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◆|  ^o^ | Channelers のようです 第一八話 『 Imitation. ── VS. ブーム④ 』

前の話/インデックスページ/次の話

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:11:46.02 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「いいか、結び目はお前が責任を持ってチェックしろ」

「は、はい……」

(*゚∀゚) 「……ケッ」


 暫くのち。
 つーは大男の指示により、柱へ後ろ手に縛られていた。


| ^o^ | 「もしほどけでもしてみろ? 娘ともどもぶッ殺すからな。 覚悟しとけ」

「ひいっ……」


 柱といっても、フロアを支える太いそれではなく、
 カジュアルウェアのテナント入り口にある、細長いゲートの片足なのだが。

 男はつーの事をひどく警戒している様子で、
 彼女の拘束が確認されても、そちらにはけして近づこうとしなかった。




2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:14:57.23 ID:XOEYVusx0
 
(*゚∀゚) 「へっ。 ナニナニ、そーゆーシュミぃ?」


 無理もない。
 外枠だけだったとはいえ、ショーケースの残骸をぶん投げ、
 あげく刃物を恐れず飛び掛かってくるような相手だ。
 格闘技の経験者か何かなのかと勘繰られるも詮無きこと。


(*゚∀゚) 「あひゃひゃ。 キョーアクハンでヘンタイかァ」

| ^o^ | 「……われ、自分の立場わーッてンのか?」

(*゚∀゚)゙ 「ハネマンってトコロだナッ!」

|#^o^ | 「……ちィと黙っとけや」


 彼女の緊縛は警備員の手によって行われ、
 幼女の母親がその結び目を点検する役回りだった。
 俺はつーの彼氏だと思われているらしく、そちらに近づくことさえ許されなかった。



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:17:12.20 ID:XOEYVusx0
 
(*゚∀゚) 「でもヨー。 ヘンタイさーん。
     こんな縛りプレー、オレにゃぁどーってことないゼ?」

(゚∀゚*)゙ 「ナー?」

(;'A`) (……?)


 つーはそう言ってにんまり笑い、俺のほうへ軽く目配せする。
 強がりを吐いているのかとも思ったが、一瞬間を置いて言葉の意味が理解できた。
 彼女は持っているんだ、ロープから抜け出す手段──つまり、刃物。


| ^o^ | 「クソジャリッ! うるせェっつってんだろォが!!」


 大男は凄まじい形相で恫喝し、抱えた人質の頬に刃物の先端を添えた。
 AAではめっちゃいい笑顔にしか見えないが、実際は鬼のような表情なので注意が必要だ。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:18:41.76 ID:XOEYVusx0
 



                  纏
     http://boonstyle.web.fc2.com/chane/chane.html
   http://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-497.html
    http://boonfestival.web.fc2.com/channelers/list.html








5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:21:13.84 ID:XOEYVusx0
 
|#^o^ | 「もう一度言っとくぞ。 人質はいくらでもいるんだ!!
      舐めたことばっかホザいてンじゃねえ!!」

(*゚∀゚) 「……ハン」


 男の右腕に締め上げられた女性が、腿を押さえて苦悶の声を漏らした。


(*゚∀゚) 「……ヤメロ。 オレは動けないんだカラ、ソレでいーだろーが」


 大男が新たに捕らえた人質は、近くに伏していたショップの女店員で、負傷者だった。
 何かに引っ掛けたのか、ジーンズの左大腿部に、赤い染みが生々しく広がっている。
 首を抱えられて無理やり立たされた彼女は、眼鏡の奥にいっぱいの涙を浮かべ、震えていた。


(*゚∀゚) 「ヒトジチがいねーと、満足にメーレーもできネーのカ?
     見ての通り、オレサマはかよわ~いオンナノコちゃんだゼ?」

|#^o^ | 「あ?」



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:23:41.31 ID:XOEYVusx0
 
(*゚∀´)-☆ 「しかもホンジツ大サービス! キッコーシバリのオマケつきッ!」」


 そう言って、つーはウィンクとともにぺろっと舌を出す。
 この状況でそういう縛り方はないと思うが……。
 ともかくも、彼女は息つく暇なく、マシンガンのように言葉を浴びせ続ける。


(*゚∀゚) 「なーなー、言われっパナシでいーの?
     オマエほんとに○○ついてンのかー?」

|#^o^ | 「だまれっっっつってんだ」

(*゚∀゚) 「ホレホレ。 悔しかったら来てみろヨッ」


 つーはそう言って、動物を呼ぶようにチッチッと舌打ちしてみせた。
 彼女がこんなに饒舌な “ 人格 ” だとは思わなかった。
 しぃちゃんと全く同じ顔をして、よくもまあ……そういう方面に舌が回るものだ。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:26:20.92 ID:XOEYVusx0
 
 だが、つーの言った 「 縄くらい 」 というセリフは、決してハッタリの類ではない。
 彼女はそこから抜け出す手段を有している。 俺はそう確信していた。
 拘束する紐だって、その辺の店から掘り出してきた、ただのビニールだかポリプロピレンだか……。
 とにかく、包装用の簡素なロープに過ぎない。

 彼女は恐らく機を伺っているのだろう。
 男が油断し、自分のもとへ不用意に近づいてくる、その隙を。


|#^o^ | 「……そうかよ、そんなに殴られてェのかよ」

(*゚∀゚) 「あひゃ? やってみるか?」


 ……まあ、刃物を持った相手にメスをぶんぶん振り回すのは、
 状況的に、非常に問題のある絵づらになりそうだが。


|#^o^ | 「うるせェ」



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:29:41.08 ID:XOEYVusx0
 
 目をらんらんと輝かせて大男の接近を待っていたつーだったが、
 残念ながら、男が彼女の安い挑発に乗ることはなかった。


| ^o^ | 「おい、お前」


 ……しかし。


「な、なんだ」

| ^o^ | 「そいつを殴れ。 思いっきりだ」

Σ(;'A`) 「!?」

「なっ……!?」

(*゚∀゚) 「……へっ」


 その嗜虐性に火をつけたことだけは、確かだった。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:32:13.37 ID:XOEYVusx0
 
