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◆/ ゚、。 /『The Rainmaker and“Lemegeton”』のようです…… 第六夜「死神の精度」

前の話/インデックスページ/次の話

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:40:30.17 ID:Myx88Amn0


/ ゚、。 /『小さき鍵』とレインメイカーのようです……



――Finders keepers,
  
  Losers weepers.





                         (『Finders Keeprs』より)




2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:43:20.15 ID:Myx88Amn0
――第六夜――
「死神の精度」

从 -ノリ「………」

――実を言うと、『色のついた世界』というものを見たことがないんです。
私の見る世界はいつもモノクロで。白と黒だけで形成された単調な世界でしかなかったから。
皆は可哀想と言ったけど、私にとってはそれが普通のことだったんだ。

『色』という概念をほとんど知らなかった私は、よく本を読みました。
晴れた空の色も、夕暮れの寂しげな色も、冷たい闇夜の色も。全部、知識としてしか知らない。
そういう感じでした。というか今もですよ。
網膜に映るチカチカした街の輝きの色を私は知らない。分からない。


――ある日。
今よりもっと小さかったある日。どういうキッカケかは忘れてしまったけど、私の世界にも『色』がついた。
でもそれは『物質』じゃない。人の『心』だった。

綺麗でした。師匠にも分かるでしょ?
昔はよく説明しましたっけ。本で見た比喩表現をそのまま使って。
…それが、他の人の感じる『色』とは全く違うものかもしれないのに。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:46:23.46 ID:Myx88Amn0
――超能力って不便ですよね。だって、そうじゃないですか。
誰かの心を見て『赤』ってことは分かりますよ。それは教えてくれたから。
…でも、それがどういう『赤』なのか、誰も教えてくれない。たった一人で手探りで探すしかない。うん、探すことすらできなかった。
詰まる所、比較ができないから表現することができなかったんです。


――嬉しかった。師匠に会えて。
そうですねー……。例えば、ずっと彷徨ってた霧の中で捜し求めていた人とやっと会えたような感じ。
「君は孤独じゃないよ」って神様が囁いてくれた気がしました。大袈裟ですか?でも嬉しかったんですよ、本当に。

だから一緒にいようかな、って。
私がキャンパスの中に描いた花を、その意味を、誰か一人でいいから分かってもらえるまで。


从 -ノリ「…そっか」

…そこまで思い出し、はっきりと意識が戻った。
夢心地で眺める町並みはやはりモノクロだ。そして流れる光の中に、色とりどりな『心』が見える。
今考えることでは決してなかったが、彼女は綺麗だなと感じた。

不思議と恐怖はない。ただ、寂しかった。
こんなにも『色』に満ちた世界。でも自分の隣には誰もいないことが、ひたすらに。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:49:24.52 ID:Myx88Amn0
……………


/ ゚、。 /「ここ最近、この地域では人攫いが頻繁に起こっていました。それも超能力者狙いの」

夜の公園。二人の少女と会った場所には、黒服の人間が十人ばかり倒れていた。
服は焦げかけているが外傷はない。気絶させられているのだ。

ノハ ⊿) 「げ、ほ……」

/ ゚、。 /「発電能力者……、いや、一般人としてはご立派ですか。レベルは十段階評価で真ん中より上でしたっけ、下でしたっけ」

制服はボロボロ。四肢から血を流している活発そうな赤髪の少女。ヒート=C=アリスト。
イオのちょっとした知り合いである彼女はエレクトロマスター……つまり、『発電能力者』であった。
一般人なりに全力で抵抗したのだろう。だが、それでも力は及ばなかったらしい。ルカは攫われた。

(;∩A`)「いっつ……」

/ ゚、。 /「…肩に一発。今から病院行けば大事にはならないと思います」

額と肩から血を流した男にも言葉を投げかける。分かりにくいが、「それなりに頑張った」と言っているつもりなのだ。
ただ結果がない。高望みかもしれないが持ちこたえて欲しかったのが本音だろう。救急車を呼びながらどこかへ立ち去ってしまった。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:52:28.05 ID:Myx88Amn0
( _ )「馬鹿だ……」

