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◆(´-ω-`) 「また、アキアカネが飛ぶ季節のようですね。義姉さん」 中編

前の話/インデックスページ/次の話

1 :◆BXpnga8YvJwe:2009/10/04(日) 15:08:57.91 ID:Dfna5elM0
投下の前に、訂正です

当初、今回は後編の予定でしたが、都合により今回を
中編として投下し、後編は改めて投下することにします
なので、前・中・後編の三話構成ということになります

よろしくです

まとめサイトさん
 くるくる川 ゚ -゚)
 ttp://kurukurucool.blog85.fc2.com/

 ブーン文丸新聞
 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/

自作品置き場
 ttp://xcyv9xdvhq.sakura.ne.jp/



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:10:28.85 ID:Dfna5elM0
【 六 】

眩しい、朝。

陽の光が恨めしい。
ぬるい風が全身にまとわりついて、不快だ。

目覚めは、憂鬱だった。

頭が重い。

昨日までは楽園のように思えた、曙光の中に明るく浮かび上がる中庭の風景。
それが今日は、まるで灼熱地獄だ。

身体が焼かれてしまいそうで、辛い。
蒲団の上で、タオルケットを被り直し身体を丸める。

蝉の声は、耳を苛む。

(´-ω-`) 「はあ、っ」

このままずっと、夏休みが終わるまでこの部屋にいたい。
誰にも顔を見せずに、一人で寝ていたい。

でも、そんなことができるはずもない。



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:13:16.32 ID:Dfna5elM0



     「やあ、少年。
      あしたに道を聞かば夕べに死すとも可なり。朝だぞ」



タオルケットを頭から被ったままの僕に、変わらぬ声。
また突拍子もない故事成語だ。

(´-ω-`) 「眠いんです。朝ご飯は、後にさせてください」

lw´‐ _‐ノv「ダメ。私が面白くない。
      君も弟なら、義姉には従うものだよ?」

僕のタオルケットが剥がされる。
横向きに寝ていた僕の目の前には、爪をきれいに切り整えられた足がある。

仁王立ちで。
無表情に、目だけは微かに笑って。

僕の義姉になる人……シューさんが、横になった僕の前に立っていた。

(´・ω・`) 「……」



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:15:28.59 ID:Dfna5elM0
下から、見上げる。
シューさんの顔を、胸を……見る。

朝日の差す部屋の中で、僕の上に立つシューさんの胸の膨らみ。
淡い色のTシャツに、胸の下側、登りの斜面がくっきりと陰になっている。



――昨夜、僕はあのシューさんの胸を犯した。

   想像の中で、力任せに掴み、揉みしだいた。

   そして彼女を後ろから犯す妄想をしながら、自慰に耽った。



(;´・ω・) 「あ……っ」

昨夜の自慰の痕跡を、不意に思い出す。

僕の想像の中の、彼女の身体。射精の快感。
その後の、消えてしまいたくなるような罪悪感。

精液の匂い。

その匂いがまだ部屋の中に残っていて、シューさんにそれを悟られてしまうのではないか。
僕がしていたことに、気付かれてしまうのではないか。

そんなはずはないのに、僕はそう思い、慌てて身体を起こす。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:19:57.75 ID:Dfna5elM0
嫌だ。

知られたくない。
僕のこの醜い心の中を、知られたくない。

lw´‐ _‐ノv「ん?」

僕が自慰をしたこの部屋に立つ、シューさん。
その目に、自分の内臓を覗かれているような恐怖を感じる。

(;´・ω・`) 「き、着替えていきますから。出ててくださいっ」

lw´‐ _‐ノv「……ああ。ああ、うん。悪いね」

一拍おき、納得したように何度も頷いて。
シューさんは身を翻し、部屋を出て行った。

何に納得したのかは分からないけれど。
きっと、想像もしていないに違いない。

僕が……彼女自身の身体を。

いかがわしい、海外のサイトから拾い集めた画像や動画を思い出して。
彼女の乳房を、乳首を、腰を、尻を、女性器を、想像しながら。



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:23:35.45 ID:Dfna5elM0



――シューさん。

   僕は、夕べ、あなたを、おかずにして、自慰を、したんです。



朝だからなのか、昨夜のことを繰り返し思い出したからなのか。
寝間着代わりの、膝丈のハーフパンツの股間を、勃起した男性器が押し上げていた。

下腹から両脚の付け根にかけてが腫れぼったく、重い。

暗く、憂鬱で後ろめたく、それなのに忘れがたい感覚が、身体の中で脈打っている。

叫び出したい気分だった。





12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:26:44.29 ID:Dfna5elM0
頭を何度も振りながら食卓に向かう。
シューさんは、僕に背を向けて、煮出したばかりの麦茶をポットに注いでいた。

差し込む陽の中に、もうもうと白い湯気が立つ。

焦がした麦の、香ばしい匂い。
けれど、僕の食欲を増進させる役には立ちそうにない。

(´・ω・`)「おはよう、ございます」

シューさんは首を僕の方に向け、横目でこちらを見る。
静かに、口だけで微笑んだ。

lw´‐ _‐ノv「夜更かしでもしたのかい?
       今日はまた、ずいぶんと辛そうだけど」

辛いのは、夜更かしのせいじゃない。

けれど、それを口に出せるはずもない。

(´・ω・`)「……違います」

言葉少なに答え、僕は、いただきます、の言葉もそこそこに箸に手を伸ばす。
その僕を、食卓に戻ったシューさんはまじまじと見ていた。

しばらくは、無言。

でもそれは、初日のような、お互いをよく知らないことから来るものではない。
僕からシューさんへの、一方的な気まずさだ。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:29:23.68 ID:Dfna5elM0
だから彼女は、無表情ではあるけれども不思議そうに首をかしげ、僕を見ている。
それが気まずくて、僕はよりいっそう表情を硬くする。

