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◆(,,゚Д゚)「もしもし○○?今すぐ来て!」~助け屋ギコ~のようです 九日目 午後

前の話/インデックスページ/次の話

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:37:11.90 ID:SxHmPpOv0


…どうせ、弱者なのだから
所詮弱者なのだから

殺す覚悟も殺される覚悟も中途半端
何も貫き通せぬ手当者

それでも守りたいものだけは沢山あって
失くしたくないものは背中に負い切れない

だから――


(,, Д)「もしもし○○?今すぐ来て!」のようです




九日目 午後
『だからみんなで ――たとえ世界が木っ端微塵になったとしても―― 』


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:40:10.51 ID:SxHmPpOv0
――どこかの世界のいつかの時間から遡ること十数年。
ある大国のある地域には、とても不器用で優しい男の子がいました。
出来ないことなどほとんどなくて。他人に劣ることなどまずありえなくて。

才能も血統も技能も人一倍優れていたものですから。
同時に努力家で完璧主義者だったものですから。
周囲の人間にとっては、彼は絶対で最強で無敵の、御伽噺の救世主のようなものでした。


ですが、彼は死にました。
何故かは簡単です。あんまりにも有能過ぎて、皆“彼が人間であること”をすっかり忘れていたからです。
…そんなわけはないというのに。多くの人と同じように、彼だって弱さを抱え込んでいたというのに。


 曖昧で脆くて、
 頼りなくて倒れそうで、
 辛くて苦しくて泣きそうで、
 愚かで無様で惨めで下らない、


――ただの人間だったのに。
どうしようもなく強くて弱い、普通の人間だったのに――。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:43:11.30 ID:SxHmPpOv0
……………


( -∀・)「…華麗でもなければ、激しくもない。一言で言えば、つまらない」

――老若男女が思わず見惚れてしまうほどの美青年。
触れがたく恐ろしく、それ故に恋焦がれる。そんな化物が呟いた。

……問題なのは、彼が今まさに、「夜行」と呼ばれる鬼を鋭い回し蹴りで制圧したことだった。
『鬼』であろうと関係ない。何故なら彼は全てなのだから。
存在は生まれた時点で完結してしまっているのだから。


(;・3・)「ッ!ひょー――」

――電撃。それも即死級のものが飛んだ。
…が、それも無駄だった。

( -∀・)「プラズマを操れるんだから避雷針ぐらい造作もないよねぇ」

周りのもの全てが敵に回ったような錯覚に陥る。
手の打ち様がない。非の打ち所がない。即ちどうしようもない。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:46:12.11 ID:SxHmPpOv0
( "ゞ)「…やり辛いな」

今まで隠れていた、――否、“隠れざるを得なかった”予言妖怪は言った。
『正体不明』には予言などは通用しない。それ以前に使うことすらできやしない。無意識的に能力へ干渉を受けているからだ。
……どうやらあの男、『自分』を覗かれるのが相当に苦手と見える。

しかし、そんなことはこの際大した問題ではなかった。
問題なのは、

( ^Д^)「『殺意』が存在しないこと……か」

( "ゞ)「意外と早いお帰りだったな」

( ^Д^)「つまりご主人が芳しくない状況だと言うことだが――まぁ、それは置いておいて」

問題なのは、『殺意』の類が存在しないことだ。
師匠との邂逅を終えた八咫烏は、その事実をはっきりと告げた。


――そうだ。
最も恐るべくして最も忌むべき彼奴の特性は『優し過ぎる』ということだ。
殺意も敵意も悪意も何も存在しない。
しいて言えば――


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:49:11.07 ID:SxHmPpOv0


(;・3・)「……アレ?」

(  ∀)

――いきなり、居た。
乗られた、と思った時には既に乗っていた。
必死で放電するも、

( -∀・)「…ふふ。理屈は自分で考えるんだね」

無意味。電気という強力な要素使いの弱点。
悪足掻きもまた無意味。
そして、右腕から直接抜くように取り出した透明色の剣が、雷獣を貫く――!

( -∀・)「…君の人生、良いこと全然なかったんだね。生きてても仕方ないでしょ?…だったら、楽にしてあげるよ」

(; 3)「ひょ……っ」

妖力を根こそぎ吸い取られ、意識が飛ぶ。
夜行に続き鵺がリタイアする。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:52:13.04 ID:SxHmPpOv0
(;^ω^)「くそっ…!!」

半ば自棄の特攻。全身を『炎』に変え、静止の瞬間を狙う。
だが。

( -∀・)『――Ateh Malkuth ve-Geburah ve-Gedulah Le-Olahm――』

――“がちゃん”、


(;^Д^)「しまったッ!“切り替え”られた!!」

(  ∀)「……もう遅い」

瞬間的に魔力が変化し、ちっぽけな炎など無効化する強烈な水流が『正体不明』の東側より噴き出す。
選択された『神の人』がジンを降した。死んだ……わけではないだろうが、気絶したらしい。
高速で三人がノックアウト。

爪;゚ー゚)「ぅぁ――」

突っ込みかけていた麒麟が止まった。
踵を返す。機を見る、というわけだった。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:55:10.39 ID:SxHmPpOv0
…が、天災はそんな暇など与えない。
たとえどれほど速く動けようとも関係などないのだ。


――“がちゃん”、

( -∀-)『汝は誓い、汝は礎、――与えし力の返還を今、命ず』

また、“切り替わった”音がした。音波ではなく呪力波。精神を揺さ振る音。
三対の翼のうち真ん中の一対が白く染まった。瞳を焼くほど白く、身を責めるほど白く、世界を穢すほど白く――