――その情景を目の当たりにした占い師は呟く。
分かっていたはずなのに。小さな彼女を、誰が守ってやらなければならなかったのか。
それを自分は放棄した。つまらない意地の張り合いで。

( _ )「僕は、馬鹿だ……」

全身の力が抜けたように膝をつく。いくら手で拭っても、溢れる涙が止まることはない。
いくら後悔しても、時間を巻き戻すことなどできやしないのに。

…そんな彼に一人の男が話しかける。
彼もまた似たような経験を、あるいは、この絶望以上の経験をした者であることはその背中を見れば明らかだった。

( ゚∀゚)「…なァおい。何をチンタラやってンだァ?」

( _ )「………」

( ゚∀゚)「後悔するのはまだ早ェんじゃねェの。だってよ…」

他人にはジョルジュと名乗っている四六時中不機嫌そうな顔をした男は一度言葉を切る。
仕方ねェな、と小馬鹿にするように。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:55:22.21 ID:Myx88Amn0
( ゚∀゚)「お前が失敗したのは、取り返せない『過去』でもなんでもない、まだ『今』の話じゃねェか」

( _ )「…でも、もうルカちゃんは……」

なおも立ち上がろうとしない占い師の襟元を掴み、乱暴に起き上がらせるジョルジュ。
そのまま締め上げながら、もう一度、言葉をぶつける。

( ゚∀゚)「俺にはよく分かんねェ。けどよ、あの嬢ちゃん、お前のこと待ってると思うぜ?」

(∩_;)「!!」

/ ゚、。 /「――いちいち回りくどい上に現実的じゃありませんね」

どこからともなく戻ってきたイオが二人を一瞥した。だがそのトーンだけで言えば、むしろ喜んでいるようだった。
言外に示していた。こうでなくちゃいけない、と。そうでなければ男が廃る、と。
詠うように若き錬金術師は言う。彼には珍しい含み笑いをしながら。

/ ゚、。 /「僕は『レインメイカー』で、僕の魔法名は『Hatfieling』です」

儀式魔術なんてできないんですけどね。と自嘲するように言う青年。
近代の魔術師が名乗る『魔法名』は基本的には西洋の儀式魔術系の場合が多い。イオがあえて正式なものを持たないのはそういう意味もある。
…だが、『魔法を使う目的』など誰でも持ちうるもの。むしろ『どうしようもないことをどうにかしたい』から魔法を学び始めた人が大半だろう。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 21:58:27.21 ID:Myx88Amn0
そして、今まさに「攫われた大切な人を助け出す」という『一般人にはどうしようもないこと』が起こっている。
助力を惜しむ理由があろうか。いやあるわけがない。掲げた誓いを鑑みれば明らかだ。

/ ^、。 /「雨降って地固まる。…さっさと傘差しに行ってあげましょうよ」

( _ )「………」

ヒッキーは黙ったままコクリと頷いた。動作的には小さくとも、それは確かな決意を含んだものだった。
それを見て、こうなることを予想していたようにスラスラと目的地を述べ始めるイオ。
…一々警察や『FOX』など待っていられない。なにより彼本人が行くことに意味があるのだ。どれほど非現実的でも。どれほど無茶でも無謀でも。

/ ^、。 /「バイク便やってるんでしょ?送ってってください」

( ゚∀゚)「別にいいが……お前、その情報どこで手に入れたンだ?」

相手はこの帝都の二割を支配する荒巻組。人身売買で稼いでいる、という黒い噂には事欠かない組織である。
その頭領、荒巻ラヴクラフトは相当な実力者だと聞く。『帝都VIP七不思議』に数えられる化物のうちの一人なのだ。
そんな奴の正確な情報をどうやって手に入れたのか。疑問を持つのも無理はないが、イオはニコニコニコーといつもの笑みを何倍にも増して一言。

