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◆*(‘‘)*ふたりは!ディスガイザーのようですl从・∀・ノ!リ人 番外編 8.5話「閑」

前の話/インデックスページ/次の話

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:08:01.15 ID:j/T4cQYq0
お内裏様とお雛様
はじまるよー


3 :◆1Sb5PoZaUXZt:2010/03/07(日) 14:10:55.71 ID:uR7zO8hs0
>>1
代理ありがとうございます

【注意!】

・萌えない
・今日のグロ度:(なし?)
・遅くなりました。今日は番外編アリアリのレスだく投下なので、長丁場になります

くるくる川 ゚ -゚) 様がまとめてくださっています
いつもありがとうございます
ttp://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-374.html
-----------------------×8--キ-リ-ト-リ--------------------------
↑で視点が変わります

【適当なあらすじ】
1-1.jpg『5レンジャーや仮面ライダーは
 敵を倒した後はどうなるのじゃ?』っと、




dis1-2.jpg リアルな話するとたぶん政府側に消される
 あれほどのパワー持った個人が野放しとか危なすぎるし
 ましてそれが政府側にたてついてきたら最悪のテロが発生する
 放っておいたら国どころか、正義の味方で地球がヤバイ


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:11:01.79 ID:gLUdKPqyO
wktk


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:12:21.02 ID:uR7zO8hs0
*(‘‘)*ふたりは!ディスガイザーのようですl从・∀・ノ!リ人

番外編
8.5話 「閑」



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:13:00.83 ID:uR7zO8hs0
-----------------------×8--キ-リ-ト-リ--------------------------


伊藤ペニサスにとって、日々は大変つまらないものであった。
何故ならば、刺激というものが皆無であるから。

彼女はこれまで本屋でアルバイトとして働いていた。
しかし、本屋とはいえ小さなものであったから
有体に言えば彼女は人件費削減の煽りをくったわけである。

実家暮らしであるから、そこまで食い扶持に困っているわけではない。
だがこのまま自宅を警備しているわけにもいかない。

彼女は働き口を探した。

案外簡単に見つかった。

彼女の母の伝手で、近所の個人経営の塾で事務仕事、というわけだ。
伊藤ペニサスはちょっとげんなりした。

('、`*川「出会いが期待できねぇえええ!」

彼女は乙女であった。

婚活に手を出すにはまだ少し早い。
短大卒、23歳、彼氏無し。

これが少し前の彼女である。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:13:35.42 ID:N1EJYx5F0
*(‘‘)*ふたなり!ディスガイザーのようですl从・∀・ノ!リ人

番外編
8.5話 「悶」

に見えた支援


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:15:31.15 ID:uR7zO8hs0
新しい職場へ彼女は足を運んだ。

( ^ω^)「伊藤さん、よろしくですお!
      塾長の内藤ホライゾンと言いますお」

ξ゚⊿゚)ξ「私は妻のツンです。よろしくね」

('、`*川「よろしくお願いしますー」

2人はペニサスの思っていたよりも、かなり若かった。

塾長は小太りだが、優しそうで、愛嬌のある人柄。
その妻のツンは、痩せて小柄だったが、少々つり気味の瞳の、中々の美人だ。

( ^ω^)「塾生からはブーン先生と呼ばれてるんですおー。
      呼びやすいほうで構いませんし、小さい職場ですから、気軽にしてくださいお」

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは砕けすぎよ、もー!」

( ^ω^)「お?」

仲の良い夫婦である。

('、`*川「ご夫婦だけで教えてらっしゃるんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん。あと講師が1人と、アルバイトが1人いるの」

塾長の内藤が地歴公民、その妻のツンが国語と英語、アルバイトの学生も英語。
理数系は、勤務の講師がすべてみているらしい。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:17:54.08 ID:uR7zO8hs0
( ^ω^)「今日はちょっと遅れるって言ってたけど、もうすぐその先生も来るお。
      アルバイトの子は今日はないんだおー」

('、`*川「あ、はい。わかりました」

働きやすそうな、いい環境だ。

講師が来たら挨拶しよう、と考え、彼女は与えられたデスクで
渡された書類の数字をセルに打ち込む作業を始めた。

15分ほど後。
入り口のドアがぎぃと軋んだ。

子ども達が来るには、まだ時間が早すぎる。
先ほど言われた講師だろう、とペニサスは考えた。

ノートパソコンを軽く閉じ、椅子から立った。

('、`*川「こんにちは、今日から事務に入った伊藤で、す……」

通勤コートにスーツとマフラーの、いかにもサラリーマンか教育職らしい人物が立っていた。
20代半ばから後半辺りの、大分背の高い男だった。

【+  】ゞ゚)「ああ、この前塾長が言っていた。こんにちは、始めまして黒川です」

眼帯男であった。

伊藤ペニサスは何も言えなくなった。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:20:05.86 ID:uR7zO8hs0
彼女の脳裏に、とあるアニメキャラクターが浮かんできた。
震撼と共に、そのキャラクター名が脳内にフラッシュする。

:;(゚、゚*川;:(学園ANGELのカノッサ機関スポンサー巨大コングロマリット結城財閥の私設部隊アンチ・アイズ
      副隊長にしてネロ・アーラの使い手黒井翼にそっくりむしろ本人レベルjあwせdrftgyふじこlp;@:!!)

伊藤ペニサスは重度のアニヲタであった。
出会いがないうんぬんも、これが原因の一端である。

一方男性は脅えていた。

【+; 】ゞ゚)(何で何も言ってくれないんだ……
        凝視されてるし。あれか。顔か。顔が怖いのか?)

:;(゚、゚*川;:(やべぇえええ!! 黒スーツやべぇ! これはむしろ知っていてやってるんか!?
      部隊制服コスさせてぇ! デジタル一眼で4GBいっぱいに撮っても惜しくはねぇ!)

両者にらみ合ったまま、微動だにしない。

無論この男はアニメ自体見ない。
それに、伊藤の脳内で絶賛再放送中の『学園ANGEL』は深夜アニメである。
某コミュニティ内では大絶賛され、先日3期放映が決まったほどだが、彼はそんな事は知らない。

伊藤はそのアニメの大ファンであった。

彼女の部屋の天井には、このアニメの関連ポスターが所狭しと貼られている。
原作とアニメ設定資料集は2冊ずつ所持している。
アニメは全話録画し、DVDに焼いてあった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:22:36.98 ID:uR7zO8hs0
腐女子ではない。
純粋にアニメとキャラクターを愛しているのである。
女オタクというやつだ。

:;(゚、゚*川;:(嫁が3次元に光臨なされたでぇ!)