●第一八話 『 Imitation. ── VS. ブーム④ 』


|#^o^ | 「手加減するんじゃないぞ? こっちにはコイツが居るんだからな……」


 凶悪犯は口角を歪めると、後ろから回した手で、女性の顎を挟んで持ち上げる。
 指示された警備員は当惑の表情を浮かべ、縛られたつーと、男のほうを交互に見た。


「殴れって……」

| ^o^ | 「聞こえなかったか? その娘を殴れっつってんだよ」

「し、しかし」

|#^o^ | 「早くしろ!! この女が死ンでもいいってのか!?」


 捕獲された女性がひっと息を飲み、その目から大粒の涙が零れ落ちる。


| ^o^ | 「もう一度言うが、ぜってェ手加減するんじゃねーぞ。
      殴るとき、わざとらしい素振りがあったら、この女の左腕を刺す。
      二回目は右腕、その次は脇腹を刺す」

Σ(;*゚∀゚) 「っ……!?」



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:34:24.88 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「万が一、わざと空振りでもしようもんなら……」

「ひぃ……いや……!」


 大男はそう言うと、女店員の左腿、
 傷口があると思われる血の滲んだ部分へ刃先を向け……。


「いやぁぁああ……!」

|#^o^ | 「ここだ」


 スッと、かっ切るポーズを示した。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:36:42.80 ID:XOEYVusx0
 
「く……な……」


 警備員がつーの前に立った。
 腕を震わせ、下唇を噛んで葛藤している。

 見るからに正義感の強そうな男性だ。
 先刻のショーケースへの激突で、彼も怪我を負ったらしく、首筋に血が滲んでいた。


(*゚∀゚)゙ 「いーゼ、オニーサン。 思いっきりキナ」

「だ、だが……」

(*゚∀゚) 「気にスンナ!
     こんなコトもあろーかと、日頃からフッキンは鍛えてあっからナ!」


 つーはそこでさりげなく誘導を試みたが、


| ^o^ | 「誰が腹を殴れっつった。 顔に決まってンだろが」

(*゚∀゚) 「……チッ」


 あっさりと見抜かれてしまう。
 大男は段々と、人質を傘にした命令にも慣れてきた様子だった。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:38:22.23 ID:G7FPJy3E0
すがすがしいほどにクズだな


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:39:43.61 ID:XOEYVusx0
 
(;゚A゚) 「頼む、やめてくれ! 殴るなら俺を……」

|#^o^ | 「来るんじゃねえ!!」

(i||i'A`) 「くっ……」


 つーの代わりを申し出ようとしたが、即座に却下されてしまった。
 俺の渋面を一瞥すると、大男は愉しそうに声を荒げた。


| ^o^ | 「そうだ。 そこで大人しく見てな。
      テメェのオンナがボコられる様をな!」


 それから男は警備員を見下ろし、顎をしゃくる。


| ^o^ | 「何やってる? これ以上引き伸ばすつもりなら容赦しねェぞ。
      あー、ひとまず女の腕ェぶっ刺してから考えてみるか?」

「……ぐっ」

| ^o^ | 「あと5秒だ。 4、3……」



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:42:12.98 ID:XOEYVusx0
 
「す、すまない!」

(;>A<) 「──!」


 もはや猶予は無かった。
 警備員は俺とつーの顔を交互に見ると、
 苦渋の表情で、彼女の横っ面に拳骨をめり込ませた。


( ∀゚(#;) 「がッ……」

「ああ……」

| ^o^ | 「おらおら、ボサッとしてるとこの女が……」

「うう、すまん!」


 ドミノ倒しになった陳列棚の向こう側で、
 未だ足を挟まれたままの若者が、顔を顰める瞬間が見えた。
 幼女の母親は娘を抱きしめながら壁際で震えている。

 誰も、何もできなかった。
 目の前で行われる凶行を、どうすることも出来ず、ただ見守ることしか。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:44:48.40 ID:XOEYVusx0
 
Σ(;#)∀゚) 「い゛ぎッ」


 鈍い音とともに、つーの顔が苦悶に歪んだ。
 ちくしょう。 このままじゃ、つーが……。


(;'A`) 「──?」


 その時だった。
 彼女が殴られる瞬間、思わず目をそむけた俺は、
 ふいに、床の上に見覚えのある包みがあることに気がついた。


(;'A`) (──あ、これ)


 こ、これは、確か……。


Σ(;゚A゚) ハッ


 ──同時に、脳髄へ閃光が迸った。
 凶悪犯から人質を引き離し、つーを助け出す……打開策らしきもの。



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:47:12.71 ID:XOEYVusx0
 
「大和田、何をしている? 人質は無事なのか?」

| ^o^ | 「うるせーぞッ!
      ……お前らは黙って、アレの手配さえしてりゃいーンだよ!!」


 シャッター奥から響く拡声器の声に、大男の怒号が重なった。
 俄かに喧騒が辺りを包み、凶悪犯がこちらから完全に目を切った。

 確実なことは何一つない。
 ──けれども、今を逃すと、もう二度と機は訪れないかも知れない。


(;'A`) (イチか、バチか……)


 やってみるしかない。

 俺は床に落ちていた 【 それ 】 を拾い上げると、
 音を立てないよう注意しつつ、傍らのカーテンを潜った。


 ~ ~ ~



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:49:39.83 ID:XOEYVusx0
 
「先ほども述べたが、その要求については……」

| ^o^ | 「黙ってユージを釈放しろや!
      さもなきゃ人質が死ぬことになンぞ!!」


 投降を促す警察へ怒声を浴びせかける。
 その直後、彼の脳内では、『 そうですね 』 という、甲高い声が響いていた。

 ここに辿りつくまで……、即ち別のショップからナイフを拝借し、
 さらにこのショッピングセンターで帽子を盗むまでの間に、
 男は自らの操れる超常現象について、概ねのところを把握しつつあった。


|; ^o^ | (クソッ……ンなことより、俺はどうやってここから出りゃいいンだ)