( -∀・)「…麒麟という神獣は、走れば直線で曲がれば直角。つまりは――」

爪; -)「……っ!!」

( -∀・)「――次行く場所が予測できる」

ゴシャア、と物凄い音がした。じぃがその巨大な翼で力任せに薙ぎ払われた音だった。
超能力なのに能力的なことは何もなかった。
大雑把な殴打。もはや適当感がある。

山椒魚が水撃を放つが、当たらず。同時にプギャーが符を飛ばしたがそれも避けられる。
返す刀で切り替わった魔力に吹き飛ばされた。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 20:58:10.11 ID:SxHmPpOv0
――また、ほぼ同時。
プギャーと共に帰ってきていたフサが戦線に加わった。
体当たり。単純至極な攻撃は、翼を無数の羽に変換しばら撒き衝撃を殺された。

ミ,,Д彡「――チィ!」

( -∀・)「危ないなぁ。…何をそんなに焦ってるの?」

言葉など最初から聞く気はない、とは言わんばかりに狼男は石を放り投げる。
ルーン魔術。魔術文字は『ケイナズ』と読めた。フサが一声掛けさえすれば、爆発的に呪力が巻き起こる事だろう。

……が、
それでもまだ遅い。


――“がちゃん”、

( -∀・)「……同じく北欧系でお相手しようか」

両手。人差し指を呪物である『板』に向け、合わせた親指と中指を擦る。
パチン、という音がした。あっけない音だった。
結果――



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:01:12.72 ID:SxHmPpOv0
ミ;Д彡「呪力が、消えた!?」

( -∀・)「………この程度のものが、そんなに珍しい?」

――『ガンド』と言う。広義ではルーンのカテゴリーに入る北欧の魔術。
共感魔術としてはガンド撃ちと呼ばれ、人差し指で差すことで相手の体調を崩す。それは『フィンの一撃』とも言われた伝統的な技。
今回行ったことは呪力の空回りの誘発である。共感により支配権を奪っただけ。

驚き目を見開く獣に対し、高速魔力変換式戦闘を行う青年は言った。
…他でもなく、フサの深層心理を覗き見ながら。

( -∀・)「…ははぁ。君も、“死にたい”部類の存在だね?」

ミ,,Д彡「!!」

( -∀・)「――まぁ、“そんなこと”が、あったんじゃ仕方ないよ。可哀想に……」

――その音色はあまりにも優しかった。
進化を停滞させる毒。存在をその場で終結させる力。他者を理解し同化し引き継ぐ、完全な善意。

やりづらいのは当たり前である。彼は『優しさ』で戦っているのだから。
相手の心の声を聞き取って、存在しているのだから。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:04:10.92 ID:SxHmPpOv0


――つまりは。
人外達にもそれぞれ「人には言えない事情」があるのだ。
『偽善』ではない、ドロドロとした完全な『善意』に浸け込まれる歪な部分が。

o川#゚ー゚)o「私達は、ギコの為に――」

( -∀・)「――君は人を殺しているね。ギコと出会う前に、衝動的に。お前に人なんか愛せないー、とか何とか言われて」

o川;゚ー゚)o「えっ……」

はっきりと『正体不明』の善意は言い切った。
学生時代は嫌っていたことを、……躊躇いなく行った。

( -∀-)「ああ、なるほど。贖罪ってやつね」

o川;゚ー゚)o「ち、ちが――」

( -∀・)「他人に優しくすれば許される?…ちょっと違うな。庇護欲を満足させたい、ってのが近いかな」

キューの頭が真っ白になる。
忘れていたはずの、ギコと一緒にいさえすれば考えずに済んだはずの事柄と、向き合わされる。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:07:09.98 ID:SxHmPpOv0
彼の能力の恐ろしさは、複数の力を統合できることではない。
…本人が気づいていない『本当の気持ち』を本人以上に読み取ることができる、ということである。

( -∀-)「…無垢なギコを自分のものにして、皆自分と変わらない、自分は悪くない、って思い込もうとしてる……」

o川;゚ー゚)o「ち、がう」

( -∀・)「違わないよ。『君は悪くないよ、愛してる』って言って欲しいんでしょ?誰かに許して欲しいんでしょ?認めて欲しいんでしょ?
       寂しくて仕方ないから。本当はいつだって怖くて、…でも言い出せない。“このキャラ”じゃなきゃ人とちゃんと話せないから」

o川 ; -)o「――違う。違う違う違う違う違う違う――!!」

ボロボロと涙が零れてきた。耳を塞ぎ、思わずその場に蹲る。
…糾弾、ではない。ただひたすら諭すような慰めるような溶かすような心地の良い音だった――。
足りない部分は補われ。歪んだ部分は包み込まれ。穢れた部分は浄化される。

(  ∀)「僕は、君を許すよ。……一緒に、“終わって”あげようか?」


 心を溶かされる。
 精神を犯される。
 存在を、――愛される。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:10:11.55 ID:SxHmPpOv0


(;#゚;;-゚)「キューさん!落ち着いて下さいなのです!!」

( -∀・)「――ふぅん。助けを差し伸べようとするのは、自分が夢魔として肉体関係的な意味で優位に立っているからかな?」

――背後。
かつての家臣を抱き締めるように、手を回す。
そしてでぃの傷ついた頬をゆっくりと、愛おしそうに撫ぜた。

(;#゚;;-゚)「とう、しゅさま……」

( -∀・)「相変わらず謙虚だね、でぃは。……ギコのことは好き。――でも僕のこともまだ好き。だから、踏み入らないんだ」

懐かしい感覚。ペットとして所有されていた頃の被支配的な快楽。
恐怖と親愛の情が混ぜこぜになり、ドーパミンが過剰に、麻薬使用時以上に極端に放出させられる。

( -∀・)「――ああ、そっか。今でも僕に誘って貰いたいって思ってる。特別な仲じゃなくていいから傍にいたい?…可愛いなぁ、もう」

(# ;;-)「ぁ……」 ピクリ

…かちり、と
小さな音と共に何かのスイッチが入った。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:13:17.43 ID:SxHmPpOv0
( -∀・)「いいんだよ?別に。素直になってもさぁ……」