ただし末期であることに違いはない。

異変に気づいたのは塾長であった。

(;^ω^)「お、おぉ? どうしたお?
      何があったんだお、まさか喧嘩?」

【+; 】ゞ゚)「塾長ー! 自分は何もしていません信じてください!
       この顔は生まれつきなんです無愛想で申し訳ないとは思いますが
       こちらとしては特にこれといって彼女を傷つけるような事は何もっ……!」

内藤は事務室の様相を努めて客観的に見ていた。

どう見ても、興奮しきりのハブが脅えきったマングースを丸呑みにする場面だった。
マングースがしきりに、自分はハブを攻撃していないと言う。

カオスだった。

ξ゚⊿゚)ξ「あら? 黒川さんこんにちは。タイムカード押しておくわね」

【+  】ゞ゚)「あ、ありがとうございます……すみません」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:24:55.30 ID:uR7zO8hs0
( ^ω^)「ツン……流石だお。愛してるお」

ξ*゚⊿゚)ξ「ぁい……っ!? ひ、人前で何言ってんのよ小ピザっ!
       恥かしい事言ってる暇があったらトイレでも掃除してきなさいよねっ!」

ピザだ豚だと罵ってはいても、今内藤の前にいるのは間違いなく女神だった。

( ^ω^)ノシ「伊藤さん? 伊藤さーん?
        どうしたんだおー?」

('、`*川「え、うぉっ! いや、すみません! 何でもないんです、大丈夫ですバリバリです!!」

ペニサスは段々嫌な笑顔に変形し始めた唇の端を袖口で拭った。
よだれが垂れそうだったとはいえない。

塾長の不信感に溢れた素振りに、あわてて取り繕う。

( ^ω^)「バリバリ……ですかお?」

('、`*川「はい大丈夫です! 今ならエターナルフォースブリザード食らっても生きてると思いますので!」

ξ゚⊿゚)ξ「エター、ナル?」

ペニサスは自分が空回っている事に中々気づかなかった。

【+; 】ゞ゚)(何なんだろう、この人……ちょっと怖いな)

若干1名に酷く脅えられている事にも、彼女は気づかなかったのである。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:28:07.02 ID:uR7zO8hs0
これは例えばの話だが、想像してみて欲しい。

あなたは転職を余儀なくされ、新たな職場に勤める事になった。

そこに現れたのは、あなたの大好きなアニメ、もしくはゲーム、マンガ、小説など
その中でもとびきり大好きなキャラクターそっくりな人物だ。

しかもその人物はなかなか常識を持っていて、独身である。

('、`*川(落ち着くんだペニサス……ここでオタ趣味をばらしたら面倒な事になる)

すでに滅茶苦茶に取り乱した後だった。
しかし、ペニサスは何とか落ち着きを取り戻した。

('、`*川(なに……なんてことはない。3次元が2次元に近づくなどありえないことよ。
      それも翼たんに似ているなど……見間違いでしょう。
      あの、逆光っぽかったから。そのせいそのせい)

('、`*川 チラッ

【+  】ゞ゚)「?」

:;(∩、∩*川;:(あかん、似てるわ……特に眼帯が)

ここでペニサスは気づいた。

眼帯である。
そう、この眼帯が悪いのだ。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:31:00.92 ID:uR7zO8hs0
どうしてそんな厨二アイテムを着けているのかは知らないが、市販のガーゼのそれではない。
薄手の布に、何か硬い裏地が貼ってあるらしい。しっかりとした出来だ。

何故そんな物をつけるのだろう?
彼女の好奇心は一気に加速した。

黒川という男に目をやると、丁度携帯電話が鳴ったようだった。
一言断って、彼は席を立つ。

入れ違いにやってきた塾長に、ペニサスは話しかけた。

('、`*川「あの、」

( ^ω^)「お、どうしたおー?
      分かんないことがあったら、どんどん聞いてお!」

やはり塾長は人当たりのよい人物だ。
ペニサスは外堀から徐々に埋めていく事にした。

('、`*川「黒川さんって、下の名前はなんておっしゃるんですか?」

( ^ω^)「ああ。何でも絶対呼ばれたくないらしいんだお。
      僕もあんまり呼ばないから忘れちゃって……」

お恥かしい、と後頭部をポリポリ掻く小太りの男に、彼女は本題を切り出した。

('、`*川「じゃあ、眼帯はどうしてしてるんでしょうか?」


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:34:14.74 ID:uR7zO8hs0
内藤は少しだけ眉を顰めた。
ミーハーでゴシップ好きの女だと思われたかしら、とペニサスは一瞬慌てた。
しかし、そうではないらしい。
  _,
( ^ω^)「……実は、子どもの頃に何かあって、傷跡があるんだってお。
      見せられて気持ちのいいものじゃないだろうから、って眼帯で隠してて。
      かわいそうだおー、そこまで気が使える良い人なのに」

小声でひそひそ言われたのは、何やら良く分からない理由である。
眼帯からはみ出した頬や額には、何も傷など無かったけれど。

塾長は資料だけ取ると、さっさと教室に戻っていった。

しんとした事務室の外から、男の小声が聞こえる。
電話中なのだろう。
聞いてはいけない、と思いつつも、聞こえてしまうのは仕方が無い。

そう自分に言い聞かせて耳を欹てるペニサスは、かなり暴走中であった。

『たい……戦力に……るとは思えな……
……報も漏れ……な……
と……青……今月……で移動……』

『なら、まず……安泰……
……えず、続き……てから……皆で……談……』

('、`*川(何この会話めっちゃ滾る)

電話を終えて、男性がもそもそ戻ってくる。
ペニサスは慌てて緩んだ顔を引き締めた。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:37:01.30 ID:uR7zO8hs0
そっと彼の横顔を盗み見る。

考えれば考えるほど、原因は眼帯だけじゃないかと思えてくるのである。
もうお分かりだろうが伊藤ペニサスは1つのことに集中すると周りが見えなくなるタイプだ。

しかし、割と仕事はできる。
現在も彼女は頭を別の方向にフル回転させつつ
書類の数字を打ち込み続ける、という働き者ぶりを発揮していた。

とうとう、好奇心が遠慮に打ち勝った。

('、`*川「黒川、さん?」

【+; 】ゞ゚)「はい!?」

('、`*川「あのぅ、どうして眼帯してるんですか?
     すみません、失礼だと分かってるんですが……」

彼はビクビクと脅えている。
眼帯、といわれて少々面食らったようだ。

自分の右目のあたりを眼帯越しに触れ、納得したように、ああ、と声を出した。

【+  】ゞ゚)「これ、ですか。気になりますよね」

('、`*川「ええ、かなり気になります」

【+  】ゞ゚)「傷があるんです。結構気持ち悪いですよ」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:40:36.85 ID:uR7zO8hs0
('、`*川「そんな事、気にしませんよ!」

ペニサスにとっては古傷より素顔の方が気になるのである。
口に出したらかなり失礼な思考だが、『この男性には』読心術など備わっていない。

【+  】ゞ゚)「じゃあ、見ます?
       見たらきっと納得すると思いますよ」

('、`*川「よろしければ」

後頭部でリボン状に結ばれた紐を解く男を見て、ペニサスは小さくガッツポーズをした。

(∩"_ゞ゚)「悲鳴とか、上げないでくださいね?」

('、`*川「はい!」

何故だか、小さく笑いながら、男はゆっくり手をどけた。

('、`*川「……あ、れ?」

晒された右目は軽く閉じられていたが、その周りは傷跡も引き攣れもなく。
生白い皮膚が元の通りに続いていた。
ゆっくりと開かれた目も、白目は白。虹彩も左目と同じ、茶色がかった黒、と普通だ。

('、`*川「え、傷なんて……」

( ゚"_ゞ゚)「『古い火傷の痕があるでしょう?』」

('、`*川「へ?」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:43:47.23 ID:uR7zO8hs0
言葉を聞いた瞬間、ペニサスの脳に薄く靄がかかる。