朝食の味は、よく分からなかった。

食べ物でも何でもない、何かぐにゃぐにゃしたものを噛んでいるような気分。

lw´‐ _‐ノv「……?」

シューさんは、僕の顔をまじまじと見ている。
その視線が怖くて、僕は結局俯いたまま朝食を食べ終えた。

(´・ω・`) 「ごちそうさまでした。
      ……僕、外に出てきます。夜には帰りますから」

下を向いたまま立ち上がり、告げる。

今日はそれでいい。
でも、明日からどうすればいいのかは分からない。

それでも、僕は逃げたかった。
一人になりたかった。

誰もいないところに、行きたかった。



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:32:28.72 ID:Dfna5elM0
けれど。

lw´‐ _‐ノv「ダメ。昼ご飯までには、帰ってくるんだよ」

僕の心を知るはずもないシューさんは、のんきに言う。

(´・ω・`) 「でも……」

lw´‐ _‐ノv「でも、もデモクラシーもない。
       私は君の保護者でもあるんだから、言うことは聞く。
       オーケー?」

当然のように、シューさん。

僕はもう何も言う気になれなくて、ただ頷いて食卓を立った。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:35:18.51 ID:Dfna5elM0
部屋に戻る。

布団の上に置かれていたポータブルプレイヤーとヘッドフォンを拾い上げる。
バッグから煙草とライター、それに携帯灰皿を取り出して、まとめて机に放った。

Tシャツはそのままで、ハーフパンツを外出用のデニムパンツに履き替える。

他には、持つものは携帯電話と財布、それに汗を拭くための手拭いぐらいだ。

(´・ω・`)「……」

玄関に向かう。
引き戸を開くと、シューさんが風呂の残り湯を使って打ち水をしているところだった。

身をかがめ、足下のバケツからひしゃくで水をかき出し、周囲に撒く。
シューさんの手の動きに合わせて、きらきらと透明な水滴が舞う。

連なった珠のような水滴は地面に落ち、かすかな水煙を上げた。

その眩しい水滴は、けれど、僕の胸をよりいっそう暗くする。

lw´‐ _‐ノv「行ってらっしゃい。
       車には気をつけて」

(´・ω・`)「……はい」

僕はうつむいたまま。
自分でも違和感を覚えるぐらいに暗い声で答え、ゴム草履を突っかけて足早に家を出た。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:38:41.77 ID:Dfna5elM0
家の外の道は、広い。

続く古風な建て付けの民家と交互に、青々と茂った木が茂る。

遠くの曲がり角には、逃げ水が走り、塀と道路、そして木の幹の色彩を揺らめかせる。

静かで、明るく、そして暑い。
溶けてしまいそうな熱。

まるでこの世界に、僕一人になってしまったような。

(´・ω・`)「……暑い」

呟いて、手拭いを広げて頭に掛ける。
この日差しの中、日よけもなしに歩き回っていたら、あっという間に日射病になりそうだ。

プレイヤーの電源を入れてヘッドフォンを耳に掛ける。
蝉の声はたちまち遠くなり、聞き慣れた女性ボーカルの声が耳元から響く。

目的もなく、ただ、歩く。
目に付いた曲がり角を折れ、焼き付いたような周囲の影が落ちる民家の塀を見ながら、歩く。

目的はない。

行く当ては、ない。



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:42:39.25 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`)「……僕は。
      どうすれば、いいんだろう」

分かってる。

こうやって、どんなにシューさんから顔を背けて、逃げたところで。
どんなに彼女にぶっきらぼうに接したところで。

それで、何も解決するはずがないって。

シューさんに無愛想に接すれば接するほど、僕の胸は痛む。

彼女だって、良い気分がするはずはないだろう。
昨日までは愛想の良かった僕が、掌を返したように冷たく接するのだから。

彼女も、不愉快なだけ。
そして僕も、辛いだけ。

僕はただそうやって、自分を責めて、自分を罰した気分になっているだけ。
それだけだ。

……ぷつり。

ノイズ音の一瞬後、ヘッドフォンから聞こえていた音楽が止まる。
ポケットからプレイヤーを取り出すと、バッテリーが切れてしまっていた。

昨夜、電源を切り忘れていたのだろう。



21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:46:02.07 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`)「困ったな」

僕は口に出す。繰り返し、もう一度。

困ったな。

目を閉じて天を仰ぐと、まぶた越しの日光に、視界が黄色がかった白に染まる。
額から浮き出た汗が、つつ、と頬から首を伝って流れ落ちていく。

口を封じられたヘッドフォンは、僕の聴覚を外界から遮断する。

誰一人歩かない通りの角に、僕は独り、取り残された。

僕の迷いと同じ、出口のない、閉ざされたこの村。
色のない、白い光が降り注ぐ、無人の道。

おざなりな舗装を施された凹凸の激しいアスファルトに、まばらな影の破片が飛ぶ。

額を伝う汗を、頭の横に垂れ下がった手拭いで拭う。
身体の内側まで焼かれてしまいそうな、熱。

顎先から落ちた汗が、二滴。

一滴は、僕のシャツの襟口に。

もう一滴はアスファルトに落ちて、黒く、丸く、滲んだ。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:49:41.93 ID:Dfna5elM0
無言で家に帰った僕を見たシューさんは片眉を上げたけれど、特に責めはしない。