(# ;;-)「…当主、様ぁ……」

首筋を舌で舐める。息を吹きかけ、耳朶を甘く噛む。
全身に快感が伝播した。膝の力が抜け、倒れそうになるのを支えられる。
視界がぼやける。意識がはっきりしない。身体が――熱い。

( -∀・)『…昔はごめんね。あの時は僕も必死だったんだ。周りはうるさいし能力に引き摺られるし、“アイツ”もいたしね。
      でも、今は違うよ。正直になったんだよ。…知ってるでしょ?正直になった僕は、単純なんだよね』

空気の振動ではない。テレパシーだった。揺らされているのは心だった。
彼の言う当時と違い今は人間としての枷がなく、自己申告の通り極めて素直で正直で自由だ。
――すなわち『人を愛すこと』を躊躇わない。相手が狂うことも壊れることも依存することもお構いなし。全て残らず徹頭徹尾究極的に“愛す”。

( -∀・)『ねぇ、また一緒に暮らそうよ。……ずっと、“本当の意味で”、僕のモノになりたかったんでしょ?』

…そうだった。でぃは、ずっとそれを望んでいたのだ。
彼を愛する人間は掃いて捨てるほどいたが彼から愛される人間は一握り。自分だってそれになりたかった。特別になりたかった。
それが、今。他でもない彼自身から――

(  ∀)「…ほら、おねだりの言葉は……?」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:16:16.05 ID:SxHmPpOv0
(# ;;-)「ぁ…ぁぁ……――」


――違う。
そうじゃなくて、
…飲まれちゃ駄目だ。今はそうじゃなくて。それは違う――!!


(# ;;-)「ッ!」

かつての主人の腕を必死に振り払うでぃ。
既に半身の感覚がなかったが、何とか木刀を拾い距離を取る。

( -∀・)「……お、立ち直った。これは珍しい」

息絶え絶えながらも意識は幾分がはっきりしてきた。
完全に侵食された右腕。その小指を、思い切り――へし折った。

(;# ;;-)「ッッッ!!」

ゴキリ。という音。
激痛と共に感覚が戻る。しばらくは使い物にならないだろうが、安い買い物だ。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:19:10.83 ID:SxHmPpOv0


…彼女を引き戻したもの。
それは蝕んでいた感情とよく似たような想いだった。
ほとんど同じで、そんなに都合良くはない。それが二人の主人の違い。


――既に結構な時間が経過していた。
基本的に敵を殺さない『正体不明』の化物だが、それでも。

(;#゚;;-)「…ご主人様が、速く行かないと……」

o川 ;ー)o「ギコは家族がいないから……いつか見つけるまで、守ってあげないと……」

(メメ^Д^)「いっつ……。――あの人は、俺等がいないと……」

――これは、このしぶとさは予想外だった。
息絶え絶えになりながら、なおも立ち上がる。血だらけになっても、まだ諦めない。
ギコが待っているのだ。こんな所で時間を取られている場合ではない。そんな決意が読み取れた。

( -∀-)「…ふぅ」




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:22:15.36 ID:SxHmPpOv0


――しかし。
『正体不明』は、それすらも、否定する。

( -∀・)「…………皆さぁ、彼を守りたい、彼の家族を見つけてあげたいー、ってのは分かったけど――」

(メメ^Д^)「……?」

( -∀-)「――そんなの、いると思ってるの?」

何を言ってるのか分からなかった。
彼がああして存在する以上、どこかに彼を産んだ存在がいるはずだ。
……だがあえて青年の嫌いな言葉を引用すれば、『世の中には例外なく例外がある』のだ。

(メメ^Д^)「どういう、ことだよ……!」

(;-∀・)「――いやまぁ、あの……。…言いづらいなぁ、察してよ」

何か今更ながら躊躇し始めた。
てっきり知っている、と思っていたので意外だったのである。
例外ない例外の、例外の少年。その正体は――


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:25:14.76 ID:SxHmPpOv0
……………


|゚ノ ^∀^)「…馬鹿らしくなってくるよね。世の中って」

(,,〃Д゚)「あ?」

――戦闘が止まる。
珍しく、本当に珍しくレモナがまともなことを言い始めたからだ。
…基本的に食欲・性欲・睡眠欲と闘争本能に引き摺られるように生きている自由少女である。

|゚ノ ^∀^)「――だって、世界と神様の仲が悪くなったの、全部君のせいじゃん」

レモナは、――語る。
自分が殺してきた人間と、その他のどこかで死んでいった人間達の代弁として。

|゚ノ ^∀^)「『対特異点用決戦兵器』だっけ?…そんなのの為に、国が滅びかけたんでしょ?」

(,,〃Д゚)「まぁ、な」

|゚ノ ^∀^)「僕達に恨まれても仕方ないよね。だってさ――」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:28:13.94 ID:SxHmPpOv0


――魔術の基本は等価交換。
『タロス・ギコール・O・ハイドレード・プネウマ』
その理不尽と言わざるを得ない魔法は、何が元になっている……?


|゚ノ ^∀^)「――だって君、僕のご先祖様を犠牲にして造られた、『人造人間』でしょ?」

(,,〃Д-)「…………」


人造人間。ホムンクルス。
錬金術の目的の一つ。人が人を作り出すという、神の領域に踏み込む禁忌。
それを生み出すのは方法は諸説ある。聖書の概念で言えば、「泥をこね人型を作り魂を吹き込む」だろうか。


…ならば、誰が考えたのだろう。
“人間以外の人間”の魂を、エーテル体を使えばいいと。“人間とは数えられない人間”を犠牲にすればいいと。
魔法使い以外の、異端の異能の異形を、化物を……