( ゚"_ゞ゚)「『右目の周りがケロイド状になって、かなり気持ち悪い眺めでしょう。
       だから、あまり俺の顔を気にしないで下さい』」

('、`*川「ケロイド……は、ぁ……」

(∩"_ゞ゚)「はい、もう分かりましたね」

彼は、用は済んだとばかりに、てきぱきと眼帯をつけてしまう。
その様子をぼうっと見ていたペニサスの前に、湯気の立つマグカップが置かれた。

【+  】ゞ゚)「すみませんね。気持ち悪いものをお見せして」

('、`;川「い、いえぇっ! かえってすみません、失礼な真似を」

【+  】ゞ゚)「いいんですよ。じゃ、授業があるので」

数冊のテキストを持って、彼は出て行った。

あんな酷い火傷、どうして負ったのかしら。眼帯取ったらあんまり似て無かったわ、と。
ペニサスは先ほどの、焼け爛れ固まった彼の顔を思い出し。

淹れてもらったインスタントのコーヒーを啜りこんだ。
動作に無駄がなく、仕事のできる男然とした彼の顔を思い浮かべる。

中々悪くない気分である。
この職場に出会いを期待できるかどうかは、なかなか分からなくなった。

これが、伊藤ペニサスの話である。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:46:03.25 ID:uR7zO8hs0
-----------------------×8--キ-リ-ト-リ--------------------------


流石兄者とその弟にとって、日々は大変忙しいものであった。
何故ならば、彼らは妹のために金を稼がなくてはならないから。

彼らは数年前に両親が相次いで急死してからというもの、自分たちの食い扶持と
妹の将来のためにブンブン働いてきた。

初めはアルバイト。
土方、コンビニ店員、ティッシュ配り、キャバクラの客引き。
警備員に、交通整理に、工場の検品業務ですら経験済みである。

『大学行くのは面倒臭い』『おにゃのこに触りまくれる仕事とか無いの?』
などと言っていた当時からは見違えるほどだ。

今ではアルバイトでなく、自分たちで起こした仕事を、変わらず頑張っている。

ただ、結局彼らは女性にベタベタ触りまくれる仕事に就いたのだ。

( ´_ゝ`)「え……黒井翼似?
      それって結構イケメンって事じゃん……なに、もう、むかつく……」

しゃき、と軽い刃物が髪を滑る軽快な音。
銀色の鋏が兄者の手の中で一定のリズムで動く。
その度に黒く湿った女性の髪が細く束になり、ハラハラと落ちていった。

('、`*川「うん、眼帯取ったらあんまり似てなかったかもだけど。
     まあフツメン以上だったわぁ」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:49:08.96 ID:uR7zO8hs0
(´<_` )「そんな人が居るモンなんですね」

しゃ、と手首を返すようにして、素早く。
手にしたバッファーというヤスリで女性の爪を磨いていった。
柔らかい消毒綿で爪先の研磨屑を拭い、女性の指をマッサージしながら弟者は首を傾げた。

クロスをかけた女性の左右から、兄弟は交互に相槌を打った。

2人の現在の職業は、移動美容院の変化形のようなものだ。

兄は美容師と着付師、弟はネイルアートとメイクの担当をしている。

この兄弟だけで、必要ならば着物の着付けから。メイク、髪、ネイルまで仕上がるという
言うなれば、美人製造機なのである。

ボックス車に必要な用具を全て詰め込み、首都近隣なら何処へでも出かけて行き
個人宅や、その庭や、公園などに椅子を置けば、それで仕事場にしてしまう。

('、`*川「あたしもびっくりしたんだけどねー。
     今はあんまりそう思わないし、むしろ」

(´<_` )「むしろ?」

('、`*川「ちょっと、いや、うー……ん、何でもない」

少々頬を赤らめた女性が目をそらした隙に、兄弟は一瞬視線を交わした。
ニヤリと、お互いの顔があまりよろしくない笑顔を作るのを見、彼らは作戦を決行した。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:52:32.02 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「伊藤さん、今日ちょっと雰囲気変えてみない?」

(´<_` )「サービスで値段は変えませんから」

('、`*川「へ?」

顔を上げた女性の顔を覗きこむのは、先ほどとは違う笑み。
人当たりの良さそうな笑顔を貼り付けた兄弟である。

( ´_ゝ`)「ちょっと短めにして、すいて軽くしよー。シック系で」

(´<_` )「じゃ、ネイルも合わせて、モノクロでチェック柄にしましょう」

('、`;川「え、え、え、ちょっとちょっと!」

慌てたようにぱちぱち瞬きをする女性の肩をぽんと叩き、2人は言った。

(*´_ゝ`)「だいじょぶですって! 気に入らなかったら料金取りませんしね」

(´<_` )「そうですよ。仕上がって、それが嫌だったら俺たちを2・3発殴ってもかまいません」

(;´_ゝ`)「え、俺痛いの嫌だ……弟者だけで……」

(´<_`;)「アンタってやつは……」

初めてこの兄弟にカットとネイルを頼んだ時と同じ文句を口にされ、女性は少しだけ笑った。
どうしますか、と聞き返す2人に、こう返す。

('、`*川「じゃあ、可愛くしてね」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:54:54.28 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「はいはい。カラーとパーマはしないからお任せあれー」

(´<_` )「ラメとラインストーンは嫌なんですよね?」

('、`*川「まだギリギリスイーツ(笑)にはなりたくないっつーの」

綺麗な鋏がサクサクと髪を削り、指先には微かに冷たい感覚。
目に髪が入らないように閉じているうちに、彼女はうつらうつらと眠ってしまった。

幸いこの女性は、ふらふら頭が動いてしまうような癖はない。

兄弟は集中して『作業』を進める。

鋏を丁寧に使って、髪を削っていくようなカットで輪郭を作り、梳き鋏で量を減らす。

髪の内側だけを、鋏をスライドさせるようにゆっくり動かしてカットした。

よくこの行程を高速でスライドさせ、テクニックを見せびらかすようなカットをする美容師が居るが
あれは相当な技術が無いと髪を傷めるだけだ。と兄者は知っている。

精々その技術があるのは日本じゃ両手の指程度だろう。後は大概どこか傷めている。

急がずに、しかし手際よく。
刃物を器用に操る様は、よく見かける大振りなパフォーマンスよりもかえって目を引く。

今回の仕事場はこの女性の自宅であるから、カットが済んだら自分で風呂に入ってもらうしかない。
30分程度で作業を終えて、兄者は弟の作業を覗き込んだ。

(´<_` )「ん……何?」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 14:57:51.70 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「どんくらい?」

(´<_` )「10分」

言葉は最低限だ。
そのせいで、相手が怒っているのか、などと心配したりすることもない。

兄弟の絆と言えば、この2人は断固反対するだろう。

ただ単に、相手が怒っていても知ったことかと思っているだけなのだ。
遠慮がまったくない。

最後に、綺麗にラインを引かれた爪の1番上に紫外線コーティング用の液体を塗り
それを乾燥させるために特殊ライトの下におく。

弟者が軽く首をまわし、ゴキゴキと関節を鳴らしている間に、兄は女性を起こしにかかった。

( ´_ゝ`)「伊藤さん、終わったよー」

('、`*川「ふぉえ?」

( ´_ゝ`)「終わりました。髪洗ってきてな」

('、`*川「はいはぁい」

細かい髪が落ちないよう、頭をタオルで包んだまま、女性は髪を洗いに行った。

その間に、椅子の周りに敷いてあったビニールシートから髪を掃き集め、ゴミ袋にまとめる。
代わりにドライヤーやスタイリング剤やメイク道具を出し、ネイルの用品を片付ける。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:00:36.76 ID:uR7zO8hs0
手早く戻ってきた女性は薄化粧がとれて、さっぱりした顔を恥かしがる事もなく晒している。

