だ。

未成年だけれども、納税の義務を果たすことには少しだけ、意欲的だ。
そう。ほんの、2年ばかり。

(´・ω・`)「……僕は……」

僕は、どうかしている。
いや、大丈夫。きっと、気の迷いだ。

ちょっと……そう、ちょっとだけ、気が緩んでしまっただけ。
もう大丈夫。

なのに。

(´-ω-)「……」

そう思ったそばから、また、想像している。
シューさんの……身体を。



――今は、夜だ。

   シューさんも、いない。兄も、いない。

   僕は……この世界に、独り。誰も、邪魔はしない……。






99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:36:40.74 ID:TvQAGKmw0
煙草をゆっくりと根本まで吸って消し、僕は立ち上がった。
中庭に面した引き戸を引き、閉じる。

この戸を閉じるのは、帰ってきてから初めてだった。

ここは、もう、僕だけの空間だ。
部屋の中央に敷かれた蒲団に、ひざまづく。

(´-ω-)「……シューさん……」

唇も動かさず、口の中だけで、義姉になる人の名前を呼ぶ。
たったそれだけで、僕の目の前には、昼間の光景がありありと蘇った。

あの……不思議な色の瞳。明るい色のシャツは、空に溶け込むようだった。



――僕は、想像の中で。

   シューさんの衣服を、一枚ずつ、脱がせていく。

   やがて、彼女は一糸まとわぬ姿になって、僕の目の前に立っている。

   緩急の付いた身体の曲線、成熟した大人の女性の美しい身体を晒して。

   その眼には、恐怖も怯えも、嫌悪も、何もない。ただ、あの不思議な瞳で、僕を見ている。

   僕に都合のいい、想像だから。だから、彼女は何も言わない。





100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:40:05.61 ID:TvQAGKmw0
……僕には、女性経験はない。

童貞だ。

けれど、いまは、女性の身体など、どこにでも溢れている。

本物の女性の身体に触れたこともない僕は、それでも何十人、何百人の知らない女性の
乳房や、乳首や、太股や、尻や、女性器を見ている。男性がそれらをどのように愛撫して、
どのようにして性欲を満たすのか、偏った知識ではあるけれど、山のように知っている。

全ては、想像の中で。

僕の手が伸び、そこにいるシューさんの乳房を掴む。
服を着ていても分かる。彼女の乳房は、平均的な女性よりもずっと大きい。

シャツをきゅうくつに押し上げる、両胸のふくらみ。
ゆるめた襟から除く、その麓のふわりとした、柔らかい曲線を思い出す。

僕の手は、シューさんの乳房を荒々しく揉みしだく。
力の加減なんて、当然考える必要はない。

彼女の胸は、柔らかいに違いない。
僕がこの手に少し力を入れるだけで、指がめり込むほどに形を変える。

上下に、左右に、僕はその両胸に手を掛けて、揉む。
その先端の乳首に指を伸ばし、先端を擦るように、引っ掻くように刺激する。
そして二本の指で膨らみ始めた乳首を挟み、転がして、敏感を部分を弄る。

彼女の吐息が聞こえる。
その表情は、分からない。



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:42:31.77 ID:TvQAGKmw0
僕は、人間の顔を想像するのが苦手だ。
表情に乏しいシューさんの顔は、余計に。