lw´‐ _‐ノv「お昼ご飯、できてるよ。食べようか」

(´・ω・`)「……はい」

僕は言葉少なに答えて部屋に戻る。

去り際にちらと見たシューさんの表情は、やはり少しいぶかしげだ。
けれど何も言う気にはなれず、僕は黙ってシューさんに背を向けた。



――その夜。



その夜、僕はまた自分の部屋で自慰をした。

想像の中で、昨日よりも激しく、もっと屈辱的な姿勢でシューさんを犯す。
屈辱に歪むシューさんの表情を想像し、その首を押さえつけて、顔に射精した。

そんな想像をしながら、ティッシュの中に射精した。

こんなことをしても、何も変わらないのに。

そう思いながらも、シューさんの顔と身体を思い浮かべるだけで、布団の中で
再び僕の男性器は勃起していた。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:53:08.04 ID:Dfna5elM0
(´-ω-`)「……仕方ないじゃ、ないか」

だって、他にどうすることもできないのだから。

何度思いを巡らせても、シューさんを僕のものにすることはできない。
それは、とっくに分かっている。

そして、シューさんは僕の兄を愛している。
僕にできることは、何もない。

堂々巡り。

だから、これだけだ。
僕ができるのは、彼女を想像の中で抱きながら自慰をするくらいのものだ。

自分の男性器が命じるままに射精する僕は、醜い。

死んでしまいたい、とすら思った。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 15:55:41.82 ID:Dfna5elM0



――夢の中に、彼女が現れる。

   何日も、何日も続けて。

   そこでは彼女は、いつも僕だけを見ていてくれる。

   どんなに甘えても許してくれる。

   僕のどんな言葉にでも、ただ微笑んで、頷いて、従ってくれる。

   僕が望むままに、どんなことでも。
   
   でも、僕は……。





26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:03:21.59 ID:Dfna5elM0

【 七 】

毎日が辛い。

シューさんは、兄の婚約者であり、義姉であり、そして母親代わりだ。
僕に構ってくれ、話しかけてくれ、家事や食事の支度をしてくれる。

そして、僕はそのシューさんに恋をしている。

叶わぬ恋。
僕は何日も、ふさぎ込んだまま過ごしている。

食事に呼ばれては、口も聞かずにうつむいて食べる。
部屋にシューさんが来れば視線も合わせず生返事を返す。

理由は、簡単だ。

怖いからだ。

これ以上シューさんを好きになってしまうのが、怖い。
だから僕は、こうしているしかない。



――僕は、何もできないまま。

   シューさんとの間に微妙な距離をとり続け、何日もが経った。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:08:05.45 ID:Dfna5elM0
(´-ω-`) 「……」

昼食のあと。
僕は縁側に足を置いて、仰向けに横になっている。

ヘッドフォンからは、女性ボーカルの優しい、柔らかい声。
それは僕の環境音楽になっている。

目をつぶってはいるけれど、寝てはいない。

ただ、中庭で掃除をしているシューさんを見たくなかったから。
だから、何とはなしに寝たふりをしているだけだった。

足音が聞こえる。
続いて、足に伝わる、みしり、という振動。

シューさんが、僕の足の隣に腰を下ろしたのだ。
ヘッドフォンを外さなくても、目を開いて身体を起こさなくても、分かる。

(´-ω-`) 「……」

僕は、何も言わない。
何も、言えない。

lw´‐ _‐ノv「……」

シューさんも、しばらくは言葉を発しない。
ただ、黙って座っている。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:13:20.98 ID:Dfna5elM0
やがて、シューさんが呟いた。

lw´‐ _‐ノv「……ねえ、少年。
       やっぱり、君、最近おかしいよ」

その声は、ヘッドフォンを着けた僕の耳にもはっきり聞こえた。

(´-ω-`) 「……」

僕は、答えない。

lw´‐ _‐ノv「少年。寝てなんかいないよね?
       教えてくれ。何かあったのかい?」

諦めて、身体を起こす。

気怠い。
真南の遙か天空で輝く太陽に、体力も思考力も全て、奪われたように。

(´・ω・`) 「何も、ないです」

ぽつり、と、それだけを口に出す。

lw´‐ _‐ノv「……少年。
       もしかして――」



――心臓が一度、大きく跳ね上がる。



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:16:07.43 ID:Dfna5elM0
けれど、後に続いたのは。

lw´‐ _‐ノv「――前にした話。あれを、気にしているのかな?」

僕が恐れていた言葉、僕が望んでいた言葉では、なかった。
当たり前だ。けれど、なぜか少し、寂しい。



――シューさんは、兄と同じ医者だ。

   そして、結婚した後も医者を続けることを望んでいる。

   でも、兄は彼女に、それを望んでいない。

   それを、彼女は悩んでいるようだった。



lw´‐ _‐ノv「だったら、済まないことをしたね。
       あの話は本当に、気にしなくていいんだ」

シューさんは、まだ僕を気に掛けてくれている。

こんな状態の赤の他人と一つ屋根の下で何日も顔を合わさせられて、それでもなお、
まだ僕が自分のせいで何かを気に病んでいるのではないかと、気にしてくれている。

それが、嬉しくて……そして、辛い。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:17:44.87 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`) 「……違います。
      シューさんのせいなんかじゃないです」