この兄弟の顧客にはよくある事だが、要するに『異性』のカテゴリーに入れてもらえないのである。

('、`*川「ほい、お願いします」

( ´_ゝ`)「ん、把握した」

ドライヤーで手早く髪を乾かし、洗ったことで目立つ切り損じを整えた。
ブラシで全体をブロー。スタイリングは最小限に、軽くスプレーし、流す程度。

( ´_ゝ`)「あと最後に仕上げる」

(´<_` )「はいバトンタッチ」

ドライヤーとブラシを置いた兄に代わり、弟が化粧品のワゴンを出す。

前髪をクリップでまとめて、露になった顔に基礎化粧品から順に乗せていく。

保湿の上から、美容液混合の下地。

パウダーファンデーションを振り、形良く整えられた眉を更に彼女の顔に合わせて調整する。

パステルのライトカラーを瞼全体に。そこからグラデーションになるよう、ほんのりとしたオレンジ色を。
目尻にライトブラウンを刷く。
目の下にはハイライトの白を入れる。

まつ毛はファイバーインのマスカラで、アイラインと同様、けばけばしくならない程度。

少し顔を離し、弟者は出来を確かめた。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:03:27.11 ID:uR7zO8hs0
(´<_` )「伊藤さん、ちょっと目を開けてみてください」

('、`*川「はぁい」

ぱちりと女性が目を開く。
その目が、いつもの垂れ目より少し大きく見えることに、弟者は満足した。

頬に気持ち程度に赤みを入れる。と言っても、殆どハイライトに近い。

リップペンシルとブラシを使い、丁寧に唇に色を注す。

最後にグロスを乗せ、弟は道具を片付けた。

兄が女性の肩からクロスを取り、手櫛で整える。

( ´_ゝ`)「はい、できあがり」(´<_` )

大き目の鏡を持って、2人は女性の前後に立った。

合わせ鏡を覗き込んだ女性が、驚いたような顔で瞬きをする。

('、`*川「……あんたら本当は美容整形でもしてんじゃないの」

(´<_` )「それが本来の伊藤さんのお顔なんですよ」

背に重たく垂れていた黒髪は、肩口までで切りそろえられている。
ふんわり、癖を生かすような内側へのカール。

('、`*川「パーマかけてないんでしょ?」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:06:15.95 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「え? うん」

('、`*川「セットどうやんのよ、コレ」

( ´_ゝ`)「乾かす時内側からブラッシングしながらドライヤーかけてー
      出かけるときは軽いスプレーかけて手櫛で。ブローすると綺麗にできるよ」

('、`*川「うっそ……それだけ?」

( ´_ゝ`)「短くしちゃったから、そこは悪いんだけどねー。
      ただ寝癖とか、もつれは減ると思われ」

毎朝酷い寝癖と格闘し、アイロンで必死に真っ直ぐ伸ばして、
というスタイリングをしていた女性にとって、これは天恵である。

女性の朝の支度は、時間をかけようと思えば幾らでもかけられるのだ。
短縮はありがたい。

実は、その寝癖・もつれの原因は、アイロンで頻繁に伸ばしていために痛んだ毛先。

兄者が思い切ってバッサリ切ってしまったこと、スタイリングする前に
ヘアバターという特殊な天然植物油脂でトリートメントしたことで、髪質自体が変わっている。

('、`*川「そんなの全然良いわよ! 惰性で伸ばしてただけなんだかjら。
     ふわー。なんか、ほんと魔法みたい……」

( ´_ゝ`)「魔法魔法って言わんといて……にわかに現実味帯びてきてんだもん」

(´<_` )「魔法使い化まで、あと6年ぐらいはあるぞ」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:07:00.78 ID:bChrgoY4O
兄者w


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:08:02.19 ID:7jDY4tQjO
大丈夫、まだ6年『も』あるさ…………!


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:09:40.09 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「6年しかねーよ……弟のくせに、余裕シャクシャク非道帝め……!!」

明らかに落ち込んだ色を見せた兄が、弟の頭をぺしぺしはたく。
弟者は嫌そうに避けた。

(´<_`;)「嫌な漢字変換するなよ。ってか言うなバカ」

( ;_ゝ;)「あー! ばかって言った。いけないんだー。
      お兄ちゃんにバカって言ったらいけないんですー。
      おにいたんガラスのハートなんですぅー!
      非道帝なんて野蛮な生き物とは違いますぅー!」

うわぁ、と盛大に泣く真似をする。
真似じゃないのかもしれないのが、この流石家長男の流石なところだ。

(´<_`;)「あああ、もう。お客様の前で恥かしいぞお前!
     お兄ちゃんなら泣くんじゃない!」

( う_ゝ`)「じゃあ今日からお前が兄ね。兄ちゃん金くれ」

(´<_`#)「仕舞いには張っ倒すぞ、このアホ兄め」

仕舞いには、と言い、張っ倒す、と言ったのにも関わらず。
弟は身長と比例した長い足で、兄の腹部をどこりと蹴った。

くぐもった声をあげ、腹を抱えて床にのた打ち回る兄者の頭部を踏みつけながら
弟者は女性に営業スマイルを向けた。

(´<_` )「髪型は大丈夫ですか?
      気に入らない点が御座いましたら、どうぞこのアホを踏んでやってください」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:12:41.57 ID:uR7zO8hs0
('、`*川「遠慮しとく。満足だもの」

(´<_` )「メイクとネイルはどうでした?」

促されて、女性が手元に視線を落とす。

('、`*川「はぁ……これ手書き?」

(´<_` )「はい」

精緻な落ち着いた色のタータンチェック。
華美すぎないが視線を集めるデザインだ。
季節柄か、左の薬指にだけ雪の結晶のモチーフが描かれていた。

('、`*川「かわいい……」

(´<_` )「それは良かった」

コロコロ表情を変える兄に比べて、弟者は無表情だ、愛想が悪い、と思われがちだ。
ただ、仕事を褒められた時は素直に笑うのが救いである。

もっとも兄者の方は躁病の気質でもあるのかと思うほどに賑やかであり。
弟者は年齢以上に落ち着いた様子である。

自分たちが母の胎内で色々能力を分け合ってるうちに
お互い半分に分けるべき所を総取ってしまったのだ。

2人は日頃からそう思っていた。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:15:05.57 ID:uR7zO8hs0
完璧に分けたということはない。
兄者も偶には真面目な事を言うし、弟者も大爆笑する事もある。
そういうとき2人はまったく同じ人間のように見えるが、普段は真逆の事ばかりである。

だから彼らの妹に『正反対でそっくり』などと哲学的な事を言われるのだ。

('、`*川「ねぇ、これメイクで何か特別な事やった?」

(´<_` )「いえ。色の配分を変えただけです」

目の縁に入れたラインの所為で、かなり目が大きく見える。
まつ毛も長く、目立つが、けばけばしくない程度にわきまえてある。

弟者は厚化粧を女性に施す事をあまり好まない。
注文なら何でもやるが、何も言われなかった場合は、極力薄く施す。

顔に沢山化粧品を乗せれば、綺麗に見せることは簡単だ。
全て覆い隠して、上から理想的な色をさせば良い。

ただ、それだと皮膚に負担はかかる。
洗顔で落とすのも大変で、少しでも化粧品が皮膚に残れば、肌ストレスの元。
だから敢えて表現の面倒な薄化粧を選んでいるのだ。

('、`*川「いや、私さ、メイクここで教えてもらうまではもうちょっと濃い化粧だったんだけど。
     やっぱ影響されてるのかな。最近普段も薄くしてんの」

( ´_ゝ`)「あー、良い事じゃん」

(´<_` )「メイクの時間削って、スキンケアに時間かければ同じ事です」


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:18:07.46 ID:uR7zO8hs0
('、`*川「そーよねー。前より肌綺麗になったもん。化粧品合わなかったのかな?」

(´<_` )「基本的に無くて当たり前の物を四六時中ベタベタ塗ってるわけですから。
      できれば薄い方肌は楽なんです」

ふむふむ、と頷く女性は、気づいてはいないのかもしれないが
他の美容院などに行っていた頃よりも余程表情が明るくなっている。
基本的に彼女は地元の美容院に行くが、気が向いたときだけ
3ヶ月に1度程の割合でこの兄弟に任せているのだ。

値段は、そこまで変わらないが、ただ出張の交通費もある。
ほんの野口札2枚程度、こちらの方が割高。

しかし、メイクとネイルを施され、セットやメイクについてよくよく教えて帰るので
その授業料としては安いものだと女性は考えている。

それに彼女は美容院があまり好きではない。
近場にあって楽だからそこへ通うが、セット面にいざ座らされると家に逃げ帰りたくなってしまう。
何を話せば良い? 雑誌を読んでもいいの、眠っていいの、無愛想な客と思われていない?