 彼の脳内に居座り、たびたび現れる 『 ブーム 』 と名乗る別人格。

 『 ブーム 』 が表出している際は、目視の利く範囲にある任意の一点を。
 そして、男自身に肉体の “ 制動権 ” がある通常時は、
 彼が最後に触れた物体そのものを、それぞれ “滑らせる” ことが可能だということ。

 正確には “ 滑らせる ” というよりも
  “ 接地面の摩擦力を限りなく小さくする ” ことがその超能力の本質なのだが、
 今の彼がそれを知ることはないし、知る必要性もなかった。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:53:31.00 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「ん?」


 荒い息を整えようとした際、男は気づいた。
 人質を抱える左腕へ、かかる重みがぐっと増していたことに。


| ^o^ | 「ちッ……」


 夥しい失血が原因か、極度の緊張状態が続いたためなのか。
 女性はいつの間にか失神してしまった様子で、頭をぐにゃりと前方に垂れ、脱力していた。


「おい、その人、ヤバいんじゃあ」

| ^o^ | 「うるせェ、どさくさに紛れて手ェ休めてんじゃねェぞ」

「頼む、重傷者たちだけでも外に出してやってくれ。
 このままでは、本当に……死……」

| ^o^ | 「さっさと殴れってんだよ!
      ああ!? 今すぐここで殺してもいいンだぞ!?」



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:56:12.10 ID:XOEYVusx0
 
 警備員の懇願を無下に跳ね除けると、男は縛られた少女のほうへ視線を移す。


(*)゚∀゚) 「……」


 少女は口の端から赤い筋を垂らし、それでもなお、鋭い眼光で男を睨み付けていた。
 瞳の奥に燃える赤い光を見た途端、男の背筋に薄ら寒いものが走る。

 中学生だか高校生だか知らないが、本当に生意気なガキだ。
 どれくらい甚振ってやれば、いじましく助けを請うようになるンだか。
 まあ、その時にはもう、可愛い顔もぐしゃぐしゃで見れたもンじゃねェかも知れねえがな。


| ^o^ | 「やれ」


 男は気絶した人質を抱え直すと、折檻の続行を顎で促す。
 ナイフの切っ先は、依然人質の胸元へ向けられていた。

 警備員はひとつ溜め息をつき、
 苦渋の表情のまま、つーに向かって右手を振りかぶった。


(;*>⊿<) 「──」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 22:58:48.57 ID:XOEYVusx0
 
 と、その時のことだった。 


「やめてくれ……く、くりゃさい!」

| ^o^ | 「!」

(;*>∀゚) 「……!?」


 混沌の渦中にあるフロアに、澄んだ声が響き渡った。
 男は怪訝な表情で、声のした方向へと向き直る。


「わ……私が! かか代わりに人ジヒになりまひゅ!」


 見れば、テナントの一角から、青白い表情の少女が声を張り上げていた。

  _,、_
| ^o^ | 「……ああ~?」


 まさか他にも五体満足な者が残っていようとは。
 男は威圧的に彼女を睨めつけた。
 女の子はたじろぎ、ひっと小さな悲鳴を漏らして一歩後ずさる。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:02:22.72 ID:XOEYVusx0
 
 十代半ばから二十そこそこといったところだろうか。
 タイトなTシャツにシンプルなアウターと、トップスこそ大人しめだが、
 膝上数センチという丈の短いプリーツスカートに加え、
 何故かブーツではなくぶかぶかの靴を履いており、すらりとした生足が照明に映える。


| ^o^ | (なんだコイツ? 今までどこに隠れてやがった?)


 つまり、それなりに目立つ風体だと言えた。
 端正であどけない顔立ちといい、これまで誰の目にも留まらなかったのが不思議なほどである。


「しょの人、け、怪我してます! だからその」

| ^o^ | 「おめェが人質になるってのか?」

「そ、そうです。 このままじゃその人……」


 新たに現れた女の子は、震える声でそう申し出た。
 それから、両手を顔の横でひらひら振り、何も武器を持っていないことを示す。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:05:21.22 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「……」


 男は少女を睨みつけたまま、思案を巡らせた。

 今までの彼であれば、このような提案は取り付く島もなく跳ね除けているところだ。
 だが、この時ばかりは様子が違っていた。
 ほんの僅かな時間にも、状況は変化しつつあったのだ。

 この場で優位性を保つためには、
 何よりも 【 人質の存在 】 が重要であることを、男は既に理解している。

 女性店員は、男の腕の中でぐったりしており、呼吸も殆ど感じられない。
 引きずる床には、彼女の脚から滴る血の跡が続いていた。

 失神した彼女の体は非常に重く、次第に身動きが取り辛くなってきている。
 それに万一、彼女がこの場で死んでしまった場合、
 次の人質を手中に収めるまで、大きな隙を作ることになりかねない。


|; ^o^ | (このままじゃあ、ちィとマジぃか……?)