僕は、あなたを好きになってしまって。

(´・ω・`) 「ただ……ちょっと、気が重くて」

それを言うことは絶対にできなくて、辛くて、でも本当に大好きで。

(´・ω・`) 「良く分からないけど……それだけです。
      だから、シューさんこそ、気にしないでください」

自分でもどうしたらいいか分からなくて、息苦しくて、切なくて。
それで僕は、死んでしまいたいほど悩んでいて……。

……口に出せない、告白。

それがシューさんの耳に届くことは、ない。

lw´‐ _‐ノv「そうか」

シューさんも、呟く。
呟いて、顔を上げ、中庭を見る。



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:19:31.22 ID:Dfna5elM0
lw´‐ _‐ノv「何をそんなに気にしているのか知らないけど、早く良くなって欲しいな。
       この広い家に私一人みたいで、気が滅入るときもあるんだよ。だから」

僕を振り返る。
僕は、久しぶりにシューさんの顔を、真っ直ぐに見る。

少しだけ、寂しそうに。
無表情で、そして憂えた笑顔。

胸が切り裂かれるように、内臓がずたずたになりそうに、苦しい。

僕は再び、畳に横になる。
両腕で自分の顔を覆って、自分の顔に落ちた影の中で呟く。

(´-ω-`) 「……はい。
      ごめんなさい……」

苦しい。
けれど、無理してでも、普段通りにシューさんに接しないと。

ごめんなさい。
僕のせいで、僕なんかに、こんな。


――辛い。

   本当の気持ちを打ち明けられないのは、こんなにも、辛い。





34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:22:37.47 ID:Dfna5elM0
夕食の食卓で、兄は不思議そうに口を開いた。

(`・ω・´)「お前達、最近元気がなさそうだな。
      何か、あったのか?」

視線は、交互に僕たち二人を見ている。

僕の表情は、暗い。
シューさんも、どことなく悩んでいる風だ。

口数は自然と少なくなり、食卓の空気も、重い。

lw´‐ _‐ノv「いや、特に何も。
       強いて言えば、弟ぎみが夏バテ気味、かな。ねえ、少年?」

ことさらに明るい声で、シューさん。
夏バテ、だなんて嘘を吐いたのは、きっと僕を気遣ってくれているからだ。

(´・ω・`) 「……うん。大丈夫だから、あまり気にしないで」

僕もそれに合わせて、頷く。



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:27:25.63 ID:Dfna5elM0
兄はその答えに納得したようで、シューさんを見ながら言った。

(`・ω・´)「そうか。調子が悪くなったら、シューに言うんだぞ」

その場での会話は、それきりだった。

何事もなかったように頷く兄を見ていると、また胸が痛んだ。

僕は、兄を裏切っている。
シューさんを裏切っている。

全ての元凶は、僕だ。

(´・ω・`) 「……」

僕は、唇を噛んでいた。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:30:36.94 ID:Dfna5elM0
【 八 】

(´・ω・`) 「……ふぅ」

夜空に、かかる月。

母屋の縁側に腰掛け、ゴム草履を履いた脚を揺らす。
縁の下から足下まで伸びた草が、さやさや、とそよぐ。

ぬるい空気をかき回し、剥き出しの膝下に微かな涼風が起こる。
風呂上がりのほてった肌には、それが心地良い。

僕は黙って煙草の煙を深く吸い込み、灰を傍らの、蚊取り線香の缶に落とした。

     「――こら、少年。
      煙草は止めたほうが身のためだよ?」

(´・ω・`) 「煙草が身体に及ぼす害は、医学的に立証されてる訳じゃないですよね?」

背後からの声。

     「身体に悪いから止めろ、とは言っていないよ。
      私が嫌いだから止めろ。と、そういうこと」

きしり、と。
縁板を踏む音は、すぐ僕の脇で聞こえた。



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:32:44.54 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`) 「……こんばんは。シュー義姉さん」

僕はわざと、他人行儀な呼びかけをする。
それには答えず、その人は黙って僕の隣に腰を下ろした。

lw´‐ _‐ノv「つい二時間前、一緒に食卓を囲んだばかりじゃないか。
       それに私は、まだ君の義姉じゃないよ。赤の他人だ。少年」

シューさんは胸の前で人差し指を振り、静かにそう言った。

lw´‐ _‐ノv「ほら、没収だ」

(´・ω・`) 「あ……」

シューさんは、目にも留まらぬ速さで僕の手から煙草を取り上げる。
右手の細い指で摘んだそれをくわえて、少し顔を上げると、深く吸い込んだ。

(´・ω・`) 「……」

煙草の火種は、じじ……と音を立てて、根本に向かって進む。

ついさっき、風呂から上がったところなのだろう。
赤々と灯る火種に照らされたその横顔は、少しだけ上気して見えた。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:34:41.51 ID:Dfna5elM0
おとがいから鎖骨に向かう緩いカーヴが、月の光に白く照らし出されていた。
その曲線に沿って、視線を少し、下にずらす。