色々気にして肩が凝る美容院より、自宅で施術してくれる方が気分はいい。
この兄弟、否、兄者の方が大変に砕けた男であるためだろうか。
客と美容師というより友人にやってもらっている感覚で、気楽である。

そもそも遠慮せずに『暇だからしりとりしよう』だの、『最近のアニメ云々』だの言ってくるアホは、この兄の方だけだ。
馴れ馴れしすぎると思うと、弟がそれを敏感に察知して兄にブレーキをかけるので、大変快適だ。

('、`*川「これのやり方も教えてくれる?」

(´<_` )「はい。じゃあ伊藤さんの持ってるものの中から使える色を見ていきましょうか」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:20:58.67 ID:uR7zO8hs0
ばらばらとポーチから化粧品を出す女性と自分の弟を、兄者は後ろからにやにやと眺めていた。
ふと、その視線に気づいたのか、弟者が振り返る。兄弟の視線が一瞬合った。
にや、と。また嫌な企み顔を微笑ませて、2人は即座に元通りの顔を形作った。

('、`*川「あー、これ買ったは良いけど使えなかった色なのよねー」

女性はもちろん、気づくことすらなかった。

('、`*川「……んじゃ、はいっ! これ今回の分ね」

(´<_` )「お預かりします」

ぺらりと渡された紙幣を、弟者は丁寧に数えた。
釣銭を入れておくケースから硬貨と新札をつまみ出して、女性の掌に乗せた。

彼らの商売は家に押しかけるものであるから、当然トラブルがあれば疑われる。
窃盗やら暴行やら引き起こす気など微塵も無い事を示す為
できるだけ客に対しては丁寧に振舞うのが弟者の仕事だ。

そして

( ´_ゝ`)「なぁー、今日ピザ食べない?」

(´<_` )「ダメ。高い」

その堅苦しさをぶち壊すのが兄者の仕事。

弟がケースをしまい、荷物をキャリーに入れるのを邪魔しながら、兄者はにへらっと顔を緩ませた。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:23:56.87 ID:uR7zO8hs0
(*´_ゝ`)「ほら配達なしで、取りに行くと結構割り引いてくれんだろ?」

(´<_` )「食パンにケチャップとチーズ乗せて焼いたら同じ」

( ´_ゝ`)「えーロマンがないな。Lサイズのピザとコーラを腹いっぱい食うのが夢なんだよ、俺ー」

こんな事を言っておいて、兄者はいざ食べるとLサイズ1枚では足りないと言い出す。
そして2枚目のピザを注文すると、それを1切れ食べて『飽きた』と言う。

今までも兄に付き合ってテラサイズのハンバーガーやでかいパフェを食ってきた弟者には、お見通しだ。

とんだ『芋粥』である。
喰いたいというから喰わせれば、もういらんと遠慮なしであっさり投げる辺り五位の侍より性質が悪い。
もっとも兄者にとって弟者は自分と同格の弟であるから遠慮などするはずも無い。

女性が2人のやりとりに笑った。
野口札1枚、掌と小銭の間から抜き取り、弟者に返す。

('、`*川「ん、ピザ代ね」

(´<_` )「え」

('、^*川「チップってやつよー。たまにカッコイイ真似くらいさせなさい!」

不器用ながら、慣れないウインクを寄越す女性に、弟者はすまなそうな笑顔を見せた。
諸手を挙げて喜ぶ兄者の膝を後ろから蹴り飛ばしながら礼を言う。

(;´_ゝ`)「いて! お前のつま先何で出来てんだよ、なにこれ本当に痛っ!」

(´<_` )「伊藤さん、ありがとうございます。それじゃ、俺たちはこれで」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:28:18.21 ID:uR7zO8hs0
弟が兄の頭を叩き、一礼させる。
自分も頭を下げてキャリーを掴み、駐車された古いボックスカーの鍵を取り出した。

('、`*川「次は……そーね、1月後くらいに」

1月後、の一言に、不貞腐れていた兄者がまた相好を崩す。

(*´_ゝ`)「はーい、どうもね」

(´<_` )「詳しい日時はご都合のよろしい時にでもお電話を」

('、`*川「ん」

玄関を出て、また一礼。

ぴらぴら手を振る女性は、彼らがここに来る前より確かに美人になっていた。

手早く荷物を車の後部に乗せ、兄者が助手席、弟者が運転席に詰め込まれる。
ダッシュボードから予約スケジュールのノートと地図を取り出しながら、兄者は今度こそ噴出した。
弟者もつられて笑う。

(*´_ゝ`)「ぶふっ……!」

(´<_`*)「くくっ……」

(*´_ゝ`)b「おk、固定客ゲット」d(´<_`*)

清々しいほどにニヤつきながら、2人は成功を喜んだ。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:31:06.27 ID:uR7zO8hs0
(*´_ゝ`)「結構アッサリ行ったな! 1月後だってよ。
      ネットで口コミも期待できるかもだ」

(´<_`*)「地元の美容院の接客が悪いって言ってたからな。
      今回のサービスは正解だろ?」

ごちんと親指を立てた互いの拳をぶつけた。

それを合図に、兄者はスケジュールのノートを見る。
弟者がキーを捻ってエンジンをかける。

スケジュールと依頼主の元までのナビは兄者の仕事。
カーナビとしては中々優秀だと弟者は考えている。

(´<_` )「次も近場だっけ?」

( ´_ゝ`)「ん、あー……」

兄者が少しだけ声のトーンを落とした。

(´<_` )「どこ」
 _,
(∩_ゝ`)「ん、ん?」

弟に地図もスケジュールノートも見せず
兄者は顎で目的地と思われる方角を示し、右目を覆って見せた。
それだけで弟者も行き先を把握する。

(´<_` )「あぁー」


62 :ちょっとPC固まってました:2010/03/07(日) 15:47:53.07 ID:uR7zO8hs0
( ´_ゝ`)「面倒」

(´<_` )「俺、暇だ」

ゆっくりアクセルを踏み込み、車は発進した。

( ´_ゝ`)「だろうな。……200mほど先、左方向です」

次の仕事は団体客。
5人のヘアカラーと、プラスでカットも施すが、5人の内、女性は1人のみだ。

こういう時弟者は暇を持て余す。メイクもネイルも、男性で頼む者は極めて少数なのだから。
待っているだけが癪だから、便利屋よろしくその依頼人の手伝いをしまくる。

( ´_ゝ`)「また内職でも手伝ってやれば。……この先3つ目の信号で左折です」

(´<_` )「んん。それとネイルチップ作りでもしてる」

( ´_ゝ`)「おk。……しばらく道なりです」

兄者がダッシュボードをゴソゴソと漁る。
白無地のCD-ROMを取り出して、カーステレオに放り込んだ。
アップテンポのポップスが会話の邪魔にならない程度に空間を満たす。