 幼女を手放した瞬間、カーディガンの少女に飛び掛かられたことを、男は思い起こしていた。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:07:44.26 ID:XOEYVusx0
 
 『 人質なんていくらでも周りにいる 』 とは言ったものの、
 今ここで女性店員が絶命するのは、非常に都合が悪い。
 下手すれば、逆上した他の者達が、
 反撃を顧みず一斉に襲いかかるような可能性も充分考えられる。


(* ∀゚) 「……ペッ」


 柱に縛られている少女が、血の混じった唾を床に吐き捨てた。
 アイツは危険だ。 先ほど執拗に挑発してきた事も、どこか怪しい。
 どんな方法かは知らないが、おれの寝首を掻くつもりだったに違いない。


| ^o^ | (とはいえ、こっちも充分怪しいが……どうする)


 それに対してTシャツの女の子のほうは、気丈な物言いとは裏腹に、
 恐怖におののいている様がありありと伝わってくる。
 顔面蒼白で足も震えており、ともすれば今にも泣き出しそうな表情だ。
 それらの反応が全て演技だとは思えない。

 ──抑止力を、保つ必要がある。

 暫しの逡巡を経たのち、男はナイフを持った手を、自らの方向へ仰いだ。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:10:26.70 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「いいだろう。
      おまえが代わりになるってンなら、この女は解放してやる」

「……!」

| ^o^ | 「ゆっくりだ、ゆっくりこっちへ来い……そうそう」

「は、はい……うあっ!?」


 女の子が近づいた途端、男はその細い手首を掴むと、肩を抱くようにして引き寄せる。
 続けざま、男の無骨な手が、少女の体を乱暴にまさぐった。


「なっ!? ……やめっ、ちょっ」

| ^o^ | 「動くんじゃねェ! コイツが死んでもいいのか!?」

「く……」


 男は中を探るように、服の上から少女の全身へ手のひらを這わせた。
 ポケットのある上着をふくよかな胸ごと鷲掴みにし、すぐさまもう片方にも手を伸ばす。
 腹部と背中、スカートの上から腰と太腿……と叩くように撫で付けたのち、その手は止まった。



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:13:23.67 ID:XOEYVusx0
 
| ^o^ | 「へッ。 よし。 武器は持ってねェようだな」

「……うう」

| ^o^ | 「じゃ、こいつは用済みってこった」

| ^o^ | 「そうら!」


 納得した男は、次に女性店員の体を蹴り “ 滑らせた ” 。
 警備員は、男のその行動を予測していたらしく、
 蹴り飛ばされた女性のほうへ飛びつき、体全体で受け止める。

 テナントの壁に後頭部をぶつけ、警備員が小さく呻き声を漏らした。
 その様を見下げつつ、男は下賤な高笑いを上げた。


| ^o^ | 「はッ。 女を殴っていたヤツが一転してヒーロー気取りか!
      おめでてェやっちゃ!」

(#*゚∀゚) (クソヤロウ……)

| ^o^ | 「──早く起きろや。 続きを始めンぞ、ああ?」


 こぶしをぐっと握り、警備員へ狂宴の再開を促す一人の凶悪犯。
 新たな人質とともに、彼はこの世の全てを掌握したような、一種の高揚感を感じていた。
 事は全て、男の思い通りに進むかと思われた。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:16:14.25 ID:XOEYVusx0
 
 が、その瞬間。


Σ|; ^o^ | 「!?」


 予想だにしない事態が、彼の身に降りかかった。


|; ^o^ | 「なっ!? てめ……」


 ナイフを持った男の右手首を、
 目の前の女の子が、下から力いっぱい掴み上げたのだ。


 ~ ~ ~



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:22:21.95 ID:XOEYVusx0
 
从゚□゚;リル 「つー! 今だ!」


 大男の腕に捕らえられた俺は、
 トレーナーの袖から露出した手首を握り締め、叫んだ。


Σ(*゚∀゚) 「……!?」

|; ^o^ | 「てめェ……!!」


 項垂れていたつーが、後頭部を押さえた警備員が、
 壁際の親子が、脚を挟まれた若者が──、一斉にこちらを注視する。


(*゚∀゚) (アイツ、オレの名を……!?)

从゚□゚;リル 「 “ 封じた ”! 僕だ、ドクオだ!
       頼む、こいつをなんとかしてっ、ねえ!」

Σ(*゚∀゚) 「ドクオ……かッ!?」


 つーは目を一杯に見開くと、瞬きする間に柱から抜け出していた。


Σ|; ^o^ | 「なっ……!」



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:24:48.73 ID:XOEYVusx0
 
 男の動きが止まった。 息を飲む音が耳元で聞こえる。
 同じように驚愕の表情を浮かべる警備員の横へ、切られたロープがするりと垂れ下がった。
 ──やっぱりだ。

 常に刃物を隠し持つ彼女にとって、細いロープを切るなど造作もないこと。
 捕まって見せたのは、男を誘い込むための演技に過ぎない。
 つーはいつでも縄を切れる状態だったのだ。


从>□<;リル 「こいつの能力は、僕が “ 封じた ” ッ!
        さあ、早く!」

从'、`;リル (……“ 僕 ”……ぼく?)


 口をついて出た言葉に感じたのは、些細な違和に過ぎなかったが、
 のちにそれが重苦しい懊悩の種となろうとは、この時の自分は知る由もない。


|; ^o^ | 「クソっ、お前ら……!」

三(#*゚∀゚) 「あひゃあああああ──!!」


 ともかくも。
 事態は急転した。
 第一関門突破……といったところか。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:27:16.84 ID:XOEYVusx0
 
 つーは縄から脱した勢いそのまま、韋駄天の速度でこちらへ進撃する。
 が、俺のほうも、彼女の疾走をのんびり眺めている状況ではなかった。


|#^o^ | 「離せコラァ! このッ……!」

Σ从゚皿゚i||リル 「ひッ!」


 ナイフを振りかぶる男の右手首を、両手を使って必死で押さえつける。
 ぎらぎらした刀身が、照明の光を反射して鋭く輝いた。
 当然のことながら、血液で赤茶けたその先端は俺の鼻先へ向いている。

 殺される。
 力尽きたら殺される。
 手が滑ったら殺される。

 ぐさっと刺さる。
 ざくっと沈む。
 ずがっとめり込む。
 ぐちゃっと抉る──。

 人を刺した刃物が、“ 僕の ” 顔面に突き立てられる。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:29:59.14 ID:XOEYVusx0
 
从゚□゚i||リル 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 怖い、助けて、死にたくない、怖いッ!!