彼女の顔は、苦痛に歪むだろうか。羞恥に眉を寄せるだろうか。
そんな嗜虐的な空想を楽しみながら、僕はシューさんの腰に手を伸ばす。

腰のくびれを撫でる。
撫でたその手を身体の後ろに回し、尻の肉を掴む。

(*´-ω-) 「は、ぁ――」

あの昼の中庭で、綿のパンツに包まれていた、彼女の下半身。
身体にぴったりとしたシルエットのお陰で、裸の下半身が容易に想像できた。

手に余る肉の塊を、思う存分掴み、触る。
その時、彼女は何と言うだろう。どんな声を、漏らすだろう。

彼女の身体を十分楽しんだ僕は、とうとう彼女のそこに。

身体の中心に、身体の外に捲れ上がり露出した、グロテスクで美しい臓器、粘膜に。
女性器に……触れる。

そこはもう、潤っている。
ねとねととした半透明の粘液が膣口から溢れだして、複雑な形の小陰唇に絡んでいる。

女性の生理など知らないし、本当にそうなるのかどうかも良くは分からない。
ただ、僕がそうであるように願っているから。僕が、そう空想するから。

僕は、シューさんの身体を、そこを、ほしいままになぶる。



103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:44:38.17 ID:TvQAGKmw0
彼女が反抗することは、許さない。
その身体が汗ばんで震えるまで、僕自身が満足するまで、好きなだけ弄ぶ。

空想の中で……僕は神だった。

指を、舌を何度も出し入れさせる。
両脚を押さえつけて、その女性器の上で充血して尖った部分に舌を這わせる。

臭いや味は、分からない。

裸のシューさんは……両脚をはしたなく、大きく広げて、僕の唾液と彼女自身の愛液で
濡れた女性器を晒して眉根を寄せ、ため息のような喘ぎ声を漏らす。

白くて柔らかい太腿は汗ばんでいて、シューさんが足の指を握りしめると、ふるふると
震える。

とうとう、僕は、シューさんを床に突き飛ばす。

シューさんは、粘る体液にまみれた、充血した女性器を僕に向けて、四つんばいから
尻をこちらに向けて高く上げた扇情的な姿勢で、倒れる、

大きく肩で息をするたび、背骨に沿った尻から背中の中央に走るくぼみに沿って汗が
流れる。両脚を少し開いたシューさんの股間は、女性器も、その周囲の陰毛も、そして
呼吸の度にゆるやかに動く肛門の窄まりまで、全て僕の目の前にさらけ出している。

膣の入り口に近い部分の陰毛には愛液が垂れていて、てらてらと光っている。

(*´-ω-) 「……ッ……!」



104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:46:30.13 ID:TvQAGKmw0
目を閉じたまま、履いていたスウェットを下ろす。
トランクスを、下ろす。

その想像の彼女の腰を押さえて……僕は……後ろから挿入する。
彼女が息を呑むのが、聞こえる気がした。

空想でも現実でも同じように、熱く、固く勃起した僕の男性器。
空想の中で、それをシューさんの女性器に突き込むのに合わせて、右手で握る。

前後に動く。
前後に、動かす。

僕自身の腰が、彼女の尻に、音を立てて何度もぶつかる。
潤い、ぬめった女性器に出入りするタイミングに合わせて、自分の右手を動かす。

掌全体で、さらさらとした透明な粘液をこぼす自分の性器を擦る。
太い血管が脈打っているそこは、いっそう硬くなる。

(*´-ω-) 「ううっ、あ……っ!」

もう、シューさんは泣いたり、嫌がったり、しない。
ただ僕に女性器を突かれる快感に身もだえしながら、四つんばいのまま首をのけ反らせる。

長く、細く、真っ直ぐな黒髪が、身体の動きに合わせてゆらり、ゆらりと揺れる。
ボリュームのある尻の肉が、僕の腰骨に打たれて、同じように、揺れる。

動きを早める。
脈打つ僕の男性器は膨らみ、先端から精液を吐き出そうと震える。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:49:25.63 ID:TvQAGKmw0
(#´-ω-) 「ッ、!!」

もっと、早く。
彼女の膣内が収縮する感触を想像しながら、自分自身を握りしめる手に力を加える。

断続的な喘ぎ声は、速まり、高まる。
それは、彼女の。そして、僕の。

どくん、と。
僕の握った右手の中で、勃起した男性器が大きく跳ねた。



――ついに僕は……射精する。

   彼女の膣内の奥深くに男性器を埋めたまま。

   そして、僕の精液が彼女の子宮を侵略する空想を、楽しむ。

   兄という婚約者がいながら、その肉親に犯された彼女は、きっと泣き叫ぶだろう。

   そして僕は、その泣き声を聞いて、笑う……。







106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 00:51:29.47 ID:TvQAGKmw0
(*´-ω-) 「はっ、はぁ……っ……!!」