ハンドルを握る弟者の指がぱたぱたと動き、リズムを刻む。
男性ボーカルでカバーされたヒット曲のメロディーに、兄者の機嫌が良さそうな鼻歌が重なった。

( ´_ゝ`)「2つ先の信号、右折です~♪」

これが、流石兄弟の話である。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:51:13.63 ID:uR7zO8hs0
-----------------------×8--キ-リ-ト-リ--------------------------


レッドという男にとって、日々は大変楽しいものであった。
何故ならば、そこに嫌な非日常はなく、ただ嬉しいばかりの変化が訪れるから。

そして彼には、その日々の中で特に楽しみにしている『声』がある。

それを言う者は時によって変わる。
ただ、その『声』……いや、その言葉を。

( -∀- )

彼はただただ心待ちにしている。
その言葉というのが、これ。

( ゚д゚ )「ご飯でーすよー!」

(〃゚∀゚ )「あひゃうっ」

我、食う。故に我あり。
腹が減っては戦はできぬ。

食べる事。

口の中に物体を放り込み。
咀嚼し、飲み下し。
栄養として吸収する事。

それが、彼にとっての生きがいである。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:54:25.86 ID:uR7zO8hs0
なんて食い意地の張った奴だろう、と、人は思うかもしれない。

(  ゚∀゚.) ガツガツ

とにかく食べるスピードが早い。

よく噛んでいるが、一口が大きいのだ。

いつもフォークやスプーンで掻きこむようにして食べる。
パンや握り飯のような、手づかみできる物は、両手で、まさに放り込むように喰う。
だから、『がつがつ』『わしわし』と、意地汚く見えてしまう。

o川*゚ー゚)o「レッド、おべんとさんついてるよぉ?」

(  ゚∀゚.)「あーあぅぇ?」

この日の昼食はサンドイッチだ。
焼いたバゲットに粒マスタードの混ぜられたバターが薄く塗られ
香ばしい匂いが立っている。

間に挟まっているのは卵とハム。

卵サンドは、ほんの少しのバターとマヨネーズ、乾燥バジル、
刻んだオニオンピクルスに半熟のゆで卵を粗くほぐす。
それを混ぜあわせたペーストに、ぱりっとしたレタス。

ハムサンドの方は、薄切りのロースハムにきゅうり、トマト、スライスした玉ねぎ。
オリーブオイルのドレッシングで和え、台所で水栽培されているクレソンが添えてあった。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 15:57:50.18 ID:uR7zO8hs0
掌に乗るくらいの大きさにカットされたサンドイッチを1つにつき3口で平らげ。
彼は、困ったように軽く笑った。

どこ? と、首を傾げる。

o川*゚ー゚)と「ココね」

同居人達は、彼の暴食とすら言える食欲をとがめる事をしない。
絶対に。
  _,
(つ゚∀゚.)「うぁ? あーひゃ?」

o川*゚ー゚)oつ「ココ、だよ」

綺麗に切りそろえられた爪が、彼の頬にくっついたパン屑を拭う。

子供のようにその頬を拭って、彼は手に持っていたサンドイッチの残りを頬張った。

o川*^ー^)oつ.「レッド、もっとゆっくり食べていいのよぅー。
          誰も取らないものー。心配しないでね?」

(; ゚∀゚ )「ん、うー」

もぐもぐと噛んでいるので、返事はくぐもった物だった。
何度も頷きながら、彼は意識してゆっくりと咀嚼を繰り返した。

口に物を入れている間は喋らない、と、朝晩食事を作る男に散々言われている。
だから、食いしん坊であっても、彼はお行儀がいい方であった。

カップに入ったインスタントのコンソメでパンを飲み下し、彼は一息つく。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:01:39.53 ID:uR7zO8hs0
(  ゚∀゚ )「あー、あひゃう」

o川*゚ー゚)o「もっといる?」

(  ゚∀゚ )"「うーう」

彼はそっと首を横に振った。
ズボンのポケットに入れてあった携帯電話を取り出し、手早くキーを打ち込む。

(  ゚∀゚ )つ白「ひゃ」

手渡された携帯画面を、彼女は覗き込んだ。

o川*゚ー゚)o「うん?」

(  ゚∀゚ )つ白『今はもうお腹いっぱい。ごちそうさま』

o川*゚ー゚)o「うん、わかった。お茶飲む?」

(  ゚∀゚ )つ白『できれば紅茶がいいな』

o川*゚ー゚)o「そうだよね、わたしも。ちょっと薬缶かけてくるね」

そう言って、彼女は立ち上がった。
彼は盆の上に食器を積み重ね、その後を追う。
聞いているだけなら、女の方が1人で話しているだけだが、この『家』ではよくある事である。

(  ゚∀゚ )~♪

彼は、喋る事ができないのだから。


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:05:09.93 ID:uR7zO8hs0
o川*゚ー゚)o「おまたせっ」

食器を2人で洗い、籠に積み重ねる。
一息ついた彼の前に、程なくして湯気をまとったマグが置かれた。

この家では、皆色違いの物を使うのが習慣になっている。
その色が彼らをつなぐ絆だからだろうか。
それとも、あの1年で組み込まれた癖なのだろうか。

彼の手には大きな赤いカップ。
にこにこ笑う女は、桜色のカップを両手で包み込んでいた。

(〃゚∀゚ )「あぅ」

砂糖のたっぷり入った熱いミルクティーは、美味かった。

きっと、美味かったのだろうと、彼も思った。

女性はそれを飲み終えると、荷物を持って仕事へ。
彼は大人しく内職作業を始めることにした。

大量のバーコード付きシールのはられたシート。
箱詰めされた、これも大量の文房具。
ボールペンや蛍光ペンの側面にラベルを貼るのが、彼のやるべき仕事である。

(  ゚∀゚ )「うぅーあ」

何度も確かめて、ゆっくりシールを貼っていく。
きっと彼のやり方は同じ作業をしている人々に比べて、かなり遅々としたものだろう。


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:09:45.78 ID:uR7zO8hs0
彼は、指先が不器用だ。

箸も上手く扱うことができない。
いつも食事はスプーンとフォークで済ませる。
同居人たちも、これを了解している。

指先の感覚が薄く、よく震えがくる。
触感も鈍い。

例えば、自動販売機に小銭を放り込むのにも、彼は緊張するし
紙幣の枚数を数えるのも下手糞だ。

元からここまで不器用だったかというと、そうではない。

『生前の』彼は、割と器用な方だった。

(  ゚∀゚ )~♪

原因は、5年前に大量投与された、細胞を造りかえる新薬。
それから前代未聞の大手術。

彼は最初の症例であって、最悪の犠牲者だった。
今生きている者の中では、だが。

徐々に薬も改良され、手術法も見直された。
だから彼の後に続くレンジャー、ライダー達にここまで酷い後遺症はない。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:12:39.22 ID:uR7zO8hs0
彼の後遺症は、指先の麻痺に留まらない。舌も麻痺が強い。
話すこともできない。
舌が縺れて、発音もままならないのだ。

この2つ以外のの障害を知っているのは、彼のすぐ後に製造された現在の同居人のうち、一人だけだ。
1番長く一緒に居たため、そして、その男が読心術を持っていたため、彼だけが知っている。