 男の腕が盛り上がり、ナイフの切っ先は目の前にじりじり迫り来る。
 凄まじい力だ。
 けれど、こちらだって必死だ。 死なないよう必死だ。


|; ^o^ | 「ちぃッ!!」


 そのうち力が緩み、男の視線は走り来るつーの方へと向けられた。
 助かった、なんて息をついている暇はない。
 正念場だ。 僕はこの手を絶対に離してはならない。


|  ^o^ | あらまあ わたしってば つみなおとこですね


 男が脱力し、その声が裏声へと転じた。
 ──使う。 超能力を。
 なんとなくそのタイミングがわかった。
 飛び掛かるべく身を屈めた瞬間、つーの足を “ 滑らせる ” つもりだ。



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:32:32.46 ID:XOEYVusx0
 
从>、<;リル 「くぅっ……!」


 ここを先途と、男の手首をぎゅうぎゅう握り締める。

 確証はない。
 だが、確信めいたものは感じる。


 僕が腕を離さない限り、こいつは能力を使えない。


 ~ ~ ~



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:35:13.37 ID:XOEYVusx0
 
 『 シニタクナイ! イヤダ タスケテ! 』
 『 ダレカ タスケテ! 』


 あの日、あの時、あの屋上で──。

 落下寸前の催眠能力者の男を助ける際、俺は一度、相手の能力を身をもって体験した。
 それは、男のほうへ飛びつき、手を伸ばしている最中のことだった。
 その直後、鉄柵へ激突した瞬間に、すぐさま正気を取り戻すことはできたが。

 それから。
 すんでのところで、俺は落ち行く彼の手を掴み、屋上へと引き上げることに成功した。

 いまだ生々しく、この腕にその感触が残っているんだ。
 脱臼しなかったのが不思議なくらいの肩への衝撃、体全体で支えたその体重。


(|||-_-) 『 ───! 』


 そして、こちらの手を必死で握り返す、男の手のひらのぬくもりを。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:36:28.57 ID:XOEYVusx0
 
从 □ ;リル 『 んがぁあぁあぁっ!!! 』


 触れていた。
 俺は彼と掌を介して触れ合っていた。

 その間、彼の “ 催眠能力” は、確かに失せていたんだ。


 ~ ~ ~



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:39:13.88 ID:XOEYVusx0
 
 “ 一つの人格に ”、“ 一つの能力 ” ──。

 人格が変わらないのなら、この身に宿る超能力、
 すなわち 【 アンチ・サイ 】 は、どうなるんだ?

 僕のこの姿が 【 別人格(アナザー) 】 による症状で無いのならば、
 『 肌が触れている相手の超能力を封じる 』 、この特異性は、未だ有効の筈だ。


从>、<;リル (変わらないんだ、きっと、僕の能力は──)


 それは一種の賭けでもあった。
 だが、予感めいたものは感じていた。
 『 封じられるはず 』 という、根拠の乏しい自信にしがみついていた。

 おそらくだが、僕は一度、この姿のままでその能力を使っていたんだから。
 そう、催眠能力者の男を助けられたことだって、きっと──。

 ──結局、彼はその後自ら命を断ってしまったけれど。



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:41:39.41 ID:XOEYVusx0
 
|  ^o^ | まったく わたしの ぷれいぼーいっぷりには おそれいります

|  ^o^ | きもちはわかりますが ちょっと はなして ください


 目の前の凶悪犯は、掴まれた腕をぶらんぶらんと左右に振って抗った。
 だがそれは、先ほどとは打って変わって、
 力も何も入っていない、まるでポーズに過ぎない行為だった。
 当然、僕がその手を離すわけがない。


|  ^o^ | はなしてくれないのなら こうですよ

从'。`;リル 「え?」


 そう言うと男は、こちらの肩を掴んでいた左腕を解放し、下へ移動させる。

 ……。

 ……!?


Σ从゚□゚i||リル 「のわぁっ!?」 ゾワワワワ


 後方に回された大男の左手が、なんか凄い勢いで、僕の腰から下を這い回った。
 ……身の毛もよだつ、とはこの事だ。



53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:44:13.22 ID:XOEYVusx0
 
|  ^o^ | なんということでしょう
       じつは わたしはおしりふぇちだったのです


 果てしなくいらない情報をつぶやきながら、男は執拗に僕の尻を撫でさする。
 ムードも何もない、 『 シュシュシュ 』 とでも音がしそうな、機械的な上下運動だ。
 ケツが燃えたらどうしてくれるつもりだ。 いや、それとも火を点けることが目的なのか。


从 Д i||リル 「ひいいっ……!」 ゾゾゾゾゾゾ


 途端に鳥肌が立ち、気持ち悪さに全身を震わせる。
 い、いけない、それでもこの手は離しちゃいけないんだ……!


三(#*゚∀゚) 「うっしゃぁああ──!!」


 滑走するつーの小柄な体躯が、眼前に迫った。
 倒れたディスプレイラックという格好の踏み切り台を見つけ、
 彼女はその背に向かって右足を踏み出す。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:46:47.45 ID:XOEYVusx0
 
|  ^o^ | まあいいでしょう あなたのことは あとでどうとでもなります

|  ^o^ | では さきにこちらを


 つーはもうジャンプする寸前だ。
 踏み切ることに対し、躊躇やおそれなんてものは微塵も感じさせない。
 それはひとえに、彼女が僕の 【 アンチ ・ サイ 】 を信頼してくれているからだろう。

 男の手が止まった。
 使う。
 ──使わせない!