/ ^、。 /「…六本。いやぁ、あの組織も教育の仕方が甘いですねぇ。雇われなんでしょうか」

――何が『六本』なのか。具体的に聞くのは止めておいた。
ただ十人倒れていたはずの黒服の男達が、いつの間にやら数を一つ減らしていたのは確かだった。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:01:24.89 ID:Myx88Amn0
……………


――帝都VIPには七不思議がある。数年後ごとに入れ替わる他愛のない、それでいて一片の真実を含んだ噂。
この大都会に潜む七匹の化物。その断片的な情報の集大成が『帝都VIP七不思議』というわけだ。
普通こういった類のものは尾ひれが付くのだが、この場合に恐ろしいのは「事実よりも明らかに軽い内容で」伝わっているということ。

マフィアもどき荒巻組の頭領、荒巻ラヴクラフト。断定はできないが彼もこのメンバーの一人である。
有能な魔術師、幻術を使うことが知られている。

/ ゚、。 /「確か七不思議での名は『暗闇の襲撃者』でした。『カラバサン』というトルコに伝わる生き物が元で、幻覚というよりは――」

(;-_-)「…もう全然分かんないから説明はいいよ」

郊外の巨大な邸宅の近くでの会話である。情報によれば可哀想な弟子は地下に幽閉されているらしい。
豪奢な屋敷を遠目で眺めながらイオは説明を続ける。

/ ^、。 /「そうですか。忠告しておきますが、荒巻と対峙するのは避けてください。……死にますから」

(;-_-)「ボソッと言わないで!怖いから!!」

既に足が震えていたのだ。だが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:04:27.86 ID:Myx88Amn0
その様子を見、フッと笑う錬金術師。彼にとっては知り合いの中学生がいくら死のうが大した損失はないはずだ。
それでも強硬手段を取り手伝おうとするのは善意故か、それとも……

/ ゚、。 /「作戦の説明を。僕は荒巻の爺さんに用がありますから、その間にこっそり侵入して助けてきてください」

(-_-)「…でも僕は……」

助っ人は呼んでありますから、と言って真後ろへ視線を投げた。
鬱蒼たる森林に人がいた。今時のセンスの良いジャケットを着た若い男。ヒッキーの知る誰かに似ているようで『彼』とは決定的に違う。
右手だけに黒い皮手袋。パッと見では大学生ぐらいの青年は長めのナイフを弄びながら自己紹介を行う。

( ・∀・)「僕は、えっと……スワロウテイルでいいや」

(;-_-)「(いいや?)」

( ・∀・)「ま、『揚羽』でいいよ。今日はその名前で行こう。偽名だけどね」

(;-_-)「…あ、うん。よろしく…」

少し背の低いハンサムな男、――『揚羽』と名乗ったその男は会釈をする。
試しに『読んで』見る。……が、当然のように視えなかった。魔術師ではないようだが能力を遮断できるということは『裏稼業』らしい。
そのいぶかしむような視線に気づいたのか揚羽は右手を前に出す。手袋の填まったそれを。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:07:21.35 ID:Myx88Amn0
( ・∀・)「お察しの通り『超能力者』です。能力は、……」

まぁいいか、と一人で納得し手を引っ込めた。
特徴は饒舌なこと――というか、独り言が多いことか。それ以外は見つからない。見つからないようにしている。
なんにせよこれで三人だ。

/ ^、。 /「そんなに心配しなくても。アレですよ、本当にヤバイ時は聖母様が来るかもしれませんし」

(-_-)「へ?」

なんでもありません。呟いて、説明の続きを始める。
…ヒッキーには二人が心なしか楽しそうに見えるのだが、気のせいだと信じたい。


――錬金術師の話では「五分もたない」。…荒巻と対面することになった場合の話である。
なので、真正面からは攻めず搦め手に回る。イオが用事ついでに陽動を行いその間に残りの二人が目標を助け出す。単純な作戦だ。