他の者は知らない。

彼には味覚がない事を。

舌も麻痺しているのだ。
甘いも塩辛いも、彼にはわからない。
匂いはわかる。だが、そこに味はない。

だから、彼は研究所で出されていた『クソ不味い流動食』もガツガツ食べた。

彼が食べ物に執着し、空腹を恐れているのは、もしかしたら味覚がないからなのだろうか。

彼には何もわからない。
わからなくてもいいと、彼は思う。
どうせ分析して理由がわかっても、彼の味覚は戻らない。

他にも、全身の痛覚が極端に鈍かったり、左の耳に軽い耳鳴りがあるが、それもどうせ、治らない。

どうでもいいのだ。

それは皆同じで、彼ほど酷くはないが、その読心術を持っている男は左耳が殆ど聞こえない。
その男の場合、何を言っているかより何を考えているかがすぐに分かるから支障はないらしい。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:16:17.95 ID:2wW+zjVXO
ふたなり支援


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:16:38.12 ID:7jDY4tQjO
アヒャ……
支援


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:17:23.76 ID:uR7zO8hs0
また、黄色い髪の同居人は、耳と鼻はいいが、目が悪い。
薄い緑色のセロハンを通したような世界が見えているらしい。
要するに視覚異常だ。

それ以外の2人は、ぐっとマシになって、殆どと言っていいほど後遺症はない。

それも、どうでもいい事だった。
いい事だと思いはする。しかし、それを羨んだり、妬んだりはできない。
そういうものだからだ。

何故なら、彼に味覚はないが、それでも。

5人で食べる食事は変わらずに美味い。

赤いマグカップに入った熱いミルクティーは、美味い。

そして、全員で研究所を抜け出してから、初めて食べたあのお祝いのケーキ。
コンビニの廃棄を分けてもらった、ぱさぱさとした安っぽい、味の濃いそれは。

確かに、確かに甘く、とびきり美味しいものだったから。

(〃゚∀゚ )~♪

彼は、あと2時間後に食べる予定である今日のおやつに思いを馳せた。

ぺたりぺたり、ゆっくりと。
台紙のシールをボールペンに貼る作業を繰り返した。

これが、レッドの話である。


81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:22:08.31 ID:uR7zO8hs0
-----------------------×8--キ-リ-ト-リ--------------------------


埴屋ギコにとって、日々は大変疲れるものであった。
何故ならば、共に行動している男がどうしようもない奴であるから。

そのどうしようもない奴というのが、これ。

(*・∀・)σ「ギコ君、見なさい! 黒ゴマソフトクリームがあるらしいぞ。
       今すぐ僕の分を買ってきたまえ!」

守屋モララーである。

関係上ギコの上司という事になるが、年齢も1つしか変わらず、何より
彼の態度は万事こんな調子なので、ギコとしてはベビーシッター気分である。

現在彼らが居るのは首都からほんの少し離れた郊外の道の駅。
大型バイクに寄りかかったままで、ギコはモララーの指差す先に目をやった。

『黒ゴマソフトクリーム』、『おいしい』と書かれたのぼりが、交互に並んではためいている。

軽い頭痛を覚えながら、ギコはきっぱり言い切った。
 _,
(,,゚Д゚)「ダ・メ・だ!」

( ・∀・)「えぇー良いじゃないかいケチ。250円だよ、たったの」


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:25:32.52 ID:uR7zO8hs0
(,,゚Д゚)「絶対ダメだゴルァ。
    何でこの道の駅でバイク停めるハメになったか、あんたもう忘れたのか」

埴屋ギコの言い草は、おおよそ上司に対するそれではない。
まるで小さな子供を宥めるような言い方だ。
しかし、モララーの方もそれを注意する事はない。

そもそも、傍から見る者にとっては、彼らが
上司と部下だとは到底思えないだろう。

バイクに寄りかかるギコは、少々小柄ながらも
しっかりと鍛えられた筋肉質な体つきをしていた。

それを強調しないよう、細身のライダースジャケットと
色落ちした黒いジーンズを纏いいかにも男らしい雰囲気を漂わせて。
文句なしの『男前』である。

アメリカンバイクのクセに国産という、妙に無難なヤマハドラッグスターの1100を愛車にしている。
ただ、ギコ自身、その愛車を自分の一部として完全に乗りこなし、仕草はかなりこなれていた。

( ・∀・)「トイレ休憩に決まってるじゃないか。
      アルツハイマーかい、ギコ君」

対してモララーの方は、仕立てのいい3つ揃いのスーツに、傷1つ無い革靴。
乗っているのは白の古いベスパである。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:29:41.75 ID:uR7zO8hs0
そのシートに横向きに座りながら足をぶらぶら揺らせている姿は
『気まぐれそうな金持ちの御曹司』といったところか。

焦げ茶がかった髪は全体的に長め。
いつもは斜めに額にかかる前髪を、持ち上げたゴーグルでかきあげている。

走行中、風に弄られ続けていたためにスーツは皺が寄っている。
それを含めたとしても、文句なしの『イケメン』であり、どう見ても優男風の人物だ。

並んだ2人は、上司部下どころか、まったく接点を持っていないさそう。
それが遠慮なしに話し込んでいるのだ。
ギコとモララーは通り過ぎる人々の視線を色々な意味で集めることになった。

(,,゚Д゚)「正しくは『俺が止せって言うのにシェーキをLサイズなんぞで頼んだから』
    こんなトコで休憩挟む事になったんだぜ」

モララーは未だにバニラシェーキのにおいを撒き散らしながら笑った。

( ・∀・)「それの何が悪いんだい!」

高々と脚を組み、その上に頬杖をつく。
子供っぽい仕草の癖に不思議と似合っているのは彼の精神年齢が低すぎる所為か。

とにかく言動の全てにおいて、モララーは尊大な態度を見せる。
生粋の殿様根性の持ち主であった。

(,,゚Д゚)「こちとら忙しいんだゴルァ! さっさと奴を見つけないと、また面倒事になるぞ」


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:33:34.25 ID:uR7zO8hs0
  _,
( ・∀・)「君って男は……急がば回れ、という言葉を知らないのかい?」

(,#゚Д゚)「そりゃ回り道でも確実な方法を選べと言ってるだけだっ!
     黒ゴマソフトクリームを食えなんて言った奴はいねぇぞゴルァア!!」

怒髪天を衝くという言葉を辞書で引いて、そこに挿絵が載っているとしたら。
まず間違いなく現在のギコが相応しかった。

茶色っぽい短髪は本人の怒りを示すようにツンツンと逆立っており
更に、生まれついての三白眼が視線をも凶暴に見せている。

だが彼の上司には、その姿もあまり意味を成さなかった。

(*・∀・)σ「じゃあー、大判焼を買ってきたまえ!
       トイレに行きたくならないから、それならいいだろう!」

その指差す先には、小さめの張り紙。
『大判焼、はじめました 1個 80円』

そして、ふんわりと甘い香りのする湯気が漏れている。
 _,
(,,゚Д゚)「あああもう、あんたって上司は!」

そう言いながらも、ギコはもたれていたバイクを離れ、大人しく売り場に向かった。
こうなったモララーはもう、どうしようもないのを彼は知っているのだ。

放っておくとゲーム機をねだる子供のように延々とダダをこね始めるモララーである。
これは懸命な判断であった。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:36:48.93 ID:uR7zO8hs0
とぼとぼと歩くギコの背中に、モララーは容赦ない注文を浴びせた。

(*・∀・)「僕はカスタードとうぐいすでね!
      領収書を取って経費で落としなさい!」

こんなものが経費で落ちるわけが無い。
ギコは溜息をつきながら、自分用にも小倉を1つ注文した。
  _,
(,;-Д-)「こんなんじゃ、いつまで経っても研究所につかねーんじゃねぇかぁ」