夜着代わりの白い薄手のブラウスのボタンは、上から三つまで外れていた。
その合わせ目の奥に、やはり白い肌が……豊かな胸の盛り上がりが、ちらと見え隠れした。

(*´・ω・) 「……!」

慌てて、視線を逸らす。

w´‐ _‐ノv「ふう――――、っ 。
       ……やはり、美味しいモノじゃない」

吸いさしを口から離し、唇をすぼめて煙を吐くと、つまらなそうに呟く。
僕の視線には気付かなかったようで、そのまま缶に煙草を押しつけて消した。

lw´‐ _‐ノv「甘くもないし、辛くもない。ただの煙だね。
       そこらの葉っぱでも燃やしたほうが、まだ身体にいい」

僕は苦笑する。

そのまま会話はなく、ふたりで、縁側に座って月を見る。

庭中の葉の陰で歌う、鈴虫の声。
蚊取り線香から立ち上りやがて消えていく、薄い煙。

lw´‐ _‐ノv「もうそろそろ、秋だね。
       夏来たりなば、秋遠からじ……季節は、駆け足だ。馬の早駆け」



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:36:54.77 ID:Dfna5elM0
シューさんはまた星空を仰ぎ、呟く。

僕は、微笑む。
微笑みながらも、また他人行儀な口調になるよう努めて、言う。

(´・ω・`) 「……いいんですか? シャキン兄さんの所に行かなくて」

lw´‐ _‐ノv「構わないよ。疲れてるだろうし、どうせもう寝てる。
       操を立ててくれてるのかな。嬉しい限りだよ」

僕は狼狽して、咳き込む。

(*´・ω・) 「い、いきなりヘンなこと、言わないでくださいよっ」

lw´‐ _‐ノv「ちっともヘンじゃないよ。日本古来の言葉だろうに。
       ま、婚前交渉反対派は、近年珍しいからね。感心なことだよ。
       ……私は、自信なくしそうだけどね。ある意味」

今度は、婚前交渉、と来た。

その言葉に、僕は思わず想像してしまった。

隣に座っている、シューさん。
彼女が、一つ屋根の下で、僕の兄と、シャキン兄さんと――

何度も、何度も繰り返した想像が、それに被さる。

何度も頭を振り、形を取りかけたその想像を振り払う。
黙って、彼女の視線を追った。



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:40:01.05 ID:Dfna5elM0
山の稜線、星、月。
風、草、木の葉擦れ……虫の声。

そして、僕の隣には、僕の兄の婚約者。

lw´‐ _‐ノv「どうした? 少年。
       そんなに煙草を取り上げられたのが悔しかったかい?」

(´・ω・`) 「……違いますよ。僕は……僕は、もう寝ます。
      シューさんも、部屋に戻ったらどうですか?」

言い捨てて、彼女の顔も見ないで立ち上がる。

腰の辺りに、僅かに滞った熱を感じる。
それを、悟られたくない。

lw´‐ _‐ノv「何だい。まだ十時半だよ?
       背伸びして煙草を吸うような少年が、寝る時間でもないだろうに」

(´・ω・`) 「……背伸びなんて、してません。
      とにかく、寝るんだから。シューさんも、ほら、戻ってください」

lw´‐ _‐ノv「えー。つまんなーいー」

子供のように口を尖らせて。
シューさんは、ぱたぱたと脚を振る。



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:42:16.44 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`) 「……棒読みでダダこねても、ダメです」

lw´‐ _‐ノv「分かったよ。ちぇっ」

軽く舌打ちをして、脚の動きを止める。
隣に立つ僕の顔を見上げて……黙って、そっと片手を差しだしてきた。

手ぐらい貸してくれてもいいだろう? のジェスチャーだ。



――気がついたときには。

   もう、戻れない――



――拒むべきだった。

   けれど。



ゆるり、伸ばしたその手に、そっと触れる。

初めてだった。
シューさんの身体に、触れるのは。



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:45:49.99 ID:Dfna5elM0
細い、柔らかい指が、僕の指に絡む。
柔らかい掌は、僕を信頼しきって弛緩している。

暖かい、柔らかい肉。
夢にまで見た、シューさんの、身体の一部……。

(;´・ω・)「……っ」

僕は。



――僕は……!



抑え込んでいた色々なものが、身体の奥から堰を切ったように流れ出す。

目の前が一瞬真っ暗になり、それから一気にぱあっと明るくなる。
時間の流れが、一瞬、遅くなったようにすら感じられた。

頭が認識するよりも、身体の動きが早かった。

lw´‐ _‐ノv「あ」

驚いたような、溜め息のようなシューさんの声が、耳に残った。



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:48:33.70 ID:Dfna5elM0
僕は……シューさんの手を掴み、引いていた。
腕に力を込めて、僕よりも一回り身長の高い彼女を、思い切り引き寄せていた。