(#*゚∀゚) 「らぁぁああッ!!」

从>、<リル 「──ッ!!」


 そうして、彼女がめいっぱい腰を落とした、その瞬間。


(*゚∀゚) 「ひゃっ……!?」



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:48:17.70 ID:XOEYVusx0
 





     ず
       る
           り    。



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:50:15.60 ID:XOEYVusx0
 
从゚、<リル 「……えっ」


 力いっぱい男の腕を握る、僕の目の前で。


(;*゚∀゚) 「──!」


从゚□゚i||リル 「な……」


 つーの体が、
 勢いよく、



 “ 滑った ” 。



(* △ )



64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:52:32.78 ID:XOEYVusx0
 
 その瞬間は長く、非常にスローモーに感じられた。
 僕はただ、彼女の体勢が崩れてゆく、その様を眺めていた。

 男の手を掴んだまま。
 いっぱいに握り締めたまま。


|  ^o^ |  ──


 僕の能力は、発動しなかった。
 女になったことで、アンチ ・ サイは失われていた。


从 □ リル


 目の前が真っ暗になった。


 ── 僕は、一世一代の賭けに、敗北した。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:55:11.97 ID:XOEYVusx0
 
 だが、絶望の淵へ沈むいとまはなかった。
 硬直した僕の体に、さらに予期せぬ事態が巻き起こったからだ。


|  ^o^ | おや……


 いや、正確には “ 僕らの体に ” 。


Σ从'。`リル 「えっ……!?」


 暗転しつつあった視界が、ふいに揺れた。


|  ^o^ | ?

从゚д゚;リル 「わわっ!?」


 ずるり、と。
 両脚が揃って後方へ投げ出される。

 僕の体は、つらまえた凶悪犯ともども、前方へと反転した。



69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:56:36.91 ID:Pfp2SV7wP
これは・・・まさか・・・


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/01(土) 23:57:24.30 ID:XOEYVusx0
 
(;*゚∀゚) 「あっひゃぁ──!?」


 反射的に床面へ手を伸ばそうとする寸前、
 僕の視界には、宙返りで飛来するつーの、
 レギンスに包まれたおしりがパノラマに写し出されていた。


Σ|   o  |  ガッ

Σ从 皿;リル 「うげっ!?」

Σ(* д ) ゴッ


 倒れ行く体は、直後に肩口から伝わった衝撃によってさらに速度を増す。
 受身など取れようはずもない。

 加速をもたらした原因は、
 顔面から床に叩き伏される結果となったその時の僕には見当もつかなかったが……。
 つまり。

 つんのめった凶悪犯の後頭部に、
 つーの踵がクリーンヒットした、ということだった。



74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:00:14.05 ID:XQbiyUZY0
 
从/□i/リル 「いっっっっ、づぅ~~……」
  ∩

 押さえた鼻からとろりと赤い液体が漏れた。
 じんじん痛むが、折れてはいない……と思う。

 僕は涙目のまま起き上がり、事態の把握に……。


从 皿;リルそ 「ぐぁ!?」


 つとめようとした刹那、背中に鈍い衝撃。


|; ^o^ | 「──うおおおお!!」

从;皿;リル 「つ、つぅっ……」


 痛みをこらえつつ、側方へ顔を傾ける。
 そこでは、僕の背を乗り越えたのであろう凶悪犯が、
 弾けとんだナイフを拾うべく、床へ向かって手を伸ばしていた。



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:03:01.79 ID:XQbiyUZY0
 
从゚□゚リル 「あっ……」

Σ|; o  | 「がぁッ!?」


 だが、横から突進してきた警備員の猛烈なタックルによって、その行動は咎められる。

 目まぐるしい状況だった。
 大男の体は壁へと吹っ飛び、すぐに警備員が追撃の体勢に入る。
 近くにいた負傷者の一人が、叫びをあげながらバールのような物で男を殴りつけた。
 事態は紛糾極まっていた。

 僕もすぐさま体を起こすと、無我夢中でそちらへ走りより……、
 とりあえず、倒れている男に蹴りを入れたことは憶えている。
 ぶかぶかだった靴が脱げ、裸足同然の状態だったため、ダメージがあったのか甚だ疑問だが。

 
 ──そこからの展開は、早かった。

 轟音とともにシャッターがこじ開けられ、視界の端に完全武装した突入班の姿が映った。
 想像していた以上の人数だった。



78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:05:22.00 ID:XQbiyUZY0
 
 男は辛うじて意識を保っている様子だったが、
 抵抗するほどの体力も気力も残っていなかったようで、
 そのまま何事も無く確保、連行されるに至った。


从'。`;リル (──お)

从 o ;リル (──終わった──)


 そう思った途端に力が抜け、へなへなと床へ膝をつく。
 ごん、と音がした。 痛かった。
 そうだ、今の自分はジーンズじゃなく、スカート履きだったんだっけ。

 膝から伝わる鈍い痛み。
 しかしこれこそが、生きてる、という実感でもある。
 流れる鼻血を手の甲で拭うと、僕は心の中でそう苦笑しながら、
 傍らに寝転がるつーのほうへ、安堵の表情を傾けた。


(* д )

从'。`リル 「え……?」


 ──が。



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:07:51.56 ID:XQbiyUZY0
 
 数分後、つーは機動捜査隊員によって外へ運び出されていた。
 彼女の担架へ追いすがるようにして、僕もデパートの正面入り口を後にする。


从゚Д゚;リル 「つー!? しっかりしろ、つー!」

(* д ) 「……」


 男に踵を喰らわせたまでは良かったが、そのせいで受け身を取り損ねたらしい彼女は、
 打ち所が悪かったのか、依然意識を失ったままだった。


「人質の方ですか? 助かったんですね!」
「今の心境は……」
「中はどのような状況でしたか!? ねえっ」


 建物の外は、遠慮も自重も知らない報道陣でごった返していた。
 人波を抜け、担架は救急車の場所までたどり着く。



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:10:31.09 ID:XQbiyUZY0
 
从 、 i||リル (つー……!)