――つまり『超能力者』を、喰わせてしまえばいいのだと。
誰が、考えてしまったのだろう。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:31:12.73 ID:SxHmPpOv0
――遥かな昔のことだ。手から火を出せる人など『人間』にカウントされなかった。
奇しくもそれは近世に至るまで行われた魔女狩りと近い。
……人は弱いから。異端も異能も異形も、自分とは違う存在を、恐れるのだ。

|゚ノ ^∀^)「人間って怖いよね。科学で言えば人体実験になるのかな?…そんなのを、大昔にやっちゃうんだからさ」

ギコの名前。
先頭につく『タロス』は自動人形を。末尾につく『プネウマ』は吹き込まれた魂を意味する。
この世界における最初の人造人間。対特異点用決戦“兵器”。

――無限とも言える膨大な魔力は、喰らった異能達の魂そのもの。
――身体そのものが魔術回路であることは、その身一つで能力を使う異形達をバラして実験して調べた結果。
――その身に宿る力の全ては、魔法使いを保護し異端達を駆逐する為。

|゚ノ ^∀^)「僕のご先祖様……お兄ちゃんの親友も、怒るはずだよね」

(,,〃Д-)「……ああ」

|゚ノ ^∀^)「今まで仲良くしてた人がさ、自分の両親や兄弟や親友や恋人を殺して殺して殺して殺しまくった結果、なんだから」

当たり前だった。どちらも、生物として正しかった。
敵対者を殺した一人。同胞の仇を討った一人。…誰も間違ってはいないのだ。
誰一人恥じるようなことはしていない。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:34:14.90 ID:SxHmPpOv0
誰も間違えていないから、もう彼等はどうしようもなかった。
もう二度と――止まれなかった。
全てを破壊するまで。自分を生み出した世界そのものを、消し去るまで、――止まれなかったのだ。


これを「可哀想」などというのは平和ボケした奴の文句だ。
どうしようもない。自分達を守る為の大義名分。それが正義だ。
本当に他者を犠牲にできない人間は、受精の段階で負けるはずなのだから。

(,,〃Д-)「分かってるさ、そんなこと。アイツがキレたのも頷けらァ」

――分かってる。
そんなことは考え果たした。仕方ないとも理解する。
けど……

(,,〃Д゚)「…もう分かんねぇんだよゴラァ。俺は妹も好きだったし、アイツも好きだったんだ。
       ――ああ、今なら堂々と言えるな!散々ウダウダ言ってたが、俺はあの生活が大好きだった。一生続けばいいと思っていたさ」

そう言い、障害物を薙ぎ払う。
戦いを終わらせる為に。もう――戦う意味などないのだから。

(,,〃Д-)「何しても、どーしよーもねぇんだから……」


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:38:56.08 ID:SxHmPpOv0
――右手を翳す。魔力の共振による破壊。
殺すつもりはなかったし、多分殺せないのだ。親友の顔がチラつくせいで。
だから手加減はしたつもりだった。


しかし。
意味はなかった。

|゚ノ*^∀^)「――アハッ」

(,,〃Д゚)「…………あぁ?」

そもそも“破壊”されなかったのだ。放たれた音波は翼に傷一つつけることはなかった。
強制破壊が破られた。
つまり――

|゚ノ ^∀^)「管楽器ってさ、吹き方だけで音を調整するんだって。他にも年季とか色々……。これも、そういうことなんでしょ?」

レモナ・アルテミス・エルシール。
『環の光の少女<クロウ・クルワッハ>』と呼ばれる。
特異点能力者。能力は、エーテルの構築と精製。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:41:27.72 ID:SxHmPpOv0


|゚ノ ^∀^)「――“ずっと魔力の新しいパターンを生み出し続ければ”、破壊されないんでしょ?」

ギコは身体そのものを共振器とすることで相手の呪力構成を把握し破壊している。
…それは大前提として、『一個体が使える魔術系統・超能力は一つ』というものがあった。
無論例外はあるが、それでも十個も二十個も変換方式を切り替えられる存在など、……まずいないのだ。

『正体不明』の彼は例外中の例外である。
他者の精神構造を理解し引き継ぎ同化できるからこそ、複数の能力を統合し使えることができる。

(;〃Д゚)「ありえねぇぞゴラァ……」

隙間を付く、という甘っちょろいものではない。
外側から攻め出したのだ。相手が自分を解析するのなら、それ以上の速さで進化し続けるまで。
現在判明している一千万種の固有呪力、世界全ての魔術系統の精製方式、そして六十億の限界の力、――“よりも多いパターンを”使いこなして。
演算を演算し、掌握を掌握し、識別を識別する。再サーチの暇すら与えない。

|゚ノ*^∀^)「――さぁ、百倍返しだぞっ♪」

嗤った。なんとも愉しそうに。やっと自分のターンだと、言うように。
………悲劇の英雄が感傷に浸る暇はありそうになかった。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:44:11.91 ID:SxHmPpOv0
……………


――誰にでも、心の奥底にしまっておきたいことがある。
思い出したくないこと。
自分勝手な想いや、どうにもならないこと。
現実には決して解決しないこと。もう、二度と戻ってこないこと。

だからこそ、
他の人には知られないように、それに自分が喰われないように、――大切に隠しておくのに。


( -∀・)「…もろいなぁ、本当に」


しかし。
『正体不明』の化物は、理解し引き継ぎ同化し……終わらせる。
足りない部分は補う。歪んだ部分は包み込む。穢れた部分は浄化する。

 心を溶かす。
 精神を犯す。
 存在を、――愛す。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:47:12.07 ID:SxHmPpOv0


(メメ^Д^)「(やっべぇな……)」

勝てない、と思った。これほどまでに勝機がない勝負は初めてだった。
“自分以上に自分自身を理解する敵”
打つ手がない。

…事実、意気込んではみたものの、たった一言で動揺が広まった。
「ギコール・ハニャーンは人造人間。親がいるはずもないし、守ってやる必要もない」と、そんな言葉で。
嘘……とは思えなかった。


( -∀・)「…可哀想に。本当に、皆可哀想だ……」

( #ФωФ)「ふんッッ!!」

――土地神の力により呼び出された水が、竜へと変化する。
巨大な顎門が狙いをつけるも特に気にしていないらしく、無双系ゲームの雑魚キャラを蹴散らすように他のメンバーを潰していく。
気儘に舞うように。どこにもなく、どこにでもある。弄ぶように。

相手にすら、なっていない。
強過ぎる――。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:50:12.45 ID:SxHmPpOv0
――“がちゃん”、


(  ∀)『――ハイル』

「我は求め訴えたり」。そういう意味だった。
左目が白濁し右腕がドクンと蠢いたのが見えた。一陣の風が吹き抜け水竜が、あろうことか素手で正面から……潰された。
何かに喰われた如く。何も感じる暇もないほど速く。

(;∵)「よりにもよって、スネークバイトか…――ッ!!」

ガシャァァアン!!