自分でも何がどうなっているのか分からないうちに、そうしていた。



――シューさんは、僕の腕の中にいた。



僕に寄りかかるような姿勢で。
僕の彼女の手を掴んだのとは逆の腕で、抱かれていた。

すぐ目の前に。
きょとんとした、シューさんの表情。

背中に回した腕に、柔らかい、その身体の感触。

ふたつの豊かな胸の膨らみが、胸元に押しつけられて潰れている。
密着した肌から、シューさんの体温が伝わる。

シャツの開いた襟元から、形容することのできない、甘い香りが鼻に届く。

彼女の片手を掴んだ手。背中に回して、支えた手。
両方の手にぐっと力を入れて、抱きしめる。

(*´-ω-)「……っ……!」



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:51:13.27 ID:Dfna5elM0



――柔らかい、からだ。

   柔らかくて、あたたかくて、いい香りがする。

   遠い昔にどこかに忘れてしまったような、そして同時に全身を疼かせる、

   その感覚……。



そうしていたのは、たったの数秒間。

黙って、目を閉じて、シューさんの身体を、全身で味わった。

自分が、ついに、決してしてはいけないことをしてしまったことに、気付いていて。
それでも、自分から腕を放すことはできなかった。

僕は、陶然としていた。



lw´ _ ノv「……少年。離して」







46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:54:42.15 ID:Dfna5elM0



――シューさんの声に、唐突に我に返る。



(;´・ω・)「あ、っ」

慌てて両手の戒めを解き、彼女から離れる。

先ほどまでの感情は、たったの一言で一気に凍り付く。

全身が融けてしまうような喜びはもうなくなっている。
その代わりに、全身が底冷えするような、重い、目の前が暗くなるような後悔。

シューさんは、無表情で、身じろぎひとつせずに、そこに立っていた。
開けた中庭の闇を背景に、静かな、深い色の瞳で僕を見ていた。

(;´・ω・)「ぼ、僕は……僕」

上擦った声が漏れる。
思考は、空転していた。



47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 16:57:09.53 ID:Dfna5elM0



――ごめんなさい。

   こんなことをするつもりは、なかったんです。



――……嘘だ。

   僕は、望んでいた。心の底で、ずっと望んでいた。

   僕の妄想の産物ではない、生身のシューさんに触れる時を、待っていた。

   違う。

   僕は、僕は……   



lw´ _ ノv「……少年」



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:00:02.19 ID:Dfna5elM0
シューさんの声に、僕は身を竦ませる。

責められても、仕方がない。怒られても、仕方がない。
僕はそれだけのことを、決して許されないことを、してしまったのだから。

けれど、そうではなかった。

lw´ _ ノv「……ごめん。少年」

シューさんは、小さな声でそう言って、軽く頭を下げた。

(;´・ω・)「……?」

僕の目を見ないで、すこしだけ俯いて、シューさんは言う。

lw´ _ ノv「あまり、馴れ馴れしくしすぎたのかな。
       だから……君に、そんな気持ちを抱かせてしまったのかな」

もう、彼女は気付いている。
僕の態度がおかしかった理由に。

僕が……シューさんを、好きになってしまっているということに。

lw´ _ ノv「私も……不安で、だから、君との距離が近すぎたのかもしれない。
       年長者の私が、もっとしっかりしているべきだった。ごめん」



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:03:15.20 ID:Dfna5elM0
違う。
シューさんは、悪くなんかない。

悪いのは、僕だ。
勝手にシューさんに横恋慕してしまった、僕が悪いんだ。

けれど、その反論すら、僕の口から出てはくれない。

lw´ _ ノv「本当なら、私が出て行くのが筋なんだろうけど、それもできない。
       だから、もう、お互い、あまり近づかないようにしよう」

僕にとって、それは死刑宣告だった。

(;´-ω-)「……シューさん。
       僕は……」

いけないことだって、そんなことは分かっていた。
でも、僕は、シューさんのことが、本当に大好きで。

だから、僕は……。

でも、シューさんは笑って首を振る。
寂しげな、うすい微笑み。

lw´‐ _‐ノv「やめよう。話して解決する問題じゃ……ないだろうから」

シューさんの言うとおりだ。
何も、解決しない。何も。



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:07:04.75 ID:Dfna5elM0
しばらく、お互いに無言で、お互いの顔も見ずに。
ただ立ちつくしたまま、時間は流れる。

lw´‐ _‐ノv「……それじゃあ、お休み」

やがて、シューさんはそう言って、俯いた僕の横を通り抜ける。
僕は、そのシューさんに、もう一度手を伸ばそうとしている自分に、気付く。

僕の身体をすり抜けるように、彼女は歩いていく。

(;´・ω・)「シューさん、っ」

振り返り、呼ぶ。
何が言いたいのかも分からないまま。

シューさんは、振り向かずに首を振った。
長い髪が、背中で、たった一度だけ揺れた。

彼女は廊下に出て……後ろ手に、静かに襖を閉じた。

ぱたん、と、小さな音が鳴る。
その音は、僕の頭の中で反響して、やがて消えた。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:09:24.56 ID:Dfna5elM0
( ´;ω;)「……」

部屋の中に。
僕はいつまでも、一人きりで立っていた。

虫の声だけが、近くから遠くから、いつまでも聞こえていた。

どんなに後悔しても、起こってしまったことは。
僕がしてしまったことは、決して取り戻すことはできない。

僕は。

僕は、一体、何をしているのだろう。

叶うはずがない恋なのに。こうなるって、分かり切っているのに。

消えてしまいたい。

死んでしまいたい。







53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:17:27.54 ID:Dfna5elM0

【 九 】

いつもよりも早く、目が覚めた。

(´・ω・`)「……」

けれど何もする気なんて起こらず、僕は布団に仰向けになって天井を見る。
埃を被った、木製の蛍光灯の四角い傘が、ぴくりともせずに浮いている。

久々の、たった一人の目覚めだった。
賑やかすぎて忘れていたけど、これがいつもの、僕の朝。

歓迎すべき朝のはずだった。

シューさんが来て、彼女と打ち解けるまでは、そう望んでいたのだから。

(´-ω-`)「……はあっ」

ため息。

でも、楽しくなんてない。

晴れやかな気分にも、なれるはずなんてない。



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:20:20.85 ID:Dfna5elM0



――とん、とん、と。

   閉じた入り口の襖が、叩かれる。



(;´・ω・)「……!」

この時間に家にいるのは、シューさんだけだ。
僕は焦り、慌てて身体を起こす。

何か、話さないと。

話さないと……。

(;´・ω・)「あ、あのっ。僕――」

僕の声を遮り、襖の向こうから。

     「朝ご飯、支度してあるから。
      私はもう済んでるから、食べて。片付けはやっておくから」



55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:22:24.75 ID:6W0qK95/O
うわああぁああぁあああぁ