現実は……違う。
僕が射精したのは、自分自身の掌だ。

脈打ち、自分の手に、何回も何回も白くねばつく粘液を吐き出す、僕の男性器。
それは、醜い。まるで今の僕自身の心根のように、いびつで、汚い。

胸がつかえるような、青臭い、嫌な匂いがする。

(´-ω-`) 「…………」

射精が終わると、堪らない空虚感が押し寄せる。
それと、疲労。そして……罪悪感。

僕は、シューさんを、犯した。
例え想像の中であっても、彼女の服を脱がせ、押し倒し、ひどいことを……。

男性器と右手を乱暴に拭う。
惨めさを抱えたまま、トランクスとスウェットを引っ張り上げる。

部屋の中には、嫌な匂いが篭もっている。
僕はふらふらと立ち上がり、縁側の戸を開け放つ。

深夜の空は、黒い。
僕の心根のように、黒くて、重い。




107 :◆BXpnga8YvJwe:2009/09/30(水) 00:57:25.76 ID:TvQAGKmw0
曇り空。

星も月も見えない夜は、何もない空間。
ただ、僕を責めるようにのし掛かる。

僕は、なんてことを。

僕は……。



――僕は、空想を楽しんでいた。

   兄の婚約者を犯す空想を、確かに楽しんでいた。



自己嫌悪に、涙が出た。

(´;ω;`) 「……っ、ごめん、シューさん……」

僕は、醜い人間だ。
僕は、最悪の人間だ。

声を詰まらせて、シューさんに。義姉さんに、兄に、詫びる。

(´;ω;`) 「ごめん、兄さん……。
       ごめんなさい……義姉さん……っ……」



108 :投下終わってないのに酉出てるよ笑った:2009/09/30(水) 01:00:14.85 ID:TvQAGKmw0
部屋の真ん中で、蒲団に顔を埋めて、握り拳を押しつけて。
僕は泣きながら、何度も二人に詫びた。

僕は、どうすればいいのだろう。
僕は、どうすれば。

空っぽになりそうな頭で、必死に考えていた。

(´;ω;`) 「……僕。
       僕は……明日から……」

明日から、まともにシューさんに接することができるだろうか。

分からない。
全然、自信がない。

でも。

シューさんは、兄の婚約者。
僕のものではない。

分かってる。
そんなこと、とっくに分かってる。



109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 01:02:55.20 ID:TvQAGKmw0



――それでも……欲しい。

   僕は、彼女が、欲しい。

   シューさんが、シューさんのことが、全て、欲しい。



――僕は……。











                                        【後編に続く】



110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 01:04:31.93 ID:+T3Lzx0TO
後編はいつから?



111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 01:04:52.58 ID:e9YztYt1O
面白かった乙。



113 :◆BXpnga8YvJwe:2009/09/30(水) 01:08:29.37 ID:TvQAGKmw0
……えーと

とちゅう、見苦しい場面があったことをお詫びします
現行は……いちおう、進んでます ごめんなさい
さいきん投下の度に謝っててごめんなさい

でも、このお話は、少なくとも前編は必ず9月中に投下したかった 内容的に

ええ、前後編です
後編は次の土日までに投下します
よかったら、さいごまでどうぞ

じゃまた



114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 01:26:23.71 ID:EBNkjz7IO
よかったよ




115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/30(水) 01:34:28.43 ID:+beJRqTSO
乙!!
後編楽しみにしてるぞー



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■この記事へのコメント

  1. ■ [くるくる名無しさん]

    しょぼんのズリセンがやらしすぎる
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待ち続けている人がいる。
だから僕らは回し続ける。
~まだ見ぬ誰かの笑顔のために~

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