( -∀・)「……残念。“蛇”じゃなく“竜”だよん」

首がない西洋甲冑を竜の右腕、裏拳の要領で薙ぎ払う。ノーバウンドで十メートル以上吹っ飛ぶビッコ。
場合によっては30キロゆうに超える重量を持つスプリング鋼のプレートアーマーだが、どうやら特に関係なかったらしい。

次に近くの木を引っこ抜き――放り投げた。
水流の剣を構えた杉浦が直撃し、ゴキゴキと嫌な感じを与える音がした。肋骨が三本ほど折れたようだ。
瞬間的に魔力を切り替え、タネも仕掛けもない左腕から炎をばら撒く。それにより後ろに迫っていた二匹が後退する。
そして、またも響く能力の変更音。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:53:16.74 ID:SxHmPpOv0
( -∀・)「外待、車軸雨……からの、細雪」

――呼応するように『正体不明』の周りの雨が強くなる。
地面に打ち付けられ跳ねた水滴が凍り付き、ダイヤモンドダストとなり防壁を作った。
本当に手がつけられない。


(;"ゞ)「くっそう、なんだよあのチート……」

ミ #Д彡「ってアンタ一番何もしてないぜい!!」

(#メ^Д^)「この非常時に喧嘩してんじゃねぇよッ!――作戦、思いついたぜ」

…その一言で人外達の顔が僅かに期待を取り戻した。
ちょうど、――『正体不明』に揺さ振られた時とは真逆。何も根拠がないが、それでも信頼できる。
「助け屋」のブレーンの八咫烏は、他でもなく「助け屋」を守る為に策を講じる――。

(メメ^Д^)「……でぃ。…お前は女だよな?」

(#゚;;-゚)「えっ……」

完全に精神が磨耗したキューを下げて来たでぃ。
本人が言ったことだ。主人を止めるのは家臣の役目だと。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:56:11.76 ID:SxHmPpOv0
……………


――プギャーが残りのメンバーに下した命令は一つ。時間を稼げ。
何をするか、は言わなかった。近距離戦では“読まれる”可能性があったからだ。

しかし、彼等は従った。
何の迷いもなく。躊躇すらなく。
…それを信頼と言わずなんと言う?

最後の悪足掻き、怒涛の攻撃が『正体不明』を襲う――!
数量では圧倒的不利の中、紙一重で防ぎ、かわし、いなす。素の技量の高さが見て取れた。
段々と人外達が押され始めた中――


(メメ Д)「ったく、何年振りだっての……」

一人の魔術師が、紛う事なき本気の一撃の為……力を溜めていた。
――その一瞬。敵対者と目が合った。
「来てみろよ」と。彼は、そう言っていた。そう聞こえた。

(メメ^Д^)「言われなくとも、行ってやる――よッ!!」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 21:59:16.13 ID:SxHmPpOv0


――始めの一歩は『朱雀』。
後ろの足が前の足を追い越さない足運び。

――次の一歩は『玄武』。
摺り足のような土を滑る移動。同時に響く荘厳な声。

(メメ^Д^)『――はらいたまう、きよめたまう』

――その次の一歩、『白虎』。
支那の夏の始祖、禹の生み出した呪術歩行法。

――また次の一歩、『勾陣』。
日本では「反閇」と言った。動きの速度が増す。

(メメ^Д^)『はらいたまい、きよめたまう。いわまくもあやにかしこきはらえど大神のおおみいずをこいのみまつり、』

――なおも前に出す一歩、『帝禹』
道教を起源とする。りんと神楽鈴が鳴った。

――それに継ぐ一歩、『文王』。
神道、仏教、修験道。そして、陰陽道で使われる。右腕には密教の呪力。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:02:18.63 ID:SxHmPpOv0
(メメ^Д^)『すべてのまがごとつみけがれはらいのぞかむと、あまつのりとのふとのりごとのろ――』

――更に踏み出す一歩、『三台』。
唱える言葉には様々なパターンがある。前方の仲間が避けた。

――勢いをつけた一歩、『玉女』。
そしてこの形式は――


――終の一歩、『青竜』。
天社土御門神道!

( -∀・)「!!」

(#メ^Д^)「死んどけ――ッ!!」


……三通りの呪力が全くの同時に爆ぜた。
神道の『禊ぎ』及び土御門家陰陽道の『禹歩』、そして密教の禁忌級の護摩法である『茶吉尼天神変不可思議秘法』。
濃縮していた禍と魔力を霧散させ、場を清め呪力強度を増大させる。そして、命を消費する強烈極まりない奥義をそのまま叩き込んだ――!

――通称、『三叉奥義の百八計』。
三つの流派を統合した、陰陽術師としての最終奥義だった。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:05:10.90 ID:SxHmPpOv0

――しかし、
なおも『正体不明』の化物は、立ち塞がる――!