あーあ、と。
ぷかぷか逃げていく幸せが見えるような溜息である。

室内で大判焼を引っくり返す売り場の親父は、何を思ったか。
憐憫の情を持って、小倉餡を1つ余計に袋に放り込んだ。

ギコが気配を感じてふと振り返ると、すぐ後ろで両腕を前に差し出した上司がいる。
自分が『買って来い』と言ったくせに、待ちきれなくなったのだ。

(*・∀・)「う・ぐい・す! かす・たー・ど!」

(,,゚Д゚)「D・V・D! っぽく言うんじゃねーよゴルァ」

詰めてもらったばかりの暖かい紙袋をその両手に乗せられると
モララーはスキップより軽い足取りでバイクの駐車スペースに駆け戻った。

苦労人の部下は、あーあと溜息を吐き、ポケットマネーで支払いを済ませた。


90 :さる:2010/03/07(日) 16:45:24.40 ID:uR7zO8hs0
受け取った紙袋。
中の平たく潰れた円柱形を取り出し、二つに割った。
卵色のふかふかとした生地の中に、もっと薄い卵色のカスタードクリーム。

(*・~・)゛「んー、なかなかほいひぃ」

齧ると熱いクリームが舌にとろりと乗っかりる。
甘みの少ない生地が噛む度にクリームのしつこさを薄れさせる。
夢中でモサモサと大判焼を頬張るモララーも、内心これからどうしようかと思案していた。

ギコと2人、ここまでバイクで来たことは何度もある。
しかし、あの山奥の研究所まで攻め入る事が出来た例はない。

門番に見つからず、センサーを潜り抜け、監視カメラにも映ることなく侵入するのは、不可能だ。

あるいは、あの研究所周囲に繁る雑木。
そのの上を飛び移りながら移動できるなら、可能ではあるかもしれない。

( ・∀・)「どうするべきだろうかねー」

(,,゚Д゚)「何がだよ」

ようやく戻ってきたギコは元通りバイクに寄りかかり、湯気の立つ甘味を貪った。

( ・∀・)「研究所さ。どうやって忍び込んだものか」


93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:48:40.89 ID:uR7zO8hs0
(,,゚Д゚)「忍び込むって……人聞き悪ぃな」

でも事実だろう、と言う上司に、ギコは気まずそうな唸り声を返した。

( ・∀・)「……僕はね、ギコ君」

今度はうぐいす餡の大判焼も2つに割り、半分ずつ交互に口に運びながら続けた。

( ・∀・)「そろそろ僕達は武力に訴えてもいいんじゃないかと思うのさ」

そう言い、ニコニコと微笑む。
いつも笑顔を絶やさずにヘラヘラと笑っている上司だ。
しかし、割かし優秀であるこの部下は、モララーの目が本気である事をすぐに見て取った。

(,;-Д-)「はぁ、守屋サン」

( ・∀・)「何かね? 埴屋君」

2人とも、あえて仕事中に使う呼び方でお互いを呼ばわった。

(,;゚Д゚)「つまり?」

"ヽ( ・∀・)ノ゛「埴屋君=門番と警備員ぶっ飛ばす。僕=愛しの彼女に求婚する。
         これが成功の方程式さ!」

両手に一口ずつ残った大判焼を振り回しながら。
守屋モララーは一息にこれだけ言うと、食べ残してあった甘味を口いっぱい頬張り、部下の反応を待った。


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:52:43.83 ID:7jDY4tQjO
支援といこうじゃないか
http://imepita.jp/20100307/606870
606870.jpg


96 :さるさる:2010/03/07(日) 16:56:02.91 ID:uR7zO8hs0
(,;゚Д゚)「……おい、当初の目的」

( ・∀・)「んんー、ふぁかっへるひょ。んぐっ! アレの奪還だろう」

あとから取り付けたコンビニフック。
そこにかけてあったバッグからボトル缶を取り出し、ごくごくと、一気に中身を半分ほど煽った。

練乳の味しかしないほど甘い、と有名なメーカーのコーヒーを勢い良く飲む上司に
さほど甘いものが好きではないギコは呻き声をあげた。
とことん趣味が反りあっている。
 _,
(,,゚Д゚)「うう、ならいいが……いや、よくねぇよ。俺と役割替われっ!」

( ・∀・)「ごめんこうむるよ。僕は」

(,,゚Д゚)「うむぅ」

埴屋ギコは、こういうときに何も言えなくなってしまう。

どうあってもこの男は上司である。
腐っても上司だ。

その上頑固、我侭、これでもかと言うほどの王様主義。

(,;゚Д゚)「うぅ」

( ・∀・)「ま、今すぐってワケにもいかないね。今回はまた地道にやるしかない」

まだ今は、と笑う男に、ギコは眉間の皺を深くした。


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 16:59:32.80 ID:uR7zO8hs0
( ・∀・)「そういう訳だから、さっさと行こう。追い返されない事を祈ってね」

無理である。

( ・∀・)「ああ、せめて彼女に一目でも見えたいものだねぇ」

(,,゚Д゚)「はぁ……、まあ、俺も……逢いたい人は居ますがね」

( ・∀・)「だろう」

しょんぼりと肩を落としている。
上司の無言の要求に答え、ギコはなぜか1つ余計に入っていた大判焼を差し出した。

しょんぼりのポーズを崩さないまま、彼はモサモサ大判焼を頬張り、練乳味のコーヒーを飲んだ。

モララーがぐしゃぐしゃに丸め、ぽいと投げ捨てた大判焼の紙袋。
溜息吐いた部下が拾い、捨てに行く。
彼が戻ってきた頃、守屋モララーは固形ブドー糖をがりごりと齧っていた。

どんな歯をしていやがる、なんて味覚だ、なんという食欲、とギコは眉をしかめる。

( ・∀・)「何ジロジロ見ているんだね、君は」
 _,
(,,゚Д゚)「いや」


99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:01:33.59 ID:uR7zO8hs0
眉間の皺を揉み解しながら、ギコはバイクのエンジンをかけた。

( ・∀・)「ん、行こう」

遅れてかかった軽めのエンジン音が、それに被さり、響く。

(,,゚Д゚)「もう研究所まで何処にも寄らねぇぞ」

( ・∀・)「善処しよう」

少し変わったデザインのヘルメットを被って。
スタンドを蹴り、再びバイクは目指し始めた。

「今度は成功するといいなぁ」

深い林の中の閉ざされた研究所を。

伝わる振動を音として聞きながら、彼は確信した。
必ず上司がコンビニに寄りたいと駄々をこねるだろう事を。

これが、埴屋ギコの話である。



番外編
8.5話 「閑」 おわり



101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:03:16.54 ID:7jDY4tQjO
乙!


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:03:59.41 ID:uR7zO8hs0
番外編は終わりです
すみませんが、ちょっと休憩

休憩後には9話を続けて投下します

>>94
うわあああありがとうございます!
o川*゚ー゚)oが可愛いなぁ
保存しました

それと、この前総合で絵を下さった方も、ありがとうございました
しっかりと保存させていただきました


103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:04:45.15 ID:ZUb/80cYO
終わってた…乙でした!


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:05:34.48 ID:bQYZcDDNO
乙!!
そして再び支援


105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:06:57.40 ID:5DN4TRI+O
さっきくるくる川 ゚ー゚)のまとめでラジオのやつ読んだばっかだわ

頑張れ


106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:07:50.33 ID:bChrgoY4O
おつん。待ってるよ


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/07(日) 17:08:27.58 ID:7jDY4tQjO
wktk


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