/ ^、。 /「…では、行きましょうか」

勇敢な貴方に精一杯の加護があらんことを。
丁寧なお辞儀と共にそう呟くと、疾風のごとく――それでいて、物音立てないプロの動きで山を下って行った。
年不相応な裏の人間の動き。平和な街の片隅で毎日のように起こる『ロクでもないこと』を想像し、ヒッキーは少しばかり顔をしかめたのだった。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:10:23.09 ID:Myx88Amn0
……………


――特務機関『FOX』には多くの部隊がある。そしてそれぞれに役割があてがわれている。
鈴木=フラメス=イオリエの所属する『第十一独立機械化混成部隊』も例外ではなく、彼等の場合は『一部の特殊な任務』が主である。
警察で言えば爆弾処理班のようなもので専門的な案件の解決を得意としている。

さて。そんな中、最も特殊かつ最も苛烈かつ最も有能な部隊。
少数精鋭の電撃戦を得意とする、――すなわち『第零独立遊撃部隊』。その基地である第四特殊科学研究所の第二地下休憩室にて。

「通信が入ってます」

(゚、゚トソン「了解しました」

几帳面な感じのするスレンダー、……というよりも起伏に乏しい美人。年齢で言えば二十代の前半か。
所長の意向でやたらと苦く調合されたコーヒーをどうにか甘くすることに奮闘していた彼女。豆を棚から選んで自分で挽けば済む話なのだが、不器用なのでそれはできない。
…そんな一部で有名な『ファーストナンバー』こと、都村トソンは通信室へ向かう。カフェインの摂取は素直に諦めた。

(-、-トソン「………」

廊下を進む。効果音で言えば「ギスギス」だった。特に上司である副隊長と同じ任務の場合は露骨に不機嫌になる。
理由は誰も知らないが、彼女はとにかく、北欧の顔立ちの副隊長を嫌っていたのだった。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:13:30.27 ID:Myx88Amn0
…研究所の地下二階。彼女は任務の時以外は大半をここで過ごしている。
彼女も彼女とて特殊な事情――例えばそれはオーバーテクノロジーレベルの改造人間であったりすること――を抱えており、そのせいでもある。
『人間兵器』として規格外な性能を誇っているのだが、メンテナンスを行える施設がここか本部かもしくは第七研究所しかない。

が、それは直接的な理由には成りえない。
一応年頃の娘であるトソンが決して外出しない理由は他にある。

(゚、゚トソン「……雨」

――彼女は雨が嫌いだったのだ。匂いや音ですら激しく嫌悪するほどに。
いわゆる『トラウマ』というやつで、自分では治しようがないし治すつもりもなかった。
…どちらの理由共、彼女自身しか知らない。

(、トソン ブルッ

地下二階。研究所は基地でもあるので、ちょっとした核シェルターほどの強度がある。
常人では外の天気など窺い知る事などできないだろう。だが、トソンは常人ではなく『改造人間』で『兵器』だ。早い話が例外なのだ。

近未来的で無機質な廊下の隅。この国のあらゆる正義と悪が集う場所。
…トソンは寒さを必死で堪えようとする遭難者のように、その場に屈み込み小さな肩を両手で抱いた。温かみの欠片もない人工的な光が照らしている。
何かを思い出すまいと、同時に決して忘れまいと。…身体に刻みつけようと独りきりで震える彼女。
――その瞬間だけは優秀な兵器である『ファーストナンバー』ではなく、『都村トソン』というただの少女に戻るのだ。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:16:22.10 ID:Myx88Amn0