 頼む、助かってくれ。
 走りながら手を摺り合わせる。

 殴られることも蹴られることも厭わず、凶悪犯へ果敢に立ち向かっていった彼女。
 事件が解決へ結びついたのは、つーの功績あってのことだ。
 目を閉じた白い彼女の横顔からは、はじめて会ったときの狂気は全く感じられなかった。

 つー。 ……しぃちゃん。
 情けない話だ。
 僕は二人に助けられた。
 ふたりは、僕を助けて、そして、……斃れた。


『 君には、救えないよ 』


 夢の中の誰かが言う。
 そんなこと、ない。
 絶対にないはずだ。
 ……なのに。

 自然と視界が滲んだ。
 僕はひたすらに、彼女の無事を祈っていた。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:13:17.76 ID:XQbiyUZY0
 
 だが、まさに担架が車両へ乗せられる直前。


(*゚∀゚) 「あひゃ」 パチリ

「なっ……」

从゚、゚;リル 「あ」


 当の彼女……つーはむくりと起き上がると、
 けろっとした表情で、
 胸と腰のベルトを外し、そこから勢いよく飛び降りた。


(*゚∀゚) 「何やってんだッ! 行くゼッ!」

从゚□゚;リル 「ちょっ、おい、つー……!」

(*゚∀゚) 「あひゃひゃひゃ! オレサマはメンドーごとはキライだッ!」


 そう叫んだつーは、人ごみを器用に掻い潜り、一時封鎖された車道を小走りで駆けてゆく。
 僕は押し寄せるカメラやマイク、
 野次馬なんかに揉みくちゃにされながら、その小さな背を追った。


 ~ ~ ~



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:16:12.97 ID:XQbiyUZY0
 
 等間隔に植えられたケヤキの枝葉が、夕日の光に輪郭をまばゆく輝かせている。
 立ち並ぶビル群のシルエットは、デパートで過ごした時間の長さを思わせた。

 街路樹の立ち並ぶ通りに戻ってくると、つーは不審げな顔で言った。


(*゚∀゚) 「ところでオマエ、本当にドクオなんだよナ?」

从'。`リル 「あ、ああ、……そうだよ」


 俺は歩道脇で荒い息を整えると、これまでの経緯をかいつまんで説明した。
 彼女も、俺のような “ チャネル ” の症状は聞いたことがないらしく、
 しばらく不思議そうな顔をしていたが、


(*゚∀゚) 「まあイイヤ。 改めて “ せんせー ” のトコいきゃ、わかんダロ」


 ひとまずは、納得してくれた様子だった。



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:19:13.05 ID:XQbiyUZY0
 
 並んで歩きながら、今回の出来事について改めて検証する。

 まず、女の姿になると、俺の能力は無くなってしまうこと。
 それから、今この瞬間まで知らなかったのだが、
 今日のつーはメスを携行していなかったということ。


(*゚∀゚) 「あひゃひゃ。 アレは制服のソデにしか仕込んでねェゾ」

从'。`;リル 「え? じゃあ、ロープを抜けたのはどうやって……」

(*゚∀゚) 「ン? 吹っ飛ばされた時に、ちょいとナ」


 つーはそう言うと腕を上げ、俺の眼前でカッターナイフをカチカチ鳴らしてみせた。
 じゃ、じゃあ。
 レジカウンターへの激突というアクシデントがなければ、今頃は……。

 舌を出して笑う彼女の姿を眺めつつ、俺が冷や汗を流したことは言うまでもない。


(*゚∀゚) 「それよりドクオ、シンパンの時間ダゾ」

从'。`リル 「はい?」


 何度目かもわからない溜め息をつく俺に向かって、つーがびしっと指を突きつけた。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:21:17.36 ID:XQbiyUZY0
 
(*゚∀゚) 「忘れたカ? つーちゃんの “ もちもちチェック ”!」

从'、`;リル 「何それ」

(*゚∀゚)っ 「オマエの半日のヒョーカが完了したゼ。
      覚悟はいいカ? ジャッジメンツですの!」


 ……ああ、なんか昼食のときに素行がどうとか言っていた気もする。
 つーの話す内容はいまいちわからないが、
 なんにせよ、今日は本当に長い一日だった。 そうしみじみ振り返る。

 ファミレス出て、ゲーセン行って、
 ショッピングのつもりが予想もつかない事態になったり……とまあ色々あったが、
 なんとか無事に事件も解決したことだし……、


(*゚∀゚)9m 「キョッケー」



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:24:13.64 ID:XQbiyUZY0
 
 何の評価なのかは知らないが、まあ、それなりにキョッケーと。
 よし、キョッケー。  マジ俺キョッケー。
 キョッケー、キョッケイ
 ……極刑。
 

Σ从'д`;リル 「なんで!?」

(#*゚∀゚)づ 「ナンデもクソもあるかッ! ムネに手ェ当ててよっく考えてみろッ!!」


 つーはふんふん息を鳴らして言った。


(#*゚∀゚)ノ 「ひとつ! しぃをこんなトコに連れてきて、危険に晒したコトっ!」

(#*゚∀゚)ノシ 「ふたつ! “ ノーリョクは封じた ” って、ウソをついたコトッ!!」

Σ从'皿`;リル 「そ、そんなこと言われても……!」


 二つ目はともかく、前者は完全に不可抗力だ。
 俺の腕をバシバシ叩きつつ、彼女は最後の一つを告げた。


(#*゚∀゚)ノシシΣ 「みっつ! オレサマのスカートを勝手に履きやがったコトだーッ!!!」



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:27:21.80 ID:XQbiyUZY0
 
 ああ、そういえば。
 俺は裾をひらひらさせてチェック柄を視界に入れた。
 小柄になった俺よりさらに一回り小さい彼女の買ったスカートは、
 サイズ的にもちょっぴり窮屈な感じで、ベルトいらずだった。

 が、これも仕方ないことだろう。
 人質の代わりを申し出るためには、
 遠目からでもわかりやすく 『 女 』 であることを証明する、その必要性を感じていたからだ。

 だから別に履きたくて履いたわけじゃないんだから!  か、勘違いしないでよね!
 ……なんて言い訳をしようものなら、どんな目に遭わされるかわからないのでやめておく。