(  ∀)『――拒絶する』

それは血の如く赤く、それは罪の如く緋く、それは人の如く紅かった。
両腕を交差させた防御形態。前方に生み出された真紅の壁がプギャーの右腕を受け止めていた。
最も苛烈で。最も過激かつ。最も加熱した。

――神魔の盾、『拒絶』の特異点能力。
白髪の青年は不完全ながらも確かに『事象の地平面』を発現させていた。
その境界はたとえ光であろうと超越することが不可能。あらゆるものを“拒絶”する世界の向こう側。


だが、
八咫烏は笑う。

(メメ^Д^)「――はん。そんなのは、予想済みなんだよ」

その時、彼は見た。
攻撃を失敗した男の後ろ、よく知る誰かが迫っていることを――。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:08:10.83 ID:SxHmPpOv0
(#゚;;-゚)「――これで、本当に終わりなのです。……『朝比奈もらの』様」

(;-∀・)「……え、――ッ!!」


――それは一瞬だった。
たった一声。名を持たず、何事にも制約されないはずの絶対者が、“人間”に戻った瞬間。
『真名で縛られない』という事実が核だった魔術が音もなく崩れ去る。至上最強の防壁があまりにもあっさりと……消えた。

白い髪は黒くなり。蠢いていた魔力は消滅した。
今、でぃの目の前にいるのは、正体不明の神様でも化物でも何でもない――ただの、彼女の元主人である『朝比奈もらの』だった。


(#゚;;-゚)「私が…貴方様の名を忘れていると思っていたのですか……?」

…両手に握られているのは刀ではない。
槍だった。柔らかな光を放つのはヤドリギの槍。北欧神話において不死なる神を殺した神槍。
その名は『ミスティルテイン』。神性を完全に滅却する特性を持つ、プギャーの奥の手が一つ。

(# ;;-)「――だとしたら、私は些か寂しいのです……」

本当に哀しそうに呟き、かつての臣下は槍を突き出す。その――左胸に向けて。
そしてそれは、――どことなく優しい所作だったと言う。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:11:17.24 ID:SxHmPpOv0
……………


――どこかの世界のいつかの時間の青年は、負けた。
左胸を貫かれ魔術の使用権限を全て奪われた。ゆっくりと膝が折れ崩れるのを……かつての家臣が支えた。

(; ∀)「…覚えて、たんだね……」

(#゚;;-゚)「………何をおっしゃるのですか、当主様。主人の名を、命の恩人の名を、――初恋の人の名を、忘れるはずがないでしょうに」

(; ∀)「……ふぅん。女の子は……やっぱり、――強いなぁ……」

静かに――抱き合うように腰を下ろした二人。
もう槍は消えていた。もっとも、しばらくは能力も魔術もロクに使えないだろうが。
…彼女が刺したのは左胸。それは魔法などに左右されず、主人の名だけでなく特徴さえも記憶していた確かな証拠だ。

(;-∀・)「ふぅ……、……ゲホッごほっ…ッ!!」

(;#゚;;-゚)「――当主様!?」

一息ついたその瞬間。口から、大量の血液が溢れ出した。槍の所為ではない。あれは“魔術的物質を”穿つ武器なのだ。
吐血は単に“人間”に戻った為。
――つまり、高校生時に併発していた病が、戻ってきただけの話だった。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:12:33.18 ID:spns4ZJM0
これって他の話読まないと理解できない?
( -∀・)とかよくわからんのだけど
眼帯モララーとなんか違うの?


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:14:11.88 ID:SxHmPpOv0
(; ∀)「ぐッ……大丈夫、慣れてるから……」

顔面は蒼白。目は虚ろ。唇も血色が良くない。
そんな中でも、朝比奈もらのは立ち上がる。最後の仕事をする為に。でぃの静止など耳も貸さず。

(;-∀・)「視界が……ぼやける…」

何がどうなったのか、片目からも出血し始めた当主様だが、歩みは止まらない。
――近寄ったのは木刀。随分と昔は使っていた彼の武器。
手に取ると……僅かだが懐かしそうに、震えた。目を細めた彼が何を思ったのか誰も知らない。

(;-∀・)「危ない、よ……」

(;メ^Д^)「お、おう……」

深呼吸。平正眼に構える。何故だか彼等は、その一瞬が最も美麗に感じた。
そしてゆっくりと上段に移行し――

(;-∀・)「っぁ――!!」

“眼前の空間を”切り裂いた。
無音。現れたのは時空の裂け目、ワームホール。
使えないはずの『同期』のフル発動し、不安定な場所に狙いをつけて穴を空けたのだ。


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:17:16.92 ID:SxHmPpOv0


それが何処に通じているかなど、訊くまでもないことだった。
黙る人外達。再び崩れ落ちた当主。でぃが駆け寄り、ほとんど泣きながら抱き起こした。
――止まった時の中。一人が、彼に話しかけた。

o川*゚ー゚)o「……もしかして、良い人なの?あの人みたいに」

いつの間にやら復活していたキューだった。
縋りつかれながらも薄く目を開け、黒髪の青年は答える。

(;-∀・)「君のイメージする……っ、『ギコール・ハニャーン』を『良い人』とするなら……きっと僕は違うね。
      …ただの臆病で、愚かな、弱虫だよ……。ずっと、昔からね……」

o川*゚ー゚)o「………」

しばらく黙っていた銀狐。
だが、やがて一言こう言った。

o川*^ー^)o「――そんなことないよ。あなた、見かけは怖いけど、とんだ良い人だよ?……きっと、ずっと昔からね」

そーかい、と当主は短く返した。鼻で笑うのも忘れずに。
満足気に微笑むと、キューは特に迷いもなく――裂け目の中に飛び込んで行った。


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:20:17.06 ID:SxHmPpOv0

――沈黙したままの残りのメンバー達。
罠、という可能性も拭いきれない中、あそこまではっきりと「良い人」と断言し飛び込んで行ったキューこそ……「良い人」なのだろう。

(;-∀-)「(…もっと、自信持てばいいのに。君は……滅茶苦茶いい女だよ)」

彼女の抱える不安や後ろめたさを共有した青年は、素直に、そんな風に思った。
“弱い、――なのに、弱さを見せない”。きっとそれこそが真に“強い”ということなのだろう。