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:23:34.90 ID:Dfna5elM0
(;´・ω・)「……」

襖越しの声は、たったそれだけを僕に告げて、途切れた。
僕は起こしかけた身体を硬直させて、その静かな、感情のこもらない声を聞く。

耳を澄ませる。

襖の向こうで、小さな足音が、ぱた、ぱた、と遠ざかっていくのが聞き取れた。

会話は、それっきり。

顔も見ることはない。
あの謎めいた表情で、そして奇妙に人懐っこいシューさんの笑顔を。

それは、もう、見ることができない。

その原因は、僕だ。



――今すぐ、部屋を飛び出して、追いかけたら。



そんな思いが脳裏を掠める。

けれど、とても行動に移すことはできず……僕は、中途半端な姿勢のままで
溜め息をつくことしかできなかった。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:26:40.59 ID:Dfna5elM0
(´-ω-`)「はあ……っ」

何もかもをあきらめて、開けた中庭を見る。

何も変わらない。

土も、草木も、塀の手前の植え込みも。
その向こうにそびえる、山も、空も。太陽も。

何一つ変わらないのに、ひどく色褪せて空しく感じた。

僕の視界は、一面にセピア色に染まってしまったようだった。



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:29:00.74 ID:Dfna5elM0
同じように、シューさんは、僕を避けた。

昼ご飯ができると、同じように襖越しに呼ぶ。
顔を見せてはくれない。

掃除や片付けもそうだ。
シューさんは、極力僕の部屋の周囲を避けて、僕と鉢合わせしないように
気を遣って、最低限しか触れ合わなくてすむようにしていた。

中庭の掃除をするときは、僕は少しの間外出することにした。
その方が、シューさんも少しは辛くないだろうか、と、そう思ったからだった。

たまに、廊下や玄関ですれ違うことがある。

その時も、シューさんは目を合わせてくれない。

(´・ω・`)「……僕、出かけてきます」

lw´ _ ノv「ああ。いってらっしゃい」

言葉少なに、頷くだけ。

僕がその目を見ようとしても、視線はかわされる。
決して、目を合わせてくれない。

歩き出し、少し距離を取ってからシューさんの姿を見る。
けれど、シューさんは、必ず僕に背を向けている。

その表情は、分からない。



60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:32:25.57 ID:Dfna5elM0
それでも、夕食の時間は顔を合わせないわけにはいかない。
帰ってきた兄と、シューさんと、三人で食卓を囲む。

(`・ω・´) 「どうだ? そろそろ慣れたか?」

lw´‐ _‐ノv「うん。最近は、まあまあ、ね」

シューさんの隣、僕の正面で話す兄の表情は、明るい。
口数だって、僕と二人で食事するときよりもずっと多い。

何より、シューさんと話す兄の声は少しだけ弾んでいる。
僕だけで帰省するときには、何日かに一度しか聞かないような声だ。

(`・ω・´) 「そうか。良かったよ。
       広いし、何より親父とお袋のこともあるからな」

兄はそう言ってまた笑う。
その笑顔は、無邪気と言ってもいい。

きっと兄は、まだ何も、気付いていないのだろう。

(`・ω・´) 「ショボンは、どうだ? お前に迷惑掛けてないか?」

僕の名前が、兄の口から飛び出す。
僕は一瞬、食事の手を止めて下を見る。

(´・ω・`)「……」

テーブルの上に乗っている、食べかけの焼き魚が目に入る。



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:36:49.90 ID:Dfna5elM0



――迷惑?

   迷惑なら、掛けっぱなしだよ、兄さん。

   兄さんにも、シューさんにも。

   僕は、シューさんを好きになってしまって。

   それは、兄さんに対する、とんでもない裏切りで。

   そして、抑えが効かずに、とうとう彼女にもそれを……。



lw´‐ _‐ノv「……」

シューさんは、一呼吸、黙って無表情になり……そして、続けた。

lw´‐ _‐ノv「……大丈夫だよ。貴方の自慢の弟君だしね。
       平和に、お留守番させてもらってる。ね……少年」

僕に呼びかける。



62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:39:52.85 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`)「……あ……」

呼ばれた僕は顔を上げ、シューさんの顔を見る。

その目は、僕の顔を見ていない。
顔は僕の方を向いているけれど、視線は襟元あたりに据えられている。

控えめに上がった、唇の両端。
少しだけ下がった眉と、まなじり。

けれど、シューさんは、笑っていない。
笑っているかのような形に、表情を作っているだけ。



――僕の、せいで。



(´・ω・`)「う、うん。迷惑なんて、掛けてない。
       大丈夫……大丈夫だよ」

嘘だ。

僕のせいで、シューさんは心から笑うことすらできない。
兄の隣にいるのに、笑うことさえ。

僕のせいで。



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:43:24.15 ID:Dfna5elM0
(`・ω・´) 「そうか、そうか。
       いい事だ。俺も毎日、安心して仕事に行けるよ」