――どれくらい、時が経ったのだろう。
「おい」という短い呼び掛けで都村トソンは意識を取り戻した。見上げれば、脇に長身の上司が立っていた。

( ´_ゝ`)「どったの?トソンちゃん。女の子の日ってやつ?」

(-、-;トソン「…隊長。お願いですから死んで下さいませんか?できる事ならば今すぐに」

( ´_ゝ`)「めんごめんご。部隊で唯一俺に敬語使ってくれてるキミが辛そうだと、所長の俺も気になるってわけさ」

辛辣な文句を軽く流すと第四特殊科学研究所の所長、――「兄者」という愛称で呼ばれている茶目男は手を差し出す。
こめかみの辺りを押さえながら有り難く手を貸してもらい、立ち上がる。少し眩暈はするが立てないほどではない。
表面ではふざけ、それでいて、真意は読めない男。それが隣にいる兄者だった。

( ´_ゝ`)「…あんまりにも遅いから来ちゃったよ」

(、-;トソン「申し訳、ありません……」

( ´_ゝ`)「あーあー、いいからいいから。どうせ大したことじゃなかったんだし」

適当な調子で返しているが、そもそも彼女に直接通信が入る時点でそれなりに深刻な事態なのは疑いようがなかった。
…切羽詰った事態でなければ『FOX』は動かないし、その頂点がトソンなのだから。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:19:23.65 ID:Myx88Amn0
夜も更けてきた頃。研究所の地下では分かりようもないが、月が綺麗な夜だ。
そんな閉鎖空間で腕時計を見ながら、

( ´_ゝ`)「キミの後輩が暴走したって。『レインメイカー』が荒巻のトコに乗り込んだってだけの話」

(、-;トソン「…ああ。あの子が無鉄砲で何考えてるか分からないのはいつものこ――って、はい?」

恐る恐る、最高と名高いエージェントは聞き返す。
今、なんておっしゃいましたか?と。兄者は、だから、と煙草を取り出しつつ答える。

( ´_ゝ`)「『PA計画』の残骸があるかも知れない荒巻の屋敷に、鈴木=フラメス=イオリエが一般人連れて乗り込んだんだって」

(゚、゚;トソン「…ヤバくないですか?」

( ´_ゝ`)y‐「ああ、ヤバいね。荒巻は軍の上層部と繋がってて、手を出しにくいからこそ放ってたのに。分かってんのかね、あの新人クンは」

端的に答える第零独立遊撃部隊の長。白い煙を輪の形にして吐きながらうんざりしたような顔をする。
この施設は基本的に禁煙だが、ここでは所長兼隊長である兄者がルールである。

( ´_ゝ`)「普段はイイ子なんだけどなー…イオ……」

品行方正な青年。笑顔を絶やさない、上司にとって実に『都合の良い部下』な彼。
…だが特定の時にだけ箍が外れたように暴走する錬金術師。ありがちな二面性を持った人間だ。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:22:22.73 ID:Myx88Amn0
(゚、゚;トソン「…それで、通信の内容というのは」

( ´_ゝ`)「ん?ああ、事後処理の話。荒巻組は切り捨てるってことになったみたい」

…本来ならば『第十一独立機械化混成部隊』に連絡が行くはずだ。
が、あの部隊の長である「マタンキ=A=テュール」はほとんど研究所にいないのだ。
専門職ばかりを集めたあの部隊ではどうしてもそういう事態が起きてしまう。仕方のないことでもあった。

( ´_ゝ`)「…現在半分を制圧。『ブーム』のシュミレーションでは、ちょうど後数分で荒巻と会うぐらい」

(-、-トソン「ですが彼が幻術師に勝つのは難しいかと……」

だろうね。…軽く答える兄者。詰まる所どうでもいいのだ。あの青年が死のうが生きようが。
結果を踏まえてプランを修正する。そうやって『FOX』という組織は存在している。数十年前から、ずっと。