(#*゚∀゚) 「……ソレニっ」 ジー

从'、`リル 「?」


 つーはそこで俺の顔から視線を落とすと、
 しばらくジト目でこちらを眺めたのち、思いきり口を尖らせる。


(#゚∀゚) 「オイッ!
      なんでオマエなんかが、オレより、あるんだッ!?」

从'ε`;リル 「……知りませんがな」



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:30:12.42 ID:XQbiyUZY0
 
 ……どうやら、何かしらのコンプレックスを刺激したようだ。
 彼女は憤懣やるかたないといった様子で、
 俺の二の腕を叩きながら、しばしキーキー喚いていた。

 ふくれっ面が元に戻るころを見計らって、俺はずっと抱えていた疑問をつーに投げかけた。


从'。`;リル 「ところで、しぃちゃん自身はその……何て言ってるんだ?」

(*゚∀゚) 「アヒャ? 心配すんナ。 しぃなら寝てるゾ」

从'。`リル 「寝てるって……」


 つーが言うには、最初に大男に吹き飛ばされた瞬間から、
 しぃちゃんはずっと意識を失ったままだという。

 安否を気遣う俺だったが、当のつーは、
 「オレサマがこうやって無事ってことは、脳とかにイジョーはないダロ!」
 あっけらかんとそう言い放つ。

 眉を顰める俺の前で、彼女は立ち止まると、振り返りざまに言った。


(*゚∀゚) 「オマエのその姿についちゃ、しぃには黙っといてやんヨ。
     なんせ、たとえ一日でもデートした相手が、
     こんなどうしようもねぇオカマヤローなんて知っタラ……」



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:32:59.10 ID:XQbiyUZY0
 
Σ从゚、゚*リル 「で、デートじゃないだろ! デートじゃ」

(*゚∀゚) 「……」

(*゚∀゚) 「……ま、イイや。
     とにかく、しぃにはこのコトはナイショにしといてヤル! 感謝しろヨ!」

从'。`;リル 「あ、うん。 ありがと」

(*゚∀゚) 「そのカワリ……」


 つーはそのままにぃっと笑い、掌を差し出す。


(*゚∀゚)つ 「オレサマにもナンかおごれッ。
       ボースレ屋のスイートラドンパフェ。  特大ナッ!」


 ── どうやら、夜に至るまで、俺の散財DAYは続いてゆくようだった。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:35:15.87 ID:XQbiyUZY0
 
 サイズの合わない靴のせいで、歩くたび何度もつっかける。
 つーの白い上着もすっかり薄汚れてしまっていた。
 どうにもボロボロといった感じの我々だが、傍目にはどう映っているのだろうか。


(*゚∀゚) 「……ところでオマエ、どうやったら元のドクオに戻るんだー?
     お湯でもかければいーノカ?」

从'。`リル 「え?」

(*゚∀゚) 「さっさと戻ってくんないカナ?
     その姿じゃ、ちょーっと殴りづらいだろー?」

从'。`;リル 「えと……それは、どーいう?」


 怪訝な表情の俺の前で、つーはぐいっと腕まくりする。


(#*゚∀゚)つ 「なーにっ。
       ちょっと二・三発、ボ コ る だけだッ」

Σ从゚、゚;リル 「は、はぁあ?」



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:38:02.07 ID:XQbiyUZY0
 
 そういうと彼女は腰に両手を当て、にかっと白い歯を見せた。


(*゚∀゚)+ 「あひゃひゃひゃ!
      パフェだけで済ますと思ったら、おーまちがいだゼッ!!!」

从 д リル チーン


 街路樹の並ぶ通りに、けたたましい高笑いがあがった。


从皿;リル 「……」

从゚□゚;リル 「いやだぁぁぁああっ!!」 ダッ

Σ(*゚∀゚)∩ 「あ! コラ、待ちやがれッ!」


 オレンジ色の射す夕間暮れのコンクリートに、
 追われる者の悲鳴と、追う者の軽快な足音が、それぞれ反響する。

 靴のせいで何度も転びそうになりながら、
 俺は、全速力で歩道を逃走していったのだった……。


===
==



109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:40:14.55 ID:XQbiyUZY0
 


 こうして白昼堂々、それもたった一人の超能力者によって行われた
 デパート ・ ジャック事件は、一応の幕を閉じた。


 当事件において、ただ一人の死者も出ることがなかったのは幸いと言えた。
 大男に刺された男性、足を負傷した女性店員を含め、
 店舗用機材の追突に巻き込まれた警備員の中にも重症を負った者はいたが、
 いずれも命に別状はなく、快復に向かっているとのことである。


 但し、午前中の高速道における玉突き衝突事故については、
 重傷者3人のうち2名が、搬送先の病院にて死亡が確認された。





112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:42:29.93 ID:XQbiyUZY0
 


 数週間後。


 男はふたたび 『 摩擦力を限りなく低下させる 』 その能力を用いて、
 留置所からの脱走を試みた。


 しかし。
 己の足元の『 摩擦力を下げて 』 滑走し、勢いよく車道へ飛び出した際、
 偶然通りかかった大型トラックの車輪に巻き込まれて即死した。






115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:45:14.68 ID:XQbiyUZY0
 



 自ら引き起こした最初の事故では、
 幸いなことに、ほぼ無傷で済んだ男だったが──。


 気まぐれな奇跡が、彼を二度救うことはなかった。







 (続く)

 



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:46:49.87 ID:Vlzt8aoO0
乙!!


119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:52:40.64 ID:GgoCQIz4P
乙!
次も待ってる


120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:53:15.85 ID:tia/oi3DO
乙ー


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 00:53:28.62 ID:rcBOo9J6O
乙!!!!Channelersは個人的には現行の中で一番投下が楽しみな作品だ


125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 01:35:18.62 ID:nZiSvInz0
おおおお、規制解けてる

今までこの作品は読まず嫌いだったけど
読んでみたら何だか面白かった

何はともあれ、作者乙


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