上機嫌の兄は、僕たちの様子には気付かない。

真っ暗になった胸の内側で、黒い砂がさらさらと音を立てて流れ落ちる。
そうして、僕の身体の中身は、すっかり空っぽになってしまいそうになる。

気分は、沈んでいくばかりだった。

食卓の上で湯気を立てる味噌汁の椀を見る。
それはとても温かいのに、僕は冷え切っている。

(`・ω・´) 「落ち着いたら、二人でゆっくり散歩でもしたいな。
       君もこの周りのことは、まだよく知らないだろう」

lw´‐ _‐ノv「そうだね。
       貴方が世話になっている方たちにも、ご挨拶に行かないとね」

兄とシューさんの会話を聞き流しながら、僕は努力して夕食を口に運ぶ。
食欲なんてないのに、早く食事を終わらせたくて、無理をして口に詰め込む。



――何日か前、とても満ち足りた気分で座っていたこの食卓。

   それが今は、息苦しいだけの空間だった。





64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:46:11.27 ID:Dfna5elM0
夕食と風呂が終わり、早めに布団に入る。
何度も寝返りを打つけれど、なかなか寝付けない。

(´・ω・`)「……」

途中で起きて縁側で煙草を吸ったけれど、逆効果だった。
ニコチンのせいでよけいに目が冴えてしまって、眠ることはできそうにない。

耳が痛くなるほど静まりかえった、暗い室内。

たくさんの虫の声が、中庭に面した縁側から届く。

けれども、僕はそれには何の感慨も覚えることができない。

ただ、小さな虫が腹を擦り合わせて音を出しているだけ。
その音は心地よくも快適でもなく、ただ耳をざわざわと撫でるだけだ。



――同じ風景が、同じ音が。

   気分が変わるだけで、こんなにも違う……。





65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:47:46.50 ID:Dfna5elM0
また寝返りを打ち、腕を枕に身体を反転させる。

(´・ω・`) 「……帰った方が、いいのかな」

シューさんは、自分の意志でこの家を出ることはできない。
兄との結婚を、諦めでもしない限り。

僕は、違う。
東京の部屋に帰ろうと思えば、いつでも帰ることができる。

でも、やっぱり、できない。

心の底では、まだどこかで望んでいる。

いつか、シューさんがまた、僕に話しかけてくれるかも知れない。
うち解ける時が来るかも知れない。

そんなはずは、ないのに。

たった一本の蜘蛛の糸に縋り付くように、それだけを頼りにしている自分がいる。

なんて、醜い心根だろう。

(´・ω・`) 「バカバカしい」

自分を叱責する。
けれど、望みは捨てられない。



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:51:04.12 ID:Dfna5elM0
(´・ω・`) 「……」

喉が渇く。
今日は、いつになく湿度が高いように感じる。

水でも飲んで、寝直そう。
僕はのろのろと立ち上がり、襖をそろりと開いた。

開けた隙間から、廊下の左右を見渡す。
照明が消えた廊下は真っ暗で、曲がり角の先はさらに深い闇だ。

きし、きし……と。

足音が響きすぎないように忍び足で、僕は曲がり角の先にある台所に向かった。

シューさんと鉢合わせしたら、どうしよう。

そんなことは、したくないけれど。
いや……本当は、望んでいる。

一目でいいから、また笑ったシューさんを見たい。
笑顔を見て、僕の部屋で何でもない時間を過ごして。
また、話したいんだ。

話して、そして……。

この期に及んで。
自分勝手な想像を嘲笑しながら、廊下の角を折れる。



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:53:06.99 ID:Dfna5elM0



――少し開いた台所の戸から、灯りが漏れているのが、見えた。



(;´・ω・) 「……!」

足を止める。
呼吸まで潜めて、戸の影からそっと、中を覗き込む。

台所には、シューさんが座っていた。
その横顔だけが、見えた。

lw´ _ ノv「……」

少し落とした、暗めの蛍光灯の明かり。
その下で、シューさんは黙って食卓に座っている。

少し肩を落として、俯いて、無表情で。
何も言わず、何もせずに、ただ食卓の一点を見詰めて座っている。

(´・ω・`) 「……」

抜け殻のようだった。
今にもそのまま崩れ落ちて……あるいは、暗がりに溶けて消えてしまいそうに。

はかない、頼りない、姿だった。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 17:55:04.05 ID:Dfna5elM0



――僕だ。

   僕のせいで……。



lw´ _ ノv「……、……」

俯いたままのシューさんの口が、少しだけ動いた。
声を出さずに、何かを呟いたように見えた。

僕は何も言えず、動くこともできずに、その横顔を見ていた。
何の感情もないシューさんの顔。それは、どんな表情よりも痛ましく見えた。

僕には、彼女を慰めることはできない。

シューさんを傷つけたのは、僕だ。
悩んでいるシューさんに追い打ちをかけたのは、僕なのだから。

……シューさん。

僕は声を出さず、動かないシューさんを呼ぶ。



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 18:01:34.33 ID:Dfna5elM0
何とかしてあげたい。

けれど、僕が呼ぶだけで、シューさんの前に姿を現すだけで。
それが、彼女を悩ませてしまう。

ざらついた、重い感情が、腹の底に溜まっていく。
きりきりと締め上げられるように胸が痛んで、僕はそこを手で押さえる。

ずっしりと胸にわだかまる、その感情の行き場はない。



――それなのに。

   まだ、諦められない。

   何一つしてあげられないのに、想いは募るばかりで。

   それが……怖い。

   何より、怖い。




                                    【中編・終 後編に続く】





73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/04(日) 18:15:36.88 ID:Dfna5elM0
いろいろありましたが、どうも
次は水曜ぐらいまでに投下できると想います

じゃあ、また



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