( ^ω^)「……勘違いすんじゃねーお」

唐突に、西川が言う。
憤りを隠そうともせず憎々しげに。

( ^ω^)「僕はアンタを信じるわけじゃないお。……アンタの、大事な人を信じるんだお」

(;-∀・)「………ハッ、戯言を」

そして、同じように裂け目に入っていく。
その後姿に「アイツは寂しがりだから、たまには遊んでやってくれよ」と。小さくそんな一言を付け加えた。
彼の能力。他人の心と同化する、というもの。…それは関係性が深ければ深いほど完成度が増す。
あの歌姫と彼がただならぬ仲ということは、西川にも分かったのだ。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:23:15.61 ID:SxHmPpOv0
爪-ー-)「………皆、行こう」

立ち直ったじぃが周りに声をかける。極めて珍しい、真面目な声で。
神の獣の名に相応しい雰囲気を纏いながら。

(;"ゞ)「しかし――」

爪゚ー゚)「僕は、一応だけど、『麒麟』だよ。…それぐらい分かる」

『礼記』によれば、麒麟という瑞獣は、仁のある王が出た時のみに現れる神聖な生き物である。
…もしかすると、未熟なりに分かったのかも知れない。朝比奈もらのという人間が“わざと避けずに”攻撃を受けたことを。
あの銀狐の行動も頷ける。『九尾の狐』は反乱を起こすこともあれど、基本的には賢王を守る守り神だ。


――少しずつ、人外達がいなくなっていく。
俯き加減でそれを見ていた青年は、でぃを除いた最後の一人、――プギャーを呼んだ。

(;-∀-)「……挨拶が遅れた…けど、久々だね…」

(メメ^Д^)「…ああ。随分、久々だ。すっかり忘れていた」

二人は一度出会っていた。
「朝比奈でぃ」という少女の人生の、何度目かの分岐点で。


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:26:11.84 ID:SxHmPpOv0
しとしとと泣く家臣を優しく――本当に、優しく抱き締めつつ、彼は語り出す。
最後の締めと言わんばかりに。

(;-∀-)「…僕は、世界中の魔術を学んで、…っ、一つ気づいたことがある。人間学的証明…で言えば『神』と呼ばれる存在は完全…ゴホッ……だ。
       ――でもさ。たとえ……唯一神でも、真の意味での完全無欠の存在は、どこにもいないんだよ」

――それは例えば道教における天帝が七つに分かれたように。
あるいは十字教の唯一神が、天使と言う眷族を多数作り出したように。
もっと言えば『付喪神』という究極の多神教が存在しえるように。

本当に完璧な存在であるならば全て自分でやってしまえばいいのだ。時空を掌握し、都合良く世界を作り変え。
…それができないというのは、『神』はとんでもなく適当で酷い奴か、もしくは“完全ではない”絶対者である、ということだ。
人間が想像する限界。すなわち世界の限界。

(;-∀・)「つまりさ、一人じゃ何もできないのさ。――ううん。もしかすると単に寂しかっただけなの……か、な…」

(メメ^Д^)「…………」

…ああ、とプギャーは思い出した。人ではない身になり、最初に実感したことを。
――人間は、一人では生きてはいけない。千年も生きていると、“生きることそのものが”馬鹿らしくなってしまうのだ。

どれほど自分が幸せだったのか、分かった。
人の身が不便?…違うな。そんなのは、違うのだ。


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:29:13.03 ID:SxHmPpOv0


(;-∀・)「……ほら、でぃ。君のご主人様を、助けに行かないと……」

(# ;;-)「いや、なのです……」

出発を促すような言葉に対し、少女は反抗した。
ポロポロと。静かに涙を流しながら。彼を抱き締め捕縛していた。

(# ;;-)「…もう当主様は…独りになってはいけないのです……。二度と、絶対に……」

( -∀-)「…………」

(# ;;-)「私じゃ…足りないかもしれないけど……――それでもずっと傍にいますから……」

――朝比奈もらのは思う。自分は、間違っていたと。
自分に縛られないように?……自意識過剰もいいところだ。何様のつもりだ。

…違う。
彼女は縛られていたのではない。――大切にしていただけなのだ。
自分の想いと愛しい人を大事に抱えていただけの話。それをさも自分が強制したかのように語るなど、勘違いも甚だしい。
でぃは、最初から誰に指図されるでもなく、ただ好きだったから――


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:32:15.01 ID:SxHmPpOv0
(  ∀)「僕は……本当に、幸せだなぁ……」

ずっと、昔から……怖かった。
期待されるのが、信頼されるのが、深く深く愛されてしまうのが――怖かった。
いつか自分の存在が周囲の大事なモノを壊してしまうんじゃないかと。裏切ってしまうんじゃないかと。


――でも、違った。
もう今ならちゃんと分かる。

 どこにでもあり、どこにもない。
 あらゆる知的生命体の『中身』で、当たり前過ぎて皆気がつかない。
 幻の如く、焔の如く、水面の月の如く、虚空の如く、残響の如く、蜃気楼の如く、夢の如く、影の如く、鏡像の如く、変化の如し。


やがて。
悠久の時のような緩やかな時間の末――。

( -∀-)「…でぃ」

(# ;;-)「………はい」

( -∀-)「本当に、ありがとう……」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:35:10.77 ID:SxHmPpOv0


愛しい言葉のやり取り。
…だが。また、“それ”が起こる。

( -∀-)「――どうか、幸せになってね」

――ゆっくりと彼を抱き締めていた少女の意識が、落ちた。
哀しそうな顔で何かを言いかけて。口にしようとした言葉はなんだったのか。他の誰にも分からない。
その様子を見、まるでいつかの再現だ、と彼は思った。


でも、今日はその力を大して知りもしない誰かの為に使おう。
君を幸せにしてくれる、誰かの為に使おう。
“今更”なんかじゃ全然ないから。僕も君と一緒だから。


(メメ^Д^)「……お前」

でぃを背負いながらプギャーが呟く。
これもいつかの再現だ。青年の物語はここで終わり、……あとは“彼等”の物語。

(;-∀・)「僕は……もう、いいんだ。そろそろあっちで“待たないと”」


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:38:14.16 ID:SxHmPpOv0


――そう言った彼の目に映るのは光だった。無数の色とりどりの光。
『正体不明』の何かに絡みつく暖かな光。指輪さえ失くした右手で掬う。キラキラと輝き零れていく。
それは喩えようもなく美しく、それでも喩えるならば――『世界そのものの美しさ』か。そんな風に感じさせた。

その中でも一際鮮烈な紅き線。どこまでも紅く、どこまでも深く、どこまでも熱い繋がり。
自身の右胸から伸びる一本の線を愛おしそうに撫でる。


( -∀-)「……僕はもう、……自分の『中身』を見つけたから」

――そう言い、朝比奈もらのは笑った。儚く、素直に、笑った。
それは紛うことなき『進化』だった。全てを手に入れている故に何も手に出来なかった『天災』が、ただの『人間』となった証明。
馬鹿みたいに単純だが、どう考えても時間をかけ過ぎているが、大切なモノを幾つも取りこぼしているが……


確かに気づき、変わったのだ。
誰にも奪えない『中身』を、手にしたのだ。





62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:41:10.49 ID:SxHmPpOv0


九日目 午後 終



私はあなたが好きでした
そして、今でも好きなんです
今更かもしれないけれど……私はあなたが大好きなんです

たとえ、あなたの世界が崩れても
たとえ、私の世界が滅茶苦茶になっても

それでも
きっとその想いは消えません

…あなたは私に“魔法”をかけた
誰にも説けない、どうやっても解けることのない、“魔法”をかけた……



―― できることならば、互いに幸せに終わる物語を ――



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:44:11.93 ID:SxHmPpOv0
ご支援ありがとうございました。
…誰を“待たないと”いけないのか分かりましたか?


タイトルである「だからみんなで」は曲名。
…人外連中には誰かさん方みたく、違う世界でそれぞれ生きるー、なんてことは言わないで欲しいものですが。
六掛ける九の答えを知っていますか?…宇宙ですら不完全なのに、独りで生きていけるわけがないでしょう。

質問には答えますが多分ないと思うので。
では、来週で終わりです。


【ざっつだん・魔術考証】
天皇陛下の苗字をご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
「倭」と答えた方は中々凄い。…ですがまぁ、一般的な話では「存在しない」が正しいのです。
名前というのは結局のところ識別記号でしかなくすなわち『神』には必要ない。ていうか次元が違うから発音すらできないこともしばしば。

人間は、家に縛られ血に縛られ土地に縛られ才に縛られています。
筆頭が『名前』です。真名(人の諱ですね)が魔術において重要なのはこれが理由だそう。本名で呼ぶのを避ける、字(あざな)の風習もここから。

――そういうわけで「名前が認知されていない」というのは絶対者の第一条件。
故に『正体不明』の天災は“名前を呼ばれたこと”で支配権を失ったわけなのでした。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:47:11.66 ID:SxHmPpOv0
>>51
でぃのよく言う「当主様」が( -∀・)です。
本名「朝比奈もらの」で、通称が「モララー」だった青年。華奢でヘタレ君。
番外編に出てきていた人ですね。一応十年ぐらい前に死亡したことになっています。

対し、( φ∀・)は「モララー・ドレイク・アヴァロン」と言うFOX隊員です。
当主様とよく似ているのですが北欧系の顔立ちで目が蒼い。この作品で零話から出てきている人。ついでに年齢もちょい上です。

両者はあらゆる意味で対極で、天敵同士で、お互いにお互いが生物として邪魔。
似た者同士の癖に滅茶苦茶仲が悪い。


…ややこしくなってしまって申し訳ありません。
「2+1」と平行していた際、“当主様=モララー”というスターシステムを逆手に取った引っ掛けを。
その名残です。
厳密には名残っていうか……次への伏線なんですけども。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 22:51:03.53 ID:spns4ZJM0
>>64
丁寧にありがとー



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:06:22.08 ID:OJa0Uryd0
やっぱりモララー大好きだ

乙。投下あんまりむりしないでくれ


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:08:16.88 ID:SxHmPpOv0
>>66
別に無理なんてしてないですよ。
好きでやってるんですから。


…ところで、「モララー」はどっちのことですか?


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:24:00.52 ID:OJa0Uryd0
>>68
そんな作者の作品が俺は大好きだ

「朝比奈もらの」の方だよ
2+1含めて、何だかんだで心理描写が一番多い気がするし


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:31:51.05 ID:SxHmPpOv0
>>70
どうもありがとうございます。
精進します。


「朝比奈もらの」は、元が人間じゃないのでね。
一般に『天才』って大概の場合、普通の幸せやらまともな人生無理じゃないですか。それの究極形のつもりです。
…まぁ、平たく言えば「仮面ライダー剣」の「相川始」ですがw。

また「2+1」も読み直してあげて下さい。
“人間ではない”と分かった今なら、また違う意味が読み取れるのではないかと。
「魂のgradeが違うんだよ」という俺様発言に隠された哀しさが分かっていただけるのではないかと思います。




…では、そろそろ。
皆様良いバレンタインを。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:41:11.15 ID:NhQfvkBk0
続きが来てたとは
2+1から読んでくる乙


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/13(土) 23:58:21.81 ID:OJa0Uryd0
>>71
久しぶりに読み直してみようかな
あのモララーのキャラがすごくいい

次回のもしもしもバレンタインの話も楽しみにしてるよ
べっ、別に期待してるんじゃないんだからね


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/14(日) 00:19:36.58 ID:yZyHicoP0

作者超がんがれ


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