( ´_ゝ`)「面白い術式展開らしいからね、荒巻は……」

(゚、゚トソン「確か……」

言い淀んだトソンに対しサラリと言う。
瞳が笑っていない。兄者は、仕事の眼をしていた。

( ´_ゝ`)「『クトゥルフ神話系幻術』だよ。人の恐怖を集めた、最悪の幻術」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:25:31.38 ID:Myx88Amn0
……………


(;-_-)「クトゥルフ神話?…それって、創作じゃないの?」

( ・∀・)「…んー。じゃあ、日本神話やアステカ神話って本当だと思うの?」

近年の創作神話を元にした幻術。それに対し当然の疑問を抱いたヒッキーだが、揚羽はこちらも当たり前のように返した。
…彼の言う通り『何が本当で何が嘘か』などは誰も分からない。決めようがないし決められない。
世界中の神話全てが実在するならばこの世は神様だらけだよ、とは彼の弁だ。しかもそれに対して救いは少な過ぎる、と繋げた。

( ・∀・)「――例えばあの作品の一部は作者の『黒人差別』が元になってると言われてる」

(-_-)「ああ、人と人以外との混血の話だね」

( ・∀・)「そう。問題はそこさ」

辺りは真っ暗闇である。突入前に電源を落としたのだ。
護衛を出会い頭に潰しながら屋敷を駆け抜ける。足取りに迷いは全くない。占い師の手を引くプロは室内の地図など完璧に暗記しているのだ。
さもすれば懐かしむように道を選択しながらヒッキーを指差し続ける。ウインクまでおまけに付けて。

( -∀・)「でもさ、それって世界のどこにでもある概念じゃない?」


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:28:22.71 ID:Myx88Amn0
――異類婚姻譚。『ヒト』と、ヒト以外の『何か』の結婚話。
少し考えてみれば分かることだが、そんな御伽噺世界中どこにでもあるのだ。

( ・∀・)「ヨーロッパなら竜と人の子『ドラゴンメイド』だ。日本なら『葛の葉』や『浦島太郎』かな。中国は語るまでもない」

(;-_-)「そういえば……」

( ・∀・)「神聖なものならキリストだってそうだろうし、前衛的なものならエロゲとかの触手プレイもそうじゃないの?」

なんにせよ使い古されたパターンってこと。と、簡潔に結論を言う。
…両手の指では足りない。東洋に限定してもそれでも足りないであろう。

( ・∀・)「『海洋生物への恐怖』だって、そもそも日本以外の国じゃ近世までほとんど海産品食べなかったんだよ?」

大航海時代が訪れる以前までは、――いや、今も『海』は恐怖の対象と言っていいだろう。
正体不明の海域。理解不能の磁場。未知の存在が今なお存在する。
軟体生物の伝承も北欧の『クラーケン』を初めとし、海がある地域には一つ二つ残っているものだ。

( -∀-)「手の届かない異空間、超越した支配者、人の無力さ……。…ここら辺に至っては神話にないほうがおかしいって言ったって過言じゃない」

例を挙げることさえめんどくさい、と言外に示すように手を振る。
事実、人間は遥か昔から自然や空や海や、その他、及ばない全てのものに『恐怖』を抱えてきた。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:31:21.23 ID:Myx88Amn0
これで締めという具合に質問をする。
暗闇でもはっきりと分かる、完全な勝利を収めた時のような自信に満ちた表情で。

( ・∀・)「じゃあ質問。…それでも『クトゥルフは全て事実無根の作り話でしかない』って言える?」

(;-_-)「…言え、ない。むしろ――」

世界中の人間が抱えている『恐怖』を掻き集めてきたのが、クトゥルフじゃないのか?
そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。『神話』というのはそういうものだ。確かめられないし確かめようがない。


――だが、話はここで終わらない。
この程度で終わるなら深夜の暇潰しの長電話で十分だ。

( ・∀・)「過程があれば結果ができる。だから、たとえ全くの作り話だとしても『魔術』として成立してしまう」

(;-_-)「そんな都合の良い……」

( -∀-)「うん。もちろん、それは術者の人並みはずれた技量や特殊なギミックな必要なんだけどさ。視点を変えれば――」

『魔術』と『超能力』という二つの異形であり異能。
…その二つが交差すれば、あるいは……


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:34:23.88 ID:Myx88Amn0
……………


――ゾクリ、という背筋に走る寒気。後悔した時には遅かった。完璧に術中に嵌った後であった。
後ろを振り返ってみる。明らかに先ほどまでとは道が違っているのだ。
もう逃げることはできない。元より逃げるつもりなど毛頭ないが、どちらにせよ逃げ道を絶たれたことは確かだった。

/ ゚、。 /「(…おそらく陣が敷いてあるのは屋敷全体。あっちの脱出と爆破が進めば……)」

既存の法則があるものと違い、荒巻の術式は相当の準備と設備を必要とした。
当たり前だ。大前提としてほとんどは『創作』であるのだから。その考えを見抜くように声が響く。

「…じゃが本当は全て事実だとすれば?」

/ ゚、。 /「……爺さん、人と話す時は姿を見せるのが礼儀ですよ?」

「無断で屋敷に侵入しておいて礼儀を語るか」

廊下の壁に設置されていた大きな鏡。正反対の世界から好々爺が姿を現した。
幼稚園の園長でもやっていそうな老人だった。個性的なガラス細工が施された杖を持った老人。この屋敷の主、荒巻ラヴクラフトだ。
最強の幻術師と名高い男。同時にイオとはちょっとした顔馴染みでもある。
…まぁ、無論ニコニコ同じテーブルで紅茶を飲む中では決してなく、むしろ――


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:37:26.92 ID:Myx88Amn0
/ ,' 3「…中国で世話になったのう。貴重な書物を躊躇いもなく処分してくれおって」

/ ゚、。 /「あれ、まだ根に持ってたんですか」

――顔を合わせるや否や殺し合いを始めるような間柄だった。
少し前、イオが中国に旅行した時の話だ。ある書物を求める荒巻組の面々と逃走劇を繰り広げたことがあったのだ。
結局その時はその『ある書物』を処理し逃げたという訳で。
そしてそれは、

/ ゚、。 /「……『ルルイエ異本』ですか。粘土板に書かれたオリジナル・グリモワは既に消失。翻訳された数個が現存するだけという……」

/ ,' 3「創作の中の『実在』じゃ。実際は召喚術の秘法が書かれた巻物らしい。クトゥルフに限らず、な」

荒巻の方からすればみすみすレベルアップの機会を逃したようなもので許しておける所業ではない。
あれが最後だったかもしれないのだ。誰かが偶然か神の加護により再びその法則を発見するまで、何千年という時がかかるやもしれない。

だが、錬金術師鈴木=フラメス=イオリエはあっさりと言い放つ。
唯一とも言える可能性を。

/ ^、。 /「まぁ、僕あれ一字一句間違わず暗唱できますけどね」

/ ,' 3「………………なんじゃと?」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:40:21.69 ID:Myx88Amn0
極めて当然という風に若き錬金術師は語る。曖昧な笑みをいやらしく歪めながら。
嘲笑うかのように続けるのだ。

/ ^、。 /「ええ。全部覚えてますよ」

/ ,' 3「ありえんッ!あの時は、一度目を通せたかどうか――」

――そこまで口に出し、荒巻は気づいた。
ありえないような真実に。それでいて、全く否定することもできない可能性を。
…もし。もし、だ……


――もし、たった一度目を通しただけで精確に、それこそ記号や方陣まで内容を覚えてしまったのなら?


奥歯が砕けるほどに歯軋りをする。怒りなのか悔しさなのか。そんなことはどうでも良かった。
荒巻は、何も言えなくなっていたのだ。僅かに言えたのは、あの魔道書は古代の中国語で書かれていたはずだ、ということだけ。
しかしイオは当たり前と言わんばかりに告げる。

/ ゚、。 /「…ええ。古代漢語でしたね。中期漢語も一部混じってましたけど」

でも。
そして、一言。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:43:24.04 ID:Myx88Amn0
/ ^、。 /「古語が混じってたからって、なんだって言うんですか?」

『第十一独立機械化混成部隊』はある特定のエキスパートを集めた集団だ。
鈴木=フラメス=イオリエは訓詁学。語学に関してだけなら、『FOX』において右に出るものはいないのだ。
暗号の解読や魔道書の写本。この分野も完全な専門ではないが守備範囲内だった。

/ ,' 3「…まさか、完全記憶能力を……」

/ ゚、。 /「やだなぁ。そんな凄い能力ありませんよ。記憶力がいいだけですって」

――さりげなく、イオは付け加えた。
「今出会ってちょうど五分経過しましたよ」と……


…イオには特技と言えるものが二つある。
一つは語学の類。十ヶ国語以上を掌握しなおかつ古語・暗号・魔道書類はほぼ完璧と言っていい。
そして、二つ目が『覚える』ということだ。極めて正確な体内時計。チューナー並みの相対音感。そして、抜群の記憶力。

彼が旅先でよく死に掛けるのは明らかに後者の為であった。
完全記憶能力ではないのだが、何分知識欲が旺盛。忘れてしまった方が幸せなものまで覚えていってしまうのだ。
これが彼の本気だった。もはや『超能力』レベルの特技だった。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:46:43.13 ID:Myx88Amn0
/ 、 /「…くつくつくつ。本題に入りましょう」

そして表面上だけの笑みが消える。笑いを噛み殺しているような無表情だ。
荒巻にはとても人のするものとは思えなかった。普段のイオ――柔和な笑顔を浮かべた好青年の彼――を知る人間なら、驚きに言葉を失うだろう。

/ 、 /「子供を誘拐して売り飛ばすのは本当の目的なんかじゃない」

/ ,' 3「………」

/ 、 /「僕と同じでしょう?貴方が探しているものは」

リスクを負ってまで占い師に協力した目的。いや、そもそも少女がさらわれることを予想していたのに放っておいた意図。
一般人を犠牲にしてでも果たしたい宿願。あらゆるものを敵に回してでも、やらなければならない責務。

東邦の蒼い死神鈴木=フラメス=イオリエは訊ねる。
…あくまで、静かに。だが同時に隠し切れない冷たい激情を持ち合わせた声音で。

/ 、 /「『銀の鍵』はどこだ。…答えないのならば最低でも腕の一本ぐらいは覚悟してもらう」

僕は僕の味方であって、それ以外の何者でもない。誰が犠牲になろうが知ったことか。
…そんなニュアンスを確かに含んだ無表情で。
なんにせよ、誰かが泥を被るのはこの世の真理だと残酷に主張するかのように。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:49:44.51 ID:Myx88Amn0


――見つけた持ち主。

  そして、
  
  失くした泣き虫。




――第六夜 終――

…Somebody must play the bad parts in this world, on and off the stage.




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/12(土) 22:52:28.78 ID:Myx88Amn0
ご支援ありがとうございました。
まとめは、くるくるくーるさんです。


本日のキーワードは「クトゥルフ」です。
よく『トチ狂った作家が書いた黒人差別』と言われていますが、少なくとも俺の解釈では近年の吸血鬼伝説と同じ類のものです。
その説の根拠については作品内で言及されていますね。

往々にして、こういうものは古い・新しいで区別されてしまいます。
どうせ証拠なんてないんだから全部平等に扱ってあげりゃあいいのにね。日本人なんだからさ。
これは『人間』の話なのでやりませんけど、別作品では『旧き支配者』対『不死なる者共の王』の戦いでもやりたいですね。




では、これにて。
お暇なら『銀の鍵』のことでも調べてみてください。


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