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◆(*‘ω‘ *) Channelers のようです 第一四話 【 ちいさなきせき いきたあかし 】( VS. ワカッテマス④ )

前の話/インデックスページ/次の話

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:05:01.82 ID:nJcAhhRt0
※まとめ: http://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-497.html
       http://boonfestival.web.fc2.com/channelers/list.html


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:07:23.12 ID:nJcAhhRt0
 

==
===


──いつからだろう、その大きな窓へ出入りするようになったのは。


 最初は単なる好奇心、興味本位のことだった。
 壁を越えて中に降り立ち、芝生の上をのんびり散策する。
 脇には耽美な色合いの花卉が咲き乱れていた。


 塀の向こう、林のほうから聞こえる鳥と虫の声。
 そんな中、草花を揺らす薫風に乗って、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
 わたしの足は自然とそちらに向かっていた。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:09:39.36 ID:nJcAhhRt0
 
 彼は最初、きょとんとした様子でわたしを見ていた。
 わたしもそんな彼から視線を外さなかった。
 危機感はなかった。 不思議なもので、一目見た瞬間からわたしの警戒心は掻き消えていたのだ。

 そのうち静かにわたしを招きいれると、柔らかな表情で彼は言った。


『 すごくきれいなめ。
 そのめがあれば、とおくのけしきもはっきりみえるね 』

『 へいをこえて、じゆうにかけまわって── 』

『 けほ、けほ 』

『 …… 』

『 うらやましいな。 ぼくもいつかおそとに── 』


 彼はわたしに美味しい食事と、幾許かの間、心地よい寝床を提供してくれた。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:12:15.63 ID:nJcAhhRt0
 
 ──ほどなくわたしは、彼女とともにそこを訪れるようになった。


『 いらっしゃい……わあ、かわいいおともだち 』

『 こいびと? それともおよめさん? 』

『 あはは、おもしろいこえだなぁ 』

『 ──きみもこのにおいがすきなの? このびんはね── 』


 晴れた日は日光浴。
 雨の日は雨宿り。


『 ごめんね…… 』

『 うん……そうなんだ。 え? 』

『 なぐさめてくれるの? ……ありがとう 』

『 きみのおおきなめは、なんでもおみとおしなんだね 』

『 わかってますくん。 それからきみは──ぽっぽちゃん 』


 彼とともに過ごした期間は、けして長いというわけではなかった。
 けれども、日々は平穏で、安らぎと幸福に満ち満ちていたことをわたしは否定しない。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:15:04.45 ID:nJcAhhRt0
 
 そのうちに、連れ立って彼の部屋を抜け出す際、
 隣の窓からも声が聞こえるようになった。


『 あたらしいおくさま ── ぼっちゃまへのしうちは──』

『 やっぱりまえのおくさまのほうが── 』

『 しっ ── こえがおおき ── もしだんなさまのみみにとどいたらどうなるか── 』

『 ── ういえば ── っちゃまのへや ── さいきん── 』


 ……。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:17:31.38 ID:nJcAhhRt0
 
──そして、忘れもしないあの日の出来事。


 麗らかな午後。
 窓から差しこむ柔らかな日差し。
 床に出来た陽だまりへ集い、三人でじゃれていたあの日。


 突然。
 部屋へ押し入った者たちによって、
 わたし達三人の安息が終わりを告げた日。


 妹が、
 わたしの眼前で、その者達の手に囚われた瞬間のこと。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:20:18.70 ID:nJcAhhRt0
 
『 ごめんなさい…… 』

『 やめて、やめて、おかあさま! 』

『 おとうさま! たすけて! おねがいです! 』

『 わるいのはぼくなんです! このこたちはわるくないんです!』


『 ──にげて! 』


 半ば放り出されるかのように、窓から追われ、わたしは彼に閉め出された。
 中からは、怒号と叱責と……彼の泣き叫ぶ声が聞こえた。

 その日、彼女が戻ってくることはなかった。
 いや、その日を境に、わたしの妹はいなくなってしまった。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:22:50.13 ID:nJcAhhRt0
 
 探そうとした。
 幾度も幾度も彼女の影を追った。
 樹木の傍らに、芝生の上に、そしてあの窓のもとに。

 しかしあの日からというもの、
 彼以外の者達に見つかるたび、鬼のような形相で追い回されるようになったのだ。

 何度と無く叩かれ、物を投げつけられ──。
 窓どころか、そのうち塀の周りにすら、容易に近づけなくなった。
 もはやそこは、皆で仲良く日向ぼっこのできる安寧の地ではなくなっていた。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:27:10.26 ID:nJcAhhRt0
 
 それからのわたしは孤独だった。
 生存のためには、冷たい土を駆けて野生を取り戻す必要があった。
 不測の敵意に身を砕く日々が続いた。
 彼女の面影を抱きながら、草のしとねにひとり眠った。


 幾十の夜を越えたころだろうか──。


 ようやく彼と会えたとき、彼は無理やり鉄の箱に押し込められるようとしている最中だった。
 そして、その再開が彼の姿を見る最期の場面になった。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:29:28.22 ID:nJcAhhRt0
 
『 きっともどってくるんです。  きっと── 』


 案の定、わたしの姿を見止めた途端、見かけたことのある数人が奇声を上げて追ってきた。
 必死で逃げるわたしは、脳裏に彼の言葉を反芻していた。

 逃げて、逃げて──開いていた裏口から屋敷に滑り込んだ瞬間。
 例えようのない奇妙な感覚がわたしを襲った。
 そのとき、わたしの意志は固まったのだ。

 妹にもう一度会うこと。
 そのためにも、彼が戻ってくるのを待つこと。

 
 妹が好きだったそれを、
 わたしがどうしても好きになれなかったそれを、
 彼はずっと大切にしていた。

 彼はわたしに、戻ってくると告げた。
 わたしも、これがある限り、彼はここに戻ってくると信じていた。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:32:13.24 ID:nJcAhhRt0
 
 待っていた。
 わたしは彼を、ずっと待っていた。
 
 なぜかって?


 ……。
 ……。


 探していた。
 長い間、とても長い間、探していた。

 屋敷のどこかに居ることは間違いない。
 絶対に、間違いなかったはずなのだ。


 彼女は……。
 わたしの親愛なる妹は、いま、どこに?


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:34:23.12 ID:nJcAhhRt0
 
 けれども、ひとつだけわかっていることがある。

 わたしはこれから、愛する彼女のところへ行けるのだということ。
 ずっとずっと探していた妹に、また会えるのだということ。

 懐かしい……あの声が、ふたたびこの耳に届いたから。
 彼がようやく、この屋敷に戻ってきてくれたから。


 そうだ。
 わたしにはわかっている。

 わかってます。 だから──。

 ……。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:36:32.92 ID:nJcAhhRt0
 

 ……。

 ああ。
 明るい。
 こんなに穏やかな気持ちになれたのは久方ぶりだ。

 冷えたからだに暖かな空気が流れ込んでくる。
 まるで……陽光のもと、彼女と寝転んで過ごした春の芝生のようだ。
 彼の滑らかな掌が、わたしの背を優しく撫でていたあの午後のようだ。


 ゆえに、恐怖はなかった。
 陽だまりの下、まどろみに身を預ける瞬間のような、言いようのない心地良さがあった。



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:38:37.10 ID:nJcAhhRt0
 
===
==


 視界を覆う靄は散り、静謐なる世界は人工物の色を取り戻す。

 ギコのまなこが再び現実の像を結んだとき、
 そこからは一粒の雫が頬を伝っていた。


(,, Д ) 「……」


 壁を支えにゆっくり立ち上がる。
 彼の体験は配膳室でのそれに類似していたが、その中には一点の不快感も恐怖もなかった。
 めくるめく光の中、ただ力が抜けてゆく感覚だけがあった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:41:20.00 ID:nJcAhhRt0
 
 ギコはぼんやりとその肌合いを反芻した。

 これは何者かの記憶。 残された追想。
 オレではない、誰かが刻んだ追慕の情。
 
 いや、違う。

 強いて述べるなら、
 その感覚は── 【 走馬灯 】。


(,, Д ) 「……!」


 ギコは袖で強引に顔を拭った。
 そうしてドアを荒々しく開くと、頭痛のことも忘れ、廊下を一直線に駆け出していった。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:43:35.74 ID:nJcAhhRt0
 






             ── 第一四話 ( VS. ワカッテマス④ ) ──






 

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:45:50.03 ID:nJcAhhRt0
 
 ギコは走った。
 階段を一段飛ばしで駆け上がり、続く廊下を駆けに駆けて──。


(,,;>Д<) 「ゴルぁあッ!」


 半開きのドアを押しのけ、勢いよくその部屋へと踏み込んだ。


Σ(; ^ω^) 「び、びっくりしたお……驚かせるなお」

(,,;゚Д゚) 「! お前……」


 目の前に立っていたブーンが何事かと振り向く。

 雑然とした態様の部屋だった。
 典雅な装いの家具類に混じって、脚立や空の本棚などがインテリアの概念なく隅から並び、
 果ては雑貨の詰まったダンボールが無造作に散らばっている。
 窓一面を覆うカーテンは薄手ながら、ひしめく家財道具でさらに遮光され、室内は薄暗い。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:48:22.81 ID:nJcAhhRt0
 
( ><) 「……」


 ビロードは直立したまま、ただ一点を見つめ続けていた。
 ブーンの巨体を押しのけるようにして割り込むと、ギコは少年の視線を追い──。


(,, Д ) 「!!」


 そして、硬直する。

 漆黒とダークブラウンで塗りつぶされた床の一角に、丸く小さな陽だまりが出来ている。
 壁際のローテーブルの下、カーテンの隙間から射し込む一条の光のもと。

 そこには。
 痩せ細って骨と皮ばかりになった、まだらの黒猫が一匹。
 力なくその身を床に横たえていたのだった。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:51:10.99 ID:nJcAhhRt0
 
(,,゚Д゚) 「……こいつは」

( ><) 「……」

( ><) 「……ワカッテマス君」


 ぎょろりとしたまなこが特徴的な猫だった。
 瞼は薄く開かれ、濁った視線は微動だにしない。
 おそらくもう死んでいるのだろう。
 自然のスポットライトに浮かび上がる流麗なシルエットはどこか神秘的でもあった。


(,,゚Д゚) 「!」


 そして、その隣に。
 ガラス製のちいさなアンティーク・ボトルがひとつ、音も無く転がっていた。


(,,゚Д゚) 「……」


 ギコは深呼吸とともに “ それ ” を嗅いだ。
 埃の臭いに混じって感じるのは、探していた香水瓶の芳香に相違なかった。

 瞼の裏の銀幕へ映写された記憶の断片──。
 流れる映像とともに漂い、ずっと鼻腔を擽っていた、あの香りだ。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:53:11.54 ID:nJcAhhRt0
 
(,,゚Д゚) 「これが……お前の、さがしもの」

( ><) 「……」


 少年は無言で項垂れた。
 それが首肯を示す頷きなのか、消沈によるものなのかは、ギコには判断がつかなかった。


( ´ω`) 「……守っていたんだお、この猫は。
       ……ビロードの瓶を」


 ブーンは何気なく、床に落ちていた絵本を手に取り言った。

 爪を研いだ痕だろうか、装丁のところどころが破れ、著者の名前は判別がつかない。
 ボロボロの表紙には、
 コミカルだが柔らかなタッチで描かれた 『 かいぶつ 』 の、大口を開けている姿が見て取れた。


(,, Д ) 「──生きていた」

( ><) 「……え?」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:55:29.35 ID:nJcAhhRt0
 
(,, Д ) 「──生きていたんだ、こいつは。
     ほんのついさっきまで」


 ギコは吐き捨てるようにそう言った。

 匂いを通じて共有した──。
 いや、【 送られた 】、最期の情景。

 それは、草花萌ゆる高原の芝生の上で、毛づくろいにいそしむ一匹の白猫。
 そしてその傍らにはパジャマ姿の人間。

 目の前にたたずむ少年が、にっこり笑って、両手を伸ばし──
 『 自分 』 を抱きかかえようとする、その瞬間の映像だった。


( 。><)。. 「……うう」

「……ぐすっ。 ううう……」


 小さな泣き声がひとつ、部屋を覆う薄がりへと染み込んでゆく。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 20:58:06.59 ID:nJcAhhRt0
 
( ´ω`) 「猫……」


 ブーンは虚空に向けて呟いた。


「猫が 『 超能力 』 を持つことって……あるのかお?」


 彼の聡明なる ” 別人格 ” が、その問いかけに答えることはついになかった。
 答えられなかった、といったほうが正しいのかも知れない。


 静寂の室内に響くのは、ただ、少年のか細い嗚咽のみだった。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:01:17.13 ID:nJcAhhRt0
 
 ~ ~ ~

 ひとしきり泣いたあと、ビロードはハンカチで頬をぬぐい、言った。


( 。><) 「ワカッテマス君……。 おはかを作ってあげなきゃなんです」


 そうして猫の傍らにしゃがみ込む。
 くすんだ毛並みに頬は痩け、眼窩の深い窪みが痛々しく悲しい。
 彼の過ごしてきた月日は如何ばかりか──。 黒猫の長き孤独を想い、ギコは目を伏せた。

 ブーン達が見守る中、ビロードは光芒の中心へちいさな手を伸ばす。


( ><) 「!」


 しかし、その亡骸へ触れた途端、びくりと体を震わせ手を止めた。


( ^ω^) 「どうしたお?」

(; ><) 「あ、あう……」


 ビロードは口を開けたまま硬直している。
 ギコ達が近寄ろうとするのを視線で制すと、ようやくか細い声で言った。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:03:21.31 ID:nJcAhhRt0
 
(; ><) 「ぼく、ぼく……わかったんです」

( ^ω^) 「何がだお?」

( ><) 「見えたんです。 いま、一瞬。 ワカッテマス君の記憶が」

(,,;゚Д゚) 「え?」


 驚くギコを横目に、少年は猫を抱きかかえ、続けた。


( ><) 「ワカッテマス君は、ぽっぽちゃんの事をずっと探していたんです……」


 二人は同時に顔を上げ、それから見合わせる。
 聞き覚えのあるその名は、少年の口からそれぞれ別のタイミングで語られたものだった。
 ブーンは廊下で、ギコは黒猫の記憶の中にて。


( ^ω^) 「見えたって……そもそもぽっぽちゃんって誰なんだお? 猫かお?」

( ><) 「そうなんです。 ワカッテマス君のおよめさんなんです」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:06:05.13 ID:nJcAhhRt0
 
(,,゚Д゚) 「たぶん、嫁じゃなくて妹だけどな」

( ><) 「え?」


 その言葉に、ビロードは怪訝な表情を返す。


(,,-Д-) 「……なんでもねえよ。 で、その猫はどこにいるんだ?」

( ><) 「……中庭に眠っているはずなんです。
       ぼくが……ぼくが、ちゃんと埋めてあげたんです」

( ^ω^) 「埋めた……?」

(,,゚Д゚) 「……」


 ギコは知っていた。
 “ ぽっぽちゃん ” が誰の手によって、どのような末路を辿ったのかを。

 ギコは知っていた。
 推測ではあるが、知っていた。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:08:56.13 ID:nJcAhhRt0
 
(,,゚Д゚) 「……ワカッテマスは、望んでいたんだ。
     その子の隣で、ともに眠りにつくことをな」

( ><) 「……!」


 どうやら、下の部屋で “ 香り ” を通して体験したワカッテマスの追想を、
 二人はまったく感じ取っていなかったらしい。
 ギコは言葉を切ると、しばしそこで思考を巡らせた。

 黒猫が最期の力で送った “ 記憶の映像 ” は、自分だけに宛てたメッセージだったのか。
 それとも、ギコでないとその能力をキャッチできないほどに衰弱していたためだろうか。

 ──まあ、どちらにせよ。


(,,゚Д゚) 「行こうぜ、中庭に。 ワカッテマスを眠らせてやらなきゃな」

( 。><) 「……はいなんです!」


 ビロードはふたたび目元を拭った。
 そうして腰を上げると、三人は揃って部屋の入り口へ歩き出したのだった。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:11:48.94 ID:nJcAhhRt0
 
 扉を出る際、ブーンの脳裏に聞き覚えのある声が響いてきた。


『 ……ときにブーンよ 』

( ^ω^) 「……お?」

『 いったい、誰が物置を開けたのだろうな 』


 ロマネスクが呈したそれは、考えてみればもっともな疑問ではあった。

 二階にある他の殆どの部屋は施錠されていたはず。
 にも関わらず、物置のドアだけが開いていたのは何故なのか。
 猫が不思議な力で鍵を開け、ノブを回したとでもいうのだろうか。

 が、しかし。


( ^ω^) 「……いいんだお。 別に、誰だって」


 ゆっくりとドアを閉じる。 淡い陽光を背に感じながら。
 彼の “ 別人格 ” がそれ以上言葉を発することはなかった。
 今のブーンにとって、その疑問は謎とも呼べない、瑣末な事柄に過ぎなかったのだ。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:14:09.69 ID:nJcAhhRt0
 
 角を曲がって一直線に階段へ向かう。
 ギコとブーンに挟まれて歩くビロードは、抱いた猫の背を慈しむように撫でている。

 僅かに揺れる猫の毛並みは、彼に撫でられるたび、艶が戻ってゆくように感じられた。
 まるで生きているかのように、安堵に包まれ寝息を立てているかのように。

 ──その間も、ブーンはビロードの首元へちらちらと視線を送っていた。
 あくまでさりげなく、ギコへもそれをさとられないように、だが。

 そうやってしばし歩き、ホールへ戻ってきた瞬間のことだった。


(,,゚Д゚) 「!?」

Σ(; ^ω^) 「お……? な、なんだお」


 どん、がしゃん、という破壊音のようなものが、階段の下から響いてきた。
 続いて、けたたましい叫び声が、吹き抜けを通して辺りに木霊する。


(,,;゚Д゚) 「おい、これ……?」

(; ><) 「な、なんなんでしょう……?」


 三人は顔を見合わせると、すぐさま階下へ駆け降りた。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:21:57.17 ID:nJcAhhRt0
 
(  ゚¥゚) 「ぎゃはははは! すげーぜ! これ!」


 エントランスへ降りたギコ達は、廊下の先に人影を感じ、角に隠れて様子を窺った。

 そこでは、いつの間に館へ侵入したのか、
 坊主頭にピアスの若者が、まさに壁を蹴ろうと足を振り上げた瞬間だった。
 がん、という音が屋敷に轟き、ビロードがちいさな身を震わせる。


| l| ゚ー゚ノl 「バーカ。 はしゃぎ過ぎなんだよ」


 続けざま、小客間のドアから髪の長い男が顔を出した。
 手を使わないのが彼らの作法なのか、これまた扉を蹴り開けつつ、だ。


(  ゚¥゚) 「おら出てこーい! ユーレーちゃん出ておいでー!」

| l| ゚ー゚ノl 「バッカじゃねーの。 おめーマジ、バッカ」


 そうして彼は、小脇に抱えた電気スタンドの傘を放り投げる。
 坊主頭はもったいぶった動きとともに、ボレーシュートでそれに応じた。
 傘が割れ落ちる音を、下品な二つの笑い声が掻き消した。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:24:06.82 ID:nJcAhhRt0
 
(#^ω^) 「あいつら誰だお、何やってんだお……!」

(; ><) 「お、おうちが壊されちゃうんです……!」


 若者たちは二十代そこそこといったところだろうか。
 おそらくはギコ達と同じく、屋敷の噂を聞きつけ、肝試し気分でやってきた輩なのだろう。

 床に落ちたスタンドを、坊主ピアスがさらに蹴り付けた。
 傘の残骸が壁で派手な音を立てる。
 もう片方、ホスト風のロン毛男は肩を揺すって笑うと、廊下の端に勢いよく唾を吐き捨てた。


(,,#゚皿゚) (──クソっ!)


 これが、人払いの “ 臭い ” 、
 すなわち黒猫の能力が失われたことによる顛末なのか──。
 ギコは下唇を噛み締めた。

 これから先、物見遊山の闖入者が幾度となく屋敷に訪れることだろう。
 “ 能力 ” の及んでいなかった小客間の惨状を鑑みるに、
 屋敷が荒れ放題になるのは、そう遠くない未来の出来事かも知れない。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:27:16.58 ID:nJcAhhRt0
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「おーい、見ろよコレ」


 そのうちに、廊下の向こうから、角刈りの筋肉質な男が姿を現した。


Σ( ^ω^) 「あっ」

(; ><) 「あれは……!」


 男の持つ物体に、若者たち、そして少年たちの視線がいっせいに注がれる。
 新たな若者が小脇に抱えていたのは、
 ビロードが香水瓶を納めていたと思われる、例の宝石箱だった。


(  ゚¥゚) 「なんだソレぇ?」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「あっちの部屋にあったんだけどー。 ヤバくね?」

(  ゚¥゚) 「すげェーじゃん! ははは! お宝かよ!」

| l| ゚ー゚ノl 「バッカ。 なわけねーし」


 そう言いつつも期待は捨てていないらしく、ロン毛は宝石箱をまじまじと見つめ、口を歪ませる。
 坊主が箱にじゃれつくのを肘で制し、マッチョ男はのんびりその蓋に手をかけた。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:29:51.94 ID:nJcAhhRt0
 
(  ゚¥゚) 「……あァ~? ナニコレ」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「……空なんかい!」

| l| ゚ー゚ノl 「ほらな。 バーカ」


 ロン毛がふたたび唾を吐く。 落胆の空気がこちらにまで伝わってくるようだった。


(  ゚¥゚) 「……はァ~。 萎えた萎えたァ」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「マジうぜェ。 期待させんなってな!」

(  ゚¥゚) 「いやいや。 増やん、はしゃぎすぎだから」

ィ'ト―-イ、
以;゚益゚以 「え?」

| l| ゚ー゚ノl 「バーカ。 んなきったねえ箱」

(  ゚¥゚) 「最初から期待してねーし!」

ィ'ト―-イ、
以;゚益゚以 「ちょ、おめェら手のひら返しすぎだろ」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:33:01.42 ID:nJcAhhRt0
 
 好き勝手に喚き散らす若者たち。
 仲間の雑言を一手に受けるマッチョは、眉間に皺を寄せつつ箱を弄んでいたが、


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「ったく、使えねェ……なっと!」

Σ(; ><) 「!!!」


 そう言うと、不意にそれを宙へ放り投げた。


(  ゚¥゚) 「オーライっ!」


 箱は放物線を描きながら宙を舞う。
 落ちる先には、坊主頭が腰を落とした体勢で待ち構えていた。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:35:19.34 ID:nJcAhhRt0
 
(i||i><) 「や、やめ──」

(  ゚¥゚) 「おらあぁぁあっ!」


 堪え切れず、猫の亡骸を置いて駆け出すビロードだったが、足がもつれて廊下に倒れこむ。
 見上げたその視線の先。

 耳障りな掛け声とともに、無情な右足が大切な箱めがけて打ち払われる。

 少年は両目を覆った。


(i||i∩∩) 「────!!」

(  ゚¥゚) 「────っ」


 そしてそのまま、男の脚が一直線に──。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:38:18.88 ID:nJcAhhRt0
 
(; ゚¥゚) 「──ん、ぁあ!?」


 ……宙を、薙いだ。

 シュートを空振った坊主頭はバランスを崩し、
 斜めの姿勢でようやく立ち止ま……ろうとしたところで、電気スタンドの残骸に足を取られる。
 そうして派手な音を立てて転倒し、


l>(; ゚¥゚)三三 グサリ

( ・¥・)

Σ(i||i ◎¥◎) 「おんぎょわぁああっ!!」


 泣き面に蜂とばかり、傘の破片が勢いよくその脳天に突き刺さった。


ィ'ト―-イ、
以;゚益゚以 「!?」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:41:06.45 ID:nJcAhhRt0
 
| l| ゚ー゚ノl 「……なンだ、おめーら」


 飛来したはずの宝石箱が、すんでの所で 『 消えた 』 。
 悶絶する坊主ピアスを尻目に、若者たちが高速で着地した影のほうへ目を向けたのは、
 その事実を認識してから、一瞬遅れてのことだった。


(;。><) 「!」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 「答えろよ!? アァ!?」


 宝石箱をキャッチしたふたつの影は、角刈りの威圧的な言葉に、あくまで泰然と答える。


(,, Д ) 「正義の」

(  ω ) 「……味方だ」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:43:29.65 ID:nJcAhhRt0
 
(# ゚¥゚) 「っざけんなッ! らァ! 殺ッッぞオラァ!」


 起き上がった男が、いがぐり頭の頂点から噴水のように血を散らしつつ激昂した。
 その恫喝を合図として、残りの二人も憤怒の形相で駆け寄り、一斉に拳を振り上げる。


 “ 正義の味方 ” たちは、声を揃えて言った。


(,,^Д^) ( ФωФ) 「「──やれるもんなら、やってみな!」」


 ~ ~ ~


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:46:12.20 ID:nJcAhhRt0
 
::( ¥(# ):: ピクピク…


| l|::)ー;ノl 「バッカ! バカ! 死ねバーカ!」

(,,^Д^)σ 「そっちは行き止まりだよー。 お帰りはこ・ち・ら♪」

ィ'タ――イ、
以;;)*(:以 「お、覚えてやがれぇぇえ!」


 テンプレートな捨てゼリフとともに、及び腰の背走。
 小一時間後、若者達は気絶した仲間を背負うと、我先に小客間へと消えていった。


( ФωФ)-3 「まったく、他愛もない輩なのである」

(,,^Д^) 「んーとだよね……よっと」


 “ タカラ ” は満足げに呟くと、宝石箱をビロードへつっ返す。


(,,^Д^) 「はいコレ」


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:47:57.85 ID:f0lPw2jV0
待ってたよ支援


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:48:49.79 ID:nJcAhhRt0
 
( 。><) 「あ、ありがとうなんです!」


 少年は目元をぬぐい、にっこり笑ってそれを受け取った。
 それから廊下の端、カーペットに横たわる黒猫の傍らへ小走りで引き返してゆく。


(; ><) 「あ、あう……」

( ФωФ) 「どれ。 持っておこう」


 が、その小さな手に両方は抱えきれなかったらしく。
 ビロードは、ロマネスクにふたたび宝石箱を手渡すと、ズボンのポケットから香水瓶を取り出した。


( ><) 「ごめんなさいなんです。 良かったらコレ、中に入れて欲しいんです」

( ФωФ) 「承知した」


 ロマネスクがそれを受け取ろうとした瞬間、外からがたん、とものを倒すような音が響いた。
 おそらくは若者たちの最後っ屁といったところだろうか。

 やれやれ、ああいう手合いはあとを濁さずに立つことの出来ない性質なのだな。
 そう思って溜息をついた刹那、タカラが脇から手を伸ばし、ひょいと香水瓶をさらった。


( ФωФ)゙ 「……む?」


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:52:03.77 ID:nJcAhhRt0
 
(,,^Д^) 「ねえねえ。 ちょ~っとコレ、借りていい?」

(; ><) 「え? は、はい」

(,,^Д^) 「ずっと気になっててさー。 どういう香りがするのかなって」

( ><) 「……とってもいい匂いなんです!」

(,,^Д^) 「そっかぁ。 一回だけ試してみていーい?」


 タカラは瓶の蓋に指をかけ、とんとんと叩くジェスチャーを示した。


( ><) 「どうぞなんです! きっと気に入ると思うんです」

(,,^Д^) 「さんきゅっ。 それじゃ早速……」


 言うが早いかキャップを外し、人差し指に力を込める。
 「えいやっ」 という間の抜けた声とともに、
 ノズルポンプの先端から、甘酸っぱく柔らかな、ベルガモット系の香りが噴霧された。


Σ( ФωФ) 「……むっ」


 ……タカラ自身の方向へではなく、横にいるロマネスクの鼻先目掛けて。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:54:30.35 ID:nJcAhhRt0
 
 怪訝な面持ちのロマネスクを見上げ、彼は笑顔で口を開く。


(,,^Д^) 「ちったぁフレグランスにも気ー使いなよ、オタク君♪」

( ФωФ) 「むぅ……?」


 それはつまり、我輩の体臭が気になるということなのか?
 ブーンの “ 別人格 ” は眉を顰め、上着の肩をくんくん嗅いだ。

 心持ち程度ではあるが、彼のたじろぐ姿を見れたことにより、タカラは満足気な表情で告げる。


(,,^Д^)9m 「ま…… “ いいニオイのデブ ” になっただけだけどね!」

(; ><)


( ФωФ) 「……」

( ФωФ) 「五月蝿いのである」


 「ぷぎゃははは!」 という、タカラの甲高い笑い声が、屋敷の廊下に反響した。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:57:10.73 ID:nJcAhhRt0
 
 ~ ~ ~


 破損した出窓を潜って中庭に出ると、日はすっかり傾きかけていた。


( ^ω^) 「お……斉藤くんたちは?」

(,,゚Д゚) 「待ちくたびれて、先に帰っちまったのかもな」


 またんき達三人の姿は見当たらず、
 耳を澄ませても、聞こえるのは周囲の森が奏でるさざめきばかりだった。

 ふと気づけば、テラスの白い丸テーブルが最初と違う位置に転がっている。
 先程聞こえた轟音の正体は、テーブルに対する若者たちの八つ当たりだろうか。

 ギコは漠然と、男たちはいつ邸内に侵入したのか、などと考えていた。
 次に、彼らがまたんき達と遭遇した可能性について憂慮する。


(,,゚Д゚) (……あいつら、“ ロックオン ” しとくべきだったかな)


 そうやって暫く考え込んでいたギコだったが、
 ビロードの手招きによって思考を中断し、ブーンと並んで少年の後を追った。


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 21:59:56.13 ID:nJcAhhRt0
 
 テラスを経て、中庭の先へと進む。

 庭はまさしく荒れ放題だった。
 囲む煉瓦塀の下、花壇だったらしき場所には丈の高い雑草がひしめき、
 茶と緑の混じった葉が、疎らな芝生へ向かって覆いかぶさらんばかりである。


( ><) 「……ここなんです」


 ビロードが不意に立ち止まって言った。
 彼の立つ土の上、その傍らには、枯れかけた一本の樹木。


(,,゚Д゚) 「……そっか」

( ^ω^) 「お、木が目印なのかお」

( ><) 「はい。 ユズの木らしいんです。
       実が成ったところは見たことがないんですけど、
       なんとなく、ぽっぽちゃんが喜ぶかなって……」


 崩れかけた縁石によって区画された一角。
 芝生部分より一段高くなったその場所で、
 ビロードの立つ位置の後方は、根元の土がこんもりと盛り上がっていた。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:02:32.02 ID:nJcAhhRt0
 
 “ ぽっぽちゃん ” の亡骸ははじめ焼却される予定だったらしく、
 当時新人だった一人のメイドへ必死で頼み込み、ようやく埋葬できたのだと少年は語った。

 それも、家人の不在時に、かつ秘密裏に行う必要があったため、
 墓碑に類するものは立てられなかったらしい。

 ビロードは黒猫の躯を抱え直すと、懐かしむように樹木を見上げ、言った。


( ><) 「やっと、来れたんです。 ここに」

( ^ω^) 「?」

( ><) 「いつか……みんなで一緒に中庭で遊ぼうって、
       ワカッテマス君たちに言ったことがあるんです。
       昔はぼくも、今よりもっと体が弱くて、なかなかお外に出られなかったんです」


 そうして屈みこむと、盛り上がった土の部分へ、ワカッテマスをそっと横たえる。


( ><) 「普段はほとんど鳴かないワカッテマス君が、その時はじめて返事をくれたんです。
       ……言ってくれたんです、“ にゃあ ” って」


 少年は枯れかけた木の肌を撫でながら続ける。 終始穏やかな口調だった。
 伏せ気味の視線は土の上の黒猫へ、それからふと中空へ向けられた。


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:05:22.99 ID:nJcAhhRt0
 
 彼はそこに、在りし日の情景を映していた。

 ぼいんぼいんと楽しそうに跳ね回る白猫と、窓際で大あくびするまだらの黒猫。
 少年の呼びかけに対し、少々変わった鳴き声で、尻尾と耳を動かす仕草でそれぞれ答える。

 幻影の中で、猫は生き生きと午後を満喫していた。
 一人と二匹の過ごす暖かな部屋、幸せな光景がそこに広がっていた。


( ><) 「ごめんねワカッテマス君。
       みんなで日なたぼっこできなくて。 ごめんね」

( 。><) 「ごめんね……」


 ひとり呟くビロードの眼に、清らかな雫が溜まってゆく。
 大粒の涙をぽろぽろ零しながら、少年は呪文のように謝罪の言葉を唱え続けた。


( 。><) 「ぐすっ。 ……めんね、ワカッテマス君。
       たぐざん、うくっ、待たせでじまっ……です。
       ぐずっ。 ごめんれ、……ごめん」

( 。∩∩) 「わか、ひぐっ、わかっでまずぐん……。
       うくっ、ぼ、ぼぐのごと……うらんでまず、よね。
       ……めんなざい」
  _,  、_
( ^ω^) 「恨む……?」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:08:34.31 ID:nJcAhhRt0
 
 眉を顰めるブーンに対し、ビロードは泣き顔を隠すように背を向けた。


( 。>⊂) 「ぼくぁ、ひぐ、ぽっぽちゃんを……守れながったんです。
       ぼぐのとこ……来たばかりに……、
       大切な……たいせつな、うぐっ」


( 。∩∩) 「……彼女を、しなせてしまっ……ふぇ……
       ぽっ……ぢゃんを
       ……うううう」


 ここに来るまでの間、黒猫のことがずっと気がかりであったのは言うまでもなく。
 彼は、“ ワカッテマス ” に深い負い目を感じながら、長き日常を過ごしてきたのだった。

 ひとつは、自分が部屋に招きいれたことで、結果的に白猫を死へ追いやってしまったこと。

 以来、白猫を探し求めるように、黒猫が足しげく屋敷を訪れていた事も彼は知っていた。
 なのに、猫を追い払わんとする家人の狼藉を止められなかったこと。

 “ ぽっぽちゃん ” の死に目どころか、
 黒猫が生きているうちに、彼女の眠る場所に連れてきてあげられなかったこと──。


 「ごめんね、ごめんね……」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:10:32.34 ID:f0lPw2jV0
せつない支援


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:11:18.56 ID:nJcAhhRt0
 
 ビロードはさめざめと泣いた。
 ようやく果たされた再会は、どんな形であれ、喜ばしくあったはずなのに。
 背負ってきた荷が降りるような、遅くは有れど贖罪の意味を成すような。

 そうなるはずだったのに。
 そう、あるべきだったのに。

 ……なのに、どうして。

 悲しみが、
 無力感が、
 後悔が、
 申し訳なさ、遣る瀬無さが。
 あとからあとから湧いてきて。

 ちいさな体躯に受け止められなくなったそれらは、
 彼の両目から止め処なくあふれ、冷たい土へとこぼれ落ちた。
 じんわりと、“ ぽっぽちゃん ” の眠る木の根へ染み込んでいった。


 「……ねえよ」


 悲嘆の鎖を断ち切るように……。
 発せられた叫び声が、その耳に届くまで。


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:14:20.68 ID:nJcAhhRt0
 
(,, Д ) 「──恨んでなんてねえよ!」


 木の傍らで泣き続ける影に向かって。
 ギコは強く、はっきりと、その言葉を否定した。


( 。∩<) 「……ぐっ、ひぐ……?」


 少年の背が微かに揺れる。
 顔を上げた彼に、ブーンは朗らかに微笑みかけながら、言った。


( ^ω^) 「猫は柑橘系の匂いを嫌うって聞いたことがあるお……。
       ワカッテマスも、その香水の匂いが好きじゃなかったんだお?
       なのに、それに耐えてまで瓶のそばにいたのはどうしてだお?」


 まあ、ぽっぽちゃんは特別だったのかも知れないけど、お。
 そう付け加え、彼は続けた。


( ^ω^) 「お。
       ビロードのことを恨んでいたのなら、わざわざそんなことはしない筈だお」


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:17:08.55 ID:nJcAhhRt0
 
(,,゚Д゚) 「侵入者に脅かされることの多い一階の部屋から、
     瓶を二階に運んだのも、きっとこいつの仕業だぜ」

( 。∩<) 「────!」

( ^ω^) 「そうだお。
       何より、ワカッテマスはビロードをずっと待っていたんだお」

( ^ω^) 「……そう、ずっと」


 まっていたんだお。
 きみのかえりを、ずっと、ずっと。

 きみのことがすきだから。
 だいすきだったから。
 だから、まっていた。 まちつづけていた。


( 。><) 「わか……うぐっ、……くんが?」


 ……待っていたのだ。
 ひたすらに。 気の遠くなるような、長い年月を。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:19:22.98 ID:nJcAhhRt0
 
(,,-Д-) 「さ、……そろそろ、眠らせてやろうぜ」

(,,゚Д゚) 「コイツの大切な “ ぽっぽちゃん ” の隣によ」


 どこから持ってきたのやら、錆びついたシャベルを抱えたギコが言った。

 “ ぽっぽちゃん ” の眠る場所から
 少し離れた土の上に剣先を添え、真っ直ぐにビロードを見つめる。
 木陰から差し込む夕日が、その笑顔を黄金色に浮かび上がらせた。


( 。><) 「────」

(*。>⊂) 「……はいなんです!」


 ハンカチをごしごしあてて、悲しみを拭い去った。
 仰向く少年の表情には、こぼれんばかりの笑みが戻っていた。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:22:22.38 ID:nJcAhhRt0
 
 ~ ~ ~

 しばらくのち。

 出来上がった穴の奥へ亡骸を安置すると、ビロードはひとつ溜息をついた。


( ><) 「ぽっぽちゃんのおとなりなんです……。
       ワカッテマス君、ありがとう。
       ママの瓶を守ってくれてありがとう」

(,,゚Д゚) 「……」


 その様子を見たギコは、額の汗を拭いつつ、ふと考える。


(,,゚Д゚) (猫の能力……。
     いったい、俺の過去をどの程度わかっていたんだろう。
     単純に相手のトラウマを掬い上げるだけなのか、それとも)


 ワカッテマスは、二階に存在する “ 開かずの物置部屋 ” にて息を潜めていた。
 (その呼び名に反してドアは開いていたが)

 黒猫が息を引き取ったのは、自分達が彼を発見するほんの直前だったことはわかっている。
 とすると、ギコたちに悪臭による攻撃を繰り返していた当初の時点で既に、
 ワカッテマスは相当の衰弱状態、息も絶え絶え、という有り様だったに違いない。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:25:14.48 ID:nJcAhhRt0
 
 自分たちを追い払うために発した “ 精神攻撃 ” 、
 それから、彼が今際の際にギコへ伝えてきた “ 記憶の断片 ” 。
 どちらも、最期の力を振り絞っての “ 能力 ” だっただろう。

 外に繋がる唯一のルートである、一階の小客間のドアが閉まっていたことから、
 ワカッテマスが屋敷の外に出る手段はなかったのかも知れない。
 ならばどうやって食いつないでいたのか、など、今や知る由のない数々の疑問は募れども。


Σ(,,゚Д゚) (あ……まさか……)


 ──ひょっとしたら、それ。
 すなわち、黒猫が渾身の力で放った “ 最期の能力 ” は、
 結果的にその寿命を縮めることに繋がったのではないだろうか。

 もしもの話だが、自分達への対応にエネルギーを割くことがなかったならば、
 ワカッテマスの死に目に、ビロードが立ち会えた可能性も──。


(,,;゚Д゚) 「……す……」


 ギコの懐疑は、知らず贖罪の呟きとなってその口からこぼれ出した。


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:28:06.43 ID:nJcAhhRt0
 
(,,;Д ) 「──すまねえ。
      ビロード、その……本当にすまねえ」

( ><) 「?  どうして謝るんです?」


 ビロードは首を傾げると、無邪気な表情で言った。


(* ><) 「お兄ちゃんたちは、ボクを助けてくれたんです!
       とってもいい人たちなんです!」

(,,;゚Д゚) 「ん、ああ……」


 助けてくれた、という言葉に、ギコは屋敷を荒らしていた若者たちの姿を思い出す。
 しかしそれはすぐに、ギコの連れの者たち……、
 椅子を蹴ってはしゃぐまたんきや、きゃあきゃあ騒ぎ立てる女の子たちのイメージへと重なった。


(,, Д ) (コイツにしてみりゃ……オレ達もあいつらもたいして変わりねえ。
     似たようなもんだったに違いねェさ)


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:30:46.52 ID:nJcAhhRt0
 
 まるで結界を張るかのように【臭気】で屋敷を包み、侵入者を追い払っていた一匹の黒猫。
 気の遠くなるような間、友の帰りを待ち続けていた、ちいさな 『 かいぶつ 』 。


(,, Д ) 「ごめんな、ワカッテマス」

( ><) 「……?」


 ギコは穴の奥へ手を伸ばすと、最期にその背を軽く撫でた。
 薄くなった体毛を通して、ごつごつと骨ばった感触が伝わる。


 目を閉じた猫の表情が、僅かに緩んだような、そんな気がした。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:33:07.08 ID:nJcAhhRt0
 
 土を被せ終われば、そこには、こんもりとした二つの小山が仲良く並んでいた。

 墓標はない。
 他に知る者もいない。
 目印は朽ちかかった一本の樹木だけ。

 しかし、それでも。


(* ><) 「ワカッテマス君、ぽっぽちゃん。
       ……どうか、安らかに眠ってほしいんです」


 目の前にしゃがみ込む少年の横顔からは、先程までの憂いは完全に消えうせていた。
 落陽の照射に輝く清らかな表情は、
 まるで逞しい青年のようにも、生まれたばかりの赤子のようにも感じられ。


( ><) 「本当に、本当の本当に、ありがとうございました」

( ^ω^) 「──気にしないでくれお!」


 改まった様子でそう告げるビロードを正面にして、
 ブーンはただ、簡素な答えを返すばかりだった。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:35:15.67 ID:nJcAhhRt0
 
 ──そう言えば。


( ^ω^) 「……お?」


 ずっと巡らせていたのであろうロマネスクの思考が、
 ふいにブーンの脳裏へ、囁きかけるような “ 声 ” となって漏れ聞こえてきた。


( ^ω^) (ちょ……まだ考えてたのかお。 今はそんな事どうでもいいんだお……)


 そう思って溜息をつくブーンだったが、
 独り言ともつかないロマネスクの問いかけは構わず続けられた。

 ──いくら考えたところで疑義は尽きることはないが、
 その中でも特に、引っかかっている事柄がひとつ。

 “ 悪臭 ” による “ 精神攻撃 ” は、まさに黒猫によって行われていた行為だろう。
 そしておそらく攻撃の意思が失われたのは、
 厨房にて、迫り来る我輩に対し、ビロードがモップを片手に対峙した瞬間だった。

 憶測に過ぎない考えではあるが、ワカッテマスはその時の大声によって、
 ビロードの存在を感じ取り、攻撃を解除したのではないだろうか。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:38:09.86 ID:nJcAhhRt0
 
( ФωФ) 『 とすると、だ 』


 それ以前、無差別な “ 悪臭攻撃 ” が有効だった間──。

 ビロードだけがその影響を免れていた、
 すなわち “ 臭いをまったく感じていなかった ” のは、何故なのだろう。
 漂う臭気が濃くなって以降は、我輩ですら吐き気と倦怠感にクラクラきたものだというのに。

 その疑問こそが、我輩のビロードに対する
 “ 彼こそが元凶のチャネラーではないのか ” という、不信感の根拠となっていたものである──。


( ^ω^) 「……んー。 ハテ、どうしてなんだろうお?」


 首をひねってはみたものの、
 どちらにせよ今のブーンには、その答えを提示することは叶わないだろう。

 墓前へしゃがみ込み、静かに手を合わせているビロードに対し、
 明確な回答の得られないであろう質問をしたところで仕方ない。 そう考えた。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:40:40.95 ID:nJcAhhRt0
 
 ブーンが思惑の絡んだ視線を投げかける、その先。
 当の少年はすっくと立ち上がると、小さな声で言った。


( ><) 「さてと……じゃあ、ボクもそろそろ行かなきゃなんです」

(,,゚Д゚) 「ん? 」


 風が吹いた。
 周囲の森が葉擦れを奏でると、庭の草木もそれに倣って僅かにさざめいた。

 その時ギコは、錯覚かな、と反射的に感じ、袖で両目をこすった。

 なぜならば。
 立ち上がったビロードの全身が。
 斜陽に映える立像の、その輪郭自体が、仄かに輝いて見えたのだ。


(,, Д ) 「──!?」


 そして、ふたたびギコの双眸が少年の姿を捉えたとき。
 彼は全身が竦み、肌が粟立つ奇妙な感覚にとらわれた。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:43:20.08 ID:nJcAhhRt0
 
( ^ω^) 「お? どうしたお?」

(,,;゚Д゚) 「な!? こ、これ……!」


 ギコは絶句した。

 今までに何度も経験したこの感覚。
 否が応にも警戒を余儀なくさせる、神経のぴんと張り詰めるような、これは──。


 彼はこの瞬間。
 目の前へ佇む少年に、はっきりと 【 異能力者の気配 】 を感じ取ったのだった。


 ~ ~ ~


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:46:10.81 ID:nJcAhhRt0
 
 そして、それとほぼ同じ頃。


(;・∀ ・) 「……あー、行ったみたいだな」


 屋敷から少し下った林の中、『 私有地により立ち入り禁止 』 の看板がある場所。
 緩んだロープが結わえられた樹木の影から、斉藤またんきはおそるおそる顔を出した。


||‘‐‘||レ 「すごい勢いで走ってったね」

o川*゚ー゚)o 「ってか、隠れる必要あったのかな」


 その後ろからぞろぞろ現れる女の子二人。
 ギコにケータイの電源を切られ、悪態をつきながら山を下っていた彼らは、
 鬼の形相で館の方向から走ってくる若者達の姿をみて、咄嗟に木陰へ逃げ込んだのだった。


||‘‐‘||レ 「だらしないよねー、マタちゃん……」

o川*゚△゚)o 「そーそー。 肝心なときに使えねー」

(;・∀ ・)=つ≡つ 「ハァ? ちげーし! オレが本気になればあんな奴らぁ……」 シュッシュッ


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:49:21.00 ID:nJcAhhRt0
 
 勝手気ままな文句を垂れる女の子たちに、
 おどけた表情でシャドーボクシングして見せるまたんき。

 ……そんな彼らのもとへ、ふわりと。


o川*゚ー゚)o 「……あれ?」

⊂(・∀ ・) 「なんだ、コレ」

||‘‐‘||レ 「いいニオイ……」


 ほんのり甘い、そしてどこか懐かしい心地のする花の香りが、風に乗って届いた。
 三人はふと、屋敷の方向を見上げて嘆息する。

 立ち並ぶ樹木の黒、それを縫う空はオレンジ色に輝き、彼らの表情を照らしていた。
 山林の上空を舞う烏の群れが、少年たちの視線へ呼応するように、低い鳴き声をあげた。


 ~ ~ ~


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 22:52:24.55 ID:nJcAhhRt0
 
( ><)


 振り返ったビロードは、満面の笑みをたたえながら、ただ一言を口にした。


『 本当に、ありがとうなんです 』


 煌々たる輝きを前に、ギコはその目を細くした。
 目の前に立つ少年の姿は、今や、直視できないほどにまばゆい光彩を帯びている。
 まるで彼自身が光を纏っているかのように。


(,,;゚Д⊂ヽ 「な、何が……ビロード?」

( ^ω^) 「ギコ? 大丈夫かお……」


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:00:47.85 ID:nJcAhhRt0
 
 狼狽するギコを横目で眺めながら、ビロードは傍らのそれを拾い上げた。

 母の形見の箱。
 香水瓶の収められた木箱。

 優しく微笑むビロードの、
 両手に抱えた宝石箱の、
 その蓋が、ひとりでに、開いて。

 ふわり。

 仄かな柑橘系の芳香が、ふたりを優しく包み込む。


(,,゚Д゚) 「──あっ」

( ^ω^) 「──えっ?」


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:03:16.67 ID:nJcAhhRt0
 

 その時だった。

 軽々しくその表現を用いることが妥当なのかはわからない。
 ひょっとしたらそれは、その言葉を陳腐なレトリックへ貶める行為なのかも知れない。


 だが、しかし。


 それでも確かに、少年たちは 『 奇跡 』 とも称するべき不可思議な現象が、
 彼らの周囲を鮮やかに駆け巡ってゆく──、

 その一部始終を、目の当たりにしたのだ。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:06:07.25 ID:nJcAhhRt0
 

 ふたりは、みた。

 彼らの間に吹きつけ、爽やかに後方へ抜けてゆく一陣の風とともに──。


 灰色の枯れ木が瑞々しい青葉に覆われる瞬間をみた。

 萎れきった草花が次々に生気を取り戻す瞬間をみた。

 一斉に色づいた花々から、馥郁たる香りが立ち込める瞬間をみた。


(; ゚ω゚)(,,;゚Д゚)


 朽ちかけていた庭が、
 無常な時の流れへ置き去りにされていた荒れ野が、
 ふたたび。


 鮮麗なるいのちに彩られてゆく、その瞬間をみた。



85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:09:21.65 ID:nJcAhhRt0
 
(,,;゚Д゚) 「えっ?!」

(; ^ω^) 「おおっ……!?」


 二人は動転しつつ辺りを見回した。
 駆け抜ける風は芳醇たる香気を伴って、
 まるで溜め込んでいた色を解き放つかのように、くすんだ庭を蘇らせていったのだ。

 茶味がかった葉は青々と立ち返り。
 雑草生い茂る花壇は溢れんばかりの花に覆われる。

 枯れかけていたアベリアの白が、サルスベリの紅が、キンモクセイの黄金が──
 清新な緑葉を押し分けるように、あとからあとから咲き出した。
 樹木の発する濃密な芳香が辺りを包み込んでゆく。

 それは、
 瞬く間の出来事だった。


(,,;゚Д゚) 「な……あ、え?」

(; ゚ω゚) 「こ、これ……これは……?」


 緩やかなる死の淵にあったはずの中庭は。

 かつての輝きを、取り戻していた。


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:12:33.45 ID:nJcAhhRt0
 
(; ^ω^) 「ちょ、ちょ、なんだお、これはどうい……」

Σ(; ゚ω゚) 「うぅ!?」

(,,;゚Д゚) 「……どうした?」

(; ゚ω゚) 「ビロード……ビロードは? どこだお?」

Σ(,,;゚Д゚) 「ハァ?
       ……あっ、え?」


 ブーンの言葉に、ギコは慌てて視線を戻す。
 先程までビロードが立っていた、ユズの樹の根元。

 そこには既に、
 少年の姿はなく。

 樹木へ巻きつくヤブガラシの葉が、微薫香るそよ風に揺れているばかりだった。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:15:13.41 ID:nJcAhhRt0
 
(,,;゚Д゚) 「い、いない……」

(^ω^;)彡 「ちょ、ちょ、どこ行ったんだお!?」


 樹の後ろを覗き込み、それから庭を駆け回るようにして、二人は少年の影を追った。
 丈の高い草花を掻き分け、屋敷の角を曲がり、高い塀をよじ登って。

 そうやって、周囲をところ構わず探し回る。


(,,; Д ) 「おい、どこ隠れてんだよ! 出て来いって!」

(; ^ω^) 「どこだお! ビロード、ビロード!」

(,,; Д ) 「なあ、ほら! タラちゃんっつったのは謝るから……」


 ビロードの姿は、どこにもなかった。
 夕焼けの光に溶け込んだがごとく、忽然と消えうせていた。


(,,;゚Д゚) 「あ、ありえねえ……」

(; ゚ω゚) 「……」

(,,;゚Д゚) 「そんな……う、嘘だろ……?」


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:18:08.36 ID:nJcAhhRt0
 
 そう言って、ギコはその場に脱力する。
 僅かに残っていた芝生も、今や他の草木と同じく青々と茂っており、
 それらは優しく、彼の両膝を受け止め、かさり、と音を立てた。

 呆然とするギコの傍らへ立つと、ブーンはしきりにハンカチで汗を拭った。


(; ^ω^) 「……」

(,,;゚Д゚) 「……」


 暫く無言でそうしていたが、
 ごくりと唾を飲み込み、恐る恐るその言葉を口にする。


(; ^ω^) 「ひょっとして、ビロードも……
       ………………………………幽霊?」

Σ(,,; Д ) 「……そっ」


『 そんなわけ、ねえっっ!! 』


 ギコの絶叫が、花咲き乱れる中庭に木霊した。


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:21:01.99 ID:nJcAhhRt0
 

==
===


『 ……マ 』

『 …… 』

『……マ、ねえ、ママ……』

『 ──え? 』


『 ……ママ、── ママ! 』


『 ……ビロード?
 そこに居るには、ビロード……なの? 』

『 ママ! 』

『 ビロード……そんな、まさか……
 ああ、ああ、ビロード 』



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:23:34.50 ID:nJcAhhRt0
 

『 ママ!
 ぼく、ぼく……なかなかったよ。
 さみしくなんて、なかったよ! 』

『 ……やっと、会えた 』

『 さみしくなんて、さみしくなんか…… 』

『 ビロード……ああ……ビロード……
 ごめんね。 一人にして、本当にごめんね 』

『 ううん、ちがうよ。
 ひとりぼっちじゃないよ! 』

『 ……え? 』

『 だって、ぼく、おともだちができたんだ 』

『 友達?  ……まあ 』


 ──にゃあ       ──ちんぽっぽ!



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 23:26:10.63 ID:nJcAhhRt0
 

『 ママがいなくなっても、ふたりがいてくれたんだよ。
 だから 』

『 ……そう、そうだったのね 』

『 うん…… 』


『 二人とも、とても優しい、いい子たちね 』

『 ……うん! 』


 ──にゃーん    ──ぽぽー!


『 これからは、ママも、ぽっぽちゃんも 』

『 ……ええ 』

『 ワカッテマスくんも、……そして、ぼくも 』

『 そう、そうね……。
 一緒よ。 ええ、みんな一緒よ 』



97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:01:13.21 ID:XPlF21pW0
 

『 ほんとう? もうどこにもいかない? 』

『 ええ、行かないわ。 約束するから 』

『 ……ゆびきりするまではなさないよ! 』

『 ふふふ……ビロードは甘えんぼさんね 』


 ──にゃあ     ──ぽ~?


『 ……ほら、二人も笑っているわよ、ビロードのこと 』

『 ……ママ…… 』

『 ……ビロード 』


『 ……ママ、だいすき 』

『 ……ママもよ。 ママも、ビロードのことが大好き 』



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:02:33.51 ID:vpJWV+8I0

    ∧∧  ぽ~?
    (*‘ω‘)
 ~(,,,ι,J


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:04:05.89 ID:XPlF21pW0
 

『 ぼく、もうはなれないよ 』

『 ええ。 ママも、あなたを離さないわ 』


『 ……これからは 』

『 ……ええ 』




 ……みんな、いっしょ。

 ……みんなで、ずっと──いつまでも──。




102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:06:34.89 ID:XPlF21pW0
 




               14-102.jpg







105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:09:05.83 ID:XPlF21pW0
 
===
==



(,, Д ) 「……」


「 うっっ……わぁー!?」

「 何これ、すっごーい…… 」


Σ(,,;゚Д゚) ハッ


 呆然と芝生にへたり込んでいたギコだったが、
 その耳へ、正気を呼び戻す甲高い声が届いてきた。


o川*゚ー゚)o 「うそー!? お花がいっぱいだよ! ほらほら!」

||;‘‐‘||レ 「どうして!? ここ、あんなに荒れてたのに……」

o川*>ヮ<)o 「何なにぃ?
        これ、どんな魔法ー!?」 キャー


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:11:36.68 ID:XPlF21pW0
 
 声のした方へ目を向ければ、
 いつの間に戻ってきていたのか、ギコの友人である女の子たちがそこにいた。
 一人は目を輝かせて、もう片方は狐につままれたような表情で。


(;・∀ ・) 「お、おい、何が起きたんだよこれ……」

(,,゚Д゚) 「──!」


 そして当然、またんきも。

 訝しげに周囲を眺め回す彼の姿を確認した途端、
 ギコはその肩に飛びつき、思い切り揺すって質問を浴びせかけた。


(,,;゚Д゚) 「なぁ、なぁっ! 男の子見なかったか!?」

(((・∀ ・;))) 「え、は、ええ?」

(,,;゚Д゚) 「このくらいの……なあっ! どうなんだ!?」


 対するまたんきは、目を白黒させながら口を開く。
 だが勿論のこと、返されたのは、ギコの望んでいる答えではなかった。


(・∀ ・;) 「はいィ!? ど、どうしたんだよギコ……
      ……まるで」


109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:14:01.60 ID:XPlF21pW0
 

 
 『 幽霊でも見たような顔しちゃってさ 』




111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:16:16.25 ID:XPlF21pW0
 
(,,゚Д゚) 「  」

(,, Д ) 「──そ、そっ」


(,,#゚Д゚) 「そ ん な ワ ケ 、 ね え だ ろ ォ が ッッ!!」

Σ(;∀; )ノノ 「な、何切れてんだよ!?」


 俺は認めねえ。
 絶対に、認めてなんてやらねえ!

 あいつは……ビロードは、さっきまでここにいたんだ。
 一緒に土を掘って、ワカッテマスを埋めてやったんだ。
 あいつは、確かに存在していたんだ!

 幽霊なんかじゃねえんだっ!! 絶対に!!


「 見て見てあーちゃん、すごーい、キレー! 」

「 ちょっと、あんまり走り回っちゃ…… 」


 女の子たちの暢気なはしゃぎ声を背後に──。

 ギコの魂を込めた叫びは、
 またんきの心にささやかなダメージを与えながら、周囲の森へと染み渡っていった。


112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:19:24.49 ID:XPlF21pW0
 
 俄かに騒がしくなった中庭。
 だがその喧騒のほとんどは、立ち竦むブーンの耳には届かなかった。
 彼はひとり、緑の園の中心で、消えた少年の面影に思いを馳せていた。


(:::: ゚ω゚) 「……」

(::: -ω-)


 ゆっくりと目を閉じる。
 香る涼気を吸い込むたび、言いようのない安心感が、ブーンの全身を柔らかく包み込んでいく。
 そよぐ秋風に乗って、微かな笑い声が聞こえたような気がした。


(::: -ω-)


 ブーンはしばしその安寧に身を委ねた。
 彼も、そして彼の聡明なる “ 別人格 ” も、言葉を発することはなかった。

 けれど。


113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:21:27.06 ID:XPlF21pW0
 
(::: -ω-) 「……」

(::: -ω-) (何言ってんだお、ビロード。
       ワカッテマスとぽっぽちゃんだけじゃないお。
       僕らだって、君の友達だお)




『 ──ありがとう 』

『 本当に、ありがとうなんです── 』




(::: -ω-)


(::: ^ω^)



115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:24:06.77 ID:XPlF21pW0
 

 やさしいかぜがふいた。


 目を開ければ、ふたつ並んだ土の小山の上に、
 小さな蝶が二匹、舞っていた。
 煉瓦塀の際、群生する赤や黄色のオシロイバナが、微かにそよいだ。


 ブーンは顔を上げ、遠くの山を彩る残照へと目を向けた。


 むせ返るような芳香の中、ただ、佇みながら。
 ブーンは、黄昏の空を見つめていた。




 ずっと、ずっと、見つめていた。



 (続く)
 
 


116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:26:13.89 ID:XPlF21pW0
支援ありがとう。


117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:28:02.08 ID:0CGcy9nY0
乙おつ
次も楽しみにしてる


118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/26(金) 00:30:55.63 ID:vpJWV+8I0
切ないけどいい話だった



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■この記事へのコメント

  1. ■ [くるくる名無しさん]

    ドックンドックン~!ふぅん!にゃーんにゃーん
    これもまた